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プロポーズ
嘘だろ
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月曜日。
冷静になればなるほど、あの日の出来事を思い出すと顔が熱くなる。
残念ながらどうやって帰ってきたかは覚えてないのに、あの時のことはちゃんと覚えている。
夢だとも思いたかったのだが、首筋に残った赤い跡が夢ではないと告げていた。
幸い2日で消えてくれたが、土日は気になって出かけられなかった。
土曜日に郁人から大丈夫かと連絡があり、それに返信したきりで顔を合わせづらい。
憂鬱な気分で満員電車に揺られていた。
まあ、憂鬱なのは先日の出来事に限ってるわけではないのだが。
満員電車とは何年通っても慣れないもので、避けるために早い電車に乗っていたのだが土日あまり寝れなかったこともあり、いつもより一本遅い電車になってしまったのだ。
一本遅いだけでこの混みようって....。
げんなりするほどぎゅうぎゅう詰めで、俺は痴漢に間違われないように両手を扉について必死に耐えていた。
香水やらワックスの匂いが混ざり合い、気分もあまり良くない。
あと二駅。あと二駅の我慢だ。
そう自分に言い聞かせていると、お尻になにか当たっている事に気づいた。
まあこの混みようだし、なにかが当たってしまうのは仕方ない。実際俺も隣の人と肩がぶつかってるわけだし。
だがそのなにかは俺のお尻の付け根から撫でるように上へ滑らせ、割れ目に沿って下へおりてくる。
明らかにおかしい動きだ。
え、もしかして痴漢.....?
身動きがとれない中、初めて遭遇する出来事に確信が持てない。
違う...よな....?
そう思おうとしても撫でまわすような動きが止まることはない。
「っ!」
それどころかぎゅっとお尻を掴まれた。
う、嘘だろ...!?なんで俺なんか....。
抵抗しないからか、どんどんエスカレートしていく。
弾力を確かめるようにぐにぐにと揉みしだき、割れ目に押し入ってくる。
お尻を締めても意味がなかった。むしろそれすらも楽しむかのように広げられる。
い、やだ....!気持ち悪い....!
声を出すこともできず、扉に置いた手をぎゅっとにぎる。
いつの間にか荒い息遣いが聞こえるほど密着しており、ぞわりと肌が粟立った。そしてお尻を揉んでいた手がゆっくりと前へ伸ばされる。
ぎゅっと目を瞑った瞬間———
「先輩!」
聞き覚えのある声が車両に響いた。
その声のおかげで前へ伸ばされた手が引っ込み、触られずに済んだ。
荒い息遣いも聞こえなくなり、ほっとして声のした方を振り向くと郁人が人混みをかきわけてこちらに向かってくるのが見えた。
周りは迷惑そうに顔をしかめているが、俺にとってはそれが嬉しかった。守るように扉に手をつき、後ろに立ってくれる。
「先輩大丈夫ですか!?もしかして痴——」
「しー!声がでかい!」
「す、すみません。でも触られたんじゃ....」
「あー、うん。けどお尻だけだし、郁人が声かけてくれたおかげで助かったからいい。ありがとな」
あまり大事にしたくない。
「........わかりました。じゃあどこ触られたか教えてください。消毒したいんで」
「は?」
「言いたくなければ全体的に消毒しますね。嫌だったら足踏んでください」
「え、ちょ、なに言って——っ!」
意味がわからないまま、お尻を撫でられた。
しょ、消毒ってそういうこと!?
