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育児
別人
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借りた小説は、途中までしか読んでいないが、村西さんに返す事にした。もちろんモデルの件も断るつもりだ。
またあんなことになったら困るしね。
だが、そう決めた途端村西さんとはなかなか会えなくなり、鞄にはずっと本が入ったままになっている。
喜生と來生もあおくんに会いたいとよくぐずるようになってきた。幼稚園で毎日会っているのでは、と思うのだがそれとはまた別らしい。
そして、会わない間に俺はカフェでのバイトを始めた。
年配のオーナーが経営している、落ち着いた雰囲気のカフェだ。そこまで忙しくはないが常連さんが多く、名前やその人がよく頼むメニューなど、覚えることは結構多い。
バイトをすること自体郁人に猛反対されたが、実際にこのお店にも訪れ、ここなら、と渋々了承してくれた。
「いらっしゃいませ」
カラン、とドアベルが心地のいい音を立て、お客さんが二人入ってきた。
「あれ、伊織くん?」
「?」
その内の一人に声をかけられたのだが...、こんなイケメンは知り合いにいないぞ。
少し長めの髪をきっちりと後ろで束ね、綺麗めのジャケットをかっこよく着こなしている。
「えっと....」
「あ、この格好で会ったことなかったっけ」
そう言われてよく見てみると——
「...もしかして、村西さんですか....?」
「そうそう。久しぶりだね」
村西さんそんなイケメンだったんですか!?いつものボサボサ頭と髭はどこにいったんですか!
身なりを整えるだけでこうも違うのか、と驚きである。
「先生、こちらの方は...?」
隣にいた方が控えめに俺に視線を向けた。
「ああ、今度の小説の主人公だよ」
「...!この方が...」
え、それ本当に書いてるんですか?
隣の方は村西さんの担当さんだそうだ。わざわざ名刺も頂いた。
「そういえば、僕の本読んでくれた?」
テーブル席へ案内し、コーヒーを持って行ったタイミングで聞かれた。
「......途中まで読みました」
「途中までってことはやっぱり郁人くんに没収されちゃった?」
「えっ!?」
なんでそんなことわかるんですか!?しかも"やっぱり"ってなに!?
「明らかに独占欲強そうだったもんね。また嫌われちゃったかな」
「....えっと、なんかすいません」
こればっかりは謝るしかない。
「面白くなかった?」
「....いえ、正直ああいった小説を読んだのは初めてですが、面白かったです。.....でも」
「モデルは無理?」
村西さんの言葉にこくりと頷く。
「先生がモデルを頼むなんて珍しいですね」
「え、そうなんですか?」
「はい。少なくとも私が担当になってからは一度もありません」
村西さんの担当は三年目だそうだ。モデルがいないと書けない、とかだったら申し訳ないなと思っていたが、そうではないようで安心した。
「僕の周りにはいないタイプだから、縛ったらどんな表情するか見てみたかったんだけどね」
村西さんがさらりと言った言葉に目を剥く。
えっ!?し、縛る...!?
「先生、それセクハラですよ」
「あっ、ごめん!そういうつもりはなくて!」
「あー、いえ、わかってます」
それがお仕事ですもんね。
.....うん。でもやっぱり断ってよかったな。
別世界すぎて想像できないし、きっと場違いだ。
「.....できたら、碧とは今まで通り接してやってほしいな」
「あ、そのことなんですけど、喜生と來生も幼稚園で会ってるのに寂しがってるんですよ。今度また家来ませんか?...あ、でもお仕事忙しいですかね...?」
「え?僕も行っていいのかい?」
なぜか驚いた顔で聞き返してくる。
「え?当たり前じゃないですか。あ、もしかして郁人のこと気にしてます?あいつのことは無視してもらっていいんで」
さっきも郁人に嫌われたかな、って言っていたからもしかしたらそれで来づらくなっていたのかもしれない。
でも、郁人も言うほど嫌ってはいないと思う。
会うな、とも言われていないし、そもそも家に呼んでる時点である程度信頼はしているはずだ。喜生と來生が碧くんと仲が良いというのもあるけれど。
「......確かに、こういった方は周りにいませんね」
「でしょう?すごいよね。天然記念物だよね」
えっと....、なんの話ですか?
