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第一章
第84話 堕ちた聖騎士
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「司教様よ、なんでナイフをしまいこんでんだ? まだ譲ってねえぞ? 泥棒ならちょうど衛兵の詰所だ、ガズリー達と一緒に牢に入れてもらえんぜ」
ナイフを持ち、懐に突っ込んだ手首を握り、引き留めてやる。
「無礼な! 手を離しなさい!」
「なあ衛兵のおっさん、見ていただろ、コイツ泥棒だ、人のナイフを断りもなく盗みやがったぞ」
司教を睨み付けながら、力を込めてぐぐぐっとナイフを持った手をひねりあげ――!
「なっ、くそ、こうなりゃ……なあ、衛兵のおっさん、コイツを捕まえて良いか?」
思ったより力が強く、振り払われてしまったが、俺は衛兵のおっさんに一応確認してみる。
「お、おい、司教様だぞ、確かにナイフを取り上げる行為は強奪と同じだが、平の衛兵の私では――」
衛兵のおっさんが喋ってんのに、被せてガズリーがまた勢いづいて喋り始めた。
「司教様! ぼ、僕が司教様からいただいた剣とそのナイフでご期待通りの活躍をして見せます! どうか無実の罪を課せられそうな僕をここから連れ出して下さい! まずはそこの外れスキル持ちであるケントを見事討伐して見せましょう!」
「あのな、なんで俺が討伐対象になってんだよ、ったく。司教様よ、ナイフ欲しいんなら売ってやるからよ、そのナイフの価値が分かるあんたならいくら出してくれんだ?」
司教様はまだ手に持っているナイフを握り締め、ぶつぶつと『ふむ、買い取れば後腐れもないか、クルトに文句も言われずにすむしな』って聞こえてんだがな。
ナイフ握る右手ではなく、左手を懐に突っ込むと、大人の手のひらに隠せないほどの革袋を取り出しテーブルの上に放り出した。
「聖騎士ガズリーを引き取るため、一応持ってきたが、役に立ったな」
「ありがとうございます司教様! おいコラ衛兵! 早く僕をこの牢から出すのだ! ぐずぐずするんじゃないぞ!」
それには俺だけじゃなく、この部屋にいた全員が驚いた。
もちろん司教様もだ、今の話でなぜ自分が出れると思えるのかが、分かんねえ、お前の後ろに座ってるジャレコとダムドも『は? なんで今ので?』『ガズリー大丈夫?』と声が漏れたくらいだ。
「はっ! と、とりあえず君、それだけあればこのナイフを譲ってくれでしょう? 中身を確かめ返事を下さい」
「お、おう、なんか、苦労してんな司教様、そうだな、結構多そうだし見てみるか」
色々と可哀想に思えてくるが、今はテーブルの上に置かれた革袋を確認する事にした。
革袋を手に取り縛ってある金色の紐、紐の先には水晶か何か分かんねえが、宝石がついていてそれ自体も値がはりそうだ。
その宝石をそっとつまんで引っ張りほどく。
シュルリと口を縛っていた紐は外れ、革袋の口はそれだけで全開になり、中の金ピカな硬貨、金貨が詰められているのが見えた。
俺の荷物をちょっとだけ端に寄せて、いつの間にか壁際からテーブルのまわりに集まってきて、俺の手元を覗き込むみんなに見えるよう金貨を並べていくと、十五枚の金貨が入っていた。
「なあ、司教様よ、こんなにもらって良いんか? そのナイフで」
違うって分かってるから一応確認はしておかねえとな。
「もちろんです、ではこのナイフは私が責任をもって教会に持ち帰らせていただきます。いやー、君が素直な良い子で助かりました」
そう言うと滅茶苦茶笑顔で、素早く懐に入れてしまった。
「あっ、そうです、衛兵の何人かで教会までの護衛を頼めますか? ここへは教会騎士を連れてきていませんので」
おう、なんとも機嫌まで直っちまった、ニコニコして気持ち悪いくらいだ。
