上 下
3 / 37

1話

しおりを挟む
あまりの眩しさに目を瞑って光が収まってから目を開けるとそこはもう先程の場所ではなかった。

あれだけ居た人も誰も居ない。
隣にいるメイヤットさんと俺の2人だけだ。

うわぁ....一瞬で別の場所に....。
凄いなぁ...。

辺りは一面木で覆われている。

「あの、ここはどこなんでしょう?」

「........」

あれ?メイヤットさん?

俺が話しかけても聞こえていないのか青い顔で辺りを見回している。

え、ちょっと待って。送られる場所間違えたとかそんな感じ?

確かに周りに味方すら居ないのは不自然だ。

じゃあこのまま逃げるとかも有りか?
夢が覚めるまでどこかでのんびりしてた方がよっぽどいい。

「....勇者様、どうやら転送先の座標が間違っていたようです。定かではありませんが....おそらくここはネイベル...。すでに敵国へ来てしまったかもしれません」

「ええ!?」

「お静かに」

ぴしゃりと言われ慌てて口を閉じる。

敵国って!たった2人で居ていい場所じゃないでしょ!
さくっと逃げましょう!そうしましょう!

メイヤットさんに逃げよう、と言おうとした直後、「ぐぁっ!」とくぐもったうめき声が隣から聞こえた。

えっ、なにっ。どうしたの!?

がくん、と崩れ落ちたメイヤットさんを見ると足首に矢が刺さっており、血がどくどくと流れている。

「ひっ!」

グロっ!怖っ!なにが起こってんの!?

「メイヤットさん!?大丈夫ですか!?」

「勇者様...、お逃げくださいっ....」

いや、逃げるつったって右も左もわからないのにどうやって逃げるのさ!
しかも矢を放った人がどこに居るかも分からない。

もおおおお!怖いよ!どんだけ長い夢なのよ!

取り敢えず止血?矢は抜いちゃ駄目だよな...。
止血するにも縛る紐がないからしょうがなくスウェットを切ろうと剣を抜く。

「いっ....!」

その直後、俺の手を何かが掠めた。

なに!?痛いんだけど!
見ると手の甲がざっくりと裂けている。

ぎゃあああ!なに!?なんで痛いの!?これ夢だろ!?
感じるはずのない痛みに頭の中はパニックだ。


「動くな」


突如聞こえた声に俺の身体はぎくりと固まった。

聞いたことのないような、冷たくて低い声。
殺気、というものを感じたことがないのでこれがそうなのか分からないが背筋が凍りつき、手の痛みも忘れた。

「剣を遠くに捨ててゆっくり立ち上がれ」

顔を上げることも出来ず、震える手で剣を放り投げる。
ただ、腰が抜けてしまい立ち上がることが出来なかった。

代わりにゆっくり両手と顔を上げ、声が震えないように口を開く。

「す、すみません.....。腰が抜けてしまって——」

顔を上げると弓を構えている男と目が合った。

———その綺麗さに思わず息を呑む。

銀髪の長い髪に獣のような金色の瞳。
ピクピクと忙しなく動く、髪と同じ色の犬のような耳。
顔は普通——いや、尋常ではないほどの美形ではあるが人と同じ容姿をしている。
尻尾は見えないが獣人族だ。

「.....綺麗....」

弓を構えられているのも忘れて思わず声が漏れた。

「勇者様...私が時間を稼ぎますので」

「少しでも動いたら射るぞ」

小声で話すメイヤットさんの声も聞こえていたようで被せるように言い放ち一歩踏み出す。

「そいつの剣も捨てろ」

「あ、あの...、止血だけでもさせてもらえませんか...?」

足の出血が気になって仕方がない。
心なしかメイヤットさんの顔色も悪くなってきてる気がする。

「.....少しでも変な動きをすればわかってるな?」

「は、はい...」

ギロリと睨みつけられ身体が竦む。

...これは現実か?自分の心臓の音がやけにうるさく聞こえ、手の痛みもぶり返してきた。

だとしたら、この後はどうなってしまうんだろうか。
震える手で剣を抜こうとすると男が叫んだ。

「動くな!」

「ひっ!」

「射られたいのか?」

「ち、違います...!縛る紐が無いので服を切りたくて...」

「引きちぎればいいだろう。剣は捨てろ」

引きちぎる!?どう考えても無理でしょ!
あなたみたいなムキムキと一緒にしないで頂きたい!

