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第十五章

オースィニ-05

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『武力による、統一……?』


 城坂聖奈と村上明久は、アルトアリス試作一号機を駆るオースィニから、修一の語る内容と同じ物を聞かされていた。


『ちょっと待って。お父さんは、国家間の垣根を超えた統合国家の設立を目指してんのよね?』

『その通りだ』

『お父さん、血迷ったの? そんなのが武力統一なんかでどうにかなるとでも?』

『なるだろうね。何せ将来的には風神の量産によって戦力としては十分となる』

『いや、オレも良く分かってないっす。その辺の事、もっと詳しく聞いても良いっすか?』


 良いだろう、と言ったオースィニが、無線通信で二人に書類データを渡した。

  それは、量産型風神の基礎設計内容などが書かれた書類だったが、しかし試作機である風神と、ほとんど内容としては変わらない。

 強いて言えばパイロットの部分が白紙となっている位か。


『シロサカ・シューイチの野望はこうだ。

 彼が全世界の政府・軍部、果ては国連に向けて統合政府設立を提言する。恐らく、各国々からは大きな反発が起こるだろう。

  そこで、反対派の国家重要戦略地へ量産型風神を大量に投入し、制圧を図る。

 その上で再度意思確認を行い、統合政府設立及び加盟国家となるように説得をする……というのが大まかな流れさ。

 国によって対応を変えなければならない場合はあるだろうがね』

『……いや、そんなの無理に決まってんでしょ?』


 思わず、聖奈が口を挟む。


『無理? 果たしてそうかな?』

『色々ツッコミどころはあるけど、まず国家重要戦略地へAD兵器を大量に投入する事が不可能でしょ?

 ……まぁ発展途上国ならともかく、アメリカとかドイツとかロシアが持ってる防衛網を甘く見てんの?』

『それを可能に出来る技術があるじゃないか』


 と、そこで明久が『あ』と声を漏らす。


『例の、通信妨害?』

『それに加えてステルス技術も、我々にはそれだけ技術的な優位があるんだ。

 ならば聞くけれど、ミィリスから襲撃を受けた君達AD学園には、防衛網が張られていないのかい?

 二度も襲撃があり、ミィリスの襲撃に至ってはAD学園に駐留している自衛隊基地までが攻撃に遭っているのに』


  聖奈には、何も言い返す事が出来なかった。

  ミィリスによるAD学園襲撃の際も、オースィニが乱入した交流戦爆弾事件の際にも、AD学園側は後手に回らざるを得なかった。

 もし仮に、大量の量産型風神がAD学園に突入してきたとして、予めその情報を取得していない状況で防衛網を強化する事も、強化したとして事前に察知し、戦力を整える時間が出来るとも思えない。


『他のツッコミ所としては、そもそも統合政府設立にどこの国が同意するのだ、という話だろう?』

『……そうね』

『まぁ恐らくだが、アメリカと中京、後はロシアと欧州連合辺りはこの話に乗るよ。

 何せ国土侵略という冒険をせずに、合法的に他国の領土他、技術を集める事が出来る大チャンスだ。世界を牛耳ると言っても過言じゃない。むしろどこが主権を握るかで、必ず揉めるだろう』

『アンタらとしては、どこに握って欲しいの?』

『そこはシューイチへ確認していないが、現状では恐らくアメリカだろうねぇ。

 中京の独裁国家体制は破綻が見えているし、現在中核ではないにしても、共産主義は個人的に趣味じゃない』

『でも、そこでさらに戦争となるんじゃ? 正直、歴史とか国土とか対立関係は、オレあんまり知らないんですけど……』

『起こるね。絶対に起こる。恐らくは十年から百年近く継続するだろうし、これが第三次世界大戦と呼ばれても不思議じゃないだろう』

『その時点で平和なんか勝ち取れてないじゃない。そこに至るまでの犠牲は止む無し、なんて答えは論外よ?』

『私はむしろ、そこは認めても良いんじゃないかとは思うけどね。だがシューイチはそう言った国家間戦争も容認しない考えだそうだ。

 武力行動が確認され次第、すぐに量産型風神を投入して戦線を沈黙させ、会合での決定を促すつもりらしい』

『あの、詳しくないオレが聞くのもなんですけど、民族紛争とかありますよね?

 国家間が統合するって事は、あらゆる宗教とかも合わせて統合するって事になれば、それこそ色んな宗教の人たちが黙ってないんじゃ』

『宗教については統合政府によって決めればいいと思うが、それに関してもテロにはテロで立ち向かう考え方らしい。例に違わず、量産型風神を戦線投入だね』

『もし宗教戦争を止める為に米軍が出兵したら?』

『その部隊も含めて、潰す』


 やっぱりそれはバカげてる、と聖奈が頭を抱える。

  確かに風神という機体は、文字通り一騎当千の力を持ち得る超高性能AD兵器だ。

 カタログスペックを完全に引き出す事が出来れば、秋風が数機で挑んでも勝ち目はない。

 しかもそれが量産されるというのならば、不可能ではない……かもしれない。


『じゃあ、根本的な事を聞くわよ? ――パイロットは!?』


 量産型風神のカタログスペックは、聖奈と明久の手元にある資料を見る限りでは、試作機の風神と同様だ。

  ならば、それを操縦するパイロットはどうすると言うのだ。


『……いるよ。その分生産する』


 ここまで、流暢に語っていたオースィニの声が、若干苛立ちを含んでいるように聞こえた明久は『そこはあんまり、気に入ってないんすか?』とだけ聞いてみる。生産と言う言葉の意味はよく理解できていないが、非人道的な事であるのだろうか。


『――お話は、ここまでかな』


 と、そこでオースィニが口にすると、樺太UIGの倒壊したゲートから飛び立っていく、一機の輸送機が見えた。

  聖奈はそちらにカメラと銃口を反射的に向けるが――窓の向こうに、不安げな表情を浮かべた哨と梢の姿が見えて、銃を下す。
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