上 下
140 / 191
第十五章

オースィニ-01

しおりを挟む
 少しだけ、時間は遡る。

  アルトアリス試作一号機に搭乗するオースィニは、雷神がUIG内に突入した事を確認した後、倒壊した樺太UIG出入口ゲート付近で、城坂聖奈と村上明久の搭乗する秋風二機と相対し、距離を開けていた。

  両機とも、60㎜機銃を構えて何時でも撃てるようにしている。

  そしてオースィニも、両腕で大型ブレイドを構えて、何時でも突貫してあなた方を斬れると圧力をかける事で、三機の間に沈黙を与えていた。

  交戦を開始して、どれほどの時間が経過したか、オースィニは確かめる。

  十二分ほど経過。後数分は時間稼ぎが必要になるか、と考えた彼女は、大型ブレイドを地面へと突き刺し、両手を広げて、無害をアピールする。


『……何のつもり?』

『お話を、と思ってね』

『話、ですか……?』

『ああ。ムラカミ・アキヒサ君と、シロサカ・セイナの二名であれば、ある程度冷静に私の話を聞いてくれると思って』

『どうかしら。正直、私はアンタの事を撃ちたくて撃ちたくて堪らないわよ?』

『……やはり神崎紗彩子君は、あの時に私がした攻撃で、何かしら怪我を負ってしまったのかな?』

『ええ。命に別状はないけれど、それでもうら若き女の子を傷物にしてくれちゃって。教師としてアンタを殺したくてしょうがないわ』

『言い訳はしない。私もどうせ長い命ではないだろう。――だから、せめて私の話を聞いてほしい』


 お願いだ、と言う彼女の言葉に、明久機が60㎜機銃の銃口をコックピットへ向けつつ、しかし『何を話したいっていうんすか?』と問うた。


『聞いてくれるのかい?』

『勘違いしないで下さいよ? 友達が酷い目に遭ってんだ、許せるはずがない。

 ……けどオレ達だって、何時アンタらの仲間に怪我を負わせるかもわからないし、オアイコなんだろ?』

『そう、そうだ。それが戦争だ。殺し殺されが許される世界だ。そうして人的資源を削る、直接的なやり取りが戦争という政治だ』

『だったら……オレはバカだけど、人の命を削らない政治をしたい。

 アンタらが何をしたいのか、どうしたいのか、それがわからず、アンタらと殺し合いしたって……そんなの、オレ達が正しいって、信じる事も出来ないから』

『……シロサカ・セイナ。君の教え子は、立派な子供だな』

『ええ。私も今じーんと来てるわ。……話してちょうだい』


 もとより、時間稼ぎが必要だったからこそ始めた交渉。

  けれど、オースィニの心には、それ以外の理由も、生まれてしまった。

 この無邪気で、けれど必死に何かを掴もうとする男の子に、真実を語りたいと、そう思えたのだ。


『この通信を録音しているね?』

『切って欲しいの?』

『いいや。むしろ残して、レビル・ガントレットへと伝えたい。

 ……私もこの話が、どれだけ正しいのかは知らない。けれど、我がボスから直接聞いた、どの様に世界を変えていくのか、その顛末だ』


 聖奈と明久が押し黙る。

  現在基地には、隣接する機体同士の短距離通信しか行えぬようにされている。

 この音声通信を録音されていなければ、オースィニの言葉が曲解され、ガントレットたちに伝わる可能性もある。

  それは避けたい。オースィニはそう考えている。


『まず、共通認識から改めて確認しよう。――君たちは、どうしてAD兵器がこれほどまでに発展を遂げたか、分かるかな?』


 突如問われた言葉に、聖奈は『どういう事よ』と短く返すと、オースィニも『そのままの意味さ』と言う。


『AD兵器は、本来はただの兵器だった筈だ。ミサイルなどの戦略兵器や、戦車や戦闘機等と言った局地的に対応する兵器と、本来は違いなどない筈。

 なのに、どうしてADという兵器だけが、各国の軍事バランスを示す指標にまでなり得た?』


 これまで、幾度となく問われた、ADという兵器の存在理由。

  しかし、確たる答えは今までなかった筈だった。

  それでも――明久は、心に残ってた言葉を一つ、述べる事にする。


『……人が、人らしく兵器を動かせる、それが凄い事、だから……?』


 かつて、AD兵器の利点をガントレットに問われた時。

 島根のどかが『人が人らしく兵器を動かせる。それってすごい事じゃん?』と言った言葉。

  良司と紗彩子はこの言葉に首を傾げていたが、明久には、それがやけにしっくり来ていたのだ。


『意外と聡明だね』

『本当にそれが理由だっての?』

『少し違うがね。

 言ってしまえば人間は、人間同士で殺し合いたいのさ。

 人の形をした兵器で、人の形をした兵器を墜とし、殺す。

 けれど、ミサイルや戦闘機、戦車ではそれを成せない。

 言ってしまえば人間は、斧を持って他者の身体を引き裂き、殺す。

 それだけで本来は満足だったんだよ』


 だが、人は群れとなり、やがて組織化し、斧や剣、槍だけでは多くの命を奪えなかった。

  だから銃が、戦車が、戦闘機が、無人ドローン兵器が、そして戦略ミサイルが――核と言う兵器が生まれた。


 『やがて人類は、武力同士をチラつかせ、互いをけん制し合う事に成功した。

 戦争は互いの情報を奪い合うサイバー戦争へと移り変わり、人の生き死にが圧倒的に減った世の中へ変貌したんだ』