それでも頑張って引きちぎろとしても服は伸びるばかりで破れる気がしない。
するとメイヤットさんがもぞもぞと動くのが見えた。


ドスッ


直後、鈍い音が響く。

「え.....」

懐に入れていたメイヤットさんの手が、ナイフを掴んだままだらりと力なく垂れた。

「メ...メイヤット...さん....?」

喉に、矢が.....。

「っ....!なっ....!」

し、死んでる...!?
男と、そしてメイヤットさんと距離をとろうと必死に足を動かす。

こわいこわいこわい!
なんで俺がこんな目に!?夢だろ!早く覚めろよ!

頭をがしがしかくと右手がズキンと痛んだ。
まるで、これは現実だとでも言うように。

男を見ると新たな矢をつがえてこちらを睨みつけている。

もうやだ。俺なんか悪いことした?

ブルブルと震える体を抱きしめて目をぎゅっと瞑る。

「おい、何故こんなところに居る。他に人はいないのか?」

「........」

「おい!答えろ!」

「....知らないよ!俺はなんにも知らない!いきなり連れてこられただけだ!勇者でもなんでもない!」

なんなんだよ!もう!
勇者ってあれだろ?チート授かったやつのことだろ!?俺にはなにもないから!なんの力もないただの大学生だから!女神様からなにも授かってないから!

近くでガザリと音がしたかと思えば俺の意識はそこで途切れた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】僕の異世界転生先は卵で生まれて捨てられた竜でした

エウラ
BL
どうしてこうなったのか。 僕は今、卵の中。ここに生まれる前の記憶がある。 なんとなく異世界転生したんだと思うけど、捨てられたっぽい? 孵る前に死んじゃうよ!と思ったら誰かに助けられたみたい。 僕、頑張って大きくなって恩返しするからね! 天然記念物的な竜に転生した僕が、助けて育ててくれたエルフなお兄さんと旅をしながらのんびり過ごす話になる予定。 突発的に書き出したので先は分かりませんが短い予定です。 不定期投稿です。 本編完結で、番外編を更新予定です。不定期です。

大好きな乙女ゲームの世界に転生したぞ!……ってあれ?俺、モブキャラなのに随分シナリオに絡んでませんか!?

あるのーる
BL
普通のサラリーマンである俺、宮内嘉音はある日事件に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 しかし次に目を開けた時、広がっていたのは中世ファンタジー風の風景だった。前世とは似ても似つかない風貌の10歳の侯爵令息、カノン・アルベントとして生活していく中、俺はあることに気が付いてしまう。どうやら俺は「きっと未来は素晴らしく煌めく」、通称「きみすき」という好きだった乙女ゲームの世界に転生しているようだった。 ……となれば、俺のやりたいことはただ一つ。シナリオの途中で死んでしまう運命である俺の推しキャラ(モブ)をなんとしてでも生存させたい。 学園に入学するため勉強をしたり、熱心に魔法の訓練をしたり。我が家に降りかかる災いを避けたり辺境伯令息と婚約したり、と慌ただしく日々を過ごした俺は、15になりようやくゲームの舞台である王立学園に入学することができた。 ……って、俺の推しモブがいないんだが? それに、なんでか主人公と一緒にイベントに巻き込まれてるんだが!? 由緒正しきモブである俺の運命、どうなっちゃうんだ!? ・・・・・ 乙女ゲームに転生した男が攻略対象及びその周辺とわちゃわちゃしながら学園生活を送る話です。主人公が攻めで、学園卒業まではキスまでです。 始めに死ネタ、ちょくちょく虐待などの描写は入るものの相手が出てきた後は基本ゆるい愛され系みたいな感じになるはずです。

異世界でチートをお願いしたら、代わりにショタ化しました!?

ミクリ21
BL
39歳の冴えないおっちゃんである相馬は、ある日上司に無理矢理苦手な酒を飲まされアル中で天に召されてしまった。 哀れに思った神様が、何か願いはあるかと聞くから「異世界でチートがほしい」と言った。 すると、神様は一つの条件付きで願いを叶えてくれた。 その条件とは………相馬のショタ化であった!

