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第十一章
作戦終了ー04
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「ダディ、もう聞き出せる情報はないと思うが、一応規定の尋問の後、射殺でいいと思う」
「オリヒメ、お前」
「雷神の整備状況を見てくる。哨がいないんじゃ、それこそ三日も四日もかかっちまう」
「待て……っ」
銃を渡そうとしたオレの手をギュッと握ったダディ。
「何故撃った」
「ああしなきゃ、オレ達の事を舐めて情報なんか吐かないだろ」
「そうだが、しかしお前の腕で撃てば、跳弾や暴発の危険性があった。なぜあの時に私へ銃を渡さなかった」
「覚悟を、決めたかったんだ。でも……まだできてないな。他に聞き出したい情報はないのか?」
ダディに問う。尋問の内容は扉を挟んでも聞こえていた筈だ。
「……他に知っているとも思えないし、特には無い。遠藤二佐はどうだ?」
「私も、特には」
「なら」
どうせ受け取ってくれないならと、オレは銃をダディに返す事無く更衣室に戻り、未だに床に倒れる男の頭に銃を突き付ける。
「お、おい。やめろ。さっき、飯を持ってきてくれるって、言ったじゃないか。まだ、食ってない。食ってないぞ」
先ほどと同じように、銃を押し付けて固定し、右手で銃を握り、震えない様に左手で抑え、そのまま引き金に指を置き、なるべく力を込めて、撃つ。
脳天を直撃した銃弾、銃口から僅かに発せられた火花が火傷の跡を作るが、そもそも死んだ後じゃ、跡なんか気にならないだろう。
グッ――と。喉を通ろうとする嘔吐を無理矢理飲み込む。
多分撃った事よりも、人を久々に殺した事が、拒絶反応を起こしたのだろう。
だが、まだだ。残り二人がいる。
「止めろ、止めてくれ――!!」
先ほどと同じように、撃つ。
「嫌だ、死にたくない、死にたくない……っ!!」
先ほどと同じように、撃つ。
二人の最後の言葉はそれぞれそんな嘆きだった。
けれど、本当に死にたくないなら、こんな仕事をするべきじゃなかったのだ。
戦争というものは、殺し殺され、人殺しが正当化される世界だ。
死を恐れる者が戦場に出れば、敵はその恐怖に付け込む。
そんな事も知らずに兵士をやっている奴がいるなんて、時代は変わったのかもしれない。
さて、計四発で済んだ事は幸いだった。もっと暴れられたりしたら、それこそ扉に向けて撃っていたかもしれない。
震える手で銃を撃つなんて、本当に危険な行為だからな。
再び更衣室を出て、銃をダディに押し付ける。
「オリヒメ――」
「やっぱ寝るよ。今日は疲れた」
訓練所を離れ、割り当てられたオレと楠の部屋に向かう。
だがどうしても我慢できなかったので、先に共用トイレへ行き、洗面所に向けて、堪えていた物を、吐き出す。
「おぇ……ッ」
ビチャビチャと吐き出される吐瀉物。それを見て、何だか初めて作戦に参加した頃を思い出す。
初めての作戦は、何だったか。確かムスリム系のテロ団体が企んでいた爆破テロの情報を掴んだから、その前に指導者の暗殺だったはず。
あの時、ヒヨッコだったオレに銃を持たせたのは、確かダディだった。
人を殺す感覚を覚えろと言う意味だったと気づいたのは後々で、その時は無心でそれを撃って、殺した事を覚えてる。
でもいざ作戦が終わると、何だか手にべっとりと血がこべりついているような幻覚を見てしまって、思わず吐いたんだ。
「……お兄ちゃん」
「楠、ここ男子トイレだぞ?」
そんな物思いに更けていると、トイレにやってきた楠に、苦笑する。
でも彼女は――フルフルと首を振りながら、涙を流し、オレの胸に飛び込んできたのだ。
「お兄ちゃん、人を、殺したの……?」
「お前と出会う前から、いっぱい殺してる。一体オレは、何人殺したんだろうな。ちょっと数えてみたくなったが、無理だな。記憶も記録もないし、あった所で数えきれない」
「そういう世界じゃなくするために、雷神プロジェクトっていう計画が出来たんだよ? なのに、なのに……っ」
「そうだな。その理想を、夢を、叶えたいと思う。けれど、今はその時じゃない。
敵を殺して、自分が生き延びて、そうして手に入れた先に平和がある。その平和を長く続けるために、雷神プロジェクトはある筈だ」
「でもその前に、お兄ちゃんの心が先に壊れちゃうよっ!」
「壊れないよ。――それで壊れるくらいなら、オレはとっくに発狂してるさ」
そうだ。嘔吐はする。悩みもする。震えはする。
けれど、結局オレは、ADという兵器に乗り、戦場に出て、戦える。
銃も撃てた。人を殺せた。吐いたけれど、それはできた。
つまりオレは、またなる事が出来るんだ。
――兵器というシステムの一部に。
「楠、前に言ったな。この世で最良の兵器っていうのは、人間なんだ。ADも戦闘機も戦車も、それどころかミサイルだって銃だって、扱うのは人間なんだ。
オレは、また最良の兵器なってみせる。そうしてお前たちを、守ってみせる」
「そんなの、私も神崎さんも、哨さんだって嬉しくないよッ!
