上 下
13 / 241
第一章

第13話 大きなお風呂がありました

しおりを挟む
 二人部屋トイレお風呂付き、そうここの宿屋は全ての部屋にお風呂があるのです、その分お高めの一人銀貨一枚、普通の宿ならこの半分の大銅貨五枚で良いお部屋に泊まれます。

 でも、お風呂入りたいですよね。

 部屋はそこそこ大きなベッドが一つと、二人用のテーブルと椅子があり、トイレはスライム浄化で汚れも匂いもありません、ムルムルとはまた違う種類のクリアスライム、大きさがさらに小さく、大きくても五センチくらいにしか大きくなりませんし、本当に透明な水の玉です、数が多く繁殖も凄く良くて、僕の家にもいました。

 お風呂は僕達なら五人は入れそうなくらい大きく、いつでも入れる様に浄化循環していて、ごはんの後に入ろうと思います。

「ティ、ごはんを食べに行きましょう」

「はい、おなかペコペコですわね」

 二階の部屋でしたので、ムルムルとテラを肩に乗せ一階に降り、酒場兼の食堂の二人席に座るとすぐに料理が運ばれてきました。

 泊まり客の食事は一種類なので、階段を降りてきた瞬間に、厨房でシチューを掬うのが見えました。

 テーブルに並べられた物はホロホロっと崩れそうなお肉の入ったシチューとマッシュポテトとパン、見た目は中々のボリュームでしかも美味しそうです。

「いただきます」

 マッシュポテトをスプーンで掬い、シチューにくぐらせて一口。

「おお~、美味しいですね」

「はい、大変美味しゅうございます、お肉もスプーンで簡単に切れてしまいますから、良く煮込まれていて料理を作った方に感謝ですわ」

「うんうん、それにパンも美味しいよね、どっしりとした味わいで、シチューにあってます」

 ティの笑顔を見ながらの食事は大変楽しいひと時です、テラはテーブルに飾られていた花を見て、「少し元気がないわね、よいしょ」と引き抜き根っこもないのに頭に刺して、「むむむ~」と言ったかと思ったら、花が瑞々しく、今花壇から取ってきましたよってくらいに復活。

「うんうん、こんなところね」

 スポッと頭から抜くと、根っこが復活していて、花瓶にそのまま戻していました······うん、放っておこう。

 美味しい晩御飯が終わり、お皿はムルムルがピカピカに綺麗にして、「ごちそうさま」と二人声を合わせて、そして部屋に戻り、お風呂に入る事にします。

「ムルムルとテラも一緒に入るよね? ムルムルは良いけど、テラはその服は脱げるの?」

 悪戦苦闘しながらも一生懸命服を脱ぐティと、脱いでしまった僕はムルムルを頭に乗せ、テーブルにいるテラに話しかけました。

「私はこのままよ、引っ込めるだけだからね、ほいっと!」

 しゅるんっと緑色の服が消え、裸になった。

「あっ! テラ師匠ずるっ子です! それを教えて下さいませ!」

 ティはまだドレスのボタンが半分まで外れ、袖を抜いているところでした。

「ん? これは無理ね、私の服は服に見えていて、私の一部だもの、人間には出来ないわよ」

 そうなんだ、魔法で作った服なのかと思っていたけれど。

 テーブルの上で胸を張り、どや顔のテラをティが羨ましそうに口をとがらせています。

「あはは、それなら仕方がないよね、ティ、手伝おうか?」

「はい、腕が上手く抜けないのです」

 ティの服を全部脱がせ、テラをムルムルの上、ムルムルは頭から肩におりてくれました。

 皆でお風呂に行くと、手桶でさっと洗い流し、湯船に入りました。

「そうだ、ティ、公爵領に向かえば良いのかな?」

 行き先を聞くのを忘れていました。

 ティは僕の横でお風呂の縁にもたれて、「はふぅ」と気持ち良さそうです。

「王都の学院に向かうところでしたが、一度お父様に元気な顔を見せに行きたいと思っていますわ」

「そっか、公爵令嬢が人攫いにあったのだからね、一緒に行動していた人達もきっと心配しているだろうし」

「はい、その人達に落ち度はなく、仕方がなかったと弁明してあげませんと、酷いことをされてしまうかも知れませんので」

 そう言えば、子煩悩だと隊長さんが言ってましたね、あはは、公爵領なら僕が向かうつもりのフィーアが通う学校がある場所なので良いですね。

「じゃあ、僕がティを公爵領に連れていくね」

「はい♪ あっ、ムルムルさんは浮くのですね」

「本当だね、どうムルムル気持ちいいかい」

 ぷるぷる

「たまにはお風呂も良いものね、ホカホカだわ」

「テラは泳ぎも上手いね、僕も泳いでみたいな」

「家のお風呂なら泳げるほど大きいですわよ、家まで送って下さるのですから、お父様にお願いしてみますわ」

「本当! やった!」

「あわわわわ! ライ! 波を立てないでよ! 溺れちゃうじゃない!」

 テラを手のひらで救い上げ、ゆらゆら揺れているムルムルに乗せてあげました。

「あっごめんね、僕、前世では体が全然動かせなくて、自分では何も出来なかったんだ、だから泳げるかもって思ったら興奮しちゃって」

「前に言ってたわね、右手と首から上だけ動かせたけどだったっけ?」

「そうそう、正確には右手の指と首から上だけだね」

 だから、体を動かすことを赤ちゃんから練習する事も全然苦にならなかったしね。

「まあ、そうでしたのね、確か前世? の記憶がどうとか馬車で仰ってましたわね、お可哀想、分かりましたわ、これはなんとしてでもお風呂で泳ぎをやりましょう! テラ師匠お願いいたします」

