上 下
13 / 38

12.納得いかない!

しおりを挟む
両親は既に他界しており、どちらも黒髪黒目ではなかったそうだ。

田舎の村で生まれたヴァルクは、産まれてすぐ村を追い出された。大きくなってから親に聞いたらしいので、本当はもっと酷い状況だったかもしれない。幸い両親は、悪役によくある毒親ではなかったようで愛情を受けて育った。ただ、その幸せも長くは続かず、物心がついた頃に父親がヴァルクを庇って人間に殺され、母親もその数年後に流行病で亡くなってしまっている。それから歳を数えていないようだが、ゲームでは俺と同じ19歳だ。

父親が人間に殺されているのだから、恨んでもしかたないだろうに、母親は『人を恨んではいけないよ』と口癖のように言っていたという。
我が子を黒の悪魔にさせないためか、悪口などは一切言わなかったらしい。

両親が亡くなってから母親の言葉を信じて街へ行ったりもしたようだが、良くて怖がられ、悪ければ殺されそうになることが何度もあったという。

——よく、今まで生きていたものだ。子供なのに、誰にも頼れず、1人で。もともと魔力量が多いお陰で物理的な対処は問題なくできても、心は辛かっただろうに。
しかも、先程の言葉は母親の死に際の言葉らしい。

『今は辛いかもしれないけど、生きて....。生きてさえいれば、外見に惑わされず中身を見てくれる人が必ず現れるから。諦めないで...愛してるわ、ヴァルク。ひとりにして、ごめんなさい.....』

その言葉を聞いた時、耐えきれずに俺の涙腺は崩壊した。

「っ...ふ、....ごめっ....うっ....」

ヴァルクは泣いていないのに、俺が泣いたらダメだろ....!
頭ではわかっていても、一度溢れてしまった涙はなかなか止まってくれない。拭っても拭っても溢れてくる。

「サクヤ!?どうした?どこか痛むのか?」

突然泣き出した俺を見て、ヴァルクがどうしたらいいかわからないのかあたふたとしている。

うん。痛い。だけど、その当時のヴァルクの気持ちなんて、俺なんかが想像できるはずもない。だから、なんて言葉をかけたらいいかわからず、慌てるヴァルクを嗚咽を噛み殺しながら抱きしめた。

「サク....ヤ........?」

ヴァルクにしてみたら、突然の涙とハグだったようで、動揺がこちらにも伝わってきた。
それでも離さずにぎゅっと抱きついていると、戸惑いながらも、俺の背中に腕を回して、まるで子供をあやす時のようにゆっくり背中を撫でてくれる。
そのままの状態でヴァルクが耳元で囁いた。

「......本当にお前は、.....いつも俺の欲しいものをくれるな.....」

へ....?俺なんにもあげてないけど....?

嗚咽にかき消されそうなくらい小さな声で囁かれた言葉に、心当たりがない。
今日渡した服のお金は、ドロップアイテムを換金してそこからもらうことになってるから、俺があげることにはならない。

言葉の意味を考えていたら涙もほとんど止まったので、ヴァルクから身体を離し、変な声が出たら困るので首だけ傾げる。
だが、ヴァルクは言うつもりがないのか、「止まったか?」とだけ言って溢れた涙を指で優しく拭いてくれた。

「ん.....」

言うつもりがないのなら仕方ない。それよりも、なんか急に恥ずかしくなって顔を背けた。

「どうした?まだ痛むか?」

「う、ううんっ!大丈夫!」

だからちょっと離れてくださいっ!いや、俺が抱きついたんだけどね!?至近距離のイケメンは心臓に悪いんですよ....。



「ところで.....、友達、とは具体的になにをするんだ....?」

俺の涙も完全に止まり、そろそろ解散かな、というところでヴァルクが言った。
一瞬え?と思ったが、よく考えたみたらそうだ。昔の話を聞いた限りでは家族以外の人とはまともに話せなかったようだし。

