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第三章~フレイヤ国、北東領地エルム~
第七話
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「救難信号が出ていた場所です」
向かいの山の傾斜を通り越して過ぐに、アンドラス機が山脈の麓の傾斜に不時着している光景が見えた。
「ありゃ、間違いなくヴレイの機体だ。直ぐに下せ」
アラン整備班長は操縦者に怒鳴ると、「了解」と負けじと太い声で返事がきた。
特務第二艦の派遣クルーを乗せた輸送船は、平らな場所を選んで着陸した。
船から降りたアランは「小僧ッ、おいクソガキ!」と叫びながら機体に駆け付けた。
当たり前のようにアランをオッサンと呼ぶのはこのクソガキぐらいだ。
嫌だと思ったことはないが、ここぞとばかりに仕返し呼びをした。
非常口が開き、非常用ロープが下されているところを見ると、脱出し移動したと見える。
「救難信号はいつ切れた」
「約二時間前だ、余計な仕事を増やしやがって。奴の救助はフレイヤ支部の救援部隊に任せて、まずは支部に戻って本部に報告することだ」
苛立つ外交官は先の戦闘が余程堪えたようで、全身を身震いさせていた。それでも船から降りて様子見だけはするまじめさは、まあまあだなとアランはほくそ笑んだ。
「救援が必要な機体はまだ他にもある、奴だけに構ってられないだろ、行くぞ」
と、まあまともな科白を吐いて船に戻ろうとした時、甲高い金属音と銃声が響いた。
「ひっ」と外交官は腰を抜かし、震える手を辛うじて挙げた。
咄嗟にアランは周囲を確認すると、岩陰からローブに身を包みフードを深く被った三人の男たちが姿を現した。
一人は銃を構え、もう一人は短剣を構えるが、一番奥にいる人物は手ぶらだった。
「お前ら、ベフェナの残存部隊の奴らか」
アラン含め、隊員たちは構えの姿勢を取る。
「『魔獣の卵』はどこだ、在り処を教えろ」
一番奥の男が無感情さをわざと出しているのか、無色な声で訊いてきた。
「知らん、こっちが訊きたいぐらいだ。――てことはお前らベフェナのもんじゃねえな。同盟国のロマノか」
オッサンの問いに、奥の男はチッと軽く舌打ちをした仕草を見せた。
「おい」と小声を漏らした男の声が合図になって、男たちは後退して行った。
「よくロマノの人間だって、分かりましたね」
構えていた隊員の一人が警戒を解きつつ、感心気に呟いた。
「いや、分からなかったが、ベフェナの残存部隊は戦闘機でやってきたのに、奴らだけ陸路ってのは、なんかおかしいだろ。エンジン音もしなかった。距離はあるが、山脈の向こう側はロマノだ、ベフェナと同盟国なら、『魔獣の卵』の存在も把握していただろ」
「まぁ、その通りだな、にしてもさすが艦長の右腕だな」
「んなこたなねえよ、それよりな、お前たち先に戻れ。俺はヴレイたちの後を追ってみる」
まさかの発言だったのか、外交官含め全員が困惑した顔をした。
「どこに行ったのかも分からないんだぞ、せめて動かずにいてくれれば」
「追手を警戒したんだろ。確かあのトゼ川はロマノから流れてきている、国境ゲートが近いはずだから、街道があるだろ。行商人にこのあたりのことを訊いてみるさ」
腰を抜かしていた外交官はちっと舌打ちをしながら、輸送機に這い戻っていった。
「本当に大丈夫ですか? 単独行動より少数で固まって動いたほうが――」
「この場合、奴の言う通り、支部からの救援部隊に任せるべきだ。俺に従いて巻きぞい食っても、責任取れんからな」
アランはイヒヒっと歯を見せるように笑った。困惑する隊員の背中をバシバシ叩いて、船に戻させた。
「分かりました、何かありましたら直ぐに連絡をください」
「ああ、分かったよ。寄り道せずに支部に戻るんだぞ」
