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第二章

勘違いからの始まり③

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 海に飛び出した防波堤の先端で、ぼーっと海を眺める。子供の頃から、友達と喧嘩をしたり、怒られたりするとここへ来て海を眺めていた。大人になっても、ここへ来ると安心する。海を見ると、自分の悩みはちっぽけだなぁと思えてくるのだ。

 昔と変わらない綺麗な海。覗けば魚が泳いでいる。兄と私は、父に連れられてよくここで釣りをした。漁で魚を捕るのとは違い、一本の竿で魚を釣る楽しさを父から教えられたものだ。

 その時――

「おい! 早まるな!」
「ええっ!」

 突然男性の声が聞こえたと思ったら、大きな手に肩を掴まれる。人の気配すら感じていなかったので、突然のことに驚いて身体が固まった。

『ん? 今、早まるなって言った? もしかして何か勘違いされてる?』

 内心で、疑問だけが浮かび上がる。

「人間生きていたら、辛いことの一つや二つあるものだ。でも、死んでしまったらお終いだぞ」
「……。プッ」
「何笑ってやがる」
「だって……」

 声の主の姿を見ようと後ろをふり返って驚いた。

 日に焼けた逞しい身体の男性の姿があったのだ。美容師という職業柄、オシャレな男性は普段から目にする。けれど、全く美を意識しているようには見えないのに、驚くほど洗練されたイケメンがそこに立っていた。思わず見惚れてしまったではないか。

「俺の顔に何かついてるか?」
「い、いえ……」
「で? 自殺しようとしてたんじゃないのか?」
「そんなつもりはありません!」
「なんだ、紛らわしい……」

 こんな低い防波堤から落ちたとしても、よほどの荒れた海でない限り命を落とすことはない。私は、ここで生まれ育って泳ぎは得意なのだ。

「ちょっと、考え事をしていただけです」
「こんなところで危ないだろう。身体を乗り出すな」
「大丈夫です!」

 自信満々に答える私へ疑いの眼差しを向けてくる。

「何か悩みがあるんじゃないのか? 俺で良かったら聞いてやるぞ」
「フフッ、優しいですね」
「困っている人を見ると放っておけないんだ」
「悩みというか……」
「ああ」
「最近、父を亡くして」
「……すまない」
「え?」
「辛いことを思い出させてしまったから」
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