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第一章

第50話 森の異変

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「公爵様、戻りました。魅了の男は目を潰し、魔道具類は全部外してあります。それから奴隷の魔道具も装備済みです」

「ご苦労。そちらは副衛兵長で良いか? 衛兵長は先に来た者ととんでもないことをしでかしたのでな、今は牢に入れ、詰問中だ」

「はっ! 副衛兵長で間違いありません。グレース公爵様、衛兵長達の事はお聞きしております。本当になんて事を。······それから依頼された元勇者パーティーを詰問した時の資料を持ってきました。それと、勇者パーティーの事を乗せ、この街から出ようとしていたこの商人が、魅了を持っているなど――重ねがさね申し訳ありません」

 衛兵は、部屋に入った後跪き、公爵様の言葉の後に、床に頭をこすり付けるようにして、そう謝罪をした。

「うむ。そこのアイテールが先にその事に気付き、対処のため門で待機していたのでな。鑑定がなければ中々気付く事も難しいだろう、今後、鑑定持ちを衛兵に加えられないか、管理監とも相談していた」

「はっ、ありがとうございます」

「よし。副衛兵長、そのままでは話もやり難い、立って話せ。そしてその男に返答できるよう命令だ」

 副衛兵長は立ち上がり。

「分かりました。聞いたな、嘘偽りなく話せ――」

 そこに被せるように俺も命令を差し入れる。

「それに、ここに来る時何をしようとしていたか、魅了を使ってどんな組織と繋がりがあるのかもだ」

 俺がそう言った後、魅了の商人が話し始め、ガイナス達が夜営地に無一文でいたところを馬車に乗せ、シャーリーズを魅了し商隊の性処理をさせた後、娼館に売ろうとしていた事も。

 セレーナを魅了しようと画策し、あわよくば公爵家に入り込もうとした事も。

 門で捕まった時に、ラビュリントの管理監の元に転移の魔道具で逃げようとした事も隠す事はできず話、あの『傀儡』の事を兄貴と呼び、暗殺ギルド御用達の商人であった事も。

 それを聞き終えた後、余罪を詳しく聞くため牢に入れ、詰問が続けられるそうだ。

「アイテール。よくぞ阻止してくれた。ありがとう」

「いや、セレーナにやろうとしていた事を聞いて黙っていられなかったからな。じゃあ俺は行くよ、あまり遅くなると明日に響くからな」

「くくっ、頼んだ。気を付けて行ってこい」

 そして今度は何事もなく、森を目指し街を出て走る。

 一時間かからず森まで来たが······元々の魔物の多さを知らないが、索敵に引っ掛かる魔物は多く、多様だ。

「これも、この森特有なのか、異常なのかは分からないが、言うほどの多さではなさそうだな。もう少し森に入ってみるか。まずはゴブリンだなあの集まりは」

 気配を消したまま、森に入り、ゴブリンの村レベルの集団に向けて走る。

 他にもオークと魔狼と思われる集団もいるが、飛び抜けた気配の魔物は見当たらない。

 約一時間ほどかけて森を見てまわったが、あのガルムほどの魔物はおらず、いたのはマンイーターと呼ばれる魔物の群れだ。

「おいおい、ゴブリンやオークを食い荒らしているのか? そんなに強くはない魔物だが、コイツも何匹か倒して持って帰る――なんだ!?」

 植物の魔物、マンイーターがゴブリンの群れを襲い、その大きな口に生きたまま蔦で捕まえ口に運んでいたのだが、急激に強い気配が――下!?

 俺は急ぎ大きな木に登り、なるべく上へと急ぐ。五十メートルを超す大木だが登れるだけ上へ。

「うわっ! なんだこの揺れは!?」

 大木が細い木のように揺れ、下を見ると――っ!

「グランドワームか! それも大物だぞ!」

 グランドワーム、地中に住み、普段は見る事もない魔物だが、地中深くから考えられない早さで真上に大口を開けて地上に出てきて人や動物、植物はもちろん魔物も関係なく飲み込んでしまう魔物だ。

「ヤバっ! 俺が登った木も飲み込まれる! しっ!」

 慌てて木を跳び移りながら魔力を練る。

 背後をグランドワームが下から上へ通りすぎる気配を感じながらなんとか間に合った。

 少し離れた木に取り付いて、後ろを見ると、直径五メートルほどのグランドワームが立ち並んでいるのが見えた。

「多いぞ! 驚いている場合か! ウインドカッター!」

 地面から空に向かって立つグランドワームは口に入った獲物を咀嚼しながら嚥下《えんか》のため、その場で止まっている今しか倒す事はまず無理だ。

 特大の幅が十メートルはあるウインドカッターを撃ちまくる。

「はぁぁぁー!」

 約五十匹はいるワームに向けて飛んだウインドカッターは、ザシュッ、ザシュッザシュッと首をはねながら無事な木も伐採してしまっているが、そんな事を言ってる場合じゃない。

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ。よし、収納!」

 1分はかかっていないと思うが、グランドワームを倒し、収納する事ができた。

「ふう。穴だらけになったぞまったく。これが原因のようだが、こんな大きな群れが森の外縁に出てくるなんてな。普段はもっと森の奥にいるような魔物だろ? これが奥から食事しながら移動してきたならそりゃ魔物も逃げてくる訳だ」

 一気に疲れたが、一応その後一時間ほど森を見てまわり、他の変化は無く、夜の森を後にして街に帰ることにした。
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