意味がわからずポカンとしている俺をよそに、そのまま二人で仕事の話しを始めてしまい、丁度他のお客さんも来てしまったため、返事をもらい損ねてしまった。
またあんなことになったら困るしね。
だが、そう決めた途端村西さんとはなかなか会えなくなり、鞄にはずっと本が入ったままになっている。
喜生と來生もあおくんに会いたいとよくぐずるようになってきた。幼稚園で毎日会っているのでは、と思うのだがそれとはまた別らしい。
そして、会わない間に俺はカフェでのバイトを始めた。
年配のオーナーが経営している、落ち着いた雰囲気のカフェだ。そこまで忙しくはないが常連さんが多く、名前やその人がよく頼むメニューなど、覚えることは結構多い。
バイトをすること自体郁人に猛反対されたが、実際にこのお店にも訪れ、ここなら、と渋々了承してくれた。
「いらっしゃいませ」
カラン、とドアベルが心地のいい音を立て、お客さんが二人入ってきた。
「あれ、伊織くん?」
「?」
その内の一人に声をかけられたのだが...、こんなイケメンは知り合いにいないぞ。
少し長めの髪をきっちりと後ろで束ね、綺麗めのジャケットをかっこよく着こなしている。
「えっと....」
「あ、この格好で会ったことなかったっけ」
そう言われてよく見てみると——
「...もしかして、村西さんですか....?」
「そうそう。久しぶりだね」
村西さんそんなイケメンだったんですか!?いつものボサボサ頭と髭はどこにいったんですか!
身なりを整えるだけでこうも違うのか、と驚きである。
「先生、こちらの方は...?」
隣にいた方が控えめに俺に視線を向けた。
「ああ、今度の小説の主人公だよ」
「...!この方が...」
え、それ本当に書いてるんですか?
隣の方は村西さんの担当さんだそうだ。わざわざ名刺も頂いた。
「そういえば、僕の本読んでくれた?」
テーブル席へ案内し、コーヒーを持って行ったタイミングで聞かれた。
「......途中まで読みました」
「途中までってことはやっぱり郁人くんに没収されちゃった?」
「えっ!?」
なんでそんなことわかるんですか!?しかも"やっぱり"ってなに!?
「明らかに独占欲強そうだったもんね。また嫌われちゃったかな」
「....えっと、なんかすいません」
こればっかりは謝るしかない。
「面白くなかった?」
「....いえ、正直ああいった小説を読んだのは初めてですが、面白かったです。.....でも」
「モデルは無理?」
村西さんの言葉にこくりと頷く。
「先生がモデルを頼むなんて珍しいですね」
「え、そうなんですか?」
「はい。少なくとも私が担当になってからは一度もありません」
村西さんの担当は三年目だそうだ。モデルがいないと書けない、とかだったら申し訳ないなと思っていたが、そうではないようで安心した。
「僕の周りにはいないタイプだから、縛ったらどんな表情するか見てみたかったんだけどね」
村西さんがさらりと言った言葉に目を剥く。
えっ!?し、縛る...!?
「先生、それセクハラですよ」
「あっ、ごめん!そういうつもりはなくて!」
「あー、いえ、わかってます」
それがお仕事ですもんね。
.....うん。でもやっぱり断ってよかったな。
別世界すぎて想像できないし、きっと場違いだ。
「.....できたら、碧とは今まで通り接してやってほしいな」
「あ、そのことなんですけど、喜生と來生も幼稚園で会ってるのに寂しがってるんですよ。今度また家来ませんか?...あ、でもお仕事忙しいですかね...?」
「え?僕も行っていいのかい?」
なぜか驚いた顔で聞き返してくる。
「え?当たり前じゃないですか。あ、もしかして郁人のこと気にしてます?あいつのことは無視してもらっていいんで」
さっきも郁人に嫌われたかな、って言っていたからもしかしたらそれで来づらくなっていたのかもしれない。
でも、郁人も言うほど嫌ってはいないと思う。
会うな、とも言われていないし、そもそも家に呼んでる時点である程度信頼はしているはずだ。喜生と來生が碧くんと仲が良いというのもあるけれど。
「......確かに、こういった方は周りにいませんね」
「でしょう?すごいよね。天然記念物だよね」
えっと....、なんの話ですか?
意味がわからずポカンとしている俺をよそに、そのまま二人で仕事の話しを始めてしまい、丁度他のお客さんも来てしまったため、返事をもらい損ねてしまった。
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