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幕間-02
かつての出来事-03
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「小型スラスターは排していいだろう」
「そう考える理由は?」
「陸戦兵器となるならば、少なからず脚部稼働が主だったものとなるだろう。となればスラスターでの細やかな姿勢制御はする必要が無い」
「同感、オミットだな。大型は?」
「腕部をオミット。脚部と背部は残そう」
「同じく同感、オミット。続いて重量」
「スラスターのオミットによってだいぶ重量は減らすことが出来るだろうが、問題は脚部にかかる負担だな。装甲及び脚部骨格に使われている素材は?」
資料を見据えた彰が、目を細めて見慣れぬ単語を口にする。
「えー……T・チタニウムとやらだそうな」
「Tチタか。となれば強度は高いが予算がかさむな……」
「そうなのか」
「T・チタニウムというのは、チタニウムの強度を持った上で、電流を通す事によって更に装甲強度を上乗せする事が出来る独自の合金技術だ。高田重工が特許を取得した為、TAKADA・チタニウムと言う名から、T・チタニウムと呼ぶ」
「その上お高いもんか。どうするよ」
「いや、現段階では残そう。Tチタが持つ装甲強度は捨てがたい」
了解、と小さく呟いた彰。彰は続けて話題を振った。
「後は使用者にかかる負担がデカいんじゃねぇかな。パワードスーツは使用者を補助する事を目的に開発されるべきだと思うがね」
「だからこそ脚部を強化するべきだが、そうなれば予算もかさむ上に鈍重になりかねん」
悩ましい所だ、と溜息をついた修一に、彰は何か思いついたように表情をしかめた。
「なぁ、根本的なこと言っていいか?」
「なんだ」
「これ、どっから動力持ってくんだ?」
「あ」
そうだ、と今まで気が付かなかった自分を恥じた修一。
「しまった……通常は宇宙船からの電力供給をアテにしている宇宙用パワードスーツが、陸地の前線で常に電力供給を出来るわけじゃない」
「これに搭載できるバッテリーだとどの程度だろうな」
「稼働出来て三十分と言った所か」
「実戦でそれは使い物になるのかい」
「ならんだろう。せめて数時間は作戦行動が出来ないと前線に出せる信頼性は満たせない」
問題点がさらに浮かび上がって、それをメモに残した所で――彰が溜息をついた上で、発言した。
「じゃあ大型エンジン搭載できるようにパワードスーツ自体をめちゃくちゃデカくすればいいんじゃね?」
「何をバカな事を」
「いやー、検討する価値はあると思うぜ? どうせ予算がかさむなら、メチャクチャ全英的にして話題にさせてスポンサーが付くようにしちまった方がいいと思うね」
「……確かに」
「それに俺は良く知らんけれども、デカくすりゃ高田重工お得意のジェットエンジン技術も流用できるんじゃねーの?」
「そうだな……どの程度の大きさにするかにもよるが、高田重工の持っているデュアルジェットエンジンシステム【セキゲン】が搭載できる筈だ。これならばある程度動力開発の予算を抑えられる」
「まぁそうなると、結局重量の問題が浮かび上がってくんなぁ……」
「そうだな……仮に十メートル弱の機体とするとして、まず自立が出来るかどうかの問題も出てくる」
「なぁ、ならもっとバカなこと言っていいか?」
「……一応聞こう。なんだ」
「ずっと空飛んでりゃいいんじゃねーの?」
「霜山、お前だんだん投げやりになっていないか?」
「俺は本来プログラマなんだよ。でもそれならジェット機や戦闘機の技術だけでいけんじゃねぇーの? 良く知らねぇけどよ」
「となれば戦闘機で事が済む。これはパワードスーツの流用案なのだからして――」
と、そこまで語った修一の口が、一瞬締まった。
「……どうした?」