「んー、別に決まってるわけじゃないよ。ご飯行ったり、ダンジョン行ったり?ヴァルクはなんかやりたいことないの?」

「...................思いつかない」

頑張って考えていたがすぐには思いつかなかったらしい。そりゃそうか。

「あ!じゃあ来週は一緒にお昼食べない?俺買ってくるからさ!」

「........いいのか?」

「もちろん!そういやヴァルクって普段なに食べてんの?」

「.......主に魔獣だな」

小さい頃から1人でも生きていけるように、魔獣を倒す術はもちろん、血抜きや解体、食べれる草や果物の見分け方なども教わったらしい。

「すご!....ねぇ、いいこと思いついたんだけど!」

「なんだ?」

「来週はさ、お泊まり会しない?」

「......?なんだ?それは」

「友達の家に寝泊まりすんの!ヴァルクはまだ街に入れないから、俺がダンジョンに行くよ!楽しそうだろ?」

「.......つまり、一日中サクヤと一緒にいれる、ということか?」

「そう!ダンジョンにも行ってみたかったし、昼間はダンジョン探索して、夜はヴァルクがいつも食べてるやつ食べながらくだらない話いっぱいすんの!」

考えただけでも楽しそう!もちろんヴァルクがしたいこと思いついたらそれやってもいいしね!


「.........ああ、それは楽しそうだな」

「っ....!」


わ、笑ったーー!一瞬だったけど!
目も少し細まり、口も少しだけ弧を描いていた。
イケメンの笑顔の破壊力やばー!

「じゃあ来週はダンジョン集合でいい?」

いいもの見たな~とにこにこしながら問うと、ヴァルクは少し考えてから「いや」と言った。

「またここで落ち合おう」

「え?でも面倒じゃない?」

「大丈夫だ」

....まあ、俺的にはありがたいけどね?ダンジョンまでの道うろ覚えだし。ヴァルクがいいって言ってるんだからいっか。

「ありがと。じゃあ来週、お昼前にまたここで」

「ああ」



◇◇◇



ヴァルクと別れてからまっすぐギルドへ戻ると、いつもはない人だかりができていた。
なんだ?なんかあったのか?
少し離れたところから窺うと、中心にいるのはどうやらロベルトのようだ。普段あまり表に出てこないロベルトに今がチャンスとばかりに女の人たちが殺到している。

おーおー、おモテになるこって。
ロベルトは少し鬱陶しそうな顔をしているが、羨ましい限りだ。俺も顔はイケメンなはずなのに、なぜか全然モテない。中身がモブだとバレているんだろうか?しかも、最初はいい感じでも、職業がテイマーだと言うと大抵引かれる。
そんな人気ないの?みんなブルーのかわいさ知らないくせに!第二の人生までモテないって酷いよ神様!


.....さて、少し待ってみたものの、人の波が引く気配はない。これじゃあドロップアイテムも渡せないし出直そうかな。ってかなんであの人外に出てきてるの?

出直そう、と思った直後、ロベルトと目が合った。金色の瞳がすうっと細められ、女の人を無視しながらこちらへと向かってくる。
え、え、なに?なんか怒ってる?怖いんだけど。
反射的に逃げようとしたことも、怒りを助長させてしまったようだ。
あっさりと腕を掴まれ、「なぜ逃げようとした?」と言い放つ声がかなり低い。

「そ、そんな顔してたら誰でも逃げるから!なんで怒ってんだよ!」

「.......遅い。寄り道はするなと言ってあっただろ」

「は....?」

なに?そんなことで怒ってたの?

「別に寄り道なんてしてな——うわっ!?」

不意にロベルトの目が大きく見開かれたと思ったら、腕を強く引かれ、浮遊感に襲われた。

「ちょっ!なんだよ!おろせっ」

易々と担がれてしまい、俺の言葉を無視してギルドへと入っていく。女の人たちも、終始無視されているのになんできゃーきゃー騒いでるんだろ....?冷たくされたら悲しくない....?


