マイニング・ソルジャー

立花 Yuu

文字の大きさ
上 下
44 / 48
section4

No.042

しおりを挟む
 ギャシュリーが一枚上手だったか。

「何故、その事実を俺には話さなかった。分かっていたなら『耐エイリアン・キラー』を使う意味なんてーー」

 何かに気づいたのか、ギャシュリーを見上げていたレインツリーは、着流しを勢いよく掴んで、「ギャシュリー」と押し殺すように声を漏らした。

「マイナーに攻撃できるように、わざとスキルを食い尽くすウィルスを残したんだろ。元のウィルスを組み替えたから、仕方ないと言ってたけど、本当はわざとプログラムを残したのか」
「嘘をついたのは、悪かった。ギルドを完璧に仕上げ、仮想世界と現実世界に革命を起こすためには、あの時は、まだ言えなかった。これで、俺自身にウィルスを打ち込めば、革命が本当の意味で始動する」

 着流しを掴んでいたレインツリーの手から力が抜けるように、離れていった。

「ギャシュリー。どういう、――革命って、なんだ。俺は、そんなことまで、してくれとは頼んでない。お前にウィルスを打ち込むとどうなる、言え!」

 その時、ギャシュリーはヴェインに向けていた銃を、確実に定めた。
 撃たれると思った刹那、発砲音と共に、「やめろッ」とレインツリーの声が響いた。
 ヴェインに向けられていた銃は、レインツリーの手によって、空を撃っていた。
 意外にもギャシュリーは抵抗せず、レインツリーは銃を奪い取った。

「やっぱりな。お前はヴェインを手放せない。あんな大した遊び相手にもならなそうなオモチャに溺愛か。お前は、あんなつまらんモノに引っかかるような人間じゃないだろ」

 ギャシュリーは着流しの裾の中に手を突っ込むと、別のハンド・ガンをレインツリーに向けた。同時にレインツリーも、ギャシュリーに銃を向けた。

「確かに、正宗以上に楽しませてくれるオモチャはいなかった。だからたま偶には、ヴェインみたいな目をした奴でもいいかな、って思ったんだよ」

 いんけん陰険そうに片頬を吊り上げたレインツリーは「俺を撃つ気か」と挑発的に訊ねた。
「まさか」とほくそえ北叟笑んだギャシュリーがヴェインに銃口を向けた時、一発の発砲音が響いた。放心していたヴェインはハッと我に返り、自分の身体を確認した。

「俺は無傷だ。っていうことは」

 視線が集まった先では、レインツリーが放った銃弾がギャシュリーの胸を撃ち抜いていた。
 撃たれたにも拘わらず、ギャシュリーは撃たれた事実を満足そうに、自身に吸収しているようだった。感謝さえしているような大らかな笑みを空に仰いだ。

「俺も、自分で作ったチート・ツールを持っている。だから、ちょっとした仕掛けを施した。俺のチート・ツールだけは、ハブになっている。だから俺が自ら『耐エイリアン・キラー』に感染すれば、隠しプログラムが起動する」
「「その隠しプログラムは、何だ!」」

 ヴェインとレインツリーの声が重なった。
 まさかの同調に驚いたヴェインは、ふとレインツリーを一瞥すると、視線が重なった。
 久しぶりに見たレインツリーの瞳は相変わらずの、夜を映したような黒檀色だ。
 レインツリーの向こう側にいる本人を、ふと想像した。

『レインツリー』と現実世界の『彼』は切り離していたつもりだった。
 だが、ヴェインには秦矢がいるように、レインツリーにも生身の人間が操作している。
 仮想世界だが、現在進行形で実際に起こってい出来事だ。
 行けるものなら、今すぐにでも生身のレインツリーに会いに行って、じか直に話したいと初めて思った。
 ふっとギャシュリーはヴェインに向かって鼻で笑った。
 レインツリーにもよく鼻で笑われたが、意味合いが違う。ギャシュリーの嘲笑は心の底から、相手を踏みつけていた。

