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第十五章

一生に一度の瞬間⑤

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「このまま一日中ベッドの上でもいいけど、出掛けたいところもあるし起きるか。一緒にシャワーするか?」
「結構です」

 このまま一緒にシャワーを浴びに行けば、シャワーだけで済まないことは目に見えている。

「そっか、残念」

 さほど残念に聞こえない口調で、私をからかって楽しんでいるのだ。私がすぐには動けないのをわかっているのか、さっさとバスルームに行ってしまう。

 どこに出掛けるかは聞いていないけれど、ゆっくりしている訳にもいかない。重い身体を引きずって服を羽織りリビングに向かった。私が普段から運動不足なのか、節々がギシギシといっている。

「お先」
「うん。ところで、今日はどこに出掛けるの?」
「のんびり散歩でもして、夜はSAKURAでディナーを食べて泊まろう」
「明日仕事だよ?」
「SAKURAから出勤したらいい」
「う、うん」

 ディナーをしてからでもマンションに帰れる距離だけど、せっかく蒼空さんが計画してくれたのだから楽しみたい。

 私達は、翌日に出勤できる服装を用意してマンションを出た。

 マンションから見慣れた街並みを、手を繋いでのんびり歩く。見慣れた街並みでも休日に歩くと新しい発見があるものだ。新しいベーカリーショップがオープンしていたり、小さな公園があったりと、普段何気なく通り過ぎている道も新鮮に感じる。

「なんかいいね」
「ん? 何が?」
「時間を気にせずにのんびり歩くの」
「フッ、そうだな。会社への往復は、ひたすら目的地に向かって歩いているだけだもんな」
「うん」
 
 時々ポツリポツリと他愛のない会話を交わしながら、のんびり歩いている時間が心地よい。三カ月後にはここを去ることになるのだろうか。ぼんやりと想像するも現実味がない。

 途中、可愛い雑貨屋さんが目に入り、気になって見てしまう。

「見たいなら寄ろう」
「いいの?」
「もちろんだ。俺達の生活に必要な物とか欲しい物があったら買ったらいい」
「ありがとう」

 女性客の多い店内に、嫌な顔をせずにつき合ってくれる。ただ、店内の女性客が蒼空さんに視線を向けているのを感じた。小さな声でカッコイイと聞こえる。



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