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第一章

第145話 ドワーフの街

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「ぺっぺっ! くそ、口に入りやがったぜ」

 ミミズにクロセルを根本まで刺した後、ひねりを入れて、今度は力任せに横向きに傷口を広げてやった。

 ブシュッとミミズの胴体が、半分切れたけど、中からドロドロした体液が吹き出て、全身に浴び、口にまで入ってしまった。

「よいっと!」

 まだまだ暴れまわるミミズから間合いを取るため後ろに下がるんだが、倒れてる男の襟首を掴んで下がる。

「ぐえっ!」

 ちと首がしまったようだが許せ。

「おら! 早いところやっちまえ!」

「くっ、助かった、礼は後でちゃんとする! 今の内だ! 畳み掛けるぞ!」

 俺はその場に残り、ゆっくり近付いてくるアンラが手綱を握る馬車を待ちながら――。

「ソラーレ、すまねえが、このドロドロ綺麗にしてくれねえか?」

 ソラーレは俺の頭に覆い被さり、髪の毛とかに付いたものを綺麗にして、顔、首と下がっていく。

 一瞬だけ目を閉じたが、男達がミミズにモリを刺し、今度は上手く動きを阻害した後、俺が切り裂いた所を集中的に攻め出した。

 ガタンと背後で馬車が止まった音がして、真横に馬の顔が出てきて、顔をすり付けてきた後、肩にアゴを乗せてきた。

「おう、ここで待ってろよ、もう終わりそうだしな」

「なんだケント、やっつけちゃわなかったの?」

 御者台から飛び降りてきたアンラは馬とは逆側にきて、俺の肩にアゴを乗せる。

「にひひ~、馬の真似~。あっ、倒せ……たね、良かった良かった。みんなドロドロだけど怪我も擦り傷くらいね」

「だな、おっ、どうやって持って帰るんかと思ったら、倒すと縮むんか」

 胴回りは大人が二人、手を伸ばして何とか手が回るくらい太く、長さは十メートル近くあったものが、二メートルくらいまで短くなり、太さも大人の胴回りくらいまで細くなった。

 それを板に乗せてロープで固定しているのを見ていると、最初に指示を出していた男と、潰されそうなところを助けた二人が俺たちの方にやってきた。

「さっきは助かった。あのままだったら俺は死ぬか、運が良くて大ケガしていただろう。ありがとう少年」

 助けたおっさんがブンっと勢いよく頭を下げ、礼を言ってきて、続けてもう一人もだ。

「俺からも礼を言うぞ、モリが抜けた時は、久しぶりの獲物を逃し、仲間も失うところだった。ありがとうだけじゃ足りないほど感謝してる。ドワーフの街に行くなら飯だけでもおごらせてくれ」

「たまたま見かけて手を貸しただけだ、そんなに礼とか言われるほどの事じゃねえだろ、助け合いも大事だかんな」

「そうそう、お酒を一樽くれればそれで良いよ~」

 いやそれアンラが飲みたいだけだろ……。

「ああ、任せてくれ、今回のミスリルワームはそこそこのデカさがあったからな、良い値で買い取ってくれるだろうしな、少年達は馬車だな、夕方に冒険者ギルド前の料理宿の『ハンマー亭』で待っててくれ」

 おっさん達はアンラの酒樽で笑顔になり、こころよく頷き、宿も教えてくれた。

「おう、じゃあ泊まりもそこにするか、空いてたらだけどな」

「お酒待ってるからね~」

 ミスリルワームを持ち帰る準備をしているところに歩き始めていたおっさん達は軽く手を上げ、離れていった。

 俺達も馬に頼むぞと言って馬車に乗り込み、馬車をふたたび発車させた。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

「二人部屋はないな、それでも良ければだが一部屋空いてる」

「一人部屋か、アンラ、それでも良いか? ちと狭いかもしんねえけどよ」

 ドワーフの街に着いた俺達は、冒険者ギルドの前に聞いていた『ハンマー亭』に行き、空きを聞いたんだが、いかついドワーフのおっさんが言うには一人部屋しか空いてないらしい。

 まあ、アンラはいつも俺の腹を枕に寝てっから、二人分の寝台をくっつけて寝てたのが、ちと狭くなるくらいで、荷物もねえしな。

「ん? 別に良いんじゃない、その分安く泊まれるんだし、ここで装備とか頼むんでしょ?」

 アンラも良いようだ。
 だが目線は食堂があっから昼間から酒を飲んでるドワーフ達の事を羨ましそうに見てる。

「ぬっ、この街はドワーフの街だ、物造りじゃあ大陸一だからな、たんまり買い込んでいくと良いぞ、この宿の裏にも工房があるから覗いてみるとよい」

「おお、裏か、冒険者ギルド言った後にでも行ってみるよ、じゃあ一人部屋を借りるから馬を頼めっか?」

 鍵を受け取り、表に止めた馬車を収納して驚かれ、馬を預けて俺達は冒険者ギルドに向かった。

 受け付けで聞くと、ギルドマスターは領主のところに行ってるらしく、夕方にしか戻らないとのことで、出直すことにしたんだが、ちと気になったミミズ、ミスリルワーム討伐依頼の報酬はいくらなんか見ていくことにした。

「うおっ、おっさん達が倒したのでも依頼報酬が銀貨五枚、買い取りなら大銀貨数枚~金貨、過去には大金貨になった事もあるそうだぞ」

「へえ~、まあミスリルだし、大銀貨数枚ならアレで小指の先くらいは最低採取できるってことかな?」

「その通りだ。そんなことも知らずにここに来た冒険者ってことは依頼を受けるんじゃねえのか」

 話しかけて来たヤツは、身長は俺と変わらねえが滅茶苦茶ムキムキで髭もじゃのドワーフのおっさん。

 ……だよな? 宿屋のおっさんよりひとまわりデカいぞ。

「そだよ~、防具と服をケントに選んでもらうんだ~、おじさんも職人?」

 物怖じせず話しかけるアンラを見て、ニヤリと笑うドワーフのおっさん。

「くくくっ、ワシに怯えもせず話せるとはな。よし、金に余裕があるならワシの工房へ来い、最高の物を用意してやる」

「おっ、そうなんか、探し回る手間が無くなったぜ、そこまで言うんだ、この後言っても良いか?」

 俺がそう言うと『嬢ちゃんに続き坊主も怯えんのか!』と言い笑い出した。

 よくまわりを見ると、遠巻きに恐ろしいものでも見てるような顔をした冒険者達が見えたんだが……。

 ……なんなんだ?
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