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第1章

第35話 拳聖

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 ギルドマスターに連れられて来た部屋には金谷と取り巻き二人がいる。

 そして俺達の姿が目に入ると、睨み付けながら怒鳴り付けてきた。

「おいギルマス! ソイツらが俺達にいきなり攻撃してきたんだ、さっさと捕まえろや!」

「そうだ! それに俺達のゴブリンを奪いやがった泥棒だぞ!」

「そ、その通り! 後少しで倒せるところを横取りしたんだ!」

 金谷達は、土足のままテーブルに乗り、手には壁際にある本棚から出した物だろう本や、何か分からないけど、巻物ように丸められた紙や色々と握り、対面にある大きな地図に向かって投げていたのか、その地図はボロボロになり、破れているところもあった。

『ゆ、友里くん、小説とかだと、紙自体がお高いし、本なんて凄く高級品だし、地図にいたっては手に入れることも難しいレベルじゃなかった?』

『小説の世界観次第だったけど、お安くはなかったよね……金谷達、ヤバいでしょこれ』

 横を見ると、ギルドマスターの目がヤヴァイ……金谷達の寿命が風前の灯火に思えた。

 すぅと深く息を吸い込んだ、と思った瞬間――。

「貴様ら何をしている! すぐにそこから降りろ!」

「ひっ!」

「「ぬわっ!ひぃー!」」

 ギルドマスターはドゴンと石造りの床を踏み鳴らし、お腹に響く大きさの声で金谷達に怒鳴り付けた。

 イルは茜ちゃんに抱きつき、金谷の取り巻き達はバランスを崩してテーブルから落ち、ドスンと散らかり放題の床に落ちた――が。

「やかましいクソ爺が!」

 金谷はバランスを崩すこともなく、テーブルからギルドマスターに向かって飛びかかった。

「チッ!」

「ダークバインド!」

 身構え迎え撃つ体勢になったギルドマスターには悪いけど、どうせなんかするだろうと準備していた闇魔法のダークバインドを唱えた。

「くたばりやがぁっ! なにっ!」

 床から伸びた真っ黒な触手が空中の金谷を捕らえ、殴りかかろうとした体勢のまま縛り付けた。

「なっ! クソッ! おいテメエ何しやがった! 離せ!」

 宙で縛られているにもかかわらず、暴れようとする金谷。
 隣にいたギルドマスターはチラッと俺達の方を見て、破れた地図を見て拳を握りしめ、大きく振りかぶる――!

「ぐぼっ!」

 その拳は宙に浮き、無防備な金谷のお腹に叩き込まれた。

「カネタニと言ったな、貴様達の罪は重いぞ」

 お腹を殴られ、口や鼻、目からは涙を、色々なものを垂れ流す金谷の髪の毛を掴み無理矢理目を合わせるギルドマスター。

「そっちの二人は部屋を片付けろ…………動け!」

「「は、ひいぃ!は、はいぃ!」」

 床に尻餅をついたまま唖然として、ことのなり行きを見ていた取り巻き二人は、飛び跳ねるように立ち上がり、自分達が投げた本や巻物、よく見ると魔物のリアルな置物なんかもある。
 片っ端から手に取ると、本棚に戻し始める。

「くっ、動けねえところをボコりやがって、俺は拳聖の職業だぞ! そこの銀髪! これをやったのお前だろ! すぐにほどきやがれ! シバき倒してやッからよ!」

「おい。職業が拳聖といきがっていたようだがな、ギルドマスターをしている拳聖もいるんだぞ」

 え? 拳聖って何人もいる設定なの?

 金谷も俺と同じように『え?』って顔をして、睨んでた俺からカクカクと首を動かしギルドマスターのことを見た。

「ダークバインド、拘束魔法か? 詮索はしないが、まだまだ弱いが拳聖の素早い動きを止められるとは素晴らしいな。討伐依頼の他に捕縛の依頼も頼めそうだ」

「はい、たぶんですけど捕縛にも使えると思います」

 その後ダークバインドをギルドマスターに言われ外したところ、また暴れようとした金谷を、ギルドマスターは赤子の手をひねるとはこの事かと思えるほど簡単に、取り押さえてしまった。

「嘘だろ……なんで俺がこんな簡単に……」

「修行が足りないからだ。同じ拳聖とは言え、カネタニと同じような歳から魔物と何十年と戦ってきた私とお前との差はこんなもんだ。頑張れば追い付けるが、今はカナタニ、お前も部屋を片付けろ」

 ギルドマスターは押さえつけていた手を離すと、ノロノロと起き上がってくる金谷は、目の前にあった本を手に取り立ち上がった。



 そして十分ほどで、ちょっと整理できてない本棚ができて、床には何も落ちていない状態になった。

 俺達とギルドマスターは先に片付けさせたソファーに座り待っていたんだけど、金谷達三人は、ギルドマスターの横で、気を付けをして立っている。

「よし、お前達も座れ」

「「押忍! 師匠!押忍! 師匠!」」

 師匠っておい……あっ、そう言えばこの三人って空手道場に通っていたっけ。
 ギルドマスターが拳聖で、しかも自分達より強いと分かったのか……でもいきなり師匠はないでしょ。

 三人は姿勢正しく三人がけのソファーに進み、背筋を伸ばして座った。

「よし、で、カネタニ達の話は聞いている。君達の話を聞こうか」

「はい。俺達は湖に薬草の採取に行ったのですが――」

 金谷達が二匹のゴブリンを倒すでもなく、取り囲んで痛め付けていたところ、仲間を呼んだのか大量のゴブリンとオークが数匹林から現れた事。

 現れたゴブリンとオークを見て、痛め付けていたゴブリンを放って金谷達が逃げ出した事。

 そのゴブリンをアイスランスで倒した時にゴブリンの体を突き抜けて、逃げる金谷の方に当たらなかったが飛んで行き、地面に刺さった事を話した。

「――そして林から出てきた魔物を全部倒して帰って来たところです」

「嘘つくんじゃねえ! あの数の魔物を俺達と変わらない歳のお前達が倒せるとかありえねえだろ!」

「待てカネタニ、黙っていろ。ユーリ、証拠はあるのか? 私でもその数の魔物を倒すには相当苦労するぞ、それも妹を守りながらならさらにだ」

 金谷は小さく『押忍』と言って前のめりになりテーブルについていた手もひきあげ元のように背筋を伸ばしてソファーに座り直した。

「証拠ですか? まずは金谷達が痛め付けていたゴブリンを――」

 ドスン、ドスンと二匹のゴブリンを床に出し、テーブルの上にゴブリンの魔石をつみあげていった。
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