上 下
84 / 149
第一章

第84話 堕ちた聖騎士

しおりを挟む
「司教様よ、なんでナイフをしまいこんでんだ? まだ譲ってねえぞ? 泥棒ならちょうど衛兵の詰所だ、ガズリー達と一緒に牢に入れてもらえんぜ」

 ナイフを持ち、懐に突っ込んだ手首を握り、引き留めてやる。

「無礼な! 手を離しなさい!」

「なあ衛兵のおっさん、見ていただろ、コイツ泥棒だ、人のナイフを断りもなく盗みやがったぞ」

 司教を睨み付けながら、力を込めてぐぐぐっとナイフを持った手をひねりあげ――!

「なっ、くそ、こうなりゃ……なあ、衛兵のおっさん、コイツを捕まえて良いか?」

 思ったより力が強く、振り払われてしまったが、俺は衛兵のおっさんに一応確認してみる。

「お、おい、司教様だぞ、確かにナイフを取り上げる行為は強奪と同じだが、平の衛兵の私では――」

 衛兵のおっさんが喋ってんのに、被せてガズリーがまた勢いづいて喋り始めた。

「司教様! ぼ、僕が司教様からいただいた剣とそのナイフでご期待通りの活躍をして見せます! どうか無実の罪を課せられそうな僕をここから連れ出して下さい! まずはそこの外れスキル持ちであるケントを見事討伐して見せましょう!」

「あのな、なんで俺が討伐対象になってんだよ、ったく。司教様よ、ナイフ欲しいんなら売ってやるからよ、そのナイフの価値が分かるあんたならいくら出してくれんだ?」

 司教様はまだ手に持っているナイフを握り締め、ぶつぶつと『ふむ、買い取れば後腐れもないか、クルトに文句も言われずにすむしな』って聞こえてんだがな。

 ナイフ握る右手ではなく、左手を懐に突っ込むと、大人の手のひらに隠せないほどの革袋を取り出しテーブルの上に放り出した。

「聖騎士ガズリーを引き取るため、一応持ってきたが、役に立ったな」

「ありがとうございます司教様! おいコラ衛兵! 早く僕をこの牢から出すのだ! ぐずぐずするんじゃないぞ!」

 それには俺だけじゃなく、この部屋にいた全員が驚いた。

 もちろん司教様もだ、今の話でなぜ自分が出れると思えるのかが、分かんねえ、お前の後ろに座ってるジャレコとダムドも『は? なんで今ので?』『ガズリー大丈夫?』と声が漏れたくらいだ。

「はっ! と、とりあえず君、それだけあればこのナイフを譲ってくれでしょう? 中身を確かめ返事を下さい」

「お、おう、なんか、苦労してんな司教様、そうだな、結構多そうだし見てみるか」

 色々と可哀想に思えてくるが、今はテーブルの上に置かれた革袋を確認する事にした。

 革袋を手に取り縛ってある金色の紐、紐の先には水晶か何か分かんねえが、宝石がついていてそれ自体も値がはりそうだ。

 その宝石をそっとつまんで引っ張りほどく。

 シュルリと口を縛っていた紐は外れ、革袋の口はそれだけで全開になり、中の金ピカな硬貨、金貨が詰められているのが見えた。

 俺の荷物をちょっとだけ端に寄せて、いつの間にか壁際からテーブルのまわりに集まってきて、俺の手元を覗き込むみんなに見えるよう金貨を並べていくと、十五枚の金貨が入っていた。

「なあ、司教様よ、こんなにもらって良いんか? で」

 違うって分かってるから一応確認はしておかねえとな。

「もちろんです、ではこのナイフは私が責任をもって教会に持ち帰らせていただきます。いやー、君が素直な良い子で助かりました」

 そう言うと滅茶苦茶笑顔で、素早く懐に入れてしまった。

「あっ、そうです、衛兵の何人かで教会までの護衛を頼めますか? ここへは教会騎士を連れてきていませんので」

 おう、なんとも機嫌まで直っちまった、ニコニコして気持ち悪いくらいだ。

「ナ、ナイフ一本が金貨十五枚……わ、分かりました、と、ところでこのガズリー達はどうしましょう、合わせて銀貨九枚の罰金があり、ガズリーは犯罪奴隷としての罪もありますので……」

「うむ、それは教会まで護衛をしてもらえれば、そこで支払おう、聖騎士ガズリーは、犯罪奴隷として教会に奉仕してもらえば良いでしょう」

 衛兵のおっさんも、金貨を見て立ち上がるほど驚きはしたが、なんとか冷静さを取り戻して、ガズリー達の話に持っていった。

 だが、ガズリーは『犯罪奴隷として』と聞いて顔は真っ青になって震えだしている。

 鉄格子前を司教様と衛兵のおっさんが離れると、ズルズルと床に膝をついて下を向いちまった。

「はい、では手続きをいたしますので、少々お待ち下さいませ、あっ、こちらにお座り下さい」

「うむ」

 そんなガズリーの事は特に気にせず、移動したのは、質素だが、座り心地のよさそうなソファーだ。

 なんでこんなところにソファーが置かれてんのかと思ったら、司教様が来るから用意してあったんかも知れねえな。

 リュックに荷物を戻して、椅子に座り、それから十分ほどで、犯罪奴隷の契約書ができたようだ。

 司教をソファーにおいて、衛兵のおっさんが、腕輪をもって鉄格子に掴まり、うなだれているガズリーの元にやって来た。

 スッとしゃがみこんで、格子を掴んでいたガズリーの左手を格子から外して、その手首に腕輪を嵌めてしまう。

(奴隷の腕輪ね、まあ、教会で働くんだからマシなんじゃない? 鉱山とかなら子供だし、二年も生きていけないだろうからね~、悪者からもらったナイフで金貨十五枚もお小遣いももらえたし、良かったね♪)

