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第一章

第85話 勘違い

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 シュパパパ!

 俺はウインドニードルをヤードに切りかかろうと、片手剣の切っ先を向けて囲んでいた三人の両腕両足を狙い、魔法を放ち軌道を変えながら、確実に撃ち抜いていく。

 崩れ落ちる三人を見て、自分で相手をしていた五人を結界で捕縛した。

 サイラスは······なんとかなりそうだが、ヤードは手足を撃ち抜いた三人の盗賊に止めをさしてしまった。それも執拗に片手剣を振るい、血塗れになってやがる······駄目だなコイツは。

 そう思ってサイラスの方を見ると、ちょうど三人目を倒し終わるところだった。

 だが······この程度で激しく肩で息をするサイラスに、何とも言えないヤード······作戦はこの二人を連れていくんだよな······。

「サイラス。そろそろヤードを止めておいた方が良いぞ。あまりにも血の匂いが広がると、ゴブリンやオーク、コボルドに魔狼なんかはすぐに集まってくるからな」

「はぁ、はぁ、そ、そうですね。おい! ヤード、止めるんだ! はぁ、血の匂いで魔物が集まるぞ!」

 それを聞いたヤードは、ハッと気付き、惨状を見て動きを止めた。

「はぁ、はぁ。チッ、すまねえな。おい! お前が魔法防御の結界を張ってくれて、コイツらの手足を撃ち抜いたのか?」

「ああ。迷惑だったか?」

「違う。助かった。魔法にしろ、囲まれた時も正直ヤバかった。王がなぜお前みたいなガキ達に、こんな重大な作戦を任せるのか分からなかったが、この腕があるなら頷ける」

 なんだ、素直に認められるじゃないか。

「ああ。ヤードを助けてくれてありがとう。それに生け捕りが五人か、この先の村で衛兵に引き渡してそこからは馬に乗り換えだな」

「いや。八人だぞ。馬車の後方に三人いたからな。ちょっと引きずってくるのを手伝ってくれ」

何!?マジかよ!

 驚く二人を連れ、後方の茂みにいた盗賊、結界で身動きの取れない三人を街道引きずり出し、馬車の屋根に最初の弓矢を放った男と、俺が捕らえた五人、隠れていた三人を入れて九人の盗賊をくくりつけていく。

「アイテール殿は結界魔法をこのような使い方もできるのですね」

「中々良いじゃねえか。アイテール、お前俺の部下にしてやっても良いぞ、捕縛作戦なんかはお前を連れていけば楽に達成ってもんだろ? グラブリアン伯爵家四男の俺は近い将来、ってかこの作戦を俺中心で解決すりゃあ叙爵されるからな、今の内に俺の部下になっておけば筆頭の家臣にしてやるぜ」

「馬鹿っ! アイテール殿はヒュギエイア王女とセレーナ公爵令嬢との御成婚が決まっているのだぞ! お前は本当に何も知らないのか? 城中で噂になっていただろう!」

「え? あれって有名な三年目の勇者パーティーでリーダー荷物持ちしている奴だろ? 何で三人しかいないんだ? それに確かあの勇者パーティーの女は一人しかいないと聞いた気がするぞ」

 サイラスは大きなため息をつき、俺の事、マルガリータ達の事をヤードに言って聞かせている。街道の真ん中だがこのまま休憩だな。

 俺は生活魔法の水を十二頭の馬達の前に浮かべてやり、馬車の後ろにあった飼い葉を出てきたマルガリータとミラーノと一緒に食べさせていると話が終わったのかサイラスとヤードの二人がやって来た。

「アイテール様! 聖女マルガリータ様! 女勇者ミラーノ様! 不敬な事を重々かさねがさね大変申し訳ありませんでした!」

「申し訳ありません。ヤードは思い込みで勘違いをしていたようです。アイテール殿達の事は、私達の仕事を補助するために王が遣わした、腕の立つ者だと思い込んでいたようです。どうか、お許しをお願いいたします」

 二人は揃って深く頭を下げた。

「まあ、この作戦を遂行する仲間だ。今後は仲良くやっていこう。馬達を休ませた後は次の村に馬車を預けて馬での移動になるんだよな? 進み具合はどうなんだ?」

「はい。ちょうど盗賊達も引き渡せますのでその予定です。進み具合は盗賊で時間を取られたのと、昨夜も三度、ゴブリンが街道に出ましたので、少し遅れ気味です」

 三度もあったのか、昨晩は完全に油断していたようだ。遅れを取り戻そうとするなら馬に身体強化をかけるしかないか。重ねがけは馬の負担が大きいから避けるとしても、今晩には追い付けるかも知れないな。

「分かった。馬達の休憩の間に、街道を始末しておこう。マルガリータ、浄化を頼めるか? 死んだ奴らは荷物だけ剥ぎ取り、埋めるしか無いだろう。俺が穴を掘るからサイラスとヤードは死体を放り込んでくれるか」

「「はっ!はい!」」

 街道脇にある木の根本に深さ三メートルほどの大きな穴を土魔法で開け、六人を放り込んで土魔法で埋め戻しておく。

「しかしぐちゃぐちゃにしたもんだなお前。自分も血だらけじゃねえか。生活魔法で綺麗にしておけよ」

「お姉ちゃ~ん。遠くから近付いて来る気配があるから~早めに浄化して下さいね~。そっちのお兄さんも~魔物が来ちゃいますよ~」

 そう言われたヤードとサイラスは、生活魔法のクリーンを使い、血の汚れを落としてしまう。マルガリータも盗賊が倒れていた場所の浄化を済ませ、ミラーノが言っていた魔物の気配を探っていると、こちらに向かってはいるのだが、移動の速度が落ちて匂いを見失ったようだ。

 休憩を終え、俺達は馬車に乗り込み走りだし、一時間ほどで予定の村が見えてきた。

 さあここからは馬だ。気を引き締めて、行こう。
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