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外伝 旅する母のラプソディ Ⅱ
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「し、信じられない……」
「あれだけ酷かった骨折がもう治った!」
「俺の潰されていた足も元通りになっている。もう歩けないかと思っていたのに き、奇跡だ……」
村秘伝の薬は効果覿面で塗った兵士達の怪我はたちまち癒え、周囲から歓喜の声が沸き起こる。
どう? うちの村の薬はよく効くでしょ?
これだけ効く薬なんてのは都会と言えどもそうそう無いんじゃないかしら。
でも本当に良かった。
まだまだ未来有る若い子達が、こんな事で一生を棒に振るなんて可哀相だしね。
……それに大切な人が帰って来ない悲しみの辛さは痛いほど分かるもの……だからあなた達を待つ人の元へ帰ってあげてね。
「もしかしてエリクサーなんじゃ……」
「ば、馬鹿な。それって伝説の存在だろ」
「で、でも……こんな大怪我を癒すなんて大司祭レベルの魔法じゃないと……」
若い子達の喜ぶ姿に、帰ってこなかったあの人の事を思い出して少しの寂しさと共に、この場に駆けつける事が出来た事を心から良かったと思っているとなにかに驚いている兵士達の言葉が耳に入ってきた。
エ、襟……臭い? それともエリと言う人が臭いのかしら?
わ、私はエリなんて名前じゃないわよ? それに……くんくん……うっ! 確かにちょっと生臭いけど……え? え? 違うわよね?
それに伝説とか大司祭の魔法とか言ってるし、匂いに関する事じゃ無いと思いたい。
あの人の事を久し振りに思い出して寂しくなっていた想いも何処へやら、兵士達の意味不明な会話に少し焦っていると隊長が満面の笑みを浮かべながら駆け寄って来るのが視界の隅に入ったのでそちらの方に目を向ける。
「あ、ありがとうございます!! 貴女のお陰で我が隊は誰一人欠員出る事無く無事生き残り事が出来ました!」
私の側に来る否や隊長は首のベルトを外し帽子型のヘルメットを脱いで大きくお辞儀をした。
ちゃんとヘルメットを脱いでお辞儀するなんて礼儀正しい子ね。
わざわざお礼を言いに来たって事はどうやらもう怪我している隊員は居ない様だ。
その場に居る十人ばかりの兵士隊はまだ立ち上がれないものの皆笑顔を浮かべ熱い眼差しでこちらを見詰めていた。
良かった、あの状況で全員無事だったのは幸いね。
幾ら良く効く薬だって言っても手遅れになる事だってあるんだから。
「ほら、お前達も。この方のお陰で助かったんだぞ。生き残った喜びよりまずは礼だろう」
「は、はい! ありがとうございました!!」
隊長の言葉にハッとした兵士達は慌ててその場から立ち上がり私に対して頭を下げて大声で感謝の言葉を口にした。
「どういたしまして。って、あら? 貴方も頭を怪我してるじゃない。塗ってあげるからこっち来なさい」
皆と一緒にお辞儀をして頭を下げている隊長の後頭部をよく見ると、ヘルメットの所為で気付かなかったが、どうやら激しい流血はしていないものの彼の綺麗な金髪は血で赤く染まっている。
私の言葉を聞いて隊長は慌てて自分の後頭部に手を当て、その手に付いた血に驚いていた。
「ほ、本当だ! ……あっ、あれ? な、なんか急に頭がくらくら……して来た……」
若さに見合わぬ隊長と言う肩書きの重責に余程気を張っていたのだろう。
自分が頭を怪我している事を私に指摘されるまで気付かなかったようだ。
頭の怪我の場合はこう言うのが一番危ない。
経験上、もう少し気付くのが遅れていたら突如倒れてそのまま命を失っていたと思う。
外傷には良く効く薬なのだが、頭の中に出来てしまった血溜まりはその限りではなく、それによって脳が破壊され意識が戻らなくなってしまう。
そして一度破壊された脳はこの薬でも治らない。
そうなったら二度と意識が戻らず生きる屍のようになってしまう。
だが、まだ傷が塞がっていない今の内なら良く塗り込めば中に溜まっている血が固まる前に体外に排出されて助かる筈だ。
その場で崩れそうになる彼の頭を胸で受け止めて揺らさないように優しく抱きかかえた。
胸に顔が埋もれてちょっと息苦しいかもしれないけど、クッションになって丁度いいでしょ?
