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第五章
青春の始まり-05
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色んな人と言葉を交わし、オレは最後に、この場所にやってきた。
Cランク格納庫――そこに先日まであった秋風の姿は無い。
今そこにあるのは、白く輝きを放つ機体・雷神である。その機体の眼前に、先客がいる事に気が付いた。
城坂楠――いや、髪を束ねた制服姿であるからして、秋沢楠であるのだろう。
「楠、どうした?」
「あ、お――城坂さん。いえ、何でもありません。ただの気まぐれです」
「今はオレとお前しかいないんだ。城坂楠でいいだろ」
「……そうだね、お兄ちゃん」
あの戦いから、既に一日が過ぎた。
今日一日は学園内の復興準備とか被害確認などでゴタゴタしていたが、何とかそれもひと段落ついたので、あとは細々とした処理だけとなった。
オレと楠の関係を知る者以外――つまり生徒会の面々と神崎、哨以外の前では、未だに兄妹である事は内緒とされている。
「楠、聞いてもいいか?」
「なに?」
「楠は、どうして雷神プロジェクトって物を、信じる事にしたんだ?」
まだ、聞いていなかった疑問。
楠は自身が生み出された願いの意味、そして雷神プロジェクトが作り上げようとする世界の事を知った上で、行動する事を決めていた。
普通なら、こんな夢物語を信じようなどとは思うまい。
「……私はね、お兄ちゃんの言う通り、戦いの事なんて何にも知らないの。
実弾を撃ったことも無ければ、戦場で人を殺す事なんて、知らない。知りたくもない」
一番最初に出会った時、楠はオレに嬉々として「ADを教えてあげる」と言ってきた。
オレは、楠の放った言葉が、気に食わなかった。今まで戦場に出た事も無い奴が、偉そうにするなと、思っていたからだ。
「でも私は、誰かを――お兄ちゃんやお姉ちゃん、そして生徒会の皆を、守りたいって思う。
その為に、少しでも私の力が役に立つのなら、雷神プロジェクトが願う夢を、信じてみたくなった……ただ、それだけ」
えへへ、と。気恥ずかしそうに笑う楠の言葉に、だがオレも頷いていた。
妹は、オレと同じ気持ちを抱いて、戦う事を決めたのだ。
楠は、もう立派な兵士だ。
――例え人を殺すことを良しとしなくとも、誰かを守ろうとして、自身の力を使おうとしたこの子は、誰よりも立派な兵士なのだ。
オレはそれを――兄として、誇りに思う。
「あ、そうだ。兄としてはこれも聞きておきたいんだが」
「え、何?」
「なんで秋沢楠って名乗ってるんだ?」
単刀直入に尋ねる事とする。
雷神プロジェクトの事も知り、遺伝子操作を受けた子供である事も知ってしまった今、その理由も聞いていいのだろうと考えての事だ。
だが、楠は一度顔を真っ赤にさせると、表情を俯かせて言葉を探しているようだった。
「雷神プロジェクトの兼ね合いじゃなかったのか?」
「え、っと、そう、なんだけど……その、ちょっと、言い辛くて」
楠はいったん深呼吸をすると、指と指を絡ませながらモジモジとした態度をしながら、口を開いた。
「えっと、理由は二つあって」
「ああ」
「一つは、ホントに雷神プロジェクトの兼ね合いで……城坂って苗字を聞いて、雷神プロジェクトの関係者だとバレると面倒だから隠していたって事」
意外と初期原案の雷神プロジェクト自体を知る者は多いらしい。
その者達から情報が洩れ、楠の安全が確保できない可能性があった、と言う事だ。
「お兄ちゃんの苗字も、転入前に変えようかって話は四六で上がってたんだけど、お兄ちゃんに余計な苦労を掛けさせたくないからって、お姉ちゃんと私が反対したの」
「なるほどな。二つ目は?」
「あ――ううぅ」
再び、表情を真っ赤にさせた楠。正直理由としては一つ目で十分なのだが、二つあると言われた手前、一つしか聞けないのは居心地が悪い。
「えっと……お兄ちゃんが、さ。彼女が欲しいなって思っても、それは四六的にNGなんだよね」
「彼女? ガールフレンドの事か?」
「こ、恋人の事。お兄ちゃんの恋人になるって事は、その人が雷神プロジェクトに一歩近付いちゃうって事だから。
男女交際で距離が近くなれば、雷神プロジェクトに巻き込んじゃって、その一般人を危険に晒しちゃう可能性もあるから」
「それは何となくわかるけど。それがどうして、楠の苗字が秋沢になる事に繋がるんだ?」
「そ、その――も、もし、もしね?