私たちは、優しくて、銃も撃てないけど、それでも誰かを守りたいって言ったお兄ちゃんが好きなのにっ!」
「例えお前たちに嫌われたって……そうしなきゃ誰も守れなくなる位なら、オレはそうする」
楠の身体を剥がして、自室に向かう。
今日は、よく眠れそうだ。
――夢見は悪いかもしれないが。
「オリヒメ、お前」
「雷神の整備状況を見てくる。哨がいないんじゃ、それこそ三日も四日もかかっちまう」
「待て……っ」
銃を渡そうとしたオレの手をギュッと握ったダディ。
「何故撃った」
「ああしなきゃ、オレ達の事を舐めて情報なんか吐かないだろ」
「そうだが、しかしお前の腕で撃てば、跳弾や暴発の危険性があった。なぜあの時に私へ銃を渡さなかった」
「覚悟を、決めたかったんだ。でも……まだできてないな。他に聞き出したい情報はないのか?」
ダディに問う。尋問の内容は扉を挟んでも聞こえていた筈だ。
「……他に知っているとも思えないし、特には無い。遠藤二佐はどうだ?」
「私も、特には」
「なら」
どうせ受け取ってくれないならと、オレは銃をダディに返す事無く更衣室に戻り、未だに床に倒れる男の頭に銃を突き付ける。
「お、おい。やめろ。さっき、飯を持ってきてくれるって、言ったじゃないか。まだ、食ってない。食ってないぞ」
先ほどと同じように、銃を押し付けて固定し、右手で銃を握り、震えない様に左手で抑え、そのまま引き金に指を置き、なるべく力を込めて、撃つ。
脳天を直撃した銃弾、銃口から僅かに発せられた火花が火傷の跡を作るが、そもそも死んだ後じゃ、跡なんか気にならないだろう。
グッ――と。喉を通ろうとする嘔吐を無理矢理飲み込む。
多分撃った事よりも、人を久々に殺した事が、拒絶反応を起こしたのだろう。
だが、まだだ。残り二人がいる。
「止めろ、止めてくれ――!!」
先ほどと同じように、撃つ。
「嫌だ、死にたくない、死にたくない……っ!!」
先ほどと同じように、撃つ。
二人の最後の言葉はそれぞれそんな嘆きだった。
けれど、本当に死にたくないなら、こんな仕事をするべきじゃなかったのだ。
戦争というものは、殺し殺され、人殺しが正当化される世界だ。
死を恐れる者が戦場に出れば、敵はその恐怖に付け込む。
そんな事も知らずに兵士をやっている奴がいるなんて、時代は変わったのかもしれない。
さて、計四発で済んだ事は幸いだった。もっと暴れられたりしたら、それこそ扉に向けて撃っていたかもしれない。
震える手で銃を撃つなんて、本当に危険な行為だからな。
再び更衣室を出て、銃をダディに押し付ける。
「オリヒメ――」
「やっぱ寝るよ。今日は疲れた」
訓練所を離れ、割り当てられたオレと楠の部屋に向かう。
だがどうしても我慢できなかったので、先に共用トイレへ行き、洗面所に向けて、堪えていた物を、吐き出す。
「おぇ……ッ」
ビチャビチャと吐き出される吐瀉物。それを見て、何だか初めて作戦に参加した頃を思い出す。
初めての作戦は、何だったか。確かムスリム系のテロ団体が企んでいた爆破テロの情報を掴んだから、その前に指導者の暗殺だったはず。
あの時、ヒヨッコだったオレに銃を持たせたのは、確かダディだった。
人を殺す感覚を覚えろと言う意味だったと気づいたのは後々で、その時は無心でそれを撃って、殺した事を覚えてる。
でもいざ作戦が終わると、何だか手にべっとりと血がこべりついているような幻覚を見てしまって、思わず吐いたんだ。
「……お兄ちゃん」
「楠、ここ男子トイレだぞ?」
そんな物思いに更けていると、トイレにやってきた楠に、苦笑する。
でも彼女は――フルフルと首を振りながら、涙を流し、オレの胸に飛び込んできたのだ。
「お兄ちゃん、人を、殺したの……?」
「お前と出会う前から、いっぱい殺してる。一体オレは、何人殺したんだろうな。ちょっと数えてみたくなったが、無理だな。記憶も記録もないし、あった所で数えきれない」
「そういう世界じゃなくするために、雷神プロジェクトっていう計画が出来たんだよ? なのに、なのに……っ」
「そうだな。その理想を、夢を、叶えたいと思う。けれど、今はその時じゃない。
敵を殺して、自分が生き延びて、そうして手に入れた先に平和がある。その平和を長く続けるために、雷神プロジェクトはある筈だ」
「でもその前に、お兄ちゃんの心が先に壊れちゃうよっ!」
「壊れないよ。――それで壊れるくらいなら、オレはとっくに発狂してるさ」
そうだ。嘔吐はする。悩みもする。震えはする。
けれど、結局オレは、ADという兵器に乗り、戦場に出て、戦える。
銃も撃てた。人を殺せた。吐いたけれど、それはできた。
つまりオレは、またなる事が出来るんだ。
――兵器というシステムの一部に。
「楠、前に言ったな。この世で最良の兵器っていうのは、人間なんだ。ADも戦闘機も戦車も、それどころかミサイルだって銃だって、扱うのは人間なんだ。
オレは、また最良の兵器なってみせる。そうしてお前たちを、守ってみせる」
「そんなの、私も神崎さんも、哨さんだって嬉しくないよッ!
私たちは、優しくて、銃も撃てないけど、それでも誰かを守りたいって言ったお兄ちゃんが好きなのにっ!」
「例えお前たちに嫌われたって……そうしなきゃ誰も守れなくなる位なら、オレはそうする」
楠の身体を剥がして、自室に向かう。
今日は、よく眠れそうだ。
――夢見は悪いかもしれないが。
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