ギルドの二階の部屋に入るとようやく下ろしてくれたが、壁を背に、顔の両側にバン!と大きな音が出る程強く壁に手をつかれ、身体がびくりと竦んだ。

こっ、こわーー!!なに怒ってんだよー!全国の女性の皆さん!壁ドンはただ怖いだけですよ!どこにもキュンの要素が見当たりません!顔がいいから怒ると迫力でるんだよー!

『マスター、間に入りましょうか?』

あまりにも怖がっているからか、いつもは傍観しているブルーが口を挟んだ。

い、いや...まだ大丈夫....。

手はあげないだろうし、怖いだけで割り込んでもらうのもちょっと情けない。

「おい、あいつになにかされたのか?」

「へ.....?」

あいつって誰?なにかってなに?もっとわかりやすく言ってもらえます?

「目が赤い」

「目?」

目が赤い?.....あ、もしかして泣いたのバレてる!?そんな酷いのか!?

「あー....、別にヴァルクになにかされたとかじゃないからな?俺が勝手に泣いただけだし....」

ってか恥ずかいからあんまり突っ込んでほしくないんだけど。それよりなんでそんな怒ってんの?

「じゃあなんで泣いたんだ」

突っ込まないでって言ってるでしょー!?なんだっていいじゃんか!

「べ、別になんだっていいだろ」

「言えないってことはやっぱりなんかされたんじゃないのか?」

「言えないんじゃなくて言わないの!」

キッパリと言い放ったのに、まだ訝しげに見てくる。疑り深いなぁ、もう!

「ほんとになにもされてないから。信じて」

ロベルトの目を見つめ、真摯に訴えると数秒なにも言わず、やがて目を閉じて深くため息をついた。

「あー、やっぱり1人で行かせるんじゃなかった」

「はぁ!?まだ疑ってんの!?」

「そうじゃない。お前が俺の知らないところで泣いたってのが気に入らないんだよ。今度から泣くときは俺の側で泣け」

いや、益々意味わからんわ!なんだその俺様発言は!そもそもそんなコントロールができるんだったら泣かないわっ!

「意味わかんないこと言ってないでいい加減離れろって」

「約束できるなら離れてやる」

「はぁ!?」

ほんとになに言ってんの!?
冗談でも言っているのかとも思ったが、顔は至って真剣だ。約束しないと離れない、というのも冗談ではないようで、目さえ逸らしてくれない。
これ拒否権あんの?

少し粘ってみたがやっぱり拒否権はないようで頷くしかなかった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結】健康な身体に成り代わったので異世界を満喫します。

白(しろ)
BL
神様曰く、これはお節介らしい。 僕の身体は運が悪くとても脆く出来ていた。心臓の部分が。だからそろそろダメかもな、なんて思っていたある日の夢で僕は健康な身体を手に入れていた。 けれどそれは僕の身体じゃなくて、まるで天使のように綺麗な顔をした人の身体だった。 どうせ夢だ、すぐに覚めると思っていたのに夢は覚めない。それどころか感じる全てがリアルで、もしかしてこれは現実なのかもしれないと有り得ない考えに及んだとき、頭に鈴の音が響いた。 「お節介を焼くことにした。なに心配することはない。ただ、成り代わるだけさ。お前が欲しくて堪らなかった身体に」 神様らしき人の差配で、僕は僕じゃない人物として生きることになった。 これは健康な身体を手に入れた僕が、好きなように生きていくお話。 本編は三人称です。 R−18に該当するページには※を付けます。 毎日20時更新 登場人物 ラファエル・ローデン 金髪青眼の美青年。無邪気であどけなくもあるが無鉄砲で好奇心旺盛。 ある日人が変わったように活発になったことで親しい人たちを戸惑わせた。今では受け入れられている。 首筋で脈を取るのがクセ。 アルフレッド 茶髪に赤目の迫力ある男前苦労人。ラファエルの友人であり相棒。 剣の腕が立ち騎士団への入団を強く望まれていたが縛り付けられるのを嫌う性格な為断った。 神様 ガラが悪い大男。  

