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第一章

第28話 領主邸に

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「嘘っ! 領主が暗殺ギルド員で、領主邸がこの街の支部なの! セレーナ、これはすぐにでも王都へ知らせねばなりませんよ!」

「当たり前や、すぐに早馬を走らせるさかい心配しやんでもええ、それよりこの女もやけど、スタークの奴は捕まえやなあかん」

「その女の話だとブロガは領主邸にいるにゃら衛兵に教えれば良いにゃ」

「リーン、証拠がコイツの証言だけでは貴族を捕らえるのは難しいな。セレーナ、その手紙は数日かかるよな? 最低でも十日は返事待ちになる。それではたぶんこの女が帰ってこないと警戒が強まり、証拠を処分してしまう可能性が高い。だから······今から領主邸に乗り込んで、領主を捕まえようと思っている」

 俺はみんなと相談するため、防音の結界を張り、みんなも口元を女に見られない様に喋っている。

「可能なん?」

「ああ、俺一人ならな。鑑定しつつ領主邸のギルド員も全て捕まえるつもりだ」

「一人の方がよろしいの? 私達は足手まといですの?」

「エイア。君はその、歩きにくいだろ? すると、セレーナもリーンも護衛に護られ、この部屋にいてもらえた方が俺も安心して暴れられる」

「ああ~、ひょこひょこしか歩けませんものね」

「しゃーないか、分かった、五人で待っとくわ」

「にぁ~、分かったにゃ」

「よし、じゃあコイツは部屋の角にでも転がしておく」

 そして俺は女を部屋の角に引きずっていき、一応ロープで縛り上げて横倒しにしておく。もちろん声は防音の結界で聞こえないし、喋る気もないようだ。

 ふう、さて、どんな奴が出てくるか······できるとは思うが、よし、やってやるか。

「そうだ、みんなその喋り方だけど、俺は好きだからいつもそれでいてくれても良いぞ」

 そう言って笑いかけると。

「うふふ。アイテールったら」

「あんなぁ、これはちゃうねん、まぁ考えとくわ」

「あはは、行ってらっしゃいにゃ」

 少し呆れたような笑顔で答えてくれた、その声を聞きながら、絶対にみんなを傷付けさせないと誓い、俺は部屋の戸を開け外に出た。

 宿を出た俺はまっすぐは向かわず、反対方向へ。場所は分かっている、だが夜は人通りも少なく、歩いている者もまばらだ、まずは俺を尾行する者がいないか確める。

 数分歩いてそろそろかと思い、俺はくるりと方向転換し、もと来た道を戻る。

 その動きに反応する者がいないか神経を研ぎ澄ましていたが、見張りはいなかったようだな。

 そして近くの路地に入り、気配を消しながら屋根に石壁を蹴りながら屋根に飛び上がり、星明かりの乏しい夜の屋根の上を走り領主邸に向かう。

 程なくして領主邸の門近くの家の屋根に到着した俺は身を屈め、様子をうかがう。

 門番は夜六人となり、昼間より厳重になっているが、まずは鑑定!

 ちっ、六人とも暗殺ギルドかよ。まあ良い門の左右に三人ずつ立っているが、結界で拘束だ。今回は顔まで動かないようにして、息だけができるように鼻の部分だけ空気穴を開けておいた。

「よし、侵入は軽くできそうだな。行くか」

 通りに誰もいない事を確認し、屋根から飛び降り一気に門番の間を通りながら腰にある鍵を拝借して通用口を開け、中に体を滑り込ませた。

 中に見張りはおらず、俺は門番の詰め所に向かい、中を確認すると。

「ちくしょう、なんであの女に任せるんだよ、俺なら殺してしまう前に楽しむだけ楽しませてやるんだかなぁ」

「スターク様のお気に入りだからなぁあの女、まあ腕はSランクなだけはあるが」

「おら、んなこと言ってねえで寝るぞ、三時間寝たら交代だからな」

「「へいへいう~い」」

 中にも六人か、鑑定! こいつらも暗殺ギルドだな。結界!

 寝台にみんなが横になったところで拘束。

 詰め所の中に入り、屋敷の見取り図を探すが、探すまでもなく、壁に巡回の地図、見張りの位置が貼られており、その横に巡回者と見張りの名簿まであったので、人数の確認ができた。

 人数と地図を頭に記憶させ、見張りと巡回者を確実に拘束していく。

 外回りが終わり、次は屋敷の中の二人組で移動する巡回者を端から拘束し、部屋にいる者達も、同じ様に。

 順調に進んできたが、流石暗殺ギルド支部人数が多く、領主がいる部屋まではまだ時間がかかりそうだ――。

 ――屋敷の中を、スタークの執務室を除き、全てまわり、暗殺ギルド員を拘束し、そしてついに。

『――ですので、奴も今ごろは、くくっ、おっと、スターク子爵様、この度は本当に助かりました。あのままでは何もかも――』

『ブロガ、次はないと覚えておけ、あの隠し部屋一旦私が預かる形を表向きにはなるが、お前はこれまで通り商売を続けろ』

『ええ、任せておいて下さい。今回は大物が取引相手ですので絶対成功させます』

 よし、中は二人、結界!

「何をしている。賊はお前か? 見た事が無い奴だが······うちの新人なら構わんが、ギルドマスターへの挨拶なら明日にしなさい。今は客人がいるのでな」

 なに!? 俺の索敵を抜けて来たのか!

 俺は背後から聞こえる声に、戦慄を覚えながら返事をした。

「そうなのか? それは日を改めるしか無さそうだな。あんたも諦めたんだな」

 俺はそう言って、振り向きながら結界を――いない!?

 確かに後ろから声が聞こえたはずだぞ!

 索敵に集中し、どんな微かな動きも見逃さないようにすると、俺が開けようとしていた扉側、すぐ後にほんの一瞬空気の動きがあった。

 くそっ、慌てるな、このまま慌てたふりをしながら――!

 ドンと衝撃が走り、肩を押された俺は廊下に押され数歩前に。視線が下がり、床を見るような姿勢の視界に、真っ黒な足と、革靴が見えた――。
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