 だな、確かに悪者だが死なれるのはなんかな、近くの村で顔見知りではあるからこれで良いだろ。

 その後、司教様に連れられて、ガズリー達は衛兵の護衛を受けて、王都の教会に帰っていった。

 俺達は今日も王城で泊めてもらえるから、宿代も節約できっし、王城に向かって馬車を走らせていると、どこかで見たような……。

 あっ、王子様と従者じゃねえか。

 二人は大通りの端をとぼとぼと、一応装備は整えたようだが、なんか疲れた顔で、俺達とは逆の方、王城から離れるように歩いていった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

今さら、私に構わないでください

ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。 彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。 愛し合う二人の前では私は悪役。 幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。 しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……? タイトル変更しました。

【R18】酔って溺れて沼の中

堀川ぼり
恋愛
お酒の勢いでワンナイトしてしまった後日、わざわざ会いに来たその男に部屋に連れ込まれる話 ※ムーンライトノベルズにも掲載しています

西谷夫妻の新婚事情~元教え子は元担任教師に溺愛される~

雪宮凛
恋愛
結婚し、西谷明人の姓を名乗り始めて三か月。舞香は今日も、新妻としての役目を果たそうと必死になる。 元高校の担任教師×元不良女子高生の、とある新婚生活の一幕。 ※ムーンライトノベルズ様にも、同じ作品を転載しています。

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

あかり
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

いらないと言ったのはあなたの方なのに

水谷繭
恋愛
精霊師の名門に生まれたにも関わらず、精霊を操ることが出来ずに冷遇されていたセラフィーナ。 セラフィーナは、生家から救い出して王宮に連れてきてくれた婚約者のエリオット王子に深く感謝していた。 エリオットに尽くすセラフィーナだが、関係は歪つなままで、セラよりも能力の高いアメリアが現れると完全に捨て置かれるようになる。 ある日、エリオットにお前がいるせいでアメリアと婚約できないと言われたセラは、二人のために自分は死んだことにして隣国へ逃げようと思いつく。 しかし、セラがいなくなればいいと言っていたはずのエリオットは、実際にセラが消えると血相を変えて探しに来て……。 ◆表紙画像はGirly drop様からお借りしました🍬 ◇いいね、エールありがとうございます!

(R18)灰かぶり姫の公爵夫人の華麗なる変身

青空一夏
恋愛
Hotランキング16位までいった作品です。 レイラは灰色の髪と目の痩せぎすな背ばかり高い少女だった。 13歳になった日に、レイモンド公爵から突然、プロポーズされた。 その理由は奇妙なものだった。 幼い頃に飼っていたシャム猫に似ているから‥‥ レイラは社交界でもばかにされ、不釣り合いだと噂された。 せめて、旦那様に人間としてみてほしい! レイラは隣国にある寄宿舎付きの貴族学校に留学し、洗練された淑女を目指すのだった。 ☆マーク性描写あり、苦手な方はとばしてくださいませ。

意地を張っていたら6年もたってしまいました

Hkei
恋愛
「セドリック様が悪いのですわ!」 「そうか?」 婚約者である私の誕生日パーティーで他の令嬢ばかり褒めて、そんなに私のことが嫌いですか! 「もう…セドリック様なんて大嫌いです!!」 その後意地を張っていたら6年もたってしまっていた二人の話。

【R18】溺愛される公爵令嬢は鈍すぎて王子の腹黒に気づかない

かぐや
恋愛
公爵令嬢シャルロットは、まだデビューしていないにも関わらず社交界で噂になる程美しいと評判の娘であった。それは子供の頃からで、本人にはその自覚は全く無いうえ、純真過ぎて幾度も簡単に拐われかけていた。幼少期からの婚約者である幼なじみのマリウス王子を始め、周りの者が シャルロットを護る為いろいろと奮闘する。そんなお話になる予定です。溺愛系えろラブコメです。 女性が少なく子を増やす為、性に寛容で一妻多夫など婚姻の形は多様。女性大事の世界で、体も中身もかなり早熟の為13歳でも16.7歳くらいの感じで、主人公以外の女子がイケイケです。全くもってえっちでけしからん世界です。 設定ゆるいです。 出来るだけ深く考えず気軽〜に読んで頂けたら助かります。コメディなんです。 ちょいR18には※を付けます。 本番R18には☆つけます。 ※直接的な表現や、ちょこっとお下品な時もあります。あとガッツリ近親相姦や、複数プレイがあります。この世界では家族でも親以外は結婚も何でもありなのです。ツッコミ禁止でお願いします。 苦手な方はお戻りください。 基本、溺愛えろコメディなので主人公が辛い事はしません。

処理中です...