胸に抱えた途端なんだか周囲が少し騒がしくなったけど皆隊長が心配なのね。
大丈夫よ安心して、私が絶対に治すから。
……けど、なんか『羨ましい』とか言う言葉も聞こえた気がするけど気のせいかしら?
「ほら薬を塗るわよ~。ぬりぬり、ぬりぬり。はい、これでもう一安心」
しっかりと薬を塗り込んだ患部から脳内に溜まり掛けた血が噴出し、その後はみるみると後頭部の傷は塞がっていく。
さすがに毛生え効果は無いので、この傷跡部分は少し禿げちゃうかもしれないけど、傷は戦士の勲章みたいな物なんだから諦めてね。
でもこれで一安心だわ、処置も早かったから多分後遺症も無い筈よ。
と思ってたのだけど、隊長は何故か私の胸の中でジッとしたまま動かない。
あれ? 一足遅かった?
もしかしたら既に手遅れだったの? 思ったより酷かったのかしら?
だとしたら一大事だわ、どうしましょう?
「ちょっと隊長さん? 大丈夫? ちゃんと意識は有る?」
私は慌てて胸に顔を埋めている隊長の肩を手を当て言葉を掛ける。
すると隊長はビクンと身体を震わせぴょんと後ろに素早く飛び退った。
あまりの急な異常行動にやっぱり処置が遅かったのかと驚いていると、どうやら意識はハッキリしているようだ。
顔は真っ赤だがその目には力が有りしっかりと私を見詰めていた。
「もももも、申し訳有りませんっ!!」
そして大声で何度も何度も頭を下げてきた。
どうやら一瞬意識が朦朧としていたのだろう。
私の掛けた声で正気に戻ったようだ。
「まぁ良かった。でもいくら傷が塞がったと言っても油断出来ないんだからそんなに頭を振ったらまた傷が開いちゃうわよ」
「もう大丈夫です!」
あらあら本当に顔が真っ赤ね。
何を照れているのかしら?
けど無理をしながら大丈夫って言う張るところはやっぱり男の子ね。
あの子がこの隊長の年の頃にはすっかりグレちゃってたから、こんな反応はなんだか新鮮だわ。
幼い頃はこんな感じに純粋だったのにねぇ。
「お、俺も薬を塗って下さい!」
「え?」
「俺も!!」
「まぁ!」
「俺もお願いします!!」
「あらあら」
真っ赤に照れている若い隊長を感慨深げに見ていると、他の隊員達も頭を突き出しながら口々に薬を塗って欲しいと集まってきた。
見たところ別に皆の頭は怪我してない様だけど?
次から次と隊員達が集まってくる。
一体どう言う事かしら?
と思っていたら、なんかピーンと来ちゃった。
だって皆の目線が私の胸に来てるんだもの。
これはつまりそう言う事よね?
はぁ……呆れた。
いくら若い男の事言っても、皆兵士なんだからもう成人してるでしょ?
幾ら死にそうな目に遭ったからって、私はあなた達の母親じゃないのよ?
ママのおっぱいが恋しいならちゃんと家に帰ってから甘えなさいな。
「コラッ! あなた達この薬はオモチャじゃないのよ! 怪我していない所に塗ったら大変な事になるんだから!」
死にかけたのだから少しぐらいは甘えさせても良いとは思ったけども、私は皆を叱り付ける様に大声を上げる事にした。
私の迫力に驚いた皆は私がオーガ共をバッタバッタと斬り捨てた姿を思い出したのか、顔を青ざめたままその場でピンと固まる。
ちょっと可哀相だったかしら。
折角和らいでいた空気がまたキンキンに張り詰めちゃったわ。
でも今言った事も本当なの。
ほら薬は量を間違えると毒になるって言うじゃない?
