62 / 191
第七章
久世良司 VS 神崎紗彩子 にて-02
しおりを挟む
砲弾の命中により落とされた右腕。物理的にあるものの、今回の試合ではもう右腕を使う事が出来ず、機体システムが『右腕が無い物』として、操縦にワザと障害を与える。
左手で操縦桿を、右手で備え付けキィボードを取り出し、簡易設定を読み込んだフルフレーム。機体各部に異常をきたした場合の短縮設定は既に済ませている。
続いて、二発目の砲撃。今度は砂嵐が収まりかけていた事もあり、砲身が見えたので、目視で着弾位置を想定、機体をしゃがませる事で避け切った。
フルフレームの簡易設定終了。両手で操縦桿を握り直し、操縦桿、姿勢制御幹、フットペダルの三つを同時に作動させ、機体の背部スラスターから暴風を吹かし、空高く舞い上がった。
動きを一旦止めた二機。そして二者に与えられた休息は、ほんの僅かなひと時。
「はぁ……はぁ……っ」
『お強いですね。今ので倒せないとは、思いませんでした』
「謙遜を。在学中の生徒がここまでボクを苦しめた事など、片手で数えられる程度だ。誇るといい、神崎紗彩子」
『ええ、誇らせて頂きます。貴方を倒して、ね!』
フルフレームが右手に持っている筈の短剣が一つ、グラウンドに落ちていたので、滑腔砲を構える右手とは逆の左手で掴み、自らの得物とした紗彩子機。
滑腔砲の一撃を天高く舞い上がるフルフレームに向けて放ち、避けられた事を確認すると、全身を包んでいた高火力パック用の追加装甲を全てパージした紗彩子機。
放たれた砲弾を避け切ったフルフレームは、残った左手にある四川を構え、背部スラスターを全力で吹かし、地に向けて駆けた。
地面に着地すると同時に胸部CIWSを乱射して、紗彩子機に威嚇をするも、彼女は軽やかな操縦によって銃弾の雨を躱し続け、四川の一振りを見舞う。
同じ四川同士の鍔迫り合い。ギリギリギリ、と安全装置の擦れ合う音が接触回線により両機体内のスピーカーから流れ、二人の耳を犯していく。
貰った! 紗彩子は、声にならぬ歓喜を心に秘め、フルフレームの腹部に滑腔砲の砲身を零距離で突き付け、引き金を引こうとしたが――
「神崎紗彩子。君は慢心を捨てろ」
フルフレームは、背部スラスターを再び吹かした。砲身は、風力によって後押しされたフルフレームの装甲から外れ、機体の脇に挟まれた。
そして、背中から地面へ落ちる紗彩子機。
僅かな衝撃に表情を歪ませた紗彩子が見た光景は、自身の持つ砲身を踏みつけながら、左手に持つ刃の一振りを紗彩子機の首筋に押し付ける、フルフレームの姿だった。
「勝負有りだ」
良司の言葉に紗彩子は口を大きく開き、しかしそれが確かな事実である事を認めた所で。
『しょ、勝負有りっ! 勝者、三年Aクラス・久瀬良司!』
自身の部下である坂本千鶴によって勝敗を告げられ、二者の戦いは終了した。
**
雷神のコックピットに、オレと楠が腰かけている。
二者の勝負を、楠はただ呆然と眺めていた。
オレはというと、携帯端末で各所から来る連絡を受け取りつつ、指示を下している。
「驚いたか、楠」
「うん。久瀬先輩の動きは納得できるけど、あの女があんなに動けるなんて、思わなかった」
「神崎はオレが今まで見て来たパイロットの中でも、かなりの実力を持ってるぞ。正直戦場の状況次第で、オレも勝てるか分からない」
神崎の弱点は、久瀬先輩が言っていたように慢心がある事だ。自身に絶対の才能があると過信し、相手の土俵で戦おうとする。
彼女が頑なに高火力パックに拘る理由も、自分なりの流儀を持っているからに他ならないのだろう。オレが彼女なら、まず使用するパックは高速戦パックを選択する。
高機動パックでもいいが、高速戦パックの場をかき回す性能なら、彼女の操縦能力があれば如何なる敵も怖くない。
「それより、二つ目の爆弾を梢さんが見つけたぞ。これで残り二十一個」
「残り時間はどっちの方だった?」
「残り四時間の方。六時間の方を見つけたかったけど、贅沢は言ってられないからな」
ちなみに見つけた場所が中等部校舎だった事もあり、爆弾捜索の範囲はAD総合学園島全域に広げた方が良いだろう。
「続いて、島根と天城先輩の対決か――楠、どっちが勝つと思う?」
「そりゃあ島根だよ! あの子が高機動パックを使ったら、お兄ちゃんだって負けちゃうんだから!」
「そうか? オレは天城先輩が勝つと思う。何ならあの店のプリンを賭けてもいい」
「やった! ……でも、天城先輩って確かに強いけど、基礎を極めただけの人みたいけど」
「――それがヤバいんだよ。あの人、その点に関しては化物だぞ」
基礎を疎かにする者は基礎に泣く。それはオレが嫌って程気付かされた、このAD学園での事実だ。
確かに島根は強いんだろう。実際にオレが戦った事は無いものの、彼女の戦闘を見ているだけでも分かる。
しかし彼女には、基礎と言う物が全く身に付いていない。
オレと同じく基礎を放り投げ、感覚だけで機体を動かす事に特化してしまったからこそ、基礎を極めた天城先輩には、勝てない。
「さ、始まるぞ――このAD学園上、オレが一番気になってる勝負がな」
左手で操縦桿を、右手で備え付けキィボードを取り出し、簡易設定を読み込んだフルフレーム。機体各部に異常をきたした場合の短縮設定は既に済ませている。
