マイニング・ソルジャー

立花 Yuu

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section 3

No.033

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 冷や汗を掻いている場合ではない。
 隙を見て撃ちまくるが、エイリアンのHPが減っている気がしない。
 これが『倒せないエイリアン』に攻撃された時の、マイナーの恐怖か。
 深淵から鈍色の手が伸びてくる。捕まれば自力では振り解けない。
 このまま消えたくない!

「クソがぁ! ふざけんじゃねぇ、ちきしょぉ!」

 手榴弾のピンを抜いて投げつけた。
 吹き飛ばされるかと思ったが、エイリアンは直ぐそこで体の一部を崩壊させただけだ。
 さすがに、もう、避け続けられない。

 息を吸い込んだ喉が震えた時、二方向からエイリアンに銃弾が撃ち込まれた。
 口径の大きな銃に乱れ撃ちされたエイリアンは、ヴェインの目の前で木っ端微塵に散った。
 呆然としながら呼吸を続ける喉は、まだ震えていた。

「助かったぜぇ。ソロでやってんだけど、そろそろあれぐらいでもいけるかと思ったが、まだまだだったなあ」

 助けたソロ・マイナーは、豪快に笑って見せた。目の前にいるこのアホは、絶体絶命だった事実をまるで自覚していない。
『倒せないエイリアン』の話を聞いても、悠長に笑っていられたなら、こいつは本物のアホな幸せ者だな。

「スコープ持っててないのか? 持ってなくても、見れば、だいたい分かるだろ!」

 そんなこと今はどうでもよかった。
 息巻いたヴェインはディスプレイを操作して、スキルを確認する。

「今のがCだったとは思わなくてさぁ。ていうか、おねえさん・・・・・、すっげぇ手練れだな。どうすればそこまで強くなれるんだぁ? やっぱ、武器か? 装備も欲しいよなぁ」

 良い武器を持っている奴に限って、勘違いしている。良い武器、良い装備があれば強くなったと思い込んでいる。
 少しは強くなるかもしれないが、中身が低能のままでは、武器を使いこなせるはずがない。
 文句は山ほどあるが、今はこいつに説教している場合じゃなかった。

「うるさい! 少し黙ってろ! 取り敢えず、武器とバイクと俺のスキルをレモンにーー」
「ん? どうした? 何をやってる?」

 立膝を突いたままのヴェインに、男はじろじろ覗き込んできた。
 アバターはサイボーグ・スーツのようなディテールに、サムライのように黒髪を後頭部で束ねていた。耳から顎は機械デザインだ。

「それに、俺は、おねえさん・・・・・じゃねえ。ったく気が散る、よし、これで全部、送った」
「そのアバターで、男! しかもカッコイィ、ますますタイプだ! 俺はシャーク、本名が鮫島だからさ、鮫から取ったんだ。お前は――っと」

 しつこく付き纏うシャークの顎に向かって、ハンド・レーザー銃を突きつけた。
 レーザー銃なら初期化されても構わなかったので、唯一、手元に残した武器だ。

「ちょっと、ヴェイン! 武器とバイクを私に転送なんてどういう――って何やってんの?」

 様子を見に来て早々、助けた相手に銃口を突き付けていれば、誰しも驚くはずだが、レモンは腕を組んで「で、いつまで掛かるの?」と迷惑千万な顔をしていた。

「見りゃ分かるだろ。害虫に付き纏われてんだよ! しかも、例のエイリアンに攻撃を受けた」

「ヒデェ」と愕然としたシャークは、立ち上がったヴェインの足にしがみ付いた。
 シャークを振り解こうとしても、システムは振り解けないと判断したのか、腹立たしいぐらいに足は拘束されていた。

「ちょっと、それって、スキルも初期化されるってことでしょ!」

 シャークとは違う意味で愕然としたレモンは、ディスプレイを確認した。

「だから、レモンに武器もバイクも、俺のスキルも転送した。パーティ同士なら、転送可能だったからな。ワクチンで完治するまでは、そっちで預かっといて」
「面倒な事態になったわね。どうすればワクチンを――、ったく、こんな奴を助けるからでしょ! だからダメって言ったのに!」

 レモンはディスプレイを操作しながら、シャークを猫みたいに睨み付けた。

「ひでぇなぁ。なぁヴェイン、お願いだ。パーティに入るにも、人気のあるパーティは、俺より断然強いマイナーが入団試験を受けてるんだぜ、俺の実力なんかじゃ手も足も出やしない」
「なら入団試験のないパーティに行けばいいだろ」
「でも、それじゃあ、俺も弱いけど周りも弱いし、いつまで経っても強くなれねえだろ。お前みたいなマイナーの弟子になるのが手っ取り早いし。今、倒したエイリアンの報酬、お前たちにやるからさ」

 手っ取り早いとか、仮にも頼む側だろと、苛立ちを通り過ぎて、呆れた。
 そう思うと、マンツー・マンで教えてくれたレインツリーとの出会いは、本当に奇跡だと思った。最終的には意見の相違と、レインツリーとは友人のままでいたかった気持ちを優先した結果、今、一緒にいないわけで。
 実際のところ、それなりに腕を上げたヴェインをギルドに入れたかっただけで、レインツリーは友人と思っているか分からない。

「で、どうするの、そいつ。報酬も回収してないし。取り敢えず、あんた。ソロで、どこのレベルのエイリアンを倒したの?」

 レモンに見下されたシャークは、コスチュームから生み出される神秘的な妖艶さより、レモンの冷酷な視線に萎縮して、顔を引き攣らせた。

「えーっと、レベルEなら倒せるぜ」

 ハハハと、ぎこちなく笑って誤魔化された。
 見下すレモンの片眉が、ぴくりと動いた。

「話にならないわ。そのショットガンがあれば、ソロでもDぐらいは倒せる実力は、あっても当然でしょ! それじゃあ、バイクだって持ってないでしょうね」

「バイクはあるよ」と嬉しそうに答えた。

「よくお前の成績でバイクが買えたな」
「貯金はたいたから。だからヤバいんだって!」

 泣きそうになっているシャークを見て、ヴェインとレモンは同時に深呼吸をした。

「それでよく、さっきのエイリアンを倒せそうと思ったな。計算違いもいいとこだ」

 ここまで来るとある意味、見捨てる行為は、犯罪だと後ろ指を差されそうな気がした。

「なぁヴェインさーん」
「もう、分かったから、離せ、うっとおしい」

 と、うっかり口を滑らせると、シャークは飛び上がってヴェインを抱きしめた。

「よっしゃあー! サンキュウ、恩に切るぜぇ――グヘェ!」

 反射的に拳を突き上げたイメージを浮かべると、読み取ったシステムはアバターの拳によって、シャークを派手に殴り飛ばしていた。
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