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第八章

謎の機体との戦闘にて-01

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 決勝総当たり戦は試合毎に十分弱の休憩時間を設けている。

  なので天城先輩の駆る秋風を立ち上がらせて、格納庫の方面へと移動を開始した事を見届けたオレと楠も、一度格納庫まで向かおうとしたが――そこで、俺の持つ携帯端末に、一本の電話が入る。


「もしもし」

『トラブルが発生した』


 例の爆弾魔だ。


「何があった」

『現地に待機させていたエージェントが君たちの仲間に見つかってね』

「おい、それで爆発を早めるとかいうなよ」

『予め爆弾を探す事を許可していたのはこちらだ。だから――折衷案を出す』


 それが何かを問おうとした所で――先ほどまでオレ達と天城先輩が戦っていたグラウンドに、一機のAD兵器が降り立った。


  全体的に紺色の装甲。

  秋風や雷神のようにスラリとした八頭身で、大型スラスターが多くて非常に目を引いた。

  しかし、武装は両サイドアーマーに搭載された双剣ユニットと背部に背負われた大型ブレイドしかなく、一体それが何なのか、オレも楠も呆然とした。


『レイスの試作試験型AD・アルトアリス一号機だ。正式名称はまだない。その機体と戦い、勝利しなさい。そうすれば、爆弾の位置データ全てを送るよ』

「アルトアリス……」

「一号機……」


 オレと楠の声が、その名をこだまさせる。

  一号機は背部に背負う大型ブレイドをこちらへと向けて、外部スピーカーから日本語で語り掛けた。


『ご来場の皆さま、これは次の試合までのパフォーマンスです。是非ともご観覧ください』

「何を」


 今度はプライベート回線で通信が入る。


『ごめんね、可愛いお二人にこんな荒っぽい事をさせて。しかし下手に声を挙げない方がいい。爆弾を起爆させたくはないだろう?』


 イギリス人に近い英語発音で、オレも楠も「欧州系テロ組織の人間か?」と邪推してしまう。


『私はオースィニ。ああ、本名ではないよ、レイスでのコードネームさ』

「どうしてレイスは、雷神をそこまで戦わせたがる? それでレイスにどんな得があるってんだ」

『さてね、私にもわからない。我らのボスは、その雷神を気に入っているようだからね。さて……戯れはここまでか』

「っ!」


 大型ブレイドは、一号機の全長にも及ぶ。重量もそれなりにある筈だ。

  しかし、それは素早かった。

  二十メートル程離れていた距離を、二秒もかけず詰めた一号機は、大型ブレイドを上段から振り下ろし、グラウンドに叩きつけた。

  本来は雷神が叩き切られる所ではあったが、すぐさま脚部キャタピラを稼働させて後ろに下がった事が幸いする。


「癪に障るが、やるぞ楠!」

「はいっ」


 雷神は背部スラスターを吹かして、猛スピードで右脚部を振り込んで、蹴りに行く。

  しかし、大型ブレイドを手から離した一号機は身を低くした後に両サイドアーマーに搭載されていた双剣を取り出し、瞬時に二撃。

  回避は楠に任せざるを得なかった。ドライブD稼働ですぐさま上空へと逃げるものの、一号機は地面を強く蹴り込んで飛び上がり、連撃へ。

  当然だが、敵の双剣には模擬戦用のナイフカバー等はなく、全て刃が入っている。

 しかもAD兵器に搭載されるダガーナイフ等の刃物には、全て装甲を破る為のチェーンソー状になっている為、T・チタニウム製装甲でも時間をかければ切られてしまう。

  双剣を持つ腕部分を弾く事によって全て回避するが、しかし敵も素早い。連撃の後に肩部の電磁誘導装置を起点とした踵落としが直撃し、地面へ叩き落される。

  揺れる全身に喝を入れながら雷神を素早く動かし、背後へと跳ぶ。既に一号機は双剣で切りつけようと上空から迫っており、寸での所で躱す事が出来た。


『速い』


 短く放たれた独り言を聞いている暇はない。すぐに一号機の双剣を持つ両腕を殴りつける事で弾き飛ばして、丸腰にさせる。


『しかも強い』


 足をかけ、倒れた所を肘打ちで吹き飛ばし、姿勢を制御している間に、スラスターを吹かして飛び蹴りを打ち込む。


「う、おおおお――っ!!」


 敵の用いる電磁誘導装置の磁場をセンサーで感知・引き合う磁場を割り当てて敵機をその場で一瞬だけ固定させると、そのまま敵顔面を強く殴りつけ、地面に叩き伏せた。

  
 強い機体ではあった。しかし対処できない敵ではない。


 呼吸を整えつつ、対処を考える。現在は多くの記者やAD総合学園の関係者が見ている場だ。ここで敵を捕らえる事は得策ではない。


  その機体へと近づき、観客にバレないように連行しよう。


  楠と視線で相談をし合った――その時だった。


『いや、君達は強いね。流石は雷神プロジェクトを体現する機体だ。秋風と同等スペックはあるアルトアリスをここまで容易く倒すとは』


 スッと立ち上がった一号機。先ほどまでの戦いを、まるでなかったかのように。

  もう一度叩き潰す必要があるかと、構えたオレと楠。


  しかし……思わぬ人物の乱入で、事態は急変した。

  
『そこまでだよオースィニ。君の機体はやはり対雷神には向かない。近接戦闘の極みである雷神は、如何な戦術においても接近されれば敵は無い』

 
  声は、外の音声を拾う外部マイクからだった。

  観客席から、フードを被った一人の男が悠々と歩いてきた。

  楠が外部スピーカーを用いて「一般の方は近づかないでください!」と声をかけるも、男は僅かに見える口元をニッと上げて笑うだけだった。

  
『ボス、こんな所に……まさか、ずっといたのですか?』

『ああ。雷神の晴れ姿をこの目に焼き付けたくてね』


 フードを被った男は、雷神と一号機の間に立ち塞がり、一つの携帯端末を取り出して電話をかけ始める。

  着信は、オレの携帯だ。すぐに取った。


『楽しませてもらったよ。織姫、楠』

「お前だったんだな、電話の主は。どうやって逆探知を偽装した」

『転送電話だよ。そうすれば位置情報はあくまでロンドンに置いてきたネットカフェの携帯端末だ。昔から使われる古典的な手だね』

「そこを動くな。すぐにひっ捕らえる」

『そうか、君に捕まるのならば、僕も本望ではあるんだけれどね……残念な事に、それは出来ない』


 男がフードを、脱いだ。
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