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トラヴェエ王太子の責務と恋

■王太子の計画

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 確かにアイリーンの言う通り、例年であれば私の生誕祭には王太子であり友人であるコルネリウス・レイ・フォン・ハイデリガが国王の名代として招かれていたのだが、今年は王女を名代で招くということは、それはすなわち来賓として訪問する際に同盟の書簡を持参し、名実共に『婚約者』として公表する腹づもりなのだろう。

 私の生誕祭は諸外国の代表はもちろん、国内の有力貴族たちが一同に会する国王の生誕祭と並ぶ国の一大イベントだ。
 王太子の婚約内定を公表するには絶好の機会であり、またこのタイミングでの婚約発表は、我が国リトヴィエとハイデリガの同盟強化を国の内外に知らしめるのに絶大な効果を発揮するだろう。


 あのやり手の宰相のことだ、当然この機会を逃す訳がない。


 そして、国賓の王族や特使の接待は侯爵以上の高位の貴族が務めており、同盟国であるハイデリガ王国は代々宰相家に一任していた。例年はジュストが王太子の接待役を務めていたのだが、今回は王女ということもありアイリーンにお鉢が回って来たのだろう。
 加えて、公爵令嬢で私の幼馴染であるアイリーンと親交を深め、リトヴィエ王家にも早めに馴染ませようという目論みもあるのは間違いがない。
 と、いうことは、ジュストは私の婚約内定のことを知っている、ということだ。
 ソーニエル公爵家嫡男であり腹心の部下で親友のジュストは、当然私のアイリーンへの想いも知っている。
 その想いをを知っていながら、国のため、父親である宰相の命で妹に王女の接待を依頼したという事になる。忠誠心と友情の板挟みはさぞ複雑な心境だっただろう。

 この場合、忠誠心をとるのは臣下として当然であり、致し方が無い事なので私は彼の選択を責めるつもりはない。
 その中でも、王女の来訪の理由をアイリーンに明かさなかったのは、ジュストなりの私への最大限の友情の現れと言えるだろう。
 私は彼の友情に深く感謝した。

 ともあれ、成程、外堀から埋めていこうと言う事か。宰相の見事な手腕には改めて感心するが、しかし、全く要らぬ配慮だ。

 何故ならば、 


 先程のアイリーンとの抱擁でわかったことがある。
 それはアイリーンは私に少なからずなんらかの好意を持っているという事だ。

 現段階ではそれが私と同じ想いである必要はない。恋慕でも親愛でも、なんなら憎しみでも情でも構わない。彼女の心に少しでも私がいられるのであれば。

 アイリーンを手に入れてからじっくりと私の想いを伝え、愛を育めばいいのだ。
 改めてどんな手段を使ってでも彼女を手に入れる、と心に固く決心すると、1度は静まったはずの情欲が再び滾るのを感じた。

 だが今は、その劣情は表には出さない。
 欲望は胸の内に綺麗に隠して、アイリーンを手中に収めるための計画を実行に移す。
 決して悟られないように慎重に事を進めるのだ。

 まずは……
 王女が来訪するまでの10日間、アイリーンをこの場に留め置き、屋敷には帰さないつもりだ。父上や宰相には文句はいわせない。
 アイリーンを沢山可愛がってベタベタに甘やかして、屋敷になど帰りたくなくなるように仕向けていく……想像するだけで身体が熱くなってきた。

 私は側近を呼び、急ぎソーニエル公爵家へ遣いを出すように伝えるとアイリーンに向き直ってにっこりと笑みを送った。

 あの宰相の事だ、急な外泊、ましてや婚約を控える王太子の元になど承諾しないだろう。だがしかし、これは決定事項である。

 誰であろうと、邪魔はさせない。
 もちろん、アイリーン、君にも……

 私は笑みを浮かべて、優しくそして甘く、しかし有無を言わせない口調でアイリーンに語りかけた。


「ねぇ、リーナ。今日はもう遅くなってしまったから、王城に泊まるといい。お腹が空いたろう?夕食を運ばせるから一緒に食べよう。昔みたいに…」


 でも、という顔をしたアイリーンに、もう既に公爵家には遣いは出した事を伝えると彼女は諦めたかのように頷いた。

 これで、アイリーンは一晩中ここにいる……私は心の中でほくそ笑む。


 愛しいリーナ。もう、君を離さないよ。
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