「さて、俺のチート・ツールを持っているマイナーは、どれほどいるだろうか。せいぜい一万ってとこか? で、ハブはウィルスを拡散、隠しプログラムが起動したチート・ツールは、マイナーのHPを食い尽くし、強制ログアウトになる」

 両手を広げたギャシュリーは空に向かって、馬鹿笑いした。
 顎が外れんばかりに口を広げ、いよいよ壊れたかと思わせた。

「クソッ! 人をバカにしやがって! いい気になるんじゃねえ! ここはお前の遊び場じゃねえんだぞ!」

 ここまでずっと我慢して黙っていたシャークが噛み付いた。ヴェインも気持ちはシャークと同じだが、ギャシュリーのチート・ツールを持っていなかっただけ救いだと思った。

「たまには、かっこいいこと言うじゃん」とレモンがシャークの腕を肘で突いた。
「初めから、それが狙いか。そんなことしても革命とはいえないぞ。正宗」

 レインツリーとギャシュリーが対峙する背後では、ギルドのマイナーたちが騒ぎ出した。

「HPがなくなっていくぞ」
「どうなるんだよ!」
「俺たちは消えるのか!」

 マイナーたちは口々に騒ぎ始めた。レインツリーにも認められた、そこそこ腕の立つマイナーだろうが、こうなってはうぞうむぞう有象無象のかたまり塊と化していた。

「それは、どうだろうね。強制ログアウトになったマイナーたちは、現実世界で、どうなるのか。それこそ、工藤が作ったウィルスを利用しているんだ。お前だけが特別だと思うな。より世界の注目を浴びた者が、革命者だ」

 今にも馬鹿笑いしそうに、ギャシュリーは目頭を細めた。
 本番はこれからだと言わんばかりに、興奮を必死に押しとどめているようで、異様だった。
 誇大妄想もいいところだ、即刻、精神病院かどこかに隔離して、二度と姿を見せないでほしい。

「もしかして、僕が作ったウィルスと同じように――、翔ッ」

 工藤直也は、HPが減り続けている諏訪翔を心配して駆け寄った。
 一人消え、また一人と、マイナーたちが形状崩壊して、強制的にログアウトを余儀なくされていく。
 阿鼻叫喚が響いていた広場が静まっていく感じは、取り残されるような妙な感覚だった。

「翔ッ、やだよ!」
「ああは言っているが、このウィルスも、脳に障害を与えるとは限らない。きっと大丈夫だ。先に自首するからな。お前には逃げ延びてほしいが、警察はそれほど甘くないだろう」

 諏訪翔は内側から光を放った。すると、ガラスがは爆ぜるように、アバターは散った。
 ガラスのように光を反射させる破片を見上げたまま、工藤直也は力が抜けたように、その場に膝を突いた。

「お前たちの不出来な革命には、逆に感謝しているぐらいだ。お蔭で俺は、歴史に名を残す革命者に昇華できる」

 甲高く笑い声を上げたギャシュリーも木っ端微塵に砕けて消えた。
 とんでもない勘違いなんちゃって革命者が消えると、その場はいきなり静かになった。

「アホらしい。あいつ完全にイっちゃってるだろ。レインツリー! 残りHP、どのくらいだ」

 自分と同じパーティ以外のマイナーのHPは見られない。
 だが、ヴェインが「早くしろよ」と促してもレインツリーは教えてくれない。それどころか、前によく見せた飄々とした、鼻先で相手を蹴散らすような憎たらしい笑みを見せた。

「おい! へらへらしてる場合かよ、早く教えろッ」

 レインツリーはヴェインの肩に手を置くと、初めて目尻に皺を寄せて、満面に笑った。
 いつもの苛立つような嘲笑でもなく、友達と何かバカ話をした時のような、自然な笑みだった。
 それなのに、ヴェインは今までの中で一番、腹が立った。らしくない笑顔を見せられて、心の底から辛くなった。