「ナ、ナイフ一本が金貨十五枚……わ、分かりました、と、ところでこのガズリー達はどうしましょう、合わせて銀貨九枚の罰金があり、ガズリーは犯罪奴隷としての罪もありますので……」
「うむ、それは教会まで護衛をしてもらえれば、そこで支払おう、聖騎士ガズリーは、犯罪奴隷として教会に奉仕してもらえば良いでしょう」
衛兵のおっさんも、金貨を見て立ち上がるほど驚きはしたが、なんとか冷静さを取り戻して、ガズリー達の話に持っていった。
だが、ガズリーは『犯罪奴隷として』と聞いて顔は真っ青になって震えだしている。
鉄格子前を司教様と衛兵のおっさんが離れると、ズルズルと床に膝をついて下を向いちまった。
「はい、では手続きをいたしますので、少々お待ち下さいませ、あっ、こちらにお座り下さい」
「うむ」
そんなガズリーの事は特に気にせず、移動したのは、質素だが、座り心地のよさそうなソファーだ。
なんでこんなところにソファーが置かれてんのかと思ったら、司教様が来るから用意してあったんかも知れねえな。
リュックに荷物を戻して、椅子に座り、それから十分ほどで、犯罪奴隷の契約書ができたようだ。
司教をソファーにおいて、衛兵のおっさんが、腕輪をもって鉄格子に掴まり、うなだれているガズリーの元にやって来た。
スッとしゃがみこんで、格子を掴んでいたガズリーの左手を格子から外して、その手首に腕輪を嵌めてしまう。
(奴隷の腕輪ね、まあ、教会で働くんだからマシなんじゃない? 鉱山とかなら子供だし、二年も生きていけないだろうからね~、悪者からもらったナイフで金貨十五枚もお小遣いももらえたし、良かったね♪)
だな、確かに悪者だが死なれるのはなんかな、近くの村で顔見知りではあるからこれで良いだろ。
その後、司教様に連れられて、ガズリー達は衛兵の護衛を受けて、王都の教会に帰っていった。
俺達は今日も王城で泊めてもらえるから、宿代も節約できっし、王城に向かって馬車を走らせていると、どこかで見たような……。
あっ、王子様と従者じゃねえか。
二人は大通りの端をとぼとぼと、一応装備は整えたようだが、なんか疲れた顔で、俺達とは逆の方、王城から離れるように歩いていった。
ナイフを持ち、懐に突っ込んだ手首を握り、引き留めてやる。
「無礼な! 手を離しなさい!」
「なあ衛兵のおっさん、見ていただろ、コイツ泥棒だ、人のナイフを断りもなく盗みやがったぞ」
司教を睨み付けながら、力を込めてぐぐぐっとナイフを持った手をひねりあげ――!
「なっ、くそ、こうなりゃ……なあ、衛兵のおっさん、コイツを捕まえて良いか?」
思ったより力が強く、振り払われてしまったが、俺は衛兵のおっさんに一応確認してみる。
「お、おい、司教様だぞ、確かにナイフを取り上げる行為は強奪と同じだが、平の衛兵の私では――」
衛兵のおっさんが喋ってんのに、被せてガズリーがまた勢いづいて喋り始めた。
「司教様! ぼ、僕が司教様からいただいた剣とそのナイフでご期待通りの活躍をして見せます! どうか無実の罪を課せられそうな僕をここから連れ出して下さい! まずはそこの外れスキル持ちであるケントを見事討伐して見せましょう!」
「あのな、なんで俺が討伐対象になってんだよ、ったく。司教様よ、ナイフ欲しいんなら売ってやるからよ、そのナイフの価値が分かるあんたならいくら出してくれんだ?」
司教様はまだ手に持っているナイフを握り締め、ぶつぶつと『ふむ、買い取れば後腐れもないか、クルトに文句も言われずにすむしな』って聞こえてんだがな。
ナイフ握る右手ではなく、左手を懐に突っ込むと、大人の手のひらに隠せないほどの革袋を取り出しテーブルの上に放り出した。
「聖騎士ガズリーを引き取るため、一応持ってきたが、役に立ったな」
「ありがとうございます司教様! おいコラ衛兵! 早く僕をこの牢から出すのだ! ぐずぐずするんじゃないぞ!」
それには俺だけじゃなく、この部屋にいた全員が驚いた。