続いて、二発目の砲撃。今度は砂嵐が収まりかけていた事もあり、砲身が見えたので、目視で着弾位置を想定、機体をしゃがませる事で避け切った。
フルフレームの簡易設定終了。両手で操縦桿を握り直し、操縦桿、姿勢制御幹、フットペダルの三つを同時に作動させ、機体の背部スラスターから暴風を吹かし、空高く舞い上がった。
動きを一旦止めた二機。そして二者に与えられた休息は、ほんの僅かなひと時。
「はぁ……はぁ……っ」
『お強いですね。今ので倒せないとは、思いませんでした』
「謙遜を。在学中の生徒がここまでボクを苦しめた事など、片手で数えられる程度だ。誇るといい、神崎紗彩子」
『ええ、誇らせて頂きます。貴方を倒して、ね!』
フルフレームが右手に持っている筈の短剣が一つ、グラウンドに落ちていたので、滑腔砲を構える右手とは逆の左手で掴み、自らの得物とした紗彩子機。
滑腔砲の一撃を天高く舞い上がるフルフレームに向けて放ち、避けられた事を確認すると、全身を包んでいた高火力パック用の追加装甲を全てパージした紗彩子機。
放たれた砲弾を避け切ったフルフレームは、残った左手にある四川を構え、背部スラスターを全力で吹かし、地に向けて駆けた。
地面に着地すると同時に胸部CIWSを乱射して、紗彩子機に威嚇をするも、彼女は軽やかな操縦によって銃弾の雨を躱し続け、四川の一振りを見舞う。
同じ四川同士の鍔迫り合い。ギリギリギリ、と安全装置の擦れ合う音が接触回線により両機体内のスピーカーから流れ、二人の耳を犯していく。
貰った! 紗彩子は、声にならぬ歓喜を心に秘め、フルフレームの腹部に滑腔砲の砲身を零距離で突き付け、引き金を引こうとしたが――
「神崎紗彩子。君は慢心を捨てろ」
フルフレームは、背部スラスターを再び吹かした。砲身は、風力によって後押しされたフルフレームの装甲から外れ、機体の脇に挟まれた。
そして、背中から地面へ落ちる紗彩子機。
僅かな衝撃に表情を歪ませた紗彩子が見た光景は、自身の持つ砲身を踏みつけながら、左手に持つ刃の一振りを紗彩子機の首筋に押し付ける、フルフレームの姿だった。
「勝負有りだ」
良司の言葉に紗彩子は口を大きく開き、しかしそれが確かな事実である事を認めた所で。
『しょ、勝負有りっ! 勝者、三年Aクラス・久瀬良司!』
自身の部下である坂本千鶴によって勝敗を告げられ、二者の戦いは終了した。
**
雷神のコックピットに、オレと楠が腰かけている。
二者の勝負を、楠はただ呆然と眺めていた。
オレはというと、携帯端末で各所から来る連絡を受け取りつつ、指示を下している。
「驚いたか、楠」
「うん。久瀬先輩の動きは納得できるけど、あの女があんなに動けるなんて、思わなかった」
「神崎はオレが今まで見て来たパイロットの中でも、かなりの実力を持ってるぞ。正直戦場の状況次第で、オレも勝てるか分からない」
神崎の弱点は、久瀬先輩が言っていたように慢心がある事だ。自身に絶対の才能があると過信し、相手の土俵で戦おうとする。
彼女が頑なに高火力パックに拘る理由も、自分なりの流儀を持っているからに他ならないのだろう。オレが彼女なら、まず使用するパックは高速戦パックを選択する。
高機動パックでもいいが、高速戦パックの場をかき回す性能なら、彼女の操縦能力があれば如何なる敵も怖くない。
「それより、二つ目の爆弾を梢さんが見つけたぞ。これで残り二十一個」
「残り時間はどっちの方だった?」
「残り四時間の方。六時間の方を見つけたかったけど、贅沢は言ってられないからな」
ちなみに見つけた場所が中等部校舎だった事もあり、爆弾捜索の範囲はAD総合学園島全域に広げた方が良いだろう。
「続いて、島根と天城先輩の対決か――楠、どっちが勝つと思う?」
「そりゃあ島根だよ! あの子が高機動パックを使ったら、お兄ちゃんだって負けちゃうんだから!」
「そうか? オレは天城先輩が勝つと思う。何ならあの店のプリンを賭けてもいい」
「やった! ……でも、天城先輩って確かに強いけど、基礎を極めただけの人みたいけど」
「――それがヤバいんだよ。あの人、その点に関しては化物だぞ」
基礎を疎かにする者は基礎に泣く。それはオレが嫌って程気付かされた、このAD学園での事実だ。
確かに島根は強いんだろう。実際にオレが戦った事は無いものの、彼女の戦闘を見ているだけでも分かる。
しかし彼女には、基礎と言う物が全く身に付いていない。
オレと同じく基礎を放り投げ、感覚だけで機体を動かす事に特化してしまったからこそ、基礎を極めた天城先輩には、勝てない。
「さ、始まるぞ――このAD学園上、オレが一番気になってる勝負がな」
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
CombatWorldOnline~落ちこぼれ空手青年のアオハルがここに~
ゆる弥
SF
ある空手少年は周りに期待されながらもなかなか試合に勝てない日々が続いていた。
そんな時に親友から進められフルダイブ型のVRMMOゲームに誘われる。
そのゲームを通して知り合ったお爺さんから指導を受けるようになり、現実での成績も向上していく成り上がりストーリー!
