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ヴェルトール騎士団の血戦…

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 ヴェルトール軍は前衛に第六騎士団が第四百人隊含め凡そ四百名程の兵を備え、後衛は大将を務めるナイーヴ・アルンデル率いる第三騎士団二百名が軍を展開した。対するモンゲル王国軍は総勢七百程の兵を展開する。敵将はダルンニ・ルドリャン将軍、モンゲルではかなりの大物だ。
 オルミンズ公国の軍はおらず、恐らくは戦場までの行軍、軍備支援程度しか手を貸していないのかも知れない。…だがそれが漁夫の利を得る企てである事は確かでモンゲルはそれを知ってか知らずか今回の戦に挑んでいるのである。
 両軍睨み合いが続き、互いの先頭指揮官…マーガレン・ロンデルスと敵前衛指揮官が剣を掲げて叫ぶ。

『突撃ーっ!!!!』

 双方がぶつかり合おうとした時、ヴェルトール前衛から第四騎士団百人隊が更に台頭し、先頭を走って咆哮する青銅色の鎧を装備したサージのバスタードソードが四人の敵兵を力強い一薙ぎで一気に斬り倒す。それを見て百人隊の士気のみならず第六騎士団の士気も上がり凄まじい猿叫となるが、敵モンゲルは全く怯まず、一人がサージに斬りかかった。すると小柄な人影が走って来て後ろから跳び上がりサージの右肩を踏み台にして空中で一回転、敵兵の脳天にウォーハンマーの一撃を喰らわせた。砕けた頭は血飛沫と共に脳味噌、頭蓋、眼球が味方のモンゲル兵に飛び散り爆ぜる。
 更に敵にめり込んだハンマーを引き抜いた勢いで下から回しもう一人の敵兵の股座へ、股間どころか腹部を引き裂いて臓腑を撒き散らした。
 ウォーハンマーを構え、口端を上げて嘲笑わらうのはノエリーゼ・カーチス。スカート丈の短いアンダードレスに銀のライトアーマー、篭手のみと軽装備だが、少女の嘲笑狂ったかの様な嘲笑とその細腕が振るうにはあまりにエグい武具を見てモンゲル兵は後退りして怯んだ。

「キヒヒヒ…。」

 今、彼女の浮かべている嘲笑は明らかにモンゲル兵達に恐怖を植えつけていた。そして一人の敵兵が叫んだ。

凶女きょうじょだ、“ヴェルトールの戦鎚凶女”だあ!!」
「そうですわよ、だからサージ様の勝利の為に死ねええぇっ!!」

 ノエリーゼが戦鎚を横薙ぎに振り回し、横っ腹に受けた兵の体がくの字になり吹き飛び三人の敵兵を巻き込んだ。

「殺りました、サージ様と同じく四人一纏めですわ!」

 するとノエリーゼを敵兵が叫びながら襲う。

「お前が死ねえ、凶女!」

 しかし敵兵はサージのバスタードソードが右肩から左腹部へと両断、その背後の二人も回転して二振り目の斬撃で首を飛ばした。。

「ノエリーゼ様、油断大敵ですぞ!」
「サージ様…、ス・テ・キ。」

 その恍惚とした恋する乙女な顔をサージに向ける彼女に困り顔をしながら頭を傾げるサージ。しかし二人に群がるモンゲル兵を二人は背を向けて肉塊に変える。その光景はまるで地面より噴き上がる血と肉片の噴火に思えた。
 それを見たマーガレンは信じられないとばかりに口を半開きにして呟く。

「化け物か、ゴルヴェール卿はどうやってあんな怪物を生み出したのだ⁉」

 他の百人隊騎士兵士達もモンゲル兵を次々と倒して行く様を後衛の優男…大将であるナイーヴは望遠鏡で戦況を見、一つの確信を得た。

「こりゃ俺出番ねえな。」

 そう呟くと望遠鏡をポイッと投げ捨て、部下は望遠鏡をキャッチする。彼の言う通り、第三騎士団がこの戦で動く事はなかった。
 第四騎士団百人隊がモンゲル軍を完全に押し込み、第六騎士団とマーガレンがモンゲル陣営へと雪崩込む。その猛勢にダルンニ率いるモンゲル軍は迎え討つものの百人隊の活躍を見せられた第六騎士団の騎士兵士の士気は高く跳ね上がり、勇猛果敢にモンゲル軍を蹴散らして行く。あっという間にマーガレンとダルンニの一騎打ちとなった。

「ダルンニ将軍、お覚悟!!」

 勝負も即座に決した。マーガレンも曲がりなりにも実力で第六騎士団長となった男、敵の大物でもダルンニの剣技はマーガレンには通じる事はなく、その首がマーガレンの剣の一閃で転がり、戦はヴェルトールの勝利で幕を閉じた。
 マーガレン・ロンデルスは敵将ダルンニ・ルドリャンを討ち取った事でモンゲル軍兵士は敗走、ヴェルトール騎士団は高らかに勝鬨を上げた。




 ヴェルトール王国…、王都内ゴルヴェール邸の庭では何百本もの藁を巻いた杭が立ててあり、マタザが上半身裸で短剣程の大きさの刃…穂を切っ先にした長槍を右手に持ち右脇に挟み構えて周りの藁の束を縛り付けた杭を睨みつけ、槍術の鍛錬をしていた。
 マタザはデップリした腹だが身体は未だ衰えを見せない筋肉をしており、騎士団庁舎で見せていたクソ親父とはまるで別人で強い覇気を発す。
 そして体を軸に槍をヌンチャクの様に交差させながら振り回して次々と藁を巻いた杭を斬り倒し、槍をまた右脇に挟み構えて深呼吸をした。

”パチパチパチ…“

 …と、後ろから拍手が聴こえマタザは覇気を滲ませながら振り向くと其処にはウェーブのかかった長い金髪…まだ幼さが抜け切らない顔立ちの美しい少女がマタザに笑いかけていた。

「御美事で御座います、旦那マタザ様。」
「フランか、久々に槍を握ったでな。やはり年には敵わん様だ。ちょっと槍を振っただけで汗だくじゃて…。」

 フランと呼ばれた少女…否、齢32の淑女であるマタザ・ゴルヴェールの妻…フランソワ・ゴルヴェールは汗拭きを手にマタザに寄り添い、愛おしい気に肩から胸までの汗を拭う。

「騎士団の方々はご無事で帰ってきてくれますでしょうか?」
「第三…第六は知らんが我が百人隊は大丈夫じゃろう。…そう鍛え上げたからのう。」
「早く戦なんて終われば良いですね?」
「そうさな、押し付けた儂が言うのもあれだが…、出来るならサージ達や第四の者達も戦なんぞには行かせたくはないんだがな…。」
「…そうですわね。」

 そう二人は会話を交わし、二人で空を仰いだ。
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