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

最強の弟子を育てて尊敬されようと思ったのですが上手くいきません

冨士原のもち
BL
前世でやっていたゲームに酷似した世界。 美貌も相まって異名をつけられるほど強くなったミチハは、人生がつまらなくなった。 そんな時、才能の塊のようなエンを見つけて弟子にしようとアプローチする。 無愛想弟子×美形最強の師匠 ※ムーンライトノベルズにも投稿しています

メランコリック・ハートビート

おしゃべりマドレーヌ
BL
【幼い頃から一途に受けを好きな騎士団団長】×【頭が良すぎて周りに嫌われてる第二王子】 ------------------------------------------------------ 『王様、それでは、褒章として、我が伴侶にエレノア様をください!』 あの男が、アベルが、そんな事を言わなければ、エレノアは生涯ひとりで過ごすつもりだったのだ。誰にも迷惑をかけずに、ちゃんとわきまえて暮らすつもりだったのに。 ------------------------------------------------------- 第二王子のエレノアは、アベルという騎士団団長と結婚する。そもそもアベルが戦で武功をあげた褒賞として、エレノアが欲しいと言ったせいなのだが、結婚してから一年。二人の間に身体の関係は無い。 幼いころからお互いを知っている二人がゆっくりと、両想いになる話。

小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~

朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」 普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。 史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。 その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。 外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。 いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。 領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。 彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。 やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。 無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。 (この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)

異世界転移で、俺と僕とのほっこり溺愛スローライフ~間に挟まる・もふもふ神の言うこと聞いて珍道中~

戸森鈴子 tomori rinco
BL
主人公のアユムは料理や家事が好きな、地味な平凡男子だ。 そんな彼が突然、半年前に異世界に転移した。 そこで出逢った美青年エイシオに助けられ、同居生活をしている。 あまりにモテすぎ、トラブルばかりで、人間不信になっていたエイシオ。 自分に自信が全く無くて、自己肯定感の低いアユム。 エイシオは優しいアユムの料理や家事に癒やされ、アユムもエイシオの包容力で癒やされる。 お互いがかけがえのない存在になっていくが……ある日、エイシオが怪我をして!? 無自覚両片思いのほっこりBL。 前半~当て馬女の出現 後半~もふもふ神を連れたおもしろ珍道中とエイシオの実家話 予想できないクスッと笑える、ほっこりBLです。 サンドイッチ、じゃがいも、トマト、コーヒーなんでもでてきますので許せる方のみお読みください。 アユム視点、エイシオ視点と、交互に視点が変わります。 完結保証! このお話は、小説家になろう様、エブリスタ様でも掲載中です。 ※表紙絵はミドリ/緑虫様(@cklEIJx82utuuqd)からのいただきものです。

王様お許しください

nano ひにゃ
BL
魔王様に気に入られる弱小魔物。 気ままに暮らしていた所に突然魔王が城と共に現れ抱かれるようになる。 性描写は予告なく入ります、冒頭からですのでご注意ください。

タチですが異世界ではじめて奪われました

BL
「異世界ではじめて奪われました」の続編となります! 読まなくてもわかるようにはなっていますが気になった方は前作も読んで頂けると嬉しいです! 俺は桐生樹。21歳。平凡な大学3年生。 2年前に兄が死んでから少し荒れた生活を送っている。 丁度2年前の同じ場所で黙祷を捧げていたとき、俺の世界は一変した。 「異世界ではじめて奪われました」の主人公の弟が主役です! もちろんハルトのその後なんかも出てきます! ちょっと捻くれた性格の弟が溺愛される王道ストーリー。

処理中です...