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24〈???side〉私の覚悟

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魔眼中毒はゲームのヒュードリック√でのみ登場する単語で、曰くどちらかと言うと依存症と呼ぶべきものらしいです。
特定の魔眼を見たい、魔眼で見られたい欲求が肥大し我慢できなくなり、最終的に魔眼の持ち主に強い執着を覚えてしまう症状を指します。
ゲームのヒュードリック√攻略後には他の攻略対象がヒロインと恋に落ちていたのではなく、魔眼中毒になっていたと明かされたそうです。


「魔眼中毒の患者は症状を自覚するのが困難で、それ以上に周囲が見て発症していると分かる特徴が無い。だから判明するのはいつも手遅れなほど進行した状態になってからになる。」

ヒュードリック様の解説を受けたマリアさんは気の毒に感じるほど、ショックで精気を失っています。
私が介入しなければ、彼女は魔眼の真実を知ることもなく愛する方と幸せに過ごすこともできました。
それを偽りの幸福と決めつけ、理由はどうあれ傷付けている私に彼女を慰める権利はありません。
ですから、せめて責任を取ります。

「ヒュードリック様、貴方に依頼をさせていただきます。マリアさんの魔眼を除除してください。」

私の申し出にヒュードリック様もセラフィム様も驚きの表情を浮かべました。

「正気か、フェルミア嬢!?魔眼の除去は本人以外が依頼した場合、重罪となると知っているだろう!」

「承知しております。ですが、マリアさんが危険な魔眼を持っていることを隠しながらこれ以上の被害者を出さないためには、こうするのが1番です。」

魔眼の能力が明らかになれば、マリアさんは王族を含め多くの方々に害を及ぼしたとして最悪死刑になりますし、先ほどまでの話のように魔眼持ちに対する差別意識を助長させることになるでしょう。
ですから、何としても隠すべきです。
そこで、王太子の寵愛を受けるマリアさんに嫉妬した人間が彼女を傷物にする目的で魔眼を奪ったというシナリオを用意します。
これならマリアさんは魔眼を失うという最低限の被害で済み、むしろ同情を集めるはずです。
マリアさんが魔眼を失ったことで魔眼中毒から逃れたアルビオン殿下と結ばれるのは不可能でしょうが、彼女自身の魅力で素敵な方と結ばれることでしょう。

「仮に除去するとしても、マリア嬢が依頼したことにすれば良いだろう。損な役をする必要は…」

「本来の能力を秘匿する以上マリアさんは『祝福』の魔眼を持っていることになります。そんな魔眼を自らの意志で手放すと?疑われるに決まっています。」

このやり取りに既視感を感じるのはのせいでしょうね。ゲームのヒュードリック√で彼がした通りのことを私がしているのです。
彼の場合は愛した人を幸せにするためだったのに対して、私は大好きな方の幸せのためにマリアさんには今の幸せを諦めてもらうことへの罪滅ぼしが動機ですけれど。言葉にすると、本当に酷い差です。

「なぜだ、理解ができん。フェルミア嬢がマリア嬢のためにそこまでする理由が分からない…」

ふふ、それは分からないでしょうね。
私とあれだけ話し合ったでさえなかなか私の想いは理解できなかったのですから。
私にとってセラフィム様は親友や未来の義妹、未来の王妃といった言葉で表しきれないほど大切な方です。
私が罪を背負うだけでセラフィム様が幸せになるなら喜んでこの身を差し出します。
だから私はセラフィム様にお願いでもされない限り、決して止まりません!

「フェルミア様…」

決意を新たにするなか、私を呼ぶセラフィム様の言葉が耳に入りました。
彼女の方を向くと、怒っているのか悲しんでいるのか分からない目で私を見つめていらっしゃいます。

「セラフィム様…?どうされましたか?」

私がおそるおそる尋ねると、

「ええ、知っていますとも。フェルミア様が独り勝手に暴走されることも。そして、その原因がいつも大抵私絡みなことも。」

ああ、セラフィム様…もうすっかり貴方のその顔を見ることは叶わないと思っていましたのに…

「さあ、フェルミア様?お話しましょう。」

そこにはジークが魔王と呼び震え上がったセラフィム様の本気で怒った姿がありました。
わぁ…表情は笑顔なのに体の震えが止まりません…
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