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第十五章

オースィニ-04

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「アンタは、どんな世界を作るつもりだ?」


 世界平和を成したいという親父。

  そして雷神という機体を建造した。

  そして風神という機体も建造した。

  さらには、アルトアリスという機体の量産にも入っている。

  それは、矛盾しているようにしか見えない。


「織姫、お前に聞きたい。人間の操縦するADと、AIの操縦するADなら、どちらが勝利すると思う?」


 いきなりの問いかけに、既に頭がこんがらがっているオレは、尚も今までの考え方と思考で、返答をこなす事が出来た。


「……状況によるけれど、力量が同等と仮定するなら人間が操縦するADじゃないか?」

「楠はどう思う?」

「えっと……私も、人間の操縦するADだと思う」

「それはどうして? 人間は恐怖などの感情によっても左右されてしまう。操縦をする人間が不確定要素となり得る要因にもなるのに?」

「それでも、AIでは人間の操縦以上をこなす事は出来ないと思う。

 だって感情が無いんだ、それは人間の持ち得るカンだったり、感覚を持っていない。

 その時に最適と思われる解を導き出し、行動するだけじゃ、場数を踏んだエースパイロット以上にはなり得ない」


 だから、状況によるけれど、という言葉を先に置いたんだ。

  確かに、AIならばその辺にいる新米パイロットよりは強い個体を仕上げる事は出来るだろう。

  だが、これまでの戦場を勝ち残って来た兵士以上にはなれない。

  彼らは、様々な場数を踏んで、時には最適ではない答えを感じ、行動する事で生き残る、経験則と感覚が存在する。

  AIは、戦闘経験を積む事は出来ても、感覚を有する事は出来ない。


「勿論、時としてそれが有利に働く事はある。だけど人間以上の嗅覚を持てないAIじゃ、戦場を知る者はそれの上を行く」


 オレの答えに、親父は複雑そうな表情を浮かべた。


「そう……そうだね。僕も、そうだと思う」

「何で、そんな苦い顔をしているんだ」

「正しいからだよ。正しすぎるんだ。……お前たちは子供なのに、どうしてそう戦場に慣れ過ぎてしまったのかと思うと、どうにもね」

「今更、親父面すんじゃねぇよ」

「そう、その通りだ。僕に父親面をする資格は無いと、分かっているけれど、それでもだ」


 親父は、紙の束を机に置いた。ドサリと重い音を鳴らした紙の束を、オレは表紙だけを見据える。


「以前僕達が根城としていた屋敷に、ある程度資料は残しておいたから、おそらくガントレットは何となく概要を想像してはいるだろうが、まだデータが足りない。後でそれを持って帰りなさい」