もちろん司教様もだ、今の話でなぜ自分が出れると思えるのかが、分かんねえ、お前の後ろに座ってるジャレコとダムドも『は? なんで今ので?』『ガズリー大丈夫?』と声が漏れたくらいだ。
「はっ! と、とりあえず君、それだけあればこのナイフを譲ってくれでしょう? 中身を確かめ返事を下さい」
「お、おう、なんか、苦労してんな司教様、そうだな、結構多そうだし見てみるか」
色々と可哀想に思えてくるが、今はテーブルの上に置かれた革袋を確認する事にした。
革袋を手に取り縛ってある金色の紐、紐の先には水晶か何か分かんねえが、宝石がついていてそれ自体も値がはりそうだ。
その宝石をそっとつまんで引っ張りほどく。
シュルリと口を縛っていた紐は外れ、革袋の口はそれだけで全開になり、中の金ピカな硬貨、金貨が詰められているのが見えた。
俺の荷物をちょっとだけ端に寄せて、いつの間にか壁際からテーブルのまわりに集まってきて、俺の手元を覗き込むみんなに見えるよう金貨を並べていくと、十五枚の金貨が入っていた。
「なあ、司教様よ、こんなにもらって良いんか? そのナイフで」
違うって分かってるから一応確認はしておかねえとな。
「もちろんです、ではこのナイフは私が責任をもって教会に持ち帰らせていただきます。いやー、君が素直な良い子で助かりました」
そう言うと滅茶苦茶笑顔で、素早く懐に入れてしまった。
「あっ、そうです、衛兵の何人かで教会までの護衛を頼めますか? ここへは教会騎士を連れてきていませんので」
おう、なんとも機嫌まで直っちまった、ニコニコして気持ち悪いくらいだ。
「ナ、ナイフ一本が金貨十五枚……わ、分かりました、と、ところでこのガズリー達はどうしましょう、合わせて銀貨九枚の罰金があり、ガズリーは犯罪奴隷としての罪もありますので……」
「うむ、それは教会まで護衛をしてもらえれば、そこで支払おう、聖騎士ガズリーは、犯罪奴隷として教会に奉仕してもらえば良いでしょう」
衛兵のおっさんも、金貨を見て立ち上がるほど驚きはしたが、なんとか冷静さを取り戻して、ガズリー達の話に持っていった。
だが、ガズリーは『犯罪奴隷として』と聞いて顔は真っ青になって震えだしている。
鉄格子前を司教様と衛兵のおっさんが離れると、ズルズルと床に膝をついて下を向いちまった。
「はい、では手続きをいたしますので、少々お待ち下さいませ、あっ、こちらにお座り下さい」
「うむ」
そんなガズリーの事は特に気にせず、移動したのは、質素だが、座り心地のよさそうなソファーだ。
なんでこんなところにソファーが置かれてんのかと思ったら、司教様が来るから用意してあったんかも知れねえな。
リュックに荷物を戻して、椅子に座り、それから十分ほどで、犯罪奴隷の契約書ができたようだ。
司教をソファーにおいて、衛兵のおっさんが、腕輪をもって鉄格子に掴まり、うなだれているガズリーの元にやって来た。
スッとしゃがみこんで、格子を掴んでいたガズリーの左手を格子から外して、その手首に腕輪を嵌めてしまう。
(奴隷の腕輪ね、まあ、教会で働くんだからマシなんじゃない? 鉱山とかなら子供だし、二年も生きていけないだろうからね~、悪者からもらったナイフで金貨十五枚もお小遣いももらえたし、良かったね♪)
だな、確かに悪者だが死なれるのはなんかな、近くの村で顔見知りではあるからこれで良いだろ。
その後、司教様に連れられて、ガズリー達は衛兵の護衛を受けて、王都の教会に帰っていった。
俺達は今日も王城で泊めてもらえるから、宿代も節約できっし、王城に向かって馬車を走らせていると、どこかで見たような……。
あっ、王子様と従者じゃねえか。
二人は大通りの端をとぼとぼと、一応装備は整えたようだが、なんか疲れた顔で、俺達とは逆の方、王城から離れるように歩いていった。
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