上 下
99 / 241
第三章

第99話 これはもしかして!

しおりを挟む
「実はな。ライが一週間前に門の詰所に置いていった奴らから聞き出したのだが、ファイアーアントを使った作戦は、あの三人以外も期間を少しずつずらしながら行う予定だったみたいでな」

 父さんは、女王さんを見たまま口だけを動かし、言葉を続けます。

「あの三人が失敗しても、また次の者が作戦に投入される予定だったのだ。だか今回ライが倒してしまったなら? そもそもファイアーアントの巣が全滅なら? 帝国がファイアーアントを使うため、何人巣へ送り込もうが、その作戦はやりようがなくなる」

「そうですよ坊っちゃんお手柄です」

 ようやく女王さんから視線が外れ、二人とも僕達の方へ向き直りました。

「うむ。その事で王国は国境の砦へ兵を出すために動き出している。それを止めねばな。出兵はサーバル領を一年は賄えるほどの資金が必要だ。今ならまだその出費をかなり押さえられるからな。よし、カヤッツ私は王城へ登城するから屋敷は任せたぞ」

「はっ」

「あっ。そうだ父さん、ファイアーアントでうちの兵士達に鎧を作れないかな? たくさんあるからみんなの分を作れると思うんだ」

「ほう。それは名案だな、ライ。ありがたくその提案は受け取る。今の魔狼とオークの素材より何倍も強く、そして軽い鎧ができるな。カヤッツそれも頼む」

「はっ。では行ってらっしゃいませ旦那様、少しでもお早い方がよろしいかと」

「うむ。ではな」

 父さんはそう言うと小走りに屋敷へ戻り中に入った途端『おーい王城まで連れていって欲しいんだけど』『えーまたぁ』とすぐに母さんに出会えたようです。

「カヤッツ。どれくらいあれば足りるかな? いっそのこと全部わたそうか? そしてこの国中の兵士さんに装備して貰えれば、強くなりますよね? あっ! そうです、お安くで良いから冒険者の方達に売ればサーバル男爵領の儲けにならないかな?」

「ほう。それは良いですな。普通に買うとして大銀貨で数枚はしますからね、その値から少し下げて、いっその事グッと押えて大銀貨一枚で売れば、······相当な儲けになりますよ坊っちゃん。しかし私の収納がまだそこまで入るかどうかですな」

「それなら小分けにして渡していこうか? サーバル領のみんなに配っても余るくらいあると思うし」

「そうですね、うちは領兵が旦那様の人気で多い方ですが、今は一万人ですからね、素材にその倍あれば十分には賄えますので、それからお預かりできますかね」

「うん。じゃあ渡していくね」

 カヤッツは部下を連れてきて、分担しながら収納して、なんとか二万匹を収納し終え、『これで鎧ができるんだと』『マジか! カッコいいぞ』『皮鎧は汗くさいからなぁ。正直嬉しすぎるぜ』なんて呟きながら職務に戻っていきました。

 喜んでくれているみたいで嬉しいですね。

 カヤッツ達を見送ったその後はナインテールの子供達が飛びかかってきてわちゃわちゃにされ、髪の毛はぼわってなってますし、ヨダレでベトベトになりましたがムルムルが僕達を包み込んで一瞬の間に綺麗にしてくれました。そして転移で街道に戻ったのですが、そこにはテントを張った冒険者達が多数。

「何してるのでしょうか? お昼の休憩にしてはテントまで張ってますし、もしかしてナインテールを待ってるの?」

「そうかもね。もう戻っては来ないのですが、教えてあげようかな?」

「ライ、それは言うだけ無駄にゃ。その内諦めるにゃよ。放っておいてリント達は旅を続けるのにゃ」

「そうだね。じゃあ行こう♪」

 そして、チラチラ見られましたが、僕達は街道を進む事数日。

 二つの村と、一つの町を通り過ぎ、ついにダンジョン街へ到着しました。

「はい。次の方」

「はい。僕達の番が来たよ、プシュケ、リント行くよ」

 ダンジョン街の冒険者ギルドで、ダンジョンに入るための登録と、ランクアップができるかどうか聞かないと行けません。

 ランクアップは時間がかかるかもと聞いていますので、しばらくダンジョンで楽しまなければいけませんからそんなに急いではいませんし、まだまだ朝ですからこの後すぐにでもダンジョンに向かいたいのでこの朝の順番待ちが物凄く長く感じました。

「おはようございます。ダンジョン――」

「オラどきなガキども!」

「ん? 何か急ぎでしょうか? スタンピードでも起きそうとか?」

 五人パーティーですね。その方達は何やら先を急いでいるのか僕達の番のところにそう言ってやって来ました。

「バカかお前は! スタンピードなんざ起きてねえよ! 俺達Cランクパーティーだ。駆け出しのガキは黙って順番を明け渡せば良いんだよ! オラどけ!」

 そう言って僕と、プシュケを合わせて殴ろうとしたのか拳を横なぎに振り回してくるじゃないですか!

 これは僕が避けるのは余裕ですが、プシュケは驚きの余りリントをきゅって抱き締めて固まっていますから、避けるだけじゃいけません!

 迫り来る太い腕を下から蹴りあげて軌道をそらせます!

「シッ!」

 ボキン。狙い通り僕達の頭の上を通り過ぎる拳、振り切った後腕は肘のところで垂れ下がりましたので、折れちゃったようです。

「いきなり何をするのですか! 当たったら危ないじゃないですか! あなた達は急ぎの用事があって僕達の前に入ろうとしているのですよね! それなら理由を聞いて納得いくならいくらでも譲ります! 僕達の前に入る理由はなんなのですか!」

「ギャァァー! 俺の腕がぁー!」

 少し間を置いてから気付いたのか、今頃になって折れた腕を大丈夫な腕で抱え叫びだしました。

 冒険者ギルドでこんな事するの始めてですよ······? 今までありませんでしたね······!

「あっ! もしかしてこれはテンプレ!」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

追放したんでしょ?楽しく暮らしてるのでほっといて

だましだまし
ファンタジー
私たちの未来の王子妃を影なり日向なりと支える為に存在している。 敬愛する侯爵令嬢ディボラ様の為に切磋琢磨し、鼓舞し合い、己を磨いてきた。 決して追放に備えていた訳では無いのよ?

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~

深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。 ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。 それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?! (追記.2018.06.24) 物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。 もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。 (追記2018.07.02) お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。 どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。 (追記2018.07.24) お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。 今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。 ちなみに不審者は通り越しました。 (追記2018.07.26) 完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。 お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!

婚約破棄……そちらの方が新しい聖女……ですか。ところで殿下、その方は聖女検定をお持ちで?

Ryo-k
ファンタジー
「アイリス・フローリア! 貴様との婚約を破棄する!」 私の婚約者のレオナルド・シュワルツ王太子殿下から、突然婚約破棄されてしまいました。 さらには隣の男爵令嬢が新しい聖女……ですか。 ところでその男爵令嬢……聖女検定はお持ちで?

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

処理中です...