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第一章

第26話 襲い来る

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「なんだよこれ! グールだけじゃないぞ!」

 教会の屋根から裏庭を見下ろすと、そこにはグール以外にも色違いの魔物が何頭も、お墓に出る裏口の壊れた扉からぞろぞろと入り込んで来ている。

 それを近付かせないように礼拝所あった長椅子なんかに火を着けて、炎の壁を作っていた。

「緑色のグラスウルフに~、よく見かける灰色の魔狼なんかも混ざってるね~。でも、足の早い四足だけっておかしいわね? ちょっと街壁の上に、ぴょーん!」

 襟首から手を離した後、今度は俺の両脇に手を差し込んで、アンラはまた『ぴょーん!』と街壁に飛び上がる。

 そこは兵士達が沢山いて、お墓側と教会に向け、魔法や弓矢で応戦している。俺達は街壁上の兵士達が内と外に分かれている間に着地して、外側の腰高さしかない転落防止柵へ走りよったんだが······。

「おいおい! こりゃスタンピードじゃねえか!」

 抱っこしてたプリムをおろし、森と街との間にある草原を見る。

「なんだお前達は! 街壁は今は立ち入り禁止だぞ! 早く避難しなさい!」

 そう言いながら弓を引く兵士。

「はわわわっ! 狼さん達の後ろはゴブリンさんですよね!? それにその向こうにオークさんもいますよ!」

「ああ、二百匹以上いるんじゃねえか······プリム! お前は安全なところに行って待ってな! 俺は奴らを倒しに行くぜ!」

「ウ、ウインドボールならたぶん撃てます! 屋根裏で勉強しましたから!」

「何!? 魔法使いか! 立ち入り禁止なんだが――よしっ! 嬢ちゃん、手前のウルフ達は動きが早い、一匹を狙わず固まっているところへ撃ちまくれ! そっちの君は、見たところ剣士のようだな、下におりて他の兵士や冒険者に合流してくれ!」

 プリムの言葉に反応した兵士は矢を放ち、足元に置いてある矢筒から次の矢を抜き取りながらそう言ってきた。

 そうだな、こんなにいるんなら少しでも手数があった方が良いはずだ。

「プリム頑張れ! 兵士のおっさんこっちは任せた! アンラ! ゴブリンの前まで頼む!」

(仕方無いわね~。頑張りなよ~、ぴょーん!)

「おいコラ! お前は階段使え――」

「えぇぇぇぇー!」

 俺は転落防止柵の上に上り、その後ろからアンラはまた俺の脇の下に手を突っ込んだ。

(行くわよ! そーれっ!)

 同じように俺の隣に跳び上がってきたアンラ。俺はまた一緒に飛ぶのかと思っていたが、アンラのやろう――!

「ぬおあぁぁぁー!」

 投げやがった! 飛ぶ俺の下には街に向かう狼達の群れ、それを飛び越え、ドタドタ走るゴブリン達に近づいた時、どんどん速度と高さが無くなって――!

「あのやろー! 無茶苦茶じゃねえか! うおぉぉぉりゃぁぁぁぁー!」

 剣を振り回してなんとか体勢を着地できるようにっ!

「だぁぁぁぁぁー!」

 なんとか足から着地したが、勢いがありすぎてゴロゴロと転がった――が地面に剣を叩きつけるようにして回転を止め、その反動で立ち上がり、ズザザザザと地面を滑りながら先頭にいたゴブリンに切りかかった。

「ゲギャギャギャ!」

「うるせえ! うらっ! でやっ!」

 ザシュ! ドスッ! と数匹倒したところで団体が街より俺に向けて飛びかかってきた。

『数が多すぎます! 突っ込まず迎え撃って下さい! 倒したゴブリンは収納していきます!』

「分かった! せいっ! はっ!」

 横薙にクロセルを振るい、どんどん倒していくが、後ろに回り込んてくる奴まででてきやがった。

 だが、クロセルが『左斜め後ろから二匹! 次は右前三匹です!』と近付くゴブリンの位置を教えてくれる。

 俺はその言葉通りに倒していくが、ものの一分ほどで完全にまわりを囲まれた。グールや魔狼を倒している兵士達はまだ手を離せずこちらに援軍が来るまではまだまだ時間がかかりそうだ。

「くっ! ヤバいなっ! これじゃっ! オークまでっ! 追い付いてっ! 来ちまうぞ!」

『アンラ! 何を見ているのですか! 手伝いなさい! 手伝わぬなら、また封印しますよ! 早くしなさい!』

 クロセルがアンラに······マジかよ俺の上に浮いたまま、本を開いてやがった。

「え~、覚醒してるんだし、ゴブリンやオークの百や二百なんて余裕でしょ~」

 ゴブリンも俺に向けて襲いかかって来てくれっから、やれそうではあるが、ポツポツと街に向かう奴もいる。

「アンラ! 俺にかかってっ! 来ない奴だけで良いから頼む! ペンの魔道具はっ! 二本買っても良いから!」

「え? 良いの? 予備の墨も買ってくれる?」

 うっし、食いついてきたな、もたもたしてっとどんどん街に向かって行っちまう。

 あっちはあっちで結構ギリギリだ。追加でゴブリンやオークがそっちに行っちまうとどうなるか分かんねえ。

 クロセルで体も軽く、力も強くなってんだ、やれるだけやりゃ、多少は役に立つだろ。

「おう! 酒も飲みたいんだろ! 買ってやるっ! うりゃっ! やってくれアンラ!」

「おおー! ほんとにほんと?」

 パタンと本を閉じて、クロセルがいつものように俺が倒した魔物を消してるみたいにアンラも本を消して降りてきた。

「おう! 酒はっ! 冒険者の依頼でっ! 稼いだらぁぁー! 飲ませてやるぜっ!」

「ぬふふふふふ! 約束だよ~♪ あっ、そうだ! ねえケント、オークは美味しいからステーキにしようよ♪ よ~しやっとゃうよー! ステーキぃぃぃぃー♪」

 いや、まぁ、美味いけどよ······ってんな事を考えてる場合じゃねえな。ゴブリンもまだまだいるしよ。

 そのアンラはやはり爪を伸ばしてゴブリン達の間を飛び回り、首を苅っていく。

「流石アンラっ! 中々強えなっ! 俺も負けねえ! おらおらおらおらっ!」

 俺から街に意識を移して離れていくゴブリンを次々倒すアンラ、任せておいて大丈夫だな。

 俺に執着して襲いかかって来るゴブリンは俺が薙ぎ払う。だいぶまばらになってきた。

『ゴブリンはあと少しです! オークが来ますよ!』

 よし、次はオークだぜ! ちっとデカくなるが動きはのろい! やってやるぜ!
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