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第二章

勘違いからの始まり①

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 私、近江おうみ凪紗なぎさは都内で美容師として働いている。それなりに指名をもらえて、美容師の仕事にやりがいを感じていた。いつかは自分の店を持てたらいいなぁと夢を見て頑張っている。

 そんな私の元に一本の連絡が入った。

「凪紗ちゃん、お兄さんから連絡が入ってるわよ」
「え?」

 兄から店に連絡が入るなんて嫌な予感しかしない。よほどの用事がない限り、普段兄と連絡することがないのだから……

 しかも、スマホがあるにも関わらず店まで連絡してくるということは、夜まで待てない要件ということだ。一旦カットの手を止めて、お客様に断ってから店の電話に出る。

「もしもし?」
「凪紗、落ち着いて聞いてくれ」
「何?」
「父さんが事故に遭った」
「ええっ⁉」
「救出されて病院に運ばれたけど……」
「助かるのよね?」
「……」

 沈黙が最悪の事態だと言っているようなものだ。

「すぐに帰って来られるか?」
「わかった……」

 私の実家は、都内から新幹線で一時間弱の海沿いの田舎町。父は自分の船を持ち、長年漁師をしている。年中真っ黒に日焼けして、逞しい父が私は大好きなのだ。

「て、店長……」
「どうしたの? 顔が真っ青よ」
「それが、兄からの連絡は父が……。ウウッ」

 まだ現実を受け入れられていないけれど、言葉にすると耐えられなくなり涙が溢れてくる。

「落ち着いて。裏へ行きましょう」

 店長がいまにも崩れ落ちそうな私の身体を支えてくれて、何とかバックヤードへと下がった。

「どうしたの?」
「父が事故に遭ったそうで……。兄がすぐに帰って来いと」
「凪紗ちゃん、すぐに行きなさい!」

 私の様子からかなり緊迫した状態だと察してくれた店長が、躊躇なく送り出してくれる。

「お客様が途中で……」
「私から説明しておくわ! 今は、それどころじゃないでしょう?」
「あ、ありがとうございます」

 仕事は厳しいけれど、私達従業員のことを常に考えてくれている店長。母のような、時には姉のような存在で頼りにしている。優しい言葉を掛けてもらうと、不安で今にも泣いてしまいそうだ。

「落ち着いたら連絡を入れてね」
「はい!」

 店長に見送られて急いで店を出た。一旦一人暮らしのマンションへと帰宅して、スーツケースに荷物を突っ込み新幹線に飛び乗る。スマホを見ると兄からのメッセージが届いていて、病院の名前が記されていた。

『お父さん、どうか無事でいて……』
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