お兄ちゃんが、どうしても彼女が欲しい、男女交際がしたいって思った時、四六にダメって言われてるだけじゃ、若い男の子だと納得しないだろうって思ったから……」
と、そこで楠は、意を決したように表情を引き締め、言い放った。
「そ、その時は私が――彼女になってあげようかなって思ったのっ!!」
……確かに、妹が彼女と言うのは、世論的に訝しんだ目で見られる事は間違いないだろう。
そうなったら関係を訝しむ者がオレ達の事を調べ、何かの間違いで四六や雷神プロジェクトに辿り付いてしまう事があるかもしれない。
だが兄妹である事を隠していれば、彼女を名乗っても違和感は無い筈だ。
おまけに彼女になる人物が、元々雷神プロジェクトに加担している楠ならば、問題はない。
――いやしかし、何とも。
「ぷっ」
「な、何で笑うの!」
「いや、そんな理由で偽名か……って思ったら、笑いが」
「ひ、一つ目が主だから! 二つ目はついでだからっ!!」
オレの胸をぽかぽかと叩きながら、精一杯声を上げて言い訳をする妹の姿に、オレは何だか、温かさを感じていた。
Cランク格納庫――そこに先日まであった秋風の姿は無い。
今そこにあるのは、白く輝きを放つ機体・雷神である。その機体の眼前に、先客がいる事に気が付いた。
城坂楠――いや、髪を束ねた制服姿であるからして、秋沢楠であるのだろう。
「楠、どうした?」
「あ、お――城坂さん。いえ、何でもありません。ただの気まぐれです」
「今はオレとお前しかいないんだ。城坂楠でいいだろ」
「……そうだね、お兄ちゃん」
あの戦いから、既に一日が過ぎた。
今日一日は学園内の復興準備とか被害確認などでゴタゴタしていたが、何とかそれもひと段落ついたので、あとは細々とした処理だけとなった。
オレと楠の関係を知る者以外――つまり生徒会の面々と神崎、哨以外の前では、未だに兄妹である事は内緒とされている。
「楠、聞いてもいいか?」
「なに?」
「楠は、どうして雷神プロジェクトって物を、信じる事にしたんだ?」
まだ、聞いていなかった疑問。
楠は自身が生み出された願いの意味、そして雷神プロジェクトが作り上げようとする世界の事を知った上で、行動する事を決めていた。
普通なら、こんな夢物語を信じようなどとは思うまい。
「……私はね、お兄ちゃんの言う通り、戦いの事なんて何にも知らないの。
実弾を撃ったことも無ければ、戦場で人を殺す事なんて、知らない。知りたくもない」
一番最初に出会った時、楠はオレに嬉々として「ADを教えてあげる」と言ってきた。
オレは、楠の放った言葉が、気に食わなかった。今まで戦場に出た事も無い奴が、偉そうにするなと、思っていたからだ。
「でも私は、誰かを――お兄ちゃんやお姉ちゃん、そして生徒会の皆を、守りたいって思う。
その為に、少しでも私の力が役に立つのなら、雷神プロジェクトが願う夢を、信じてみたくなった……ただ、それだけ」
えへへ、と。気恥ずかしそうに笑う楠の言葉に、だがオレも頷いていた。
妹は、オレと同じ気持ちを抱いて、戦う事を決めたのだ。
楠は、もう立派な兵士だ。
――例え人を殺すことを良しとしなくとも、誰かを守ろうとして、自身の力を使おうとしたこの子は、誰よりも立派な兵士なのだ。
オレはそれを――兄として、誇りに思う。
「あ、そうだ。兄としてはこれも聞きておきたいんだが」
「え、何?」
「なんで秋沢楠って名乗ってるんだ?」
単刀直入に尋ねる事とする。
雷神プロジェクトの事も知り、遺伝子操作を受けた子供である事も知ってしまった今、その理由も聞いていいのだろうと考えての事だ。
だが、楠は一度顔を真っ赤にさせると、表情を俯かせて言葉を探しているようだった。
「雷神プロジェクトの兼ね合いじゃなかったのか?」
「え、っと、そう、なんだけど……その、ちょっと、言い辛くて」
楠はいったん深呼吸をすると、指と指を絡ませながらモジモジとした態度をしながら、口を開いた。
「えっと、理由は二つあって」
「ああ」
「一つは、ホントに雷神プロジェクトの兼ね合いで……城坂って苗字を聞いて、雷神プロジェクトの関係者だとバレると面倒だから隠していたって事」
意外と初期原案の雷神プロジェクト自体を知る者は多いらしい。
その者達から情報が洩れ、楠の安全が確保できない可能性があった、と言う事だ。
「お兄ちゃんの苗字も、転入前に変えようかって話は四六で上がってたんだけど、お兄ちゃんに余計な苦労を掛けさせたくないからって、お姉ちゃんと私が反対したの」
「なるほどな。二つ目は?」
「あ――ううぅ」
再び、表情を真っ赤にさせた楠。正直理由としては一つ目で十分なのだが、二つあると言われた手前、一つしか聞けないのは居心地が悪い。
「えっと……お兄ちゃんが、さ。彼女が欲しいなって思っても、それは四六的にNGなんだよね」
「彼女? ガールフレンドの事か?」
「こ、恋人の事。お兄ちゃんの恋人になるって事は、その人が雷神プロジェクトに一歩近付いちゃうって事だから。
男女交際で距離が近くなれば、雷神プロジェクトに巻き込んじゃって、その一般人を危険に晒しちゃう可能性もあるから」
「それは何となくわかるけど。それがどうして、楠の苗字が秋沢になる事に繋がるんだ?」
「そ、その――も、もし、もしね?
お兄ちゃんが、どうしても彼女が欲しい、男女交際がしたいって思った時、四六にダメって言われてるだけじゃ、若い男の子だと納得しないだろうって思ったから……」
と、そこで楠は、意を決したように表情を引き締め、言い放った。
「そ、その時は私が――彼女になってあげようかなって思ったのっ!!」
……確かに、妹が彼女と言うのは、世論的に訝しんだ目で見られる事は間違いないだろう。
そうなったら関係を訝しむ者がオレ達の事を調べ、何かの間違いで四六や雷神プロジェクトに辿り付いてしまう事があるかもしれない。
だが兄妹である事を隠していれば、彼女を名乗っても違和感は無い筈だ。
おまけに彼女になる人物が、元々雷神プロジェクトに加担している楠ならば、問題はない。
――いやしかし、何とも。
「ぷっ」
「な、何で笑うの!」
「いや、そんな理由で偽名か……って思ったら、笑いが」
「ひ、一つ目が主だから! 二つ目はついでだからっ!!」
オレの胸をぽかぽかと叩きながら、精一杯声を上げて言い訳をする妹の姿に、オレは何だか、温かさを感じていた。
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