最愛の敵

ルテラ

文字の大きさ
上 下
10 / 115
アデリア戦

9話 褒美

しおりを挟む
 ようやく理解できたのだろうか。
「お、おぉぉ」
 国王は泣き出す。
 国王だけでない家臣達も涙を流したり安堵の表情を浮かべる者もいた。
「何とお礼を言えば」
 国王の代わりに王女が言う。
「礼ならいらない、ただスイマール帝国の従属になってくれればいい?」
「アデリアのようなことはしないと約束します」
 レオが続けて言う。
「従属になれば、困ったことがあれば助けてやんよ」
 フィールは安堵させるように言う。
「判断はお前たちに任せる」
 国王は周りを見渡す。言葉を交わさずともわかった。
「パルデーニャ王国は今をもってアデリア帝国からスイマール帝国の従属となる」
 その顔は声は王そのものだった。

 パルデーニャの王との会談が終わり、帰路についていた。
「よかったな。回避できて」
 伸びをしながらフィールが言う。
「そうね」
 アイシャが嬉しいそうに言う。
「帰ったら祝杯あげようぜ」
「そうしたいのは山々ですが、これを皇帝陛下に届けなければなりません」
 レオが筒を見せる。
 パルデーニャ王国が正式にスイマール帝国に従属するという契約書の入った筒だ。
「俺、あいつ嫌い」
 フィールは面倒くさそうに言う。
「やめなさい」
 アイシャに叩かれる。
「だってよー」
 フィールはラズリの方を見る。
「気持ちは分かります。ですが、皇帝のおかげで目的は着々と進んでいます」
 正論をたたきつけられ、ムッとするフィール。
「ねぇ、ラズリ」
 アイシャが話しかける。
「・・・」
「ラズリ!」
「ん?どうした」
「それはこっちのセイフ。どうしたの?」
「気になることがあってな」
「気になること?」
 ラズリは頷く。
「その時になったら話す」
「分かりました」

「よくぞ、やった」
 皇帝は満足そうに笑う。
「(相変わらずデカい態度)」
 アイシャが思う。
「(殴りたい)」
 フィールが思う。
「渡した。もう行く」
 ラズリは出て行こうとする。
「待て」
「何だ」
「褒美をやる」
「褒美?」
 フィールは怪しむような目で見る。
「パルデーニャ王国は酒がうまい。良き国を従属にしてくれた。ハハハ」
「(酒クソオヤジ)」
「(殴りたい)」
「・・・なら一つだけ頼みがある」
 3人は声を潜める。
「どうゆうことだ?」
「まぁ、いいのではないでしょうか?」
「確かにね。ラズリがそれでいいならね」

お久しぶりです。皆さん。トートです。あの戦争が終わって2週間が経ちました。敵地の後片付けをしている時、ラズリさん達が会いに来てくれた。

ー約2週間前ー
「トート」
 言われ後ろを振り向く。パイロンの皆さんがいた。
「お久しぶりです」
 自分は駆け寄る。
「2、3日程度しか経ってねぇよ」
「そーですね」
 まだそれしか経っていないんだと思う。
「自分に何か?」
「少しここを離れるので挨拶をと思いまして」
「わざわざ、ありがとうございます」
「じゃあね。トート君」
 アイシャさんは言い手を振るう。
「トート」
 レオさん達の後ろからラズリさんが現れる。
「ラズリさん」
 会うのは、あのテントの出来事以来だった。
「怖い思いをさせた」
 自分はあの日の情景が頭に浮かぶ。
「謝らないでください。軍人として慣れなければならない光景ですから」
 自分は出来るだけ冷静なふりをした。
「では、お気をつけて」
 自分は元気よく言った。彼らが去った後、自分は腰にある銃を取り出し触れる。
ー現在ー
 自分はあれ以来パイロンとは会っていない。しかし、パイロンがいない間、自分の周りは大きく変わった。
 自分よりも階級の上の人さえ雲の上なのに自分のような新人が話せる訳ない。しかし自分がパイロンと話しているのを見た人達は手のひら返しのように自分に胡麻をするようになった。同期は必要以上に関わりを持とうとするし、いつも怒鳴り散らす上官も怒鳴るどころか自分に気を使う。正直やりづらい。
 遠目でラズリさん達を見かけることはあった。話す機会はなかった、いや、そもそも自分から話しかけていい存在じゃない。
 パイロンは全てにおいて違った。特別テーブルと言ってカーテンで区切られた所で食事をする。仲間内かセリアさん(レオの妻だから)以外とはまったくと言っていいほど喋った所を見たことがない。
 基本、自分ら軍人は出動命令がなければ訓練に勤しまなければならない義務がある。しかし、パイロンはいくら今はスイマール帝国に属しているとはいえ独立軍隊であることに変わりはない(皇帝も認めている)。なので、彼らが自分らと訓練をすることはない。
 だから、話しことはもう出来ないのだ。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?

