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第一章 黒猫の恋
第33話 俺の物※
しおりを挟むようやく、長年恋焦がれた名月が俺の物になった。
あまりの嬉しさからタガが外れて、先程までベッドで身体を貪り求めあって沢山啼かせてしまった名月は、疲れ果てて今俺の腕の中で眠っている。
名月の顔にかかった長い髪をサラリと掬ってキスを落とす。
途中、ふとしたことで名月の過去の男に対して激しい嫉妬心が湧き上がり、少しばかり…いや、かなり酷い事をしてしまった。
だけど、そんな狭量な俺自身と酷い行為まで含めて、全部を受け入れてくれて、俺に愛を返してくれた名月へは本当に感謝しかないし、愛おしい想いが更に募った。
想いを伝えて想いを返して貰えることがこんなにも嬉しい事だなんて、俺は今まで生きてきて知らなかった。
愛する人と肌を合わせて抱き合う幸せの素晴らしさを経験してしまったら、正直今までのように適当な相手とセックスするなんて頭のおかしい事としか思えないし、俺が今まで経験してきた男女交際とは一体なんだったのかと思えて仕方がなかった。
ぶっちゃけ、あんなのただの飯事の延長だったな、と馬鹿馬鹿しくて反吐が出た。
それに比べて愛を伝え合う事の素晴らしさはなんだろうか。
筆舌に尽くし難い程の凄まじい幸福感に包まれ、もうこのまま蕩けてしまいそうだ。
寧ろ、このまま融けて名月とひとつになってしまいたい。
名月が力尽きなければ、もっと彼女を貪り味わい抱き潰してしまいたかったが……現実は、3回。たった3回でジ・エンドだ。
6年近く拗らせた想いを吐き出すには、余りにも時間も回数も足りなかった。
週末の残り2日間、抱き続けても足りないのでは無いかと思う程、俺は彼女に餓えているのに……
正直、俺は性欲は強い方だと思うが、今までこんなに女に飢えたことは数える程しかなかった。しかも、その内の1回は、名月と連れ立つ鈴木に嫉妬し、名月が鈴木に抱かれている事を考えたくなくて、名月の身代わりに女を抱いた時で、こんなに歯止めが聞かない程がっついたのはその時以来だ。
言うまでもないが、俺のこの欲望は名月に対してしか向いていないので、名月を手に入れた今、恐らく…いや、もう絶対に彼女以外の他の女に欲望が向くことはないだろう。
実際、その身代わりの女の事だって、名月の代わりだと思えばこそ抱けただけで、それが彼女では無いと認識するや否や、途端にすっと気分も性欲も冷めてしまっていた。
名月を手に入れた今、それらを振り返ってみると、なるほどな、まるで心だけでなく俺の身体までもが、全身全霊で名月だけを求めているようだと思わず苦笑が溢れる。
それもそうだ。もう何年も名月の事しか思っていなかったのだから、もういっそ名月以外に反応する事はないような気もしている。
でも、それは別に問題ない。俺は名月を手放す気はないし、それこそ、一生離すつもりはないのだから。
我ながらド級に重たい男だと思うが、遅い初恋の自覚と6年間にも及ぶ片想いが、蓋を開けてみたら実は両片想いで、しかもその相手が俺の全てを受け入れてくれて、尚且つ俺の物になると言ってくれた。
そんなの手放せる訳がないし、寧ろ、離さない。離すわけない。
これから先の人生で、どんなに美しい女が現れても、どんなに魅力的な女に迫られたとしても、もう名月以外は欲しくないのだ。
だから俺はこの先、生涯名月を愛し抜く。
そう心の中で誓うと、腕の中の名月の安らかで可愛い寝顔の名月を覗き込む。
「おやすみ。起きたら色々話そう。これからの事とか…ね。」
そう言ってぐっすり眠る彼女の額にキスを落とすと、自然と頬が緩んだ。
そして、俺は更に深く名月を抱き込むと、一緒にリネンに潜り込む。
柔らかく温かい体温が心地よく、ここしばらく寝不足だったことも輪をかけて凄まじい睡魔が襲ってきた。
俺は名月を抱き直し腕の中深くに閉じ込め深く息を吸い込むと、名月の香りで胸がいっぱいに満たされ心から安心した。
抱きしめる腕の中でむずがる名月が心から愛おしい。
「愛してるよ。俺と、ずっと一緒にいて欲しい…起きたらちゃんと言うから。」
とりあえず、この幸福感と安心感に包まれたまま眠りにつきたかった俺は、名月にそう告げるとゆるゆると訪れる眠りの波に身を委ねた。
◇◇◇
翌朝、窓から差し込む朝日で目を覚ますと隣に名月がいる。
朝から愛する女が隣にいる幸せは、万感胸に迫る思いだ。
他人と同じ寝具で眠る事、ましてや腕の中に抱きしめて朝まで眠るなど今まであっただろうか。いや、思い返しても一度もない。
今までは関係を持った女とは基本的に宿泊する事はなく、ましてや共寝等した事がない。もしも、万が一泊まる事になったとしても必ずツインの部屋を取り、コトが済めば女とは別のベッドかソファで眠っていた。
何故なら、俺は隣に他人がいるだけで落ち着かなくて眠れないのだ。
だから、徹底的に他人を排除してきたのだが、女達はそれで納得などしてくれず、別々に寝ていても俺が寝てから布団に潜り込まれそうになる事が何度かあった。
ただ、俺は少しの物音で目が覚める程眠りも浅いため、それらは未然に防ぐことができ、須らく回避出来ていた。
最初こそ合わせてくれていた歴代の女達も、それを何度か繰り返すと、流石に我慢の限界なのかみんな自然と離れていった。
それでも俺は一向に構わなかった。
だけど、今はどうだ?
