最愛の敵

ルテラ

文字の大きさ
上 下
36 / 115
アデリア戦

35話 幼い王

しおりを挟む
 王は残念そうにする。
「戦争に参加することがどう言うことかわかっていますか?」
 レオは静かに言う。仮面越しでわからないがその目には怒りがあった。
「もちろんです。人を救う・・・」
「人を殺すことです」
 王の言葉を遮り言う。
「えっ?」
 王の目に戸惑いが浮かぶ。
「戦争は人を救うためにやるのではなく人を殺すためのものなんです。人なんて誰も救えない。命を無駄にしてはいけない」
「僕は・・・」
 レオはその場を立ち去る。幼い子供にはあまりにも残酷な言葉だった。しかし知らなければならないこれから上に立つ者として。
 しばらくすると兵達はセルシアの民と宴を開いていた。しかしそれには参加せずランプと酒と少しの食料を持ち、たまたま見つけた池のほとりに腰を下ろす。
「(俺はなぜ)」
 酒を飲みながら考える。王の発言を聞いたとき昔のラズリと姿を重ねてしまった。
「オレ殿」
 声のした方に振り返る。そこにはランプを持った王がいた。
「一人で来られたのですか?」
「はい、2人で話しがしたく。よろしいでしょうか?」
「どうぞ」
 自身の横に招く。
 王は座る。そして沈黙が走る。
「あれからレオ殿の言葉の意味を考えました」
「そうですか・・・」
「僕はほとんど外には出たことがないんです。見つかると殺されていまいますから・・・だから僕の世界は本や人から聞いた話が全てなんです。何も経験したことがなくて何も知らないんです。だから・・・だから言い訳にしかならないけど、戦争なんて軽々しく口にしてしまいました。申し訳ございません」
 再び沈黙が走る。
「俺の方こそ言い過ぎました。あなたとある少女を重ねてしまいました」
 レオはラズリを思い浮かべる。
「少女?」
「普通を受理出来なかった。少女は安全より戦場を望み。ぬいぐるみよりも武器を選んだ。誰もが少女を称えた。強かったからです。でも止めたかった。しかし彼女がいなければ戦争には勝てないてわかっていたから言えなかった。言える頃には遅すぎた。戦争なんて知らなくていいんです。戦争の『せ』の字も知らなくていいです。それが幸せということだから」
 レオは仮面を外し悲しそうに、しかし真っ直ぐ、王を見る。
 王は涙を堪えるように下唇を噛む。
「僕に何が出来ますか?」
「戦争をしない国を作ってください。争いは人間がいる限り起こります。それは仕方のないことです。争うと言うことは自分の意志を考えをちゃんと持っていると言うことですから。ですが戦争はダメです。戦争に『言葉での解決』はありません。どちらかが殲滅されるか降伏するまで終わらない。だからせめて戦争だけはしないでください」
「はい」
 王の目から涙が溢れる。

 王はその場を後にした。
「立ち聞きとはあまりよろしくないですね」
 そう言った後、酒を一口飲む。
 岩影から王の乳母が出てきた。
「申し訳ございません。そしてありがとうございます」
 乳母一礼する。
「感謝される様なことは何も」
 乳母は近くに来たものの立ったまま池を見て話す。
「王は幼い時にご両親を亡くされました」
「それからずっとあなたが?」
 乳母は首を横に振るう。
 「セルシアルの民みんなで宝石の様に」 
 乳母は思い出に浸るように目を細める。
「(宝石ね・・・)」
「それゆへにいつも孤独でした」
「(当然か・・・)」
「王はわかっていました。自分は皆の為に生きなければならないと。私もデイビット様を王と育てる為に生きて来ました。不自由な思いをさせています。初めてのわがままでした。だからせめて叶えられる望みは叶えてやりたかった」
「例えそれが間違っていても?」
 レオは王の戦う姿を思い浮かべる。
「はい。だからあなたには感謝の念が絶えません」
「俺はただ俺が後悔したくなかっただけです。もうわかっているはずです。あの子がもうあなたが思っている以上に大人であると」
 レオは遠くにいるラズリを思い浮かべる、幼く今にでも潰れてしまいそうな後ろ姿。
「ちゃんと見なければ向き合わなければいけません。それに何もできていないことなんてないと思いますよ」
 乳母は首を傾げる。
「あんないい子に育ったんだ乳母であるあなたのおかげでしょう?」
 レオは乳母の顔見て微笑む。
「話さなけば子供は大人を置いてどんどん先に行ってしまう。だから話してみましょう(かつての俺が出来なかった。だから後悔して欲しくない。まぁそれも俺の勝手か)」
 レオは静かにため息を吐く。
 乳母は深くお辞儀をし「感謝します」顔上げ言う。そこには一筋の光が見えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