「テラ、僕からもお願い、泳いでみたいんだ」

「分かったわ、任せなさい、さあ、そろそろ体を洗って出ないとのぼせるわよライもティも顔が赤くなってきてるからね」

「「はい!はい♪」」

 洗い方も知らないティを洗ってあげて、洗いにくい背中をティが洗ってくれました。

 パジャマに着替え、お布団に入ると僕達は光を調節する前に寝てしまいました。

「うふふ、仕方がないわね、ムルムル、私達も寝るわよ」

 ぷるぷる



「ふあぁぁ」

 あはは、またティったら布団を蹴飛ばしてしまってますね、腹巻きをしているし、この部屋は暖かいですから風邪は大丈夫だと思いますが。

 お布団をかけ直して、横に寝直すと、今度は抱き枕にされました。

 まぁ、寝ましょう。


 カチャ

 真っ暗な部屋の中に二人の黒づくめが入ってきました、ドアの外にも四名。

(テラ、起こしてくれてありがとうね)

(そんな事よりさっさとやっつけるのよ)

(は~い、外の人達も一気にやるよ! ほいっと!)

 あのギルドマスターほどの魔力を持っていたようで、一瞬では無理でしたが、偽装したベッドにたどり着く前に、部屋の中の二名も外の四名も気絶して倒れました。

(テラ、表にもいるよ! とりあえずこいつらの持ち物は、収納!)

(縛るのよ! 外の四人も持ち物取り上げて、ヤバい毒薬とか持っているから!)

(了解です! 収納!)

 ロープを取り出し、裸にした奴らの手足を縛り、それを六人、五分ほどで作業が終わり、外の奴らを確認します。

「もう宿の中にはいないようですね」

「うん、私の神眼で外の六名がいるだけね」

「分かった、場所は······よし把握できた」

「中々の感知スキルじゃない、さあ、やっつけてきなさい、一つ向こうの通りに衛兵がいるからついでに呼んでくる事も忘れないでね」

「うん、了解、行ってきます」

 戸から出て、階段とは逆方向に行くと突き当たりに開けられた窓があり、たぶんそこから侵入したのであろう鉤爪が窓枠に突き刺さって、下に続くロープが垂れ下がっていました。

 僕は窓枠に飛び乗ると、一気に隣の屋根に飛び上がると同時に、それを収納して、下にいた奴らの魔力をぐるぐるさせ気絶させる。

 屋根から飛び降りると同時に、空に花火、ファイアーボールを打ち上げ、音を立て弾けさせる。

 パァーン

 着地前に奴らの持ち物を全て収納して、ロープで縛り上げ、宿屋の壁際に集め終えた時に衛兵さん達が駆けつけてきました。

「何事だ! ん? ライ君?」

「あっ、隊長さんが来てくれたのですね、お騒がせしてます、こんな夜中に襲われまして、こいつらと、部屋に押し入ってきた六名も捕まえて縛ってあります」

「ふむ、鑑定! ふむふむ、冒険者の様だが、誰かに雇われたか?」

 ん? ん~おっ!

「依頼書を持ってましたね、これですね」

 取り上げた物の中に依頼書が入っていましたから、隊長さんにお渡しします。

「おお、それは助かる、どれ······なんだと!」

 何やら驚く人が依頼をしたみたいです。


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。 了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。 テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。 それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。 やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには? 100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。 200話で完結しました。 今回はあとがきは無しです。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

追放したんでしょ?楽しく暮らしてるのでほっといて

だましだまし
ファンタジー
私たちの未来の王子妃を影なり日向なりと支える為に存在している。 敬愛する侯爵令嬢ディボラ様の為に切磋琢磨し、鼓舞し合い、己を磨いてきた。 決して追放に備えていた訳では無いのよ?

【完結】嫌われている...母様の命を奪った私を

紫宛
ファンタジー
※素人作品です。ご都合主義。R15は保険です※ 3話構成、ネリス視点、父・兄視点、未亡人視点。 2話、おまけを追加します(ᴗ͈ˬᴗ͈⸝⸝) いつも無言で、私に一切の興味が無いお父様。 いつも無言で、私に一切の興味が無いお兄様。 いつも暴言と暴力で、私を嫌っているお義母様 いつも暴言と暴力で、私の物を奪っていく義妹。 私は、血の繋がった父と兄に嫌われている……そう思っていたのに、違ったの?

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~

深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。 ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。 それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?! (追記.2018.06.24) 物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。 もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。 (追記2018.07.02) お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。 どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。 (追記2018.07.24) お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。 今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。 ちなみに不審者は通り越しました。 (追記2018.07.26) 完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。 お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...