「また会えるって――」

 とだけ言ってレインツリーのアバターは砕け散った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

❤️レムールアーナ人の遺産❤️

apusuking
SF
 アランは、神代記の伝説〈宇宙が誕生してから40億年後に始めての知性体が誕生し、更に20億年の時を経てから知性体は宇宙に進出を始める。  神々の申し子で有るレムルアーナ人は、数億年を掛けて宇宙の至る所にレムルアーナ人の文明を築き上げて宇宙は人々で溢れ平和で共存共栄で発展を続ける。  時を経てレムルアーナ文明は予知せぬ謎の種族の襲来を受け、宇宙を二分する戦いとなる。戦争終焉頃にはレムルアーナ人は誕生星系を除いて衰退し滅亡するが、レムルアーナ人は後世の為に科学的資産と数々の奇跡的な遺産を残した。  レムールアーナ人に代わり3大種族が台頭して、やがてレムルアーナ人は伝説となり宇宙に蔓延する。  宇宙の彼方の隠蔽された星系に、レムルアーナ文明の輝かしい遺産が眠る。其の遺産を手にした者は宇宙を征するで有ろ。但し、辿り付くには3つの鍵と7つの試練を乗り越えねばならない。  3つの鍵は心の中に眠り、開けるには心の目を開いて真実を見よ。心の鍵は3つ有り、3つの鍵を開けて真実の鍵が開く〉を知り、其の神代記時代のレムールアーナ人が残した遺産を残した場所が暗示されていると悟るが、闇の勢力の陰謀に巻き込まれゴーストリアンが破壊さ

CREATED WORLD

猫手水晶
SF
 惑星アケラは、大気汚染や森林伐採により、いずれ人類が住み続けることができなくなってしまう事がわかった。  惑星アケラに住む人類は絶滅を免れる為に、安全に生活を送れる場所を探す事が必要となった。  宇宙に人間が住める惑星を探そうという提案もあったが、惑星アケラの周りに人が住めるような環境の星はなく、見つける前に人類が絶滅してしまうだろうという理由で、現実性に欠けるものだった。  「人間が住めるような場所を自分で作ろう」という提案もあったが、資材や重力の方向の問題により、それも現実性に欠ける。  そこで科学者は「自分達で世界を構築するのなら、世界をそのまま宇宙に作るのではなく、自分達で『宇宙』にあたる空間を新たに作り出し、その空間で人間が生活できるようにすれば良いのではないか。」と。

世界史嫌いのchronicle(クロニクル)

八島唯
SF
 聖リュケイオン女学園。珍しい「世界史科」を設置する全寮制の女子高。不本意にも入学を余儀なくされた主人公宍戸奈穂は、また不本意な役割をこの学園で担うことになる。世界史上の様々な出来事、戦場を仮想的にシミュレートして生徒同士が競う、『アリストテレス』システムを舞台に火花を散らす。しかし、単なる学校の一授業にすぎなかったこのシステムが暴走した結果...... ※この作品は『小説家になろう』『カクヨム』『ノベルアップ+』様にも掲載しております。 ※挿絵はAI作成です。

電子世界のフォルトゥーナ

有永 ナギサ
SF
 人工知能を搭載した量子コンピュータセフィロトが自身の電子ネットワークと、その中にあるすべてのデータを物質化して創りだした電子による世界。通称、エデン。2075年の現在この場所はある事件をきっかけに、企業や国が管理されているデータを奪い合う戦場に成り果てていた。  そんな中かつて狩猟兵団に属していた十六歳の少年久遠レイジは、エデンの治安維持を任されている組織エデン協会アイギスで、パートナーと共に仕事に明け暮れる日々を過ごしていた。しかし新しく加入してきた少女をきっかけに、世界の命運を決める戦いへと巻き込まれていく。  かつての仲間たちの襲来、世界の裏側で暗躍する様々な組織の思惑、エデンの神になれるという鍵の存在。そして世界はレイジにある選択をせまる。彼が選ぶ答えは秩序か混沌か、それとも……。これは女神に愛された少年の物語。 <注意>①この物語は学園モノですが、実際に学園に通う学園編は中盤からになります。②世界観を強化するため、設定や世界観説明に少し修正が入る場合があります。  小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