この薬もご多聞に漏れず、下手に塗り過ぎちゃうと次の日そこが倍以上に腫れちゃうのよ。
用法用量をお守りくださいって事ね。
「ご、ごめんなさい……調子乗ってしまいました」
直立不動で固まっていた兵士達の一人が恐る恐る謝ってきた。
それを合図としてか他の隊員達も次々に謝ってくる。
やっぱりちょっと可哀想だったかも。
これだけ素直でいい子達だもの。
うちの息子ったら小さい頃からあんまり甘えて来なかったから本当に新鮮。
まぁ小さい頃にあの人が旅先で死んじゃったから生きる為に甘える暇も無く苦労ばっかりかけさせちゃった所為でもあるんだけどね。
…………なんだかあの子に早く会いたくなっちゃった。
こんな所で油を売ってる暇は無いわ。
「分かってくれたら良いのよ。怒鳴っちゃってごめんなさいね」
私は笑顔浮かべて皆を安心させる。
だってさっきまでの雰囲気だったら尋問になっちゃうもの。
「ねぇ、聞かせてもらえないかしら? どうしてオーガに襲われていたの?」
このままさよならしても良かったんだけど、これは乗りかかった船よ。
私がちゃっちゃと解決してあげるわ。
だって……多分……あの人と息子ならこうしたと思うもの。
「あれだけ酷かった骨折がもう治った!」
「俺の潰されていた足も元通りになっている。もう歩けないかと思っていたのに き、奇跡だ……」
村秘伝の薬は効果覿面で塗った兵士達の怪我はたちまち癒え、周囲から歓喜の声が沸き起こる。
どう? うちの村の薬はよく効くでしょ?
これだけ効く薬なんてのは都会と言えどもそうそう無いんじゃないかしら。
でも本当に良かった。
まだまだ未来有る若い子達が、こんな事で一生を棒に振るなんて可哀相だしね。
……それに大切な人が帰って来ない悲しみの辛さは痛いほど分かるもの……だからあなた達を待つ人の元へ帰ってあげてね。
「もしかしてエリクサーなんじゃ……」
「ば、馬鹿な。それって伝説の存在だろ」
「で、でも……こんな大怪我を癒すなんて大司祭レベルの魔法じゃないと……」
若い子達の喜ぶ姿に、帰ってこなかったあの人の事を思い出して少しの寂しさと共に、この場に駆けつける事が出来た事を心から良かったと思っているとなにかに驚いている兵士達の言葉が耳に入ってきた。
エ、襟……臭い? それともエリと言う人が臭いのかしら?
わ、私はエリなんて名前じゃないわよ? それに……くんくん……うっ! 確かにちょっと生臭いけど……え? え? 違うわよね?
それに伝説とか大司祭の魔法とか言ってるし、匂いに関する事じゃ無いと思いたい。
あの人の事を久し振りに思い出して寂しくなっていた想いも何処へやら、兵士達の意味不明な会話に少し焦っていると隊長が満面の笑みを浮かべながら駆け寄って来るのが視界の隅に入ったのでそちらの方に目を向ける。
「あ、ありがとうございます!! 貴女のお陰で我が隊は誰一人欠員出る事無く無事生き残り事が出来ました!」
私の側に来る否や隊長は首のベルトを外し帽子型のヘルメットを脱いで大きくお辞儀をした。
ちゃんとヘルメットを脱いでお辞儀するなんて礼儀正しい子ね。
わざわざお礼を言いに来たって事はどうやらもう怪我している隊員は居ない様だ。
その場に居る十人ばかりの兵士隊はまだ立ち上がれないものの皆笑顔を浮かべ熱い眼差しでこちらを見詰めていた。
良かった、あの状況で全員無事だったのは幸いね。
幾ら良く効く薬だって言っても手遅れになる事だってあるんだから。
「ほら、お前達も。この方のお陰で助かったんだぞ。生き残った喜びよりまずは礼だろう」
「は、はい! ありがとうございました!!」