前回まんまと逃げられた時もそうだが、今日だってぐっすりと眠りこけてしまっていた。隣に居ても不快では無いだけでなく安眠出来るなんて、こんな事今まで有り得なかった。
そして、こんな事を考えるだけで胸が張り裂けてしまいそうだが、もしも、名月が離れていったら、きっと俺は彼女を捕まえこの部屋に繋いで一歩も外に出さないだろうな。
そんな事したくないけれど……離れるなんて考えるだけでおかしくなりそうだ。
離れたくない、傍にいて欲しい。こんな事初めてだ。
それだけ名月は俺にとって特別だと言うことだろう。
愛してる
そんな言葉では言い足りないくらい、俺の全身全霊をかけて彼女の事を想っている。
名月がいてくれさえすれば他には何もいらない。
そんな事を思える人が現れるなんて思わなかった。
人は必ず裏切るもの。他人なんて信じられない。
俺は愛されない。ましてや、人を愛することなんて愛されない自分が出来るはずがない。
そう思って生きてきた。
いや、俺の複雑な家庭環境がそうさせてきたのだが、それでいいと思っていたし、そうするのが当たり前だった。
だから、まさか自分が恋に落ちて、こんなにも一人の女を愛してしまうなど、夢にも思わなかった。
自分でも吃驚している。
そんな俺を愛して受け入れてくれた目の前の彼女…名月が愛おしい。
想いを込めて頬を撫でると、ふにゃと笑みが零れた。
可愛い…堪らない…今すぐにでも抱きたい…
朝っぱらから不埒な思いが首を擡げるが、首を振って打ち消す。
時計を見ると、6時を回ったところだった。
眠っている名月を起こさないように、ベッドを抜け出すと、頭を冷やすついでにと身を清めるために、手早くシャワーを浴びに行く。
浴室を出る際に、名月が起きたら風呂に入れてあげようと、風呂のスイッチを押し、そのままキッチンにタバコを吸いに行く。
燻るタバコの煙を見ながら、これからの事を考える。
あぁ、こんな事言ったら名月はどんな反応するだろうな…
起きたら伝えようと思っていた事を想像したら楽しくなってきた。
タバコを灰皿に押し付け、コップに水を注ぎ寝室へ戻る。
いつもは誰もいないはずの俺のベッドの真ん中が、もっこりと盛り上がり、リネンが規則正しく上下している。
近付くにつれて、規則正しい寝息と時折もぞもぞと膨らみが動く音がする。
その光景に胸が温かい物で満たされていく気がして、自然と笑みが零れた。
幸せだな。誰かがいてくれることが幸せな事だなんて、知らなかったな。
サイドテーブルに水の入ったコップを置き、ベッドサイドに腰掛ける。
膨らんだリネンを覗き込むと、可愛らしい寝顔が見えた。
あぁ、俺のお姫様はまだ夢の世界にいるようだ。
顔にかかった髪をサラリと除け、頬と額にキスを落とすと、彼女はふにふにとむずがった。
可愛いなぁ。
寝惚けた名月もとても可愛いが、積もる話もあるし早く起きて欲しくて、顔中にちゅっちゅっとキスを降らせた。
「名月、起きて。お水持ってきたよ。」
「んぅ……もちょっと……」
名月は俺の呼びかけを無視して、再度リネンに潜り込もうとする。
俺はそれを阻止して名月を抱き込みリネンを引き剥がした。
明るい光が差し込む部屋に裸の名月…
彼女の身体中に咲いている赤い華、俺の所有の印が明るい所だと際立って見える。
俺のベッドに
愛する女が眠っていて
その女には俺の所有印が刻まれている……
その事実が、俺に酷く劣情を抱かせた。
そんな状況に気付く余地もなく、俺の中に仄かに灯った欲望の火種にも気付かずに、すやすやと気持ち良さげに眠りこけている名月に対して、悪戯心がむくむくと湧き上がってきた。
眠っている彼女に啄むキスをすると、名月は寝惚けながらも薄く唇を開く。
俺はそこに舌を差し込み彼女の舌を絡めとる。
寝惚けている彼女は条件反射のように、辿々しくゆっくりと舌を動かしそれに応えた。
「っは……名月…それ、可愛すぎるでしょ。」
「…んっ……げ、ん……まだ…眠…い……」
唇を離すと、まだ眠いとぐずぐずする名月。
ぐぅ、可愛すぎる。
やわやわと柔らかな胸を揉み、昨夜の行為ですっかり真っ赤に熟れきった胸の頂きを舌で刺激する。
気持ちがいいのか、名月も徐々に甘い声を漏らし始めるが、半分眠っているのかまだ目は開けない。
「いやっ……あっん……もぅ、ダメだってば…まだ眠たい……」
「うん、寝てていいよ?勝手にしてるだけだから。ここも昨日散々弄ったから真っ赤に色づいて美味しそうだよ。」
「ふぇぇ……眠いって…いってる…のにぃ……」
「本当に?随分と気持ち良さそうだけど……止めてもいいの?」
意地悪く聞くと、名月はふるふると首を振りながら、ようやく目を開けて俺をみる。
蒸気した頬に潤んだ瞳で見上げる名月に、下半身がビクリと反応した。
このままでは押し倒してしまいそうで、そろそろ止めなければ…そう思い身体を離そうとすると、名月は俺のシャツの裾をきゅっと引っ張り、甘えた舌足らずな口調でお強請りをする。
「眠い…で、も…きもちぃの……もっと……もっとしてぇ」
ぷちっ
俺の頭の中で理性の切れた音がした。
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