「どうせ、説明はしてくれるんだろう?」

「人が人へ伝達する情報には齟齬が生じやすい事も事実だからね。しっかりと資料を残しておくことが必要だ」


 親父が、窓越しに見える大量のアルトアリスを示す。


「あれは全て自動操縦によって動く自立型ADだ。

 まだテスト段階だから、量産の比較的容易いアルトアリス機で大量生産した。後に量産型風神の生産を進める予定だがな」

「それをどうするってんだ?」

「一から説明しよう」


 予め存在した椅子に腰かけた親父は、壁にプロジェクターの光を照射し、資料画像を映し出す。

 今映しだされる画像は、世界地図である。


「まず現状で世界平和を成す為には、非公式に【冷戦】と呼ばれる、新ソ連系テロ組織が行う情報奪取のテロ行為が問題となる」

「それは、レイスが元締めを止めれば事が済むんじゃないか?」

「違うな。レイスが管理する事によって火種を少なくできているんだ。レイスの管理が無くなれば、より多くの人命が亡くなる結果となり得る」


 レイスは新ソ連系テロ組織へ命令を下す事により、舞台となる戦場を管理する。

 そうする事で被害を最小限に抑え、かつ新ソ連系テロ組織に対して活動を抑制する事にも繋がるという。

  確かに、新ソ連系テロ組織という存在が、例えば何の情報も無しに、ただ活動するだけになれば問題だ。

  例えば、UIGへの襲撃は、襲撃を行うUIGの場所を把握している事が重要である。

  仮に愛知県に存在するTAKADA・UIGへ攻撃しようと企んだ組織がいたとして、大雑把に愛知県にあるとだけ知っている場合――

 極端な話だが、あても無く主要都市へと攻撃行動を仕掛ける等も、あり得ない話ではない。

  だが、細やかな座標さえ分かってしまえば、TAKADA・UIGが戦場になったとしても、それ以上に被害は広がらない。


「次に、新ソ連系テロ組織を操る国家・新ソ連系国家と、新ソ連系テロ組織の攻撃対象となる連邦同盟国家の存在だな。

 連邦同盟における情報開示を受ける権利が無いからこそ、新ソ連系テロ組織を操り、情報を得ようとする。

 言ってしまえば、先ほどの冷戦機構はこの二つの隔たりがあるからこそ起こってしまう」

「一番手っ取り早いのは、全国家が連邦同盟加盟国になる事……だよね?」


 楠の言葉に、オレと親父が首を振る。


「あり得ない。国連へ提出した僕が言うのも何だけれど、連邦同盟では加盟メリットが少なすぎる」

「そ、そうかな? 確かに国家領土や国力に応じて条約規定が生まれちゃうけど、その分新型ADとかの開発情報がコレから入ってくるんだし、軍事力レベルは各国で適切に保つことが出来るんじゃ」

「保つだけじゃダメなんだよ。相手より上を行き、相手を押さえつけるレベルの軍事力を保持しなきゃ意味がない」

「その通りだ。それに連邦同盟には欠陥も多い。

 ガントレットが行ったように、ADと人員を連邦同盟に加盟していない民間軍事企業に流すだけで兵力問題は解決するからね。

 むしろ自国の開発情報を持っていかれる必要性を感じないだろう」


 その辺を律儀に守っているのは日本だけだよ、と笑う親父の言葉に、オレも頷く。


「なら織姫なら、どうやってこれらの隔たりを壊す?」

「まぁ、理想であるなら連合国家の設立だろうな」

「ほう」


 笑う親父、顔を上げる楠。


「連合国家って事は、全部の国々をまとめ上げて、一つの国家にしちゃおうって事?」

「流石に地球全土を一つの国家にする事は難しいから、例えば大まかに三つの連合国家に分けて、各国々を管理する必要はあるだろうけどな」


 ただ、これにも問題は多い。

  例えば言語・宗教・思想・教育だ。

  これらの要素は、それこそ宗教戦争だったり、争いの火種となり得る重要な要素だ。

 これらを無視していきなり連合国家を設立する事は難しいし、どこに主権を握らせるかという問題にも繋がる。

  そうなると、騒ぎ出す国はどこだろう。

  アメリカ・ロシア・中京共栄国、こんな所か。

  日本はアメリカの傀儡だからアメリカ側に付くだろうし、現状の国力や軍事力を鑑みて、この三国以外が積極的に騒ぐとも思えない。


「だが正しいな。真に国家間戦争を無くすとすれば、後思いつくとしたらそれしかない」

「でも、それまでにどれだけ大きな戦争が起こるか。だって、国々の境を無くす事になっちゃうんだから、絶対に反発は必至だよ」

「その通り。どの様な形であれ戦争は避けられまい」


 それが経済面での戦争になるのか、それともサイバー戦争となるのか、それとも直接的な攻撃になるのか、それは分からないけれど、言い切っても問題ない。

  何より、先ほど挙げた宗教・思想の二つは一番厄介だ。

  宗教戦争は異なる宗教同士の戦争だけじゃない。

 宗教と政治や利権が絡み合い、複雑化したが故に起こり得るし、それ以上に厄介なのは、その宗教・思想に暴徒化した人間そのものだ。

  今でこそテロ組織の多くは国家によって手引きされて作り上げられた組織がほとんどだが、現在に至っても宗教派閥による過激テロ組織はある。

 何だったらオレが現役の頃に一番多く鎮圧した戦場は、宗教紛争による抗争だった。


「けれど、僕も織姫に賛成だ。――現状、戦争を無くす方法として最適なのは、やはり連合国家による国家間の隔たりを無くす事だ」

「正気か? 何十年、いや百年の時間は必要になる」

「必要ないさ――随分と過激な方法になるがね」


 先ほどまで、世界地図を表示していたプロジェクターが、違う画像を表示した。

  それは、以前にも見た雷神と、風神のスペック表である。


「最終的に僕が目指す世界は、完全に統合を果たした、統合国家の設立だ。領土・民族・宗教の垣根を超え、人類が地球人という人種となる」

「その為に雷神プロジェクトと風神プロジェクトを使うってのか?」

「少し語弊があるけれど、その通りだ。勿論十年単位で時間は必要かもしれないが、必ず成功を収める事が出来ると言う自信がある」


 言い切った。

  けど……正直、その言い切り方には、恐怖すら感じる。

  人間は、失敗しないと思っている人間こそ恐ろしいんだ。

  どんなにリスクが伴うヤバい事だって、失敗しないからと恐怖に駆られる事もなく、突き進んでしまう。


「……どうやって設立するってんだ?」

「簡単だ――武力による統一だよ」
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