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第十八章

戦いの中で-05

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 レビル・ガントレットは、護衛を付ける事無く一人で福島県大字井出の山中を走っている。

  息を吐きながら、しかし決して足を止める事無く走る彼の動きは、既に六十を超えている初老には思えぬ程の快走。

  そんな彼を誘導するように、高機動パックを装備した三機のグレムリンが、その手に持つ55㎜突撃機銃を構え、駆ける。

  城坂修一が、アジトとして使用している福島UIG(ガントレットが命名)へと向けて走ると、グレムリンを迎撃するように、三機の量産型アルトアリスが姿を現した。


『レビル・ガントレットの率いるアーミー隊よね。何でポンプ付きじゃないの?』


 速射砲を構えつつ、すぐに放つ気配はない。ガントレットは見つからぬように木々に隠れつつ、しかし生態センサーは反応しない遠回りで移動を開始。

  そして、聞こえる声――恐らくヒューマン・ユニットであるヴィスナーの声に、ガントレットの部下は声を発しない。

  敵と話す事は無いと、その55㎜機銃を放つ三機を相手する為、アルトアリス三機も、動く。

  二機は速射砲を放ちながら空へと跳び上がり、一機が電磁砲を放つ。

  しかし、ガントレットが最後の決戦と用意した人員は――腕だけで言えば、織姫にも匹敵するほどの、勇士。

  最小の動きで放たれた計九発の弾頭を避けた三機のグレムリン。背部スラスターを吹かしながら接近する機体に、量産型アルトアリスも一対一で相対する。

  
  植生が濃く、視認が非常に難しい環境下、それも黒に塗装されたアルトアリス、グレムリン共に識別がし辛い状況において、戦歴の多さは有効だ。

  夜目の効かないヴィスナーをかく乱するように、一度の移動で木と木の間しか隙間が無い状況、その隙を狙う様に速射砲を放つアルトアリスの一機。

  しかし、その射線上から敵の場所に辺りをつけて、55㎜の銃弾と胸部CIWSを乱射するグレムリンが、火花の弾ける様な光景を一瞬目に入れた瞬間、ダガーナイフを引き抜いて、突撃。

  急遽接近するグレムリンへ、放ったばかりの右手速射砲を下しつつ、左手速射砲を放つアルトアリスだが、しかしそれも機体を逸らせつつ移動をしていたグレムリンにとって、避ける事は容易い。

  避けた瞬間、展開される電磁砲の砲塔。

  しかしダガーナイフで砲塔を切り裂かれた事による誘爆で動きを止めた一機は、脇腹付近を脚部で殴打され、そのまま転倒し、ダガーナイフをコックピットに差し込まれ、十秒という時間を有してT・チタニウム装甲をこじ開け、開かれたコックピットに向けてCIWSを放ち、パイロットを破壊。
  

  だが、パイロット破壊と同時に二機目のアルトアリスより放たれた速射砲が直撃。グレムリン三号機のパイロット――マルガスが戦死。


  二機目のアルトアリスがそうして自身から銃口を逸らしたと確認した二機目のグレムリンが、同じくダガーナイフを引き抜いてアルトアリスへ切り掛かり、その頭部の接続部分を切り落とす。

 フレーム部分はT・チタニウム装甲製ではないので、分子カッター状になっているダガーナイフで切り落とせる。

  そして続けて放つ55㎜機銃。弾丸は切り落とした首元から着弾し、段々とアルトアリスは火花を散らしていくが、その直前に電磁砲の砲塔を突き付け、撃つ。

  コックピットを貫通する電磁砲。しかしオート射撃になっている55㎜機銃の銃弾は、それでも尚放たれ続け、今自分を殺したアルトアリスを沈黙させる。グレムリン二号機のパイロット――メリアが戦死。

  
  残るアルトアリスとグレムリンは一機ずつ。

  互いに距離を置いて、速射砲と55㎜機銃による応酬を続けている最中――ガントレットが発煙筒に火を灯し、アルトアリスの背後へと投げる。

  ピンクの煙が立ち込めた瞬間、アルトアリスが警戒するように背後を向く。

  瞬間、グレムリンが駆ける。

  背部スラスターを全力で吹かして木と木の間を縫うように走る機体に、遅れながら電磁砲の一撃を放つも、しかし狙いの定まらない、暗闇で敵機を識別し辛い状況で当たる程、グレムリンのパイロットは愚かではない。

  電磁砲が放たれる瞬間、木を一本蹴って速度を増したグレムリン。そんな機体が起こした行動は、バックパックである高機動パックを切り離し、電磁砲に着弾させた事。

  爆ぜる高機動パック。敵機に命中したと誤認するアルトアリス。

  しかしその下方から、ダガーナイフを構えたグレムリンが、今その刃を斬り込み、出来た傷に押し込む形で55㎜機銃の弾丸を放てるだけ放ち、穴の開いた装甲にダガーナイフを無理矢理差し込んだ。
  

  沈黙。生き残ったのはグレムリン一号機のパイロット――カウレス。


 足を止めたガントレットは、旧世代通信を可能とする携帯電話と繋げたインカムに声を吹き込む。


「カウレス、動けるか?」

『ええ、行けます』

「では――地獄まで付き合ってくれ」

『イエス、サー』


 機体を一瞬しゃがませ、まるで機体の整備をするように五秒ほど立ち止まったグレムリン。

  その隙に装甲に捕まり、掌に乗ったガントレットを連れて駆ける。

  走り抜けた先に、剥き出しになったUIGのゲート。既にロックは遠隔操作で解除されていて、そこから飛び出した一機のアルトアリスと交戦に入る直前、僅かに機体をしゃがませたカウレス機が、ガントレットを下したと悟らせない、地を這うようにした移動によって、一機のアルトアリスと交戦に入る。

  その隙に、ガントレットは福島UIGへの入口へと入り、事前に作っていたダミーカードキィを用いて人間二人程度の大きさしかない通路を通っていく。

  妨害は無い。妨害出来る人員がいない。

  ガントレットは備えていたP90を構えつつ、事前に叩き込んでいた地図データを基に、UIG内部を駆け抜けていく。

  辿り着いた場所は、UIGの施設を統括する管理室。トリガーを引き、管理用コンピュータに向けて放つ銃弾。一度UIG内の電源が落ちるが、しかしすぐに予備電源へと切り替えられる。

  すぐに退室すると共に、再び走り出す。


 駆けた先に、待ち構える一人の男がいる事を知りながら。

  
  肩にかけたP90を下しながら、そのまま古びたドアを開け放つ。

  扉に放たれた銃弾。ガントレットは癖で一度身を引くが、すぐに息を吐きつつ、再びドアを開け放って、入室。


  そこには、バレッタの銃口と共に冷たい視線をガントレットに向ける男がいた。

 ――否、違う。

  男だった物だ。
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