カタナヅキ
ファンタジー
現実世界で普通の高校生として過ごしていた「白崎レナ」は謎の空間の亀裂に飲み込まれ、狭間の世界と呼ばれる空間に移動していた。彼はそこで世界の「管理者」と名乗る女性と出会い、彼女と何時でも交信できる能力を授かり、異世界に転生される。 次に彼が意識を取り戻した時には見知らぬ女性と男性が激しく口論しており、会話の内容から自分達から誕生した赤子は呪われた子供であり、王位を継ぐ権利はないと男性が怒鳴り散らしている事を知る。そして子供というのが自分自身である事にレナは気付き、彼は母親と供に追い出された。 時は流れ、成長したレナは自分がこの世界では不遇職として扱われている「支援魔術師」と「錬金術師」の職業を習得している事が判明し、更に彼は一般的には扱われていないスキルばかり習得してしまう。多くの人間から見下され、実の姉弟からも馬鹿にされてしまうが、彼は決して挫けずに自分の能力を信じて生き抜く―― ――後にレナは自分の得た職業とスキルの真の力を「世界の管理者」を名乗る女性のアイリスに伝えられ、自分を見下していた人間から逆に見上げられる立場になる事を彼は知らない。 ※タイトルを変更しました。(旧題:不遇職に役立たずスキルと馬鹿にされましたが、実際はそれほど悪くはありません)。書籍化に伴い、一部の話を取り下げました。また、近い内に大幅な取り下げが行われます。 ※11月22日に第一巻が発売されます!!また、書籍版では主人公の名前が「レナ」→「レイト」に変更しています。

貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~

喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。 庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。 そして18年。 おっさんの実力が白日の下に。 FランクダンジョンはSSSランクだった。 最初のザコ敵はアイアンスライム。 特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。 追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。 そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。 世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。

女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。 だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。 女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。 途方に暮れる主人公たち。 だが、たった一つの救いがあった。 三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。 右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。 圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。 双方の利害が一致した。 ※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

善人ぶった姉に奪われ続けてきましたが、逃げた先で溺愛されて私のスキルで領地は豊作です

しろこねこ
ファンタジー
「あなたのためを思って」という一見優しい伯爵家の姉ジュリナに虐げられている妹セリナ。醜いセリナの言うことを家族は誰も聞いてくれない。そんな中、唯一差別しない家庭教師に貴族子女にははしたないとされる魔法を教わるが、親切ぶってセリナを孤立させる姉。植物魔法に目覚めたセリナはペット?のヴィリオをともに家を出て南の辺境を目指す。

ペットたちと一緒に異世界へ転生!?魔法を覚えて、皆とのんびり過ごしたい。

千晶もーこ
ファンタジー
疲労で亡くなってしまった和菓。 気付いたら、異世界に転生していた。 なんと、そこには前世で飼っていた犬、猫、インコもいた!? 物語のような魔法も覚えたいけど、一番は皆で楽しくのんびり過ごすのが目標です! ※この話は小説家になろう様へも掲載しています

処理中です...