月とガーネット[上]

雨音 礼韻
SF
 西暦2093年、東京──。  その70年前にオーストラリア全域を壊滅させる巨大隕石が落下、地球内部のスピネル層が化学変化を起こし、厖大な特殊鉱脈が発見された。  人類は採取した鉱石をシールド状に改良し、上空を全て覆い尽くす。  隕石衝突で乱れた気流は『ムーン・シールド』によって安定し、世界は急速に発展を遂げた。  一方何もかもが上手くいかず、クサクサとしながらふらつく繁華街で、小学生時代のクラスメイトと偶然再会したクウヤ。  「今夜は懐が温かいんだ」と誘われたナイトクラブで豪遊する中、隣の美女から贈られるブラッディ・メアリー。  飲んだ途端激しい衝撃にのたうちまわり、クウヤは彼女のウィスキーに手を出してしまう。  その透明な液体に纏われていた物とは・・・?  舞台は東京からアジア、そしてヨーロッパへ。  突如事件に巻き込まれ、不本意ながらも美女に連れ去られるクウヤと共に、ハードな空の旅をお楽しみください☆彡 ◆キャラクターのイメージ画がある各話には、サブタイトルにキャラのイニシャルが入った〈 〉がございます。 ◆サブタイトルに「*」のある回には、イメージ画像がございます。  ただ飽くまでも作者自身の生きる「現代」の画像を利用しておりますので、70年後である本作では多少変わっているかと思われますf^_^;<  何卒ご了承くださいませ <(_ _)>  第2~4話まで多少説明の多い回が続きますが、解説文は話半分くらいのご理解で十分ですのでご安心くださいm(_ _)m  関連のある展開に入りましたら、その都度説明させていただきます(=゚ω゚)ノ  クウヤと冷血顔面w美女のドタバタな空の旅に、是非ともお付き合いを☆  (^人^)どうぞ宜しくお願い申し上げます(^人^)

「メジャー・インフラトン」序章2/7(僕のグランドゼロ〜マズルカの調べに乗って。少年兵の季節FIRE!FIRE!FIRE! No1. ) 

あおっち
SF
敵の帝国、AXISがいよいよ日本へ攻めて来たのだ。その島嶼攻撃、すなわち敵の第1次目標は対馬だった。  この序章2/7は主人公、椎葉きよしの少年時代の物語です。女子高校の修学旅行中にAXIS兵士に襲われる女子高生達。かろうじて逃げ出した少女が1人。そこで出会った少年、椎葉きよしと布村愛子、そして少女達との出会い。  パンダ隊長と少女達に名付けられたきよしの活躍はいかに!少女達の運命は!  ジャンプ血清保持者(ゼロ・スターター)椎葉きよしを助ける人々。そして、初めての恋人ジェシカ。札幌、定山渓温泉に集まった対馬島嶼防衛戦で関係を持った家族との絆のストーリー。  彼らに関連する人々の生き様を、笑いと涙で送る物語。疲れたあなたに贈る微妙なSF物語です。  是非、ご覧あれ。 ※加筆や修正が予告なしにあります。

もうダメだ。俺の人生詰んでいる。

静馬⭐︎GTR
SF
 『私小説』と、『機動兵士』的小説がゴッチャになっている小説です。百話完結だけは、約束できます。     (アメブロ「なつかしゲームブック館」にて投稿されております)

スタートレック クロノ・コルセアーズ

阿部敏丈
SF
第一次ボーグ侵攻、ウルフ359の戦いの直前、アルベルト・フォン・ハイゼンベルク中佐率いるクロノ・コルセアーズはハンソン提督に秘密任務を与えられる。 これはスタートレックの二次作品です。 今でも新作が続いている歴史の深いSFシリーズですが、自分のオリジナルキャラクターで話を作り本家で出てくるキャラクターを使わせて頂いています。 新版はモリソンというキャラクターをもう少し踏み込んで書きました。

処理中です...