君色

あんず

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電車。

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楠木は電車通学だった。

最寄りは俺の駅から2つ先だ。



来週からの俺のための勉強会、

交通費がかからないコトに安心した。



「河野、心配しなくても大丈夫だよ。

電車代かかったって、一度引き受けたコトは

ちゃんとやるから…。」


楠木はそう呟いた。



「ありがとう。」




この男はどこまで

お人好しなんだろう。




楠木の顔は

茶色のクセのある長い前髪で

全くわからない。

でも




口角が少しあがっていて

微笑んでいるように感じた。










電車の中は意外と混んでいるが

学校のある駅は周りへ住宅地で

あまり人の乗り降りがなく

空いているので座れた。







しばらくすると

赤ん坊を抱っこして

2~3歳くらいの男の子の手を引いた

親子連れが乗車してきた。




夕方

電車はだんだん混み合ってきていて

母親は赤ん坊をあやすので精一杯だ。




男の子は今にも泣きそうな顔をしている。






ヒトの事なんてどうでもいいと思っている

俺でも

母親も男の子もツラそうだと感じた。





「ボク、こっちおいで?」


楠木が言った。


男の子はやっぱり泣きそうな顔だ。


「背の高い大人に囲まれて怖いだろ?

兄ちゃんたちのトコおいで?」


男の子は楠木の前に進み出た。


「ボク、エライな。

母さん、妹に貸してあげて。

ココで我慢してね。」




そう言って楠木は自分の膝の上に

男の子を座らせた。





男の子は大粒の涙を流した。




楠木は長いしなやかな指で

男の子の頭を撫でた。



「にいちゃ、ありがと」

男の子は満面の笑みで言った。










男の子は

楠木の膝の上でニコニコしていた。



赤ん坊もすっかり寝入ったようだ。


「あの……

本当にありがとうございました。

助かりました。」


そう何度も言って頭を下げ

男の子の手を引いて電車を降りて言った。


電車のドアが閉まる直前、

「にいちゃ、バイバイ。」

男の子は兄の顔で手を振っていた。













楠木って

スゴいヤツ。







そう思った。










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