俺の反応を見ながらゆっくりと優しく撫であげる。嫌がらなかったからか、だんだん手つきが怪しくなってきた。
「い、郁人っ....、まっ...て....」
「嫌ですか?」
「い、嫌じゃない....けどっ......」
先程と同じ状況なのに、触っている人が違うだけでこうも違うのか。郁人に触られると身体の奥からじんわりと熱が生まれ、違う意味でやばい。
「けど?」
「......へ、変な気分になる、から...やめて....」
お尻を這う手がぴたりと止まり、ため息をつきながら左肩に頭を乗せられた。
「郁人....?」
「それ、誘ってるんですか?」
耳元で囁かれ、甘くて低い声に背筋がぞくりと震えた。
「さっ!そってないっ.....!」
大きな声が出でしまい、慌てて声を抑える。
「本当ですか?首まで赤くなってるのに?」
「っ!ばかっ、やめろっ」
息を首筋にふーっと吹きかけられ大袈裟なくらい身体が跳ねた。
だめだ。これ以上はほんとだめ。
そこでタイミングよく降りる駅名がアナウンスされ、扉が開いた瞬間に郁人から離れた。
「先輩!待ってくださいよ~」
「うるさいっ。お前もう当分近づくの禁止!」
「嫌です」
即答かよっ。
「っ、そもそもなんであの時間に....」
そりゃあ助かったけどさ。
郁人とは最寄駅が同じで、いつも一緒に通勤していた。ただ、約束しているわけではなく、俺がいつも乗っている電車に郁人も乗るようになっただけだ。
一応いつもの電車に乗っていないのかと連絡がきたので、寝坊した旨を伝えたのにまさか郁人まで遅らせるとは思わなかった。
「ああなるって予想してたんで俺も遅らせたんですよ。どこの車両か連絡したのに返事来ないから焦りました」
「え、そうなのか。ごめん、携帯見る余裕なかった。.....でも痴漢なんてされたの初めてだぞ....?」
なんで予想できたんだ?
「伊織先輩はもう少し自分が魅力的なことを自覚してください」
み、魅力的!?
「.......買い被りすぎじゃないか?」
「過小評価しすぎです」
「っ」
きっぱりと言われてしまい言葉に詰まる。
「...でも俺モテないぞ....?」
実際告白されたこともなければ実ったこともない。
....ええ、ええ。童貞ですけどなにか?
「先輩は高嶺の花ですからね」
はい?こいつはなにを恥ずかしげもなく言ってんだ?
「伊織先輩顔のこと言われるの嫌いみたいなんで言ってなかったですけど、めっちゃ美人なんですよ。だからみんな気後れするんじゃないですか?まあ伊織先輩のいいところは顔だけじゃないですけどね」
び、美人とか言われても嬉しくないんだけど....。
だいたい自分の顔もそこまでいいとは思えない。ただ中性的なだけで俺としてはもっと男らしい顔の方がいい。
「とにかく、今後は満員電車に1人で乗らないでくださいね」
またあんなことがあったら嫌だし、それについては力強く頷いた。
そして、その日から郁人の様子が少しおかしくなった。
冷静になればなるほど、あの日の出来事を思い出すと顔が熱くなる。
残念ながらどうやって帰ってきたかは覚えてないのに、あの時のことはちゃんと覚えている。
夢だとも思いたかったのだが、首筋に残った赤い跡が夢ではないと告げていた。
幸い2日で消えてくれたが、土日は気になって出かけられなかった。
土曜日に郁人から大丈夫かと連絡があり、それに返信したきりで顔を合わせづらい。
憂鬱な気分で満員電車に揺られていた。
まあ、憂鬱なのは先日の出来事に限ってるわけではないのだが。
満員電車とは何年通っても慣れないもので、避けるために早い電車に乗っていたのだが土日あまり寝れなかったこともあり、いつもより一本遅い電車になってしまったのだ。
一本遅いだけでこの混みようって....。
げんなりするほどぎゅうぎゅう詰めで、俺は痴漢に間違われないように両手を扉について必死に耐えていた。
香水やらワックスの匂いが混ざり合い、気分もあまり良くない。
あと二駅。あと二駅の我慢だ。
そう自分に言い聞かせていると、お尻になにか当たっている事に気づいた。
まあこの混みようだし、なにかが当たってしまうのは仕方ない。実際俺も隣の人と肩がぶつかってるわけだし。
だがそのなにかは俺のお尻の付け根から撫でるように上へ滑らせ、割れ目に沿って下へおりてくる。
明らかにおかしい動きだ。
え、もしかして痴漢.....?
身動きがとれない中、初めて遭遇する出来事に確信が持てない。
違う...よな....?
そう思おうとしても撫でまわすような動きが止まることはない。
「っ!」
それどころかぎゅっとお尻を掴まれた。
う、嘘だろ...!?なんで俺なんか....。
抵抗しないからか、どんどんエスカレートしていく。
弾力を確かめるようにぐにぐにと揉みしだき、割れ目に押し入ってくる。
お尻を締めても意味がなかった。むしろそれすらも楽しむかのように広げられる。
い、やだ....!気持ち悪い....!
