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清水君は古びたキャビネットからファイルを何冊か取り出すと僕に手渡しながら言った。

「そうだな、取り敢えず今日はあそこに1台空いているデスクトップがあるから電源を入れて、この書類の書式を本年度用に変更してくれるかな?分からないところがあれば聞いてくれればいいから」


僕はA3位の書式がたくさん挟まったファイルを渡され更新作業を頼まれた。

まあだいたい予想していた通りだな。でもいいか、暇な時はここで勉強して時間をつぶせば親父と母さんの喧嘩を聞かなくてもいいし。

そう思い、書類の更新作業を始めてから1時間くらい経過した時、清水が自分のスマホの画面を覗いたとたんに表情を険しいものに変えた。ただ、その険しい表情の中の清水君の大きな瞳を覗き込むと、彼の瞳の奥にある瞳孔は、獲物を捕らえる瞬間のチーターのように広がっていた。


背筋が寒くなるような目の輝き。心の奥底では何かこれから起こる面倒な事を楽しんでいる。そんな気配が感じられた。

「チッ…!またか、田中ちょっと来てくれ一次活動は中断だよ」

「ええ~?!ひょっとしてまたあいつ?困ったなぁ、まだまだ書類作りがてんこ盛りで残ってるのに、こんなときに二次活動なんて…、清水1人で行ってよー」


「だめだよ、第一もともとは君のLINEつながりだったんだろ?ちょっとは責任を感じてくれよ」

「分かりましたよ…」

そう田中さんは渋々つぶやくと、その後何か閃いたようにこっちに顔を向け僕に話しかけようとした、田中さんの表情はまるで親戚の子供が、僕が疲れているのに遊んで欲しそうな時のような感じだった。


僕は咄嗟に何故か分からないが、彼女の表情を見た途端無意識に声が出てしまった。

「いやです、代わりに介抱なんか!」

田中さんと清水君が同時に「えっ?」と言うと同時にあっけにとられた表情をした。

「今からあなたに頼もうとした事、なんで分かったの?」

「いや、今自分でもなんでそんな事言ったか分からないや」

そういうと、僕は顔が硬直して何もいえなくなってしまった。

清水はその様子をなんとなく察したかそれとも急いでいたからか分らないけど、場を取り繕ってくれた。

「いいよ、今日は忙しいし、俺がやるよ」

「わかった、じゃあまつ君と私はサポートだね」

「そうだな、じゃあいこうか。田中、タクシー呼んでくれ」

この人たちは一体何をしようとしてるんだ?


「さあ!松君もくるんだよ」
「はぁ?え?どういうこと?」

「これからやる私たちの仕事を知っといてもらわないとね!今から裏口まで行くけど、靴はもってきてないよね?」

「えっ靴?靴を持ってこないとだめですか?」
なんで裏口から乗るんだろう…。嫌な気しかしないけど、とりあえず取りに行くか…
僕は頭を傾げながら、下駄箱に向かった。
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