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第四章
愛情-10
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コックピットには、二つのメインシート。隣り合って座り合うタイプのシートに、まず楠が左方シートに腰かける。
「お兄ちゃんはこっち」
指示通り、オレは彼女の隣、つまり右方シートに腰かけた。オレと楠がマニピュレーターに触れた瞬間、手に少しだけ痺れるような感覚が。
「生体認証システムか」
「そう。私とお兄ちゃんの二人がコックピットに乗らないと、この機体は戦えない」
「……今まで、あえて聞かなかったけど」
「うん」
「楠は一体、何者なんだ」
「雷神プロジェクトナンバーゼロスリー【城坂楠】――それが、私の正体」
「わざわざナンバーを分けてるって事は、ただ遺伝子操作をされた子供ってわけじゃ無いんだな」
「そうだね。私の頭の中には雷神とリンクを行い、機体の管制システムを制御させる為の、ナノチップコンピュータが埋め込まれている。
お父さん――城坂修一が、私の脳にナノチップを埋め込む事によって、私自身を制御PCとして仕上げたんだ」
「それも、雷神プロジェクトの為に」
「それは、祈りだった。お兄ちゃんはいずれ、戦争の無い世界を作る為に必要な力として、コックピットパーツの遺伝子操作を行われた。
私はその手助けが出来る様に、雷神のコックピット内で耐えられる様に肉体強化の遺伝子操作を受け、ナノチップを埋め込まれた。
――全部、私たちがいずれ、幸せに暮らせる世界を作る為に、必要な事だった」
「楠はどうして、そんな自分を受け止められたんだよ。
オレは、耐えられなかった。自分の正体が遺伝子操作されたコックピットパーツだって聞いて、自分の全てを……裏切られたと思ったのに」
「じゃあお兄ちゃんも、この映像見ようか」
楠が、笑いながら言うと、コックピット内部にある映像ファイルに、触れた。
コックピットが閉じられて、メインモニター前面に映し出される、一つの映像。
ファイル名は――【プロジェクト記録・024】
誰が撮影をしているのかは分からない。映像に映るのは、一人の男性と、一人の女の子。
男性は四十代の男性と考えられる。表情に少しだけ浮かぶ皺、しかしまだ若々しい姿は、ちょっとだけオレに似ているかもしれない。
女の子は幼い。小学生高学年から中学生辺りと言った所だろうか。
無邪気そうな顔立ちと白色のワンピースが非常にマッチしていて、可愛らしい印象を受ける。
一つの写真を見ながら、喜んでいる女の子。彼女は隣に座る男性に問いかけるのだ。
『これが私の、妹と弟?』
『そうだよ。もしかしたら、弟と弟、妹と妹になるかもしれないけれど、きっとそうなると思う。お父さんの勘は鋭いんだ』
『小っちゃい。卵みたいだね』
『そりゃあ今はまだ卵だからね。でも、後一年もしない内に、もっと大きくなって、聖奈のきょうだいとして、生まれてくる』
『私、ちゃんとお姉ちゃん、出来るかな』
『出来るさ。聖奈は良い子だからな』
『えへへ。ねぇお父さん、この子たちの名前はなんていうの?』
『こっちの女の子になりそうな子に【織姫】、こっちの男の子になりそうな子に【楠】って名前を付けるんだ』
『楠? 女の子みたいな名前だね』
『そうかな? 楠男とか多いし、大丈夫だと思ったんだけど……でも、そう決めたんだ』
『なんで?』
『きっとこの子たちには、いっぱい苦労を掛ける事になる。もしかしたらお父さんは、すっごく嫌われちゃうかもしれない。
でもね、そんな時でも気高く綺麗に生きていて欲しいから【織姫】。
しっかりと根強く、大きく育ってほしいから【楠】。……そう名前を付けるって、決めたんだ。
聖奈も、この子たちの事を、可愛がってくれるかい?』
『うんっ! 絶対、優しいお姉ちゃんになるっ』