声を出すこともできず、扉に置いた手をぎゅっとにぎる。
いつの間にか荒い息遣いが聞こえるほど密着しており、ぞわりと肌が粟立った。そしてお尻を揉んでいた手がゆっくりと前へ伸ばされる。
ぎゅっと目を瞑った瞬間———
「先輩!」
聞き覚えのある声が車両に響いた。
その声のおかげで前へ伸ばされた手が引っ込み、触られずに済んだ。
荒い息遣いも聞こえなくなり、ほっとして声のした方を振り向くと郁人が人混みをかきわけてこちらに向かってくるのが見えた。
周りは迷惑そうに顔をしかめているが、俺にとってはそれが嬉しかった。守るように扉に手をつき、後ろに立ってくれる。
「先輩大丈夫ですか!?もしかして痴——」
「しー!声がでかい!」
「す、すみません。でも触られたんじゃ....」
「あー、うん。けどお尻だけだし、郁人が声かけてくれたおかげで助かったからいい。ありがとな」
あまり大事にしたくない。
「........わかりました。じゃあどこ触られたか教えてください。消毒したいんで」
「は?」
「言いたくなければ全体的に消毒しますね。嫌だったら足踏んでください」
「え、ちょ、なに言って——っ!」
意味がわからないまま、お尻を撫でられた。
しょ、消毒ってそういうこと!?
俺の反応を見ながらゆっくりと優しく撫であげる。嫌がらなかったからか、だんだん手つきが怪しくなってきた。
「い、郁人っ....、まっ...て....」
「嫌ですか?」
「い、嫌じゃない....けどっ......」
先程と同じ状況なのに、触っている人が違うだけでこうも違うのか。郁人に触られると身体の奥からじんわりと熱が生まれ、違う意味でやばい。
「けど?」
「......へ、変な気分になる、から...やめて....」
お尻を這う手がぴたりと止まり、ため息をつきながら左肩に頭を乗せられた。
「郁人....?」
「それ、誘ってるんですか?」
耳元で囁かれ、甘くて低い声に背筋がぞくりと震えた。
「さっ!そってないっ.....!」
大きな声が出でしまい、慌てて声を抑える。
「本当ですか?首まで赤くなってるのに?」
「っ!ばかっ、やめろっ」
息を首筋にふーっと吹きかけられ大袈裟なくらい身体が跳ねた。
だめだ。これ以上はほんとだめ。
そこでタイミングよく降りる駅名がアナウンスされ、扉が開いた瞬間に郁人から離れた。
「先輩!待ってくださいよ~」
「うるさいっ。お前もう当分近づくの禁止!」
「嫌です」
即答かよっ。
「っ、そもそもなんであの時間に....」
そりゃあ助かったけどさ。
郁人とは最寄駅が同じで、いつも一緒に通勤していた。ただ、約束しているわけではなく、俺がいつも乗っている電車に郁人も乗るようになっただけだ。
一応いつもの電車に乗っていないのかと連絡がきたので、寝坊した旨を伝えたのにまさか郁人まで遅らせるとは思わなかった。
「ああなるって予想してたんで俺も遅らせたんですよ。どこの車両か連絡したのに返事来ないから焦りました」
「え、そうなのか。ごめん、携帯見る余裕なかった。.....でも痴漢なんてされたの初めてだぞ....?」
なんで予想できたんだ?
「伊織先輩はもう少し自分が魅力的なことを自覚してください」
み、魅力的!?
「.......買い被りすぎじゃないか?」
「過小評価しすぎです」
「っ」
きっぱりと言われてしまい言葉に詰まる。
「...でも俺モテないぞ....?」
実際告白されたこともなければ実ったこともない。
....ええ、ええ。童貞ですけどなにか?
「先輩は高嶺の花ですからね」
はい?こいつはなにを恥ずかしげもなく言ってんだ?
「伊織先輩顔のこと言われるの嫌いみたいなんで言ってなかったですけど、めっちゃ美人なんですよ。だからみんな気後れするんじゃないですか?まあ伊織先輩のいいところは顔だけじゃないですけどね」
び、美人とか言われても嬉しくないんだけど....。
だいたい自分の顔もそこまでいいとは思えない。ただ中性的なだけで俺としてはもっと男らしい顔の方がいい。
「とにかく、今後は満員電車に1人で乗らないでくださいね」
またあんなことがあったら嫌だし、それについては力強く頷いた。
そして、その日から郁人の様子が少しおかしくなった。
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