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22話
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フィレルさんの家に向かっている、はずだった。
はずだったのになんでこんなことになってるんだ?
どこかもわからない場所で両手は後ろで拘束され、脚も縄で縛られている。見えないがたぶん首にもなにか付いている。
フィレルさんは縛られてはいないが、両側に剣を構えた男がいて俺よりも危険な状況だ。
それでもフィレルさんの表情は涼しいものだった。
手を後ろで組み、ボスっぽい人を静かに見据えている。
ここに連れて来られる前、馬車に乗っている時に突然馬が暴れ、振り回されないよう必死にしがみつくことしかできなかった。
ようやく止まったかと思えばガラの悪い人たちに囲まれてしまったのだ。
そこから目隠しをされ、ここに連れてこられた。
怖くてたまらないけど、凛としているフィレルさんを見ていると自分だけみっともなく騒ぐことはできない。
「....随分、対応が早いですね。全て計画通りですか?」
「ははっ、そりゃ嫌味か?散々計画を狂わせておいて」
楽しそうに口を開いたのは、1人だけ椅子に座って偉そうにしているボスっぽいやつだ。
黒い髪に金色の瞳。耳も尻尾もネコ科っぽいけどこの威圧感は黒豹とかだろうか。
「あんたがここにいる事が想定外だって事、わかってんだろ?わざわざ殺されに来たのか?」
飄々とした喋り方で、本気で言っているのか冗談で言っているのかがわからない。
「まさか。貴方の雇い主を聞きに来ただけですよ」
雇い主....ってことはこの人たちが首謀者じゃないのか。
「ぶっははっ!面白い冗談だ!」
「貴方、ノックスですね」
「んー?なんだ、俺も随分有名になったな」
「ええ。裏の世界では有名ですよ。....仕事は選ぶと聞いていましたが...なぜこの仕事を?」
「そんなの面白そうだからに決まってんだろ。人生は短いんだ。楽しまなきゃ損だと思わねえか?」
「それについては同意しますが...貴方の言う"面白い事"は理解できそうにありません」
「そりゃそうさ!他人のことなんか理解できるわけがない。理解しようとするだけ無駄だね」
なにが面白いのか、けらけらと笑っている姿はゾッとするほど異様に見える。
「さて、そろそろ本題に入るか。あんたには二つの選択肢がある。一つはここで大人しく殺される事。ああ、安心しろ、死に方は選ばせてやる」
「なっ...!」
先程と変わらない口調で恐ろしいことを言い放った。
思わず声を出してしまった俺の方を、金色の瞳がチラリと向く。
たったそれだけなのに俺の身体はびくりと震えた。
その反応を見て嬉しそうに口の端を吊り上げると、首に付いている物に指を引っ掛けぐいっと引っ張られた。
「うわっ」
腕も脚も縛られているためバランスを崩してノックスの太ももに顔を乗せ、跪くような格好になってしまった。
上体を起こそうにも未だ引っ張られたままでそれもできない。
ぐっと顎を押され顔を上げさせられるとノックスの楽しそうな顔が目に入る。
「もう一つはこいつに殺されそうになったと騒ぎ立てること」
「は!?」
「ふっ、反応があるのはいいな。あいつ見てみろ。ろくな反応しやがらねえ。やっぱお貴族様なんぞ相手にするもんじゃねえな」
「っ」
ちらりとフィレルさんの方を見るとたしかに表情は変わっていない。
だが、俺と目が合うと安心させるかのようににっこりと微笑んでくれた。
う、やばい。涙でそう.....。
「そのような計画、本当に上手くいくと思っているのですか?」
「さあな。俺は別に成功しようが失敗しようがどっちでもいい」
「....捕まれば極刑は免れませんよ」
「なんだ?心配でもしてくれるのか?」
「まさか」
「ふん、可愛くねえなぁ。まあいい。で、どっちにする?」
ノックスがまるで洋食か和食どっちがいい?みたいなノリで聞く。とても死ぬか、半殺しかどっちがいいか聞いている声色じゃない。
それでもフィレルさんは淡々と答えた。
「私が命乞いをするとでも?」
「チッ、つまんねえなぁ」
「フィ、フィレルさん!?」
待って待って!おかしいでしょ!そんな簡単に答えられるものじゃないし、答えられたとしても死ぬより半殺しの方がマシでしょ!?
「こいつの方がよっぽど面白い」
「うっ」
首のものを上に引っ張られ、脚からは離れられたものの今度はノックスの顔が近づく。
「お前はどっちがいい?」
「っ、そん、なの...決められるわけ....」
「簡単な話だ。あいつが死ぬか、レムール国が死ぬかどっちがいい?」
「は....?なんで、レムールが....」
しかも全然簡単な話じゃないし!
「ん?なんだ、わかってなかったのか?...まさか自分の利用価値も知らないんじゃないだろうな」
そういえば...ここに連れて来られる前にそんな話をしてたけど、どんな利用価値があるのかは聞いていなかった。
「おい嘘だろ。教えてやってないのか?」
俺の反応を見てノックスは呆れたように言った。
「お前は全面戦争の引き金になるんだよ」
はずだったのになんでこんなことになってるんだ?