『……そして、あえて他国への攻撃をしないと世界へ示す事によって、第三国から理解を得て、自国が戦う事なく他国に監視させる、情報戦・心理戦にもなった、という事ね』


 聖奈が口にした言葉も、かつて良司が言った言葉だ。

 その言葉が彼女の中で生き続けていて、忘れる事の出来なかった言葉。


『けれど、そんな世の中は終わりを告げた。

 ――ADという存在が生まれたんだ。

  人が操縦する、人の形をした兵器。

  これは、人間を原始時代へと戻す事にも、かつ多量を殺す事にも適した兵器だった。

  人間は、人間として他者を殺したいという欲求に抗えなかった。

  効率的では無かったからこそ他のやり方へ移行したけれど、しかし見つかってしまえば、本能に抗う事など出来ない。

  結果、ADと言う兵器は連邦同盟という三国……特に高田重工や米軍によって発展を促され、そしてその情報を得ようと新ソ連系テロ組織が躍起となり、サイバー戦争の時代から紛争の時代へと逆戻りを果たした、というわけさ』

『それは、飛躍し過ぎじゃないかしら?』

『果たしてそうかな?

 ではなぜ、GIX-001【元祖】等と言う欠陥機を作り上げたシロサカ・シューイチとシモヤマ・アキラという人物を、エンドウ・ツトムという人物は評価し、防衛装備庁長官として支援し、ADの発展に貢献した?

 ……彼は、後のインタビューでこう残しているよ。

「人が人らしく戦う事は必要である。例えば機械同士による戦争は終わり等ない。全てを破壊しつくすだけ。

 ADという兵器は、人が人らしく戦う為に必要な物だ」、と』


 聖奈にとっても、明久にとっても。

  彼女の言葉を、否定できるデータがない。

  むしろ、彼女の言葉を聞けば聞くほど、確かにと認めてしまいたくなっている自分がいる事に気が付く。


『シロサカ・シューイチは、この事実に気付かされた。

 結果、このような世界を生み出してしまった自身の罪に、どうやって贖罪するか、それを思考した』

『お父さんは、どんなバカげた事をやろうとしてんの……?

 そんな、本当に人間の本能がADという兵器を発展させたいと、その情報を得たいという欲に繋がっているんだとしたら、止める方法なんてないじゃない……っ!』

『ああ。私も、果たしてコレでいいのかはわからない。けれど、彼は実施しようとしている。

 ――そしてそれが嘘でないと知ったからこそ、私は彼の野望に与する事を決めた。

 今から、その方法を、お話するとしよう』
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勇者がパーティーを追放されたので、冒険者の街で「助っ人冒険者」を始めたら……勇者だった頃よりも大忙しなのですが!?

シトラス=ライス
ファンタジー
 漆黒の勇者ノワールは、突然やってきた国の皇子ブランシュに力の証である聖剣を奪われ、追放を宣言される。 かなり不真面目なメンバーたちも、真面目なノワールが気に入らず、彼の追放に加担していたらしい。 結果ノワールは勇者にも関わらずパーティーを追い出されてしまう。 途方に暮れてたノワールは、放浪の最中にたまたまヨトンヘイム冒険者ギルドの受付嬢の「リゼ」を救出する。 すると彼女から……「とっても強いそこのあなた! 助っ人冒険者になりませんか!?」  特にやることも見つからなかったノワールは、名前を「ノルン」と変え、その誘いを受け、公僕の戦士である「助っ人冒険者」となった。  さすがは元勇者というべきか。 助っ人にも関わらず主役級の大活躍をしたり、久々に食事やお酒を楽しんだり、新人の冒険者の面倒を見たりなどなど…………あれ? 勇者だったころよりも、充実してないか?  一方その頃、勇者になりかわったブランシュは能力の代償と、その強大な力に振り回されているのだった…… *本作は以前連載をしておりました「勇者がパーティーをクビになったので、山に囲まれた田舎でスローライフを始めたら(かつて助けた村娘と共に)、最初は地元民となんやかんやとあったけど……今は、勇者だった頃よりもはるかに幸せなのですが?」のリブート作品になります。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!

夜間救急事務受付
ファンタジー
仕事中、気がつくと知らない世界にいた 佐藤 惣一郎(サトウ ソウイチロウ) 安く買った、視力の悪い奴隷の少女に、瓶の底の様な分厚いメガネを与えると めちゃめちゃ強かった! 気軽に読めるので、暇つぶしに是非! 涙あり、笑いあり シリアスなおとぼけ冒険譚! 異世界ラブ冒険ファンタジー!

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

スケートリンクでバイトしてたら大惨事を目撃した件

フルーツパフェ
大衆娯楽
比較的気温の高い今年もようやく冬らしい気候になりました。 寒くなって本格的になるのがスケートリンク場。 プロもアマチュアも関係なしに氷上を滑る女の子達ですが、なぜかスカートを履いた女の子が多い? そんな格好していたら転んだ時に大変・・・・・・ほら、言わんこっちゃない! スケートリンクでアルバイトをする男性の些細な日常コメディです。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

処理中です...