『そうか。じゃあ生まれてくるのを楽しみにしていなきゃな。――聖奈が、ちゃんとお姉ちゃん出来るかどうか、見届けないと』
――そこで、映像は終わった。
「親父……外してんじゃねぇよ、バカ」
「ふふっ。まずそこなんだ」
「何が『勘は鋭い』だよ。確かに男の子と女の子は外してねぇけど、肝心の所を外してんじゃねぇか。
しかも勘を外したなら名前も入れ替えろよ、何で男のオレに織姫って名前続投してんだよ、意味わかんねぇ」
でも――何でだろう。
涙が止まらない。溢れ出る涙を抑える事が出来ないのだ。
「親父は、オレ達の事を、ただの道具にする為に、産んだわけじゃ、なかった」
「私だってね、最初はすごく傷付いた。
『私はどうせ、兵器を操る為だけに生み出された、道具でしかないんだ』って。
――でも、この映像をお姉ちゃんに見せられて、お父さんがきちんと、私たちに愛情を注いでくれていたって……そう、分かったんだ」
そして、姉ちゃんも、この映像の言葉通り、優しい『お姉ちゃん』として育つ事が出来たのだ。
今この世界に、親父はもういないけれど――親父の抱いた想いは、きちんとオレ達【家族】に、届いたのだ。
「――楠、確認する」
「うん」
「オレは雷神プロジェクトの為に遺伝子操作された子供で、この機体はオレと楠が操縦する為に生み出された。
楠がこの機体とリンクする事で、オレは機体性能を十二分に発揮できる」
「そう。その通り」
「この機体は火器を装備できない。
そのシステムが存在しない。
きっと武装を手に持っても、火器管制システムが無いから、認識すらしない」
「そうだよ、お兄ちゃん」
「この機体で、オレは、楠は――何をすればいい?」
「お兄ちゃんが、そして私が、大切に思う人を守る為に、戦えばいい。
必要以上に相手を殺す必要も、殺される必要も無い。相手をただ――ぶちのめす事だけを考えて、戦えばいい」
「オーケー。分かりやすい、最高の答えだ」
機体を起動させる。システムプログラムを再起動。先ほどまで調整されていたOMSを機体に反映させるために必要な時間はあと五分。
その間、オレ達はただ、操縦桿を握り続けていた。
「お兄ちゃんはこっち」
指示通り、オレは彼女の隣、つまり右方シートに腰かけた。オレと楠がマニピュレーターに触れた瞬間、手に少しだけ痺れるような感覚が。
「生体認証システムか」
「そう。私とお兄ちゃんの二人がコックピットに乗らないと、この機体は戦えない」
「……今まで、あえて聞かなかったけど」
「うん」
「楠は一体、何者なんだ」
「雷神プロジェクトナンバーゼロスリー【城坂楠】――それが、私の正体」
「わざわざナンバーを分けてるって事は、ただ遺伝子操作をされた子供ってわけじゃ無いんだな」
「そうだね。私の頭の中には雷神とリンクを行い、機体の管制システムを制御させる為の、ナノチップコンピュータが埋め込まれている。
お父さん――城坂修一が、私の脳にナノチップを埋め込む事によって、私自身を制御PCとして仕上げたんだ」
「それも、雷神プロジェクトの為に」
「それは、祈りだった。お兄ちゃんはいずれ、戦争の無い世界を作る為に必要な力として、コックピットパーツの遺伝子操作を行われた。
私はその手助けが出来る様に、雷神のコックピット内で耐えられる様に肉体強化の遺伝子操作を受け、ナノチップを埋め込まれた。
――全部、私たちがいずれ、幸せに暮らせる世界を作る為に、必要な事だった」
「楠はどうして、そんな自分を受け止められたんだよ。
オレは、耐えられなかった。自分の正体が遺伝子操作されたコックピットパーツだって聞いて、自分の全てを……裏切られたと思ったのに」
「じゃあお兄ちゃんも、この映像見ようか」
楠が、笑いながら言うと、コックピット内部にある映像ファイルに、触れた。
コックピットが閉じられて、メインモニター前面に映し出される、一つの映像。
ファイル名は――【プロジェクト記録・024】
誰が撮影をしているのかは分からない。映像に映るのは、一人の男性と、一人の女の子。