離陸を始めた船に向かって、アランは軽く手を振った。
太陽に向かって飛んでゆく輸送船を、目を細めて見送った。
向かいの山の傾斜を通り越して過ぐに、アンドラス機が山脈の麓の傾斜に不時着している光景が見えた。
「ありゃ、間違いなくヴレイの機体だ。直ぐに下せ」
アラン整備班長は操縦者に怒鳴ると、「了解」と負けじと太い声で返事がきた。
特務第二艦の派遣クルーを乗せた輸送船は、平らな場所を選んで着陸した。
船から降りたアランは「小僧ッ、おいクソガキ!」と叫びながら機体に駆け付けた。
当たり前のようにアランをオッサンと呼ぶのはこのクソガキぐらいだ。
嫌だと思ったことはないが、ここぞとばかりに仕返し呼びをした。
非常口が開き、非常用ロープが下されているところを見ると、脱出し移動したと見える。
「救難信号はいつ切れた」
「約二時間前だ、余計な仕事を増やしやがって。奴の救助はフレイヤ支部の救援部隊に任せて、まずは支部に戻って本部に報告することだ」
苛立つ外交官は先の戦闘が余程堪えたようで、全身を身震いさせていた。それでも船から降りて様子見だけはするまじめさは、まあまあだなとアランはほくそ笑んだ。
「救援が必要な機体はまだ他にもある、奴だけに構ってられないだろ、行くぞ」
と、まあまともな科白を吐いて船に戻ろうとした時、甲高い金属音と銃声が響いた。
「ひっ」と外交官は腰を抜かし、震える手を辛うじて挙げた。
咄嗟にアランは周囲を確認すると、岩陰からローブに身を包みフードを深く被った三人の男たちが姿を現した。
一人は銃を構え、もう一人は短剣を構えるが、一番奥にいる人物は手ぶらだった。
「お前ら、ベフェナの残存部隊の奴らか」
アラン含め、隊員たちは構えの姿勢を取る。
「『魔獣の卵』はどこだ、在り処を教えろ」
一番奥の男が無感情さをわざと出しているのか、無色な声で訊いてきた。
「知らん、こっちが訊きたいぐらいだ。――てことはお前らベフェナのもんじゃねえな。同盟国のロマノか」
オッサンの問いに、奥の男はチッと軽く舌打ちをした仕草を見せた。
「おい」と小声を漏らした男の声が合図になって、男たちは後退して行った。
「よくロマノの人間だって、分かりましたね」
構えていた隊員の一人が警戒を解きつつ、感心気に呟いた。
「いや、分からなかったが、ベフェナの残存部隊は戦闘機でやってきたのに、奴らだけ陸路ってのは、なんかおかしいだろ。エンジン音もしなかった。距離はあるが、山脈の向こう側はロマノだ、ベフェナと同盟国なら、『魔獣の卵』の存在も把握していただろ」
「まぁ、その通りだな、にしてもさすが艦長の右腕だな」
「んなこたなねえよ、それよりな、お前たち先に戻れ。俺はヴレイたちの後を追ってみる」
まさかの発言だったのか、外交官含め全員が困惑した顔をした。
「どこに行ったのかも分からないんだぞ、せめて動かずにいてくれれば」
「追手を警戒したんだろ。確かあのトゼ川はロマノから流れてきている、国境ゲートが近いはずだから、街道があるだろ。行商人にこのあたりのことを訊いてみるさ」
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「この場合、奴の言う通り、支部からの救援部隊に任せるべきだ。俺に従いて巻きぞい食っても、責任取れんからな」
アランはイヒヒっと歯を見せるように笑った。困惑する隊員の背中をバシバシ叩いて、船に戻させた。
「分かりました、何かありましたら直ぐに連絡をください」
「ああ、分かったよ。寄り道せずに支部に戻るんだぞ」
離陸を始めた船に向かって、アランは軽く手を振った。
太陽に向かって飛んでゆく輸送船を、目を細めて見送った。
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