どこかもわからない場所で両手は後ろで拘束され、脚も縄で縛られている。見えないがたぶん首にもなにか付いている。
フィレルさんは縛られてはいないが、両側に剣を構えた男がいて俺よりも危険な状況だ。
それでもフィレルさんの表情は涼しいものだった。
手を後ろで組み、ボスっぽい人を静かに見据えている。
ここに連れて来られる前、馬車に乗っている時に突然馬が暴れ、振り回されないよう必死にしがみつくことしかできなかった。
ようやく止まったかと思えばガラの悪い人たちに囲まれてしまったのだ。
そこから目隠しをされ、ここに連れてこられた。
怖くてたまらないけど、凛としているフィレルさんを見ていると自分だけみっともなく騒ぐことはできない。
「....随分、対応が早いですね。全て計画通りですか?」
「ははっ、そりゃ嫌味か?散々計画を狂わせておいて」
楽しそうに口を開いたのは、1人だけ椅子に座って偉そうにしているボスっぽいやつだ。
黒い髪に金色の瞳。耳も尻尾もネコ科っぽいけどこの威圧感は黒豹とかだろうか。
「あんたがここにいる事が想定外だって事、わかってんだろ?わざわざ殺されに来たのか?」
飄々とした喋り方で、本気で言っているのか冗談で言っているのかがわからない。
「まさか。貴方の雇い主を聞きに来ただけですよ」
雇い主....ってことはこの人たちが首謀者じゃないのか。
「ぶっははっ!面白い冗談だ!」
「貴方、ノックスですね」
「んー?なんだ、俺も随分有名になったな」
「ええ。裏の世界では有名ですよ。....仕事は選ぶと聞いていましたが...なぜこの仕事を?」
「そんなの面白そうだからに決まってんだろ。人生は短いんだ。楽しまなきゃ損だと思わねえか?」
「それについては同意しますが...貴方の言う"面白い事"は理解できそうにありません」
「そりゃそうさ!他人のことなんか理解できるわけがない。理解しようとするだけ無駄だね」
なにが面白いのか、けらけらと笑っている姿はゾッとするほど異様に見える。
「さて、そろそろ本題に入るか。あんたには二つの選択肢がある。一つはここで大人しく殺される事。ああ、安心しろ、死に方は選ばせてやる」
「なっ...!」
先程と変わらない口調で恐ろしいことを言い放った。
思わず声を出してしまった俺の方を、金色の瞳がチラリと向く。
たったそれだけなのに俺の身体はびくりと震えた。
その反応を見て嬉しそうに口の端を吊り上げると、首に付いている物に指を引っ掛けぐいっと引っ張られた。
「うわっ」
腕も脚も縛られているためバランスを崩してノックスの太ももに顔を乗せ、跪くような格好になってしまった。
上体を起こそうにも未だ引っ張られたままでそれもできない。
ぐっと顎を押され顔を上げさせられるとノックスの楽しそうな顔が目に入る。
「もう一つはこいつに殺されそうになったと騒ぎ立てること」
「は!?」
「ふっ、反応があるのはいいな。あいつ見てみろ。ろくな反応しやがらねえ。やっぱお貴族様なんぞ相手にするもんじゃねえな」
「っ」
ちらりとフィレルさんの方を見るとたしかに表情は変わっていない。
だが、俺と目が合うと安心させるかのようににっこりと微笑んでくれた。
う、やばい。涙でそう.....。
「そのような計画、本当に上手くいくと思っているのですか?」
「さあな。俺は別に成功しようが失敗しようがどっちでもいい」
「....捕まれば極刑は免れませんよ」
「なんだ?心配でもしてくれるのか?」
「まさか」
「ふん、可愛くねえなぁ。まあいい。で、どっちにする?」
ノックスがまるで洋食か和食どっちがいい?みたいなノリで聞く。とても死ぬか、半殺しかどっちがいいか聞いている声色じゃない。
それでもフィレルさんは淡々と答えた。
「私が命乞いをするとでも?」
「チッ、つまんねえなぁ」
「フィ、フィレルさん!?」
待って待って!おかしいでしょ!そんな簡単に答えられるものじゃないし、答えられたとしても死ぬより半殺しの方がマシでしょ!?
「こいつの方がよっぽど面白い」
「うっ」
首のものを上に引っ張られ、脚からは離れられたものの今度はノックスの顔が近づく。
「お前はどっちがいい?」
「っ、そん、なの...決められるわけ....」
「簡単な話だ。あいつが死ぬか、レムール国が死ぬかどっちがいい?」
「は....?なんで、レムールが....」
しかも全然簡単な話じゃないし!
「ん?なんだ、わかってなかったのか?...まさか自分の利用価値も知らないんじゃないだろうな」
そういえば...ここに連れて来られる前にそんな話をしてたけど、どんな利用価値があるのかは聞いていなかった。
「おい嘘だろ。教えてやってないのか?」
俺の反応を見てノックスは呆れたように言った。
「お前は全面戦争の引き金になるんだよ」
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