本当にあった怖い話

邪神 白猫
ホラー
リスナーさんや読者の方から聞いた体験談【本当にあった怖い話】を基にして書いたオムニバスになります。 完結としますが、体験談が追加され次第更新します。 LINEオプチャにて、体験談募集中✨ あなたの体験談、投稿してみませんか? 投稿された体験談は、YouTubeにて朗読させて頂く場合があります。 【邪神白猫】で検索してみてね🐱 ↓YouTubeにて、朗読中(コピペで飛んでください) https://youtube.com/@yuachanRio ※登場する施設名や人物名などは全て架空です。

♪イキイキさん ~インフィニットコメディー! ミラクルワールド!~ 〈初日 辰みっつの刻(8時30分頃)〉

神棚 望良(かみだな もちよし)
ファンタジー
『みなさん!こんにちはっ!私の名前は、大事 守香!やっと、ネコさんに会えました! もう、嬉しくて、嬉しくて!早速、自分のタブレットを取り出して、職場に報告しようとしたのですが・・・・・・。 あ、あと、ネコさんのご厚意で、お茶に呼ばれてしまいました!ただ、これが、もう、嬉しさの連続で・・・・・・』

転生生活をまったり過ごしたいのに、自作キャラたちが私に世界征服を進めてくる件について

ihana
ファンタジー
生き甲斐にしていたゲームの世界に転生した私はまったり旅行でもしながら過ごすと決意する。ところが、自作のNPCたちが暴走に暴走を繰り返し、配下は増えるわ、世界中に戦争を吹っかけるわでてんてこ舞い。でもそんなの無視して私はイベントを進めていきます。そしたらどういうわけか、一部の人に慕われてまた配下が増えました。

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

プラス的 異世界の過ごし方

seo
ファンタジー
 日本で普通に働いていたわたしは、気がつくと異世界のもうすぐ5歳の幼女だった。田舎の山小屋みたいなところに引っ越してきた。そこがおさめる領地らしい。伯爵令嬢らしいのだが、わたしの多少の知識で知る貴族とはかなり違う。あれ、ひょっとして、うちって貧乏なの? まあ、家族が仲良しみたいだし、楽しければいっか。  呑気で細かいことは気にしない、めんどくさがりズボラ女子が、神様から授けられるギフト「+」に助けられながら、楽しんで生活していきます。  乙女ゲーの脇役家族ということには気づかずに……。 #不定期更新 #物語の進み具合のんびり #カクヨムさんでも掲載しています

元、チート魔王が頼りない件。

雪見だいふく
ファンタジー
『魔界を助けるのは俺だ――』  成績優秀で運動神経抜群、容姿だけ平凡な高校生。桐生 壮一(きりゅう そういち)はある日、帰宅途中にトラックに轢かれそうになっている犬を見つけて……    これはひょんなことから魔王と契約を交わし、世界を救うことになった高校生のお話。 『普通の生活を送る俺と魔王様のドタバタストーリー!?』  魔王様がだんだんと強くなっていく成り上がり気味のストーリーでもあります。  ぜひ読んでください!  笑いあり感動あり。  そんな作品にするのでよろしくお願いします!!  小説家になろう様の方でも掲載しています。  題名変更しました。  旧名『俺と魔王の服従生活』

処理中です...