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第五章

第196話 峠を登りますよ

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「あら、管理監の馬車ね、お菓子でも買いに来たのかしら?」

「そうかも知れませんね、たぶん衛兵の詰所にあったお菓子はバンさんが持ってきたのでしょうから、イット男爵さんの好物でよく買っているのかも」

 馬車が止まるのを見ながら店内に入ると、もう甘い香りと、店内でお茶も飲めるようで、良いお茶の香りが漂ってきました。

「辺境伯様。こちらでお茶などいかがですか? 当店はお菓子の他にもお茶も厳選したものを取り扱っています」

「う~ん、僕はまだ、ジュースを飲みたい年頃ですからね、そうだ! お土産にお菓子と合わせて茶葉も見繕ってもらいましょう」

「それは良い考えね、お義父様やカヤッツ達にも良いお土産になるわね」

「ふむ。お義父様とな? では私も何か良い物を贈りたいのじゃ――しもうた! 冒険者ギルドに寄っておらんではないか! 無一文じゃ!」

「くふふ。アミー、僕が出しますから良いの選んで下さいね、このお店のお菓子を全部って頼んでもらっても良いですよ?」

「おおー! すまないのじゃ、よろしくなのじゃ」

「ふふっ、辺境伯様。全部買われては、他のお客様が買えなくなりますから、少しは残して下さいませ」

 その時、お店の戸が開き、イット男爵かと思ったのですが、入ってきたのは女の方でした。

「あら、ここはいつから貴族以外が入れるようになったのかしら? 品格が下がりましてよ」

「これはこれはイット男爵様の第二夫人、本日もお越しいただきありがとうございます」

 イット男爵さんの奥さんですね。どこかに貴族じゃない方がいるのでしょうか? でも入り口で確認していましたし、間違ったのかな。

「ごきげんよう。今日はバンちゃんの大好物を買いに来たのですが、どうしましょう。バンちゃんの大好物を買う所にそこの汚ならしい冒険者がいるお店でなんて、ああ、汚らわしい」

「第二夫人? あの、不敬罪になりますので、その、こちらは冒険者の格好をしていますが、辺境伯です」

 バンちゃん? あっ、バンさんのお母さんなのですね、バンさんが悪さしたのをまだ知らないみたいですね、あはは、帰ったら驚いちゃうでしょうね。

「へ? 辺、辺境伯様! も、申し訳ありません。そのようなお姿でしたので、勘違いを!」

「大丈夫ですよ。見た通り、冒険者をやっていますから、でも、ちゃんと服や装備は綺麗ですから安心してお菓子をバンさんに買って帰って下さいね、今日は落ち込んでると思いますので」

「はっ、ありがとうございます。······? バンちゃんとお知り合いですか? それに落ち込んでいるとは?」

 ん~と、正直に教えてあげないといけませんが、本人からか、イット男爵さんから聞いた方が良いですよね。

(そうね、ここはそっとしておいてあげなさい)

(そうじゃな、この女の人は何も悪くないのじゃ、このような人前で恥をかかせるのは違うからの)

(分かりました)

「ちょっと衛兵さんのところで会っただけですよ、お話はたぶん帰ってから聞けると思うので、そうだ、あの衛兵さんの詰所にあったお菓子が美味しくて、ここを教えてもらったのですよ」

「まあ、うふふ。詰所にはよく届けていますの。いつもバンちゃんのお手伝いをしてくれてますから皆さんにと。そうですわね、私の見立てですと、こちらのナッツを使ったものがおすすめですわよ」

「流石第二夫人。お目が高いですね。こちらはナッツももちろんですが、他の食材にも最高の物を使い、腕の良い者が仕上げていますので――」

 ん~と、まあ、ここでみんなに聞かれるより良いですよね。

 その後お菓子もお茶も、色々沢山選んでお店を出た後、一度冒険者ギルドに向かいます。

 アミーもやっぱり少しはお金を持っていたいそうで、何を買うのかと聞くと、新しい杖を磨く布や、水が染み込まないようにするお薬があるそうで、結構お高いそうです。

「ぬふふふ。見れば見るほど良いものじゃ、この状態を維持するための手入れ用品は良い物を使わねばな」

「おおー! 僕も買っておこうかな。あっ、アミー、冒険者ギルドにつくから前を見て歩いてね」

「はぁ、あなた達の趣味には口出しはしないけど、ほら、ぶつかっちゃうわよライも魔王も」

 テラの言う通り、前から来る方も余所見をしていたみたいで、もう少しでぶつかるところでした。

 ギルドに入り、受け付けに並ぶとすぐに順番がまわってきました。

「すまぬが、大金貨をいくつか出したいのじゃ。ギルドカードはこれじゃ」

「はい。······え? だ、大金貨をですか! ギ、ギルドカードをお預かりいたします!」

「うむ、頼むのじゃ」

 そして、ギルドカードを魔道具に通し、お姉さんは止まりました。

 どうしたのでしょうか?

「ぬ? どうしたのじゃ? もしやそこまで残ってなかったかの? それならいくら残っておるのか知りたいのじゃが」

「い、いえ。十分すぎるほど入っているます! あ、入っています。大金貨、五枚で良いですか? それ以上ですと、このギルドの資金が······」

「うむ。十分じゃ、三枚あれば、買えるはずなのでな、あれ? 金貨じゃったかな? のう、ツノガエルの脂はいくらするのじゃ? それから角ウサギの皮も欲しいのじゃが」

「え? アミー? それなら銀貨数枚で買えますよ? そうですよね?」

「はい。ギルドで売りに出しているツノガエルの脂は精製して、一番高い物で銀貨二枚ほどですし、角ウサギの毛皮は一匹丸々、傷なしで銀貨三枚でしょうか」

「なんと! 以前買った時はそのような安さではなかったのだが、時代が変わったのかのう」

 たぶん、騙されて買ったのかもしれませんね。

 そして、アミーは一応金貨一枚を引き出して、ツノガエルの脂と角ウサギの皮は、ギルドで両方売っていたので、合わせて銀貨五枚で購入『なんだと! こんなに沢山の脂が! それに、なんという美しい毛皮じゃ!』と驚きながらも購入して、まるごと毛皮、角付きをローブのように羽織り、もちろん角付きの頭の部分は、フード感覚で被っています。

 そして右手にゴブリンのこん棒、左手にツノガエルの脂が入った壺を抱え、にまにまの笑顔です。

 そして、ギルドを出ると、そろそろ夕方になりましたが町から出て、峠の上まで少し走ろうと思います。
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