これはある空手少年の成長していく青春の一ページ。
銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武
潮崎 晶
SF
最大の宿敵であるスルガルム/トーミ宙域星大名、ギィゲルト・ジヴ=イマーガラを討ち果たしたノヴァルナ・ダン=ウォーダは、いよいよシグシーマ銀河系の覇権獲得へ動き出す。だがその先に待ち受けるは数々の敵対勢力。果たしてノヴァルナの運命は?
春空VRオンライン ~島から出ない採取生産職ののんびり体験記~
滝川 海老郎
SF
新作のフルダイブVRMMOが発売になる。 最初の舞台は「チュートリ島」という小島で正式リリースまではこの島で過ごすことになっていた。
島で釣りをしたり、スライム狩りをしたり、探険したり、干物のアルバイトをしたり、宝探しトレジャーハントをしたり、のんびり、のほほんと、過ごしていく。
旧陸軍の天才?に転生したので大東亜戦争に勝ちます
竹本田重朗
ファンタジー
転生石原閣下による大東亜戦争必勝論
東亜連邦を志した同志達よ、ごきげんようである。どうやら、私は旧陸軍の石原莞爾に転生してしまったらしい。これは神の思し召しなのかもしれない。どうであれ、現代日本のような没落を回避するために粉骨砕身で働こうじゃないか。東亜の同志と手を取り合って真なる独立を掴み取るまで…
※超注意書き※
1.政治的な主張をする目的は一切ありません
2.そのため政治的な要素は「濁す」又は「省略」することがあります
3.あくまでもフィクションのファンタジーの非現実です
4.そこら中に無茶苦茶が含まれています
5.現実的に存在する如何なる国家や地域、団体、人物と関係ありません
6.カクヨムとマルチ投稿
以上をご理解の上でお読みください
これって、パラレってるの?
kiyin
SF
一人の女子高校生が朝ベットの上で起き掛けに謎のレバーを発見し、不思議な「ビジョン」を見る。
いくつかの「ビジョン」によって様々な「人生」を疑似体験することになる。
人生の「価値」って何?そもそも人生に「価値」は必要なの?
少女が行きついた最後のビジョンは「虚無」の世界だった。
この話はハッピーエンドなの?バッドエンドなの?
それは読み手のあなたが決めてください。
GROUND ZERO
K
SF
「崩壊世界(ゼロ)から始まる―」
何故そうなったの覚えている者は誰一人として存在しない
全てが一度崩壊し人々がこれまでに築き上げてきた文化や技術、法や良識は瓦礫の海に呑み込まれた
堆積した世界の砕片に埋もれた筈の太古の記憶が時折無作法に寝返りを打つ
アカネ・パラドックス
雲黒斎草菜
SF
超絶美人なのに男を虫ケラのようにあしらう社長秘書『玲子』。その虫けらよりもひどい扱いを受ける『裕輔』と『田吾』。そんな連中を率いるのはドケチでハゲ散らかした、社長の『芸津』。どこにでもいそうなごく普通の会社員たちが銀河を救う使命を背負わされたのは、一人のアンドロイド少女と出会ったのが始まりでした。
『アカネ・パラドックス』では時系列を複雑に絡めた四次元的ストーリーとなっております。途中まで読み進むと、必ず初めに戻って読み返さざるを得ない状況に陥ります。果たしてエンディングまでたどり着きますでしょうか――。
我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。
たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。
しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。
そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。
ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。
というか、甘やかされてません?
これって、どういうことでしょう?
※後日談は激甘です。
激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。
※小説家になろう様にも公開させて頂いております。
ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。
タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる