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第十一章

作戦開始-01

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 現地時間、2089年7月29日、1410時。

  北太平洋上日米共同管轄島【プロスパー】山岳地帯。
  
  
  プロスパーには、訓練区画として人工的に作られた山岳地帯が存在する。

  緑生の濃い山に、四機のAD兵器が存在し、それらはただ、練り歩くだけだ。

  ADは、それぞれAD総合学園の生徒が乗り込むものである。

  久世良司の搭乗する秋風・フルフレーム。

  島根のどかの搭乗する秋風・高機動パック。

  神崎紗彩子の搭乗する秋風・高火力パック。

  村上明久の搭乗するグレムリン・セコンド。

  明久は通信をオンにして、声を吹きかける。


『あの、これってどんな意味があるんです?』


 山をただADで歩くだけのハイキングに意味を見いだせず、彼が訪ねた問い。答えは四人の内ではなく、プロスパーにて訓練を監督する聖奈が答えた。


『指令室との連携が難しい状況下での生存率を高めるための訓練っていうのが主だけど、それだけじゃないの。ADとして歩きにくい場所でどれだけパフォーマンスを発揮できるか、それを確認するための訓練ね』

『確かに、足と地面の接地圧調整が非常にシビアですね。少しでも気を取られると』


 と紗彩子が話している途中で、明久機が僅かに脚部を傾かせ、倒れそうになっていた所を、のどか機がポンプ付きの腕を取り、止めた。


『そうなります』

『オリヒメが一番初めに訓練した場所も、そんな山の中だった。如何にADを自分の身体として動かす事が出来るか、それを訓練する場として、こうした山は自然の訓練場だと言うな』


 ガントレットが言葉を挟む。ちなみにこの訓練を提案したのは織姫本人だという。


『AD学園ではグラウンド以外の訓練は月に一回あれば多い程度だから、こうした実地訓練は良い刺激となるね』

『つっても歩いてるだけじゃヒマじゃない? なんかないんですかぁ?』

『そのままコースを五周しろ。その後に山岳地帯での戦闘訓練へと入る』


 了解、と返事をした四人。だがそこで、明久が別の質問をする。


『この訓練を考えたっていう姫は?』

『雷神の修理よ。先日の襲撃で脚部にパイルバンカーを食らっていたし、哨ちゃんと一緒にね』

『明宮さんと、ですか』


 少々面白くなさそうな紗彩子に、聖奈が苦笑する。


『紗彩子と姫ちゃんも、その内デートをプランニングしてあげるから、今は訓練に集中なさい』

『お願いします、お姉様』

『紗彩子はホント素直になったわね。そのまま楠ちゃんとも仲良くなってくれると、お姉さん嬉しいんだけどな~』


 さて、と。そこで聖奈が席を離れた様子が聞き取れた。ガントレットが通信を代わる。


『喜べヒヨッコ共。セイナもお前たちの訓練に加わる事となった』

『理事長が?』


 明久の驚く声が聞こえるも、残る三人は納得済みの様子だった。明久を除く全員は、聖奈の経歴を知り得ている。


『アタシ、理事長とも戦ってみたかったんだ。メチャクチャ強いって話じゃん?』

『そうだな、僕も一度手合わせを願いたい程だ』

『とは言っても、ひとまず今回は戦闘訓練だけだがな』


 お前らはそのまま周回に専念しろ、としたガントレットの言葉を最後に、雑談は終了した。
  

  **

  
  オレと哨が雷神の修繕個所を確かめつつ、楠がプロスパーの物資管理を行うべリスと話をしている時だった。

  パイロットスーツを着込んだ姉ちゃんが格納庫までやってきて、柔軟運動をして体を温めている光景がどこか新鮮に思えて、声をかける。


「あの新しく配備された秋風は、姉ちゃんが乗るの?」

「うん。戦闘指揮はガントレット大佐と霜山一佐がいるしね。アタシはそろそろ現場復帰しようかなぁと。予備はこれだけしかないから、これ無くなると困るけどね」


 以前聞いたが、姉ちゃんは秋風採用テストのパイロットを務めていた事もあるし、何なら元々四六でパイロットとして働いていた経歴もあるらしいので、肩を並べて戦う日が来ること自体は想定していたものの、しかしいざ来てみると、何だか不思議な気分だ。


「雷神を直したら模擬戦でもしましょ。雷神相手でも簡単には負けないわよ」


 コックピットまでよじ登って搭乗した姉ちゃんの姿を見据えながら、オレは哨へ声をかける。


「雷神の修理は、このままだと三日はかかるな」

「応急修理は今日中に出来るけど、ガントレット大佐には『しっかりと修理が終えられない場合は出撃不可』って言われちゃったもんねぇ」


 タブレットの整備項目を見る事もなくチェックを振っていく哨。それはサボりではなく、彼女が整備に慣れている結果、項目を見るまでもなく当該箇所のチェックを終わらせているという意味であり、オレもその点は心配していない。


「これが腕部だったら出撃してもいいんだけどなぁ」


 自立に必要な脚部がやられてしまっている場合、雷神の持つ高機動性の一つが失われることに他ならない。ダディじゃなくとも出撃を許可しない場合が多かろう。


「お兄ちゃん、コックピットまで良い?」


 雷神のコックピットに搭乗しようとしていた楠の言葉に頷き、オレもコックピットまで出向く。機体システムのチェックには起動が必要だし、起動にはオレと楠の二人で生体認証を行わなければならない。


「……コレ、ネックだな」


 例えば出撃の際にオレだけで出撃する必要性はほとんどない。しかし整備やチェックの際にオレと楠の両名がいなければならないのは、セキュリティ上は好ましいが、面倒だ。


「その点に関して、風神はどうなんだろうな」

「え?」

「いや、風神も雷神と同じく生体認証なら、例のテスターでもいないと起動できないのかなって」

「本来ならそうだろうけど、例のX-UIGって所で製造された機体だから、その辺をオミットしている可能性はあるよね」


 そうなると、余計に親父が風神を奪取した理由が気になるけれど、その辺は前に言ったように、情報が無い段階で考えすぎると泥沼になりかねない。

 雷神の操縦桿に触れ、僅かに痺れる感覚と共に生体認証を開始、機体の起動とシステムのオンライン化を進める。


「で、どんなチェックするんだ?」

「エラーチェック。チェックシステムを動かすから、その間動けないよ」

「うげぇ、一時間近くコックピット内で缶詰か……」


 整備性の向上を願い出なければならないかもしれない。

  後で清水先輩に、その辺のシステムをいじれないか、お願いしようと考えたオレであった。
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