明日もいい日でありますように。~異世界で新しい家族ができました~

葉山 登木
BL
『明日もいい日でありますように。~異世界で新しい家族ができました~』 書籍化することが決定致しました! アース・スター ルナ様より、今秋2024年10月1日(火)に発売予定です。 Webで更新している内容に手を加え、書き下ろしにユイトの母親視点のお話を収録しております。 これも、作品を応援してくれている皆様のおかげです。 更新頻度はまた下がっていて申し訳ないのですが、ユイトたちの物語を書き切るまでお付き合い頂ければ幸いです。 これからもどうぞ、よろしくお願い致します。  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 祖母と母が亡くなり、別居中の父に引き取られた幼い三兄弟。 暴力に怯えながら暮らす毎日に疲れ果てた頃、アパートが土砂に飲み込まれ…。 目を覚ませばそこは日本ではなく剣や魔法が溢れる異世界で…!? 強面だけど優しい冒険者のトーマスに引き取られ、三兄弟は村の人や冒険者たちに見守られながらたくさんの愛情を受け成長していきます。 主人公の長男ユイト(14)に、しっかりしてきた次男ハルト(5)と甘えん坊の三男ユウマ(3)の、のんびり・ほのぼのな日常を紡いでいけるお話を考えています。 ※ボーイズラブ・ガールズラブ要素を含める展開は98話からです。 苦手な方はご注意ください。

天涯孤独の僕は異世界で辺境伯に囚われる

ねこや
BL
辺境伯×青年 3年前、両親を事故で失った伊関 雪人は、叔父夫婦に引き取られた。 悲しみが癒える間も無く、雪人は従姉から酷い虐めを受ける。 高校卒業まで1週間となったある日、従姉に髪を切られそうになったところで異世界へ召喚された。 見た目だけはか弱く可憐な従姉に一目惚れした王太子は、神子は従姉の方だと断定する。 ハサミを持った従姉の手首を必死で掴んでいた雪人は、神子に害をなそうとしていたと投獄されかけたが、その場に居合わせた辺境伯ーーアステール・オルムバーンに引き取られた。 雪人を召使いにして監視するか魔物の森へ追放するというアステールだったがーー

転生したらいつの間にかフェンリルになってた〜しかも美醜逆転だったみたいだけど俺には全く関係ない〜

春色悠
BL
 俺、人間だった筈だけなんだけどなぁ………。ルイスは自分の腹に顔を埋めて眠る主を見ながら考える。ルイスの種族は今、フェンリルであった。  人間として転生したはずが、いつの間にかフェンリルになってしまったルイス。  その後なんやかんやで、ラインハルトと呼ばれる人間に拾われ、暮らしていくうちにフェンリルも悪くないなと思い始めた。  そんな時、この世界の価値観と自分の価値観がズレている事に気づく。  最終的に人間に戻ります。同性婚や男性妊娠も出来る世界ですが、基本的にR展開は無い予定です。  美醜逆転+髪の毛と瞳の色で美醜が決まる世界です。

BLゲームのモブとして転生したはずが、推し王子からの溺愛が止まらない~俺、壁になりたいって言いましたよね!~

志波咲良
BL
主人公――子爵家三男ノエル・フィニアンは、不慮の事故をきっかけに生前大好きだったBLゲームの世界に転生してしまう。 舞台は、高等学園。夢だった、美男子らの恋愛模様を壁となって見つめる日々。 そんなある日、推し――エヴァン第二王子の破局シーンに立ち会う。 次々に展開される名シーンに感極まっていたノエルだったが、偶然推しの裏の顔を知ってしまい――? 「さて。知ってしまったからには、俺に協力してもらおう」 ずっと壁(モブ)でいたかったノエルは、突然ゲーム内で勃発する色恋沙汰に巻き込まれてしまう!? □ ・感想があると作者が喜びやすいです ・お気に入り登録お願いします!

宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている

飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話 アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。 無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。 ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。 朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。 連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。 ※6/20追記。 少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。 今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。 1話目はちょっと暗めですが………。 宜しかったらお付き合い下さいませ。 多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。 ストックが切れるまで、毎日更新予定です。

処理中です...