「いや、お前の案は廃案決定だ。だが、だがしかし」
「光明見えたかい」
「ああ、そうだ。――常に姿勢制御を行えばいい」
「……んん? どういうこった。常にスラスター吹かして、脚部の負担減らそうってのかい?」
「違う。例えば重力に関してだが、あれは常に地球の中心に引っ張られるようにされているだろう?」
「そうさな。俺らが地面に立つためには、重力が必要不可欠な」
「重力と言うのはある意味、強い電磁波によって制御されているのと同じだ。地球の中心にS極があって、N極である俺達が引っ張られているというわけだ」
「あー、それで?」
「機体を強い電磁波によって制御する事が出来ればいい。こんな感じだ」
簡単に人の絵を紙に描いた修一。その肩部に大きな突起物の絵を描き、そこから電磁波が出ている波線のような物を描写すると、それが機体全身を制御させている事を示した。
「電磁制御装置を機体の上半身に設置する事によって、機体自立の補助を行う。いわば『常に宙へ引っ張られている感覚』だな」
「それなら自立の問題点を改善できるってか?」
「分からん。試作してみない事にはな」
だが、やる価値はあると言う。
「一旦企画書を作成しよう。俺がだいたいの案を完成させ、上層部に願い出る。お前は機体のシステム周りを完成させてほしい」
「俺はシステムエンジニアじゃねぇから、設計図が必要だぜ?」
「僕が描く。それで何か問題は?」
力強く、そう言い放った修一の言葉に。
彰は、タバコに火を付けながら、だが面白そうに笑みを浮かべ、笑った。
「オーケェ、お前さんについていく。お前さん、面白そうだかんな」
「助かる」
「しかし、パワードスーツってもんでも無くなってきたし……ここらで違う名前付けとくか?」
「そうだな……では、仮の名前を付ける」
数秒、修一は口を紡いで名を考える。
そして、彼が言い放った新たな名は。
「――アーマード、ユニット。アーマードから取って、ADと名付けよう」
この時、AD兵器の根幹が生まれた。
二人の天才が放った、雑談によって。
「そう考える理由は?」
「陸戦兵器となるならば、少なからず脚部稼働が主だったものとなるだろう。となればスラスターでの細やかな姿勢制御はする必要が無い」
「同感、オミットだな。大型は?」
「腕部をオミット。脚部と背部は残そう」
「同じく同感、オミット。続いて重量」
「スラスターのオミットによってだいぶ重量は減らすことが出来るだろうが、問題は脚部にかかる負担だな。装甲及び脚部骨格に使われている素材は?」
資料を見据えた彰が、目を細めて見慣れぬ単語を口にする。
「えー……T・チタニウムとやらだそうな」
「Tチタか。となれば強度は高いが予算がかさむな……」
「そうなのか」
「T・チタニウムというのは、チタニウムの強度を持った上で、電流を通す事によって更に装甲強度を上乗せする事が出来る独自の合金技術だ。高田重工が特許を取得した為、TAKADA・チタニウムと言う名から、T・チタニウムと呼ぶ」
「その上お高いもんか。どうするよ」
「いや、現段階では残そう。Tチタが持つ装甲強度は捨てがたい」
了解、と小さく呟いた彰。彰は続けて話題を振った。
「後は使用者にかかる負担がデカいんじゃねぇかな。パワードスーツは使用者を補助する事を目的に開発されるべきだと思うがね」
「だからこそ脚部を強化するべきだが、そうなれば予算もかさむ上に鈍重になりかねん」
悩ましい所だ、と溜息をついた修一に、彰は何か思いついたように表情をしかめた。
「なぁ、根本的なこと言っていいか?」
「なんだ」
「これ、どっから動力持ってくんだ?」
「あ」
そうだ、と今まで気が付かなかった自分を恥じた修一。
「しまった……通常は宇宙船からの電力供給をアテにしている宇宙用パワードスーツが、陸地の前線で常に電力供給を出来るわけじゃない」
「これに搭載できるバッテリーだとどの程度だろうな」