男性は四十代の男性と考えられる。表情に少しだけ浮かぶ皺、しかしまだ若々しい姿は、ちょっとだけオレに似ているかもしれない。
女の子は幼い。小学生高学年から中学生辺りと言った所だろうか。
無邪気そうな顔立ちと白色のワンピースが非常にマッチしていて、可愛らしい印象を受ける。
一つの写真を見ながら、喜んでいる女の子。彼女は隣に座る男性に問いかけるのだ。
『これが私の、妹と弟?』
『そうだよ。もしかしたら、弟と弟、妹と妹になるかもしれないけれど、きっとそうなると思う。お父さんの勘は鋭いんだ』
『小っちゃい。卵みたいだね』
『そりゃあ今はまだ卵だからね。でも、後一年もしない内に、もっと大きくなって、聖奈のきょうだいとして、生まれてくる』
『私、ちゃんとお姉ちゃん、出来るかな』
『出来るさ。聖奈は良い子だからな』
『えへへ。ねぇお父さん、この子たちの名前はなんていうの?』
『こっちの女の子になりそうな子に【織姫】、こっちの男の子になりそうな子に【楠】って名前を付けるんだ』
『楠? 女の子みたいな名前だね』
『そうかな? 楠男とか多いし、大丈夫だと思ったんだけど……でも、そう決めたんだ』
『なんで?』
『きっとこの子たちには、いっぱい苦労を掛ける事になる。もしかしたらお父さんは、すっごく嫌われちゃうかもしれない。
でもね、そんな時でも気高く綺麗に生きていて欲しいから【織姫】。
しっかりと根強く、大きく育ってほしいから【楠】。……そう名前を付けるって、決めたんだ。
聖奈も、この子たちの事を、可愛がってくれるかい?』
『うんっ! 絶対、優しいお姉ちゃんになるっ』
『そうか。じゃあ生まれてくるのを楽しみにしていなきゃな。――聖奈が、ちゃんとお姉ちゃん出来るかどうか、見届けないと』
――そこで、映像は終わった。
「親父……外してんじゃねぇよ、バカ」
「ふふっ。まずそこなんだ」
「何が『勘は鋭い』だよ。確かに男の子と女の子は外してねぇけど、肝心の所を外してんじゃねぇか。
しかも勘を外したなら名前も入れ替えろよ、何で男のオレに織姫って名前続投してんだよ、意味わかんねぇ」
でも――何でだろう。
涙が止まらない。溢れ出る涙を抑える事が出来ないのだ。
「親父は、オレ達の事を、ただの道具にする為に、産んだわけじゃ、なかった」
「私だってね、最初はすごく傷付いた。
『私はどうせ、兵器を操る為だけに生み出された、道具でしかないんだ』って。
――でも、この映像をお姉ちゃんに見せられて、お父さんがきちんと、私たちに愛情を注いでくれていたって……そう、分かったんだ」
そして、姉ちゃんも、この映像の言葉通り、優しい『お姉ちゃん』として育つ事が出来たのだ。
今この世界に、親父はもういないけれど――親父の抱いた想いは、きちんとオレ達【家族】に、届いたのだ。
「――楠、確認する」
「うん」
「オレは雷神プロジェクトの為に遺伝子操作された子供で、この機体はオレと楠が操縦する為に生み出された。
楠がこの機体とリンクする事で、オレは機体性能を十二分に発揮できる」
「そう。その通り」
「この機体は火器を装備できない。
そのシステムが存在しない。
きっと武装を手に持っても、火器管制システムが無いから、認識すらしない」
「そうだよ、お兄ちゃん」
「この機体で、オレは、楠は――何をすればいい?」
「お兄ちゃんが、そして私が、大切に思う人を守る為に、戦えばいい。
必要以上に相手を殺す必要も、殺される必要も無い。相手をただ――ぶちのめす事だけを考えて、戦えばいい」
「オーケー。分かりやすい、最高の答えだ」
機体を起動させる。システムプログラムを再起動。先ほどまで調整されていたOMSを機体に反映させるために必要な時間はあと五分。
その間、オレ達はただ、操縦桿を握り続けていた。
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