「稼働出来て三十分と言った所か」
「実戦でそれは使い物になるのかい」
「ならんだろう。せめて数時間は作戦行動が出来ないと前線に出せる信頼性は満たせない」
問題点がさらに浮かび上がって、それをメモに残した所で――彰が溜息をついた上で、発言した。
「じゃあ大型エンジン搭載できるようにパワードスーツ自体をめちゃくちゃデカくすればいいんじゃね?」
「何をバカな事を」
「いやー、検討する価値はあると思うぜ? どうせ予算がかさむなら、メチャクチャ全英的にして話題にさせてスポンサーが付くようにしちまった方がいいと思うね」
「……確かに」
「それに俺は良く知らんけれども、デカくすりゃ高田重工お得意のジェットエンジン技術も流用できるんじゃねーの?」
「そうだな……どの程度の大きさにするかにもよるが、高田重工の持っているデュアルジェットエンジンシステム【セキゲン】が搭載できる筈だ。これならばある程度動力開発の予算を抑えられる」
「まぁそうなると、結局重量の問題が浮かび上がってくんなぁ……」
「そうだな……仮に十メートル弱の機体とするとして、まず自立が出来るかどうかの問題も出てくる」
「なぁ、ならもっとバカなこと言っていいか?」
「……一応聞こう。なんだ」
「ずっと空飛んでりゃいいんじゃねーの?」
「霜山、お前だんだん投げやりになっていないか?」
「俺は本来プログラマなんだよ。でもそれならジェット機や戦闘機の技術だけでいけんじゃねぇーの? 良く知らねぇけどよ」
「となれば戦闘機で事が済む。これはパワードスーツの流用案なのだからして――」
と、そこまで語った修一の口が、一瞬締まった。
「……どうした?」
「いや、お前の案は廃案決定だ。だが、だがしかし」
「光明見えたかい」
「ああ、そうだ。――常に姿勢制御を行えばいい」
「……んん? どういうこった。常にスラスター吹かして、脚部の負担減らそうってのかい?」
「違う。例えば重力に関してだが、あれは常に地球の中心に引っ張られるようにされているだろう?」
「そうさな。俺らが地面に立つためには、重力が必要不可欠な」
「重力と言うのはある意味、強い電磁波によって制御されているのと同じだ。地球の中心にS極があって、N極である俺達が引っ張られているというわけだ」
「あー、それで?」
「機体を強い電磁波によって制御する事が出来ればいい。こんな感じだ」
簡単に人の絵を紙に描いた修一。その肩部に大きな突起物の絵を描き、そこから電磁波が出ている波線のような物を描写すると、それが機体全身を制御させている事を示した。
「電磁制御装置を機体の上半身に設置する事によって、機体自立の補助を行う。いわば『常に宙へ引っ張られている感覚』だな」
「それなら自立の問題点を改善できるってか?」
「分からん。試作してみない事にはな」
だが、やる価値はあると言う。
「一旦企画書を作成しよう。俺がだいたいの案を完成させ、上層部に願い出る。お前は機体のシステム周りを完成させてほしい」
「俺はシステムエンジニアじゃねぇから、設計図が必要だぜ?」
「僕が描く。それで何か問題は?」
力強く、そう言い放った修一の言葉に。
彰は、タバコに火を付けながら、だが面白そうに笑みを浮かべ、笑った。
「オーケェ、お前さんについていく。お前さん、面白そうだかんな」
「助かる」
「しかし、パワードスーツってもんでも無くなってきたし……ここらで違う名前付けとくか?」
「そうだな……では、仮の名前を付ける」
数秒、修一は口を紡いで名を考える。
そして、彼が言い放った新たな名は。
「――アーマード、ユニット。アーマードから取って、ADと名付けよう」
この時、AD兵器の根幹が生まれた。
二人の天才が放った、雑談によって。
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