隊長の言葉にハッとした兵士達は慌ててその場から立ち上がり私に対して頭を下げて大声で感謝の言葉を口にした。
「どういたしまして。って、あら? 貴方も頭を怪我してるじゃない。塗ってあげるからこっち来なさい」
皆と一緒にお辞儀をして頭を下げている隊長の後頭部をよく見ると、ヘルメットの所為で気付かなかったが、どうやら激しい流血はしていないものの彼の綺麗な金髪は血で赤く染まっている。
私の言葉を聞いて隊長は慌てて自分の後頭部に手を当て、その手に付いた血に驚いていた。
「ほ、本当だ! ……あっ、あれ? な、なんか急に頭がくらくら……して来た……」
若さに見合わぬ隊長と言う肩書きの重責に余程気を張っていたのだろう。
自分が頭を怪我している事を私に指摘されるまで気付かなかったようだ。
頭の怪我の場合はこう言うのが一番危ない。
経験上、もう少し気付くのが遅れていたら突如倒れてそのまま命を失っていたと思う。
外傷には良く効く薬なのだが、頭の中に出来てしまった血溜まりはその限りではなく、それによって脳が破壊され意識が戻らなくなってしまう。
そして一度破壊された脳はこの薬でも治らない。
そうなったら二度と意識が戻らず生きる屍のようになってしまう。
だが、まだ傷が塞がっていない今の内なら良く塗り込めば中に溜まっている血が固まる前に体外に排出されて助かる筈だ。
その場で崩れそうになる彼の頭を胸で受け止めて揺らさないように優しく抱きかかえた。
胸に顔が埋もれてちょっと息苦しいかもしれないけど、クッションになって丁度いいでしょ?
胸に抱えた途端なんだか周囲が少し騒がしくなったけど皆隊長が心配なのね。
大丈夫よ安心して、私が絶対に治すから。
……けど、なんか『羨ましい』とか言う言葉も聞こえた気がするけど気のせいかしら?
「ほら薬を塗るわよ~。ぬりぬり、ぬりぬり。はい、これでもう一安心」
しっかりと薬を塗り込んだ患部から脳内に溜まり掛けた血が噴出し、その後はみるみると後頭部の傷は塞がっていく。
さすがに毛生え効果は無いので、この傷跡部分は少し禿げちゃうかもしれないけど、傷は戦士の勲章みたいな物なんだから諦めてね。
でもこれで一安心だわ、処置も早かったから多分後遺症も無い筈よ。
と思ってたのだけど、隊長は何故か私の胸の中でジッとしたまま動かない。
あれ? 一足遅かった?
もしかしたら既に手遅れだったの? 思ったより酷かったのかしら?
だとしたら一大事だわ、どうしましょう?
「ちょっと隊長さん? 大丈夫? ちゃんと意識は有る?」
私は慌てて胸に顔を埋めている隊長の肩を手を当て言葉を掛ける。
すると隊長はビクンと身体を震わせぴょんと後ろに素早く飛び退った。
あまりの急な異常行動にやっぱり処置が遅かったのかと驚いていると、どうやら意識はハッキリしているようだ。
顔は真っ赤だがその目には力が有りしっかりと私を見詰めていた。
「もももも、申し訳有りませんっ!!」
そして大声で何度も何度も頭を下げてきた。
どうやら一瞬意識が朦朧としていたのだろう。
私の掛けた声で正気に戻ったようだ。
「まぁ良かった。でもいくら傷が塞がったと言っても油断出来ないんだからそんなに頭を振ったらまた傷が開いちゃうわよ」
「もう大丈夫です!」
あらあら本当に顔が真っ赤ね。
何を照れているのかしら?
けど無理をしながら大丈夫って言う張るところはやっぱり男の子ね。
あの子がこの隊長の年の頃にはすっかりグレちゃってたから、こんな反応はなんだか新鮮だわ。
幼い頃はこんな感じに純粋だったのにねぇ。
「お、俺も薬を塗って下さい!」
「え?」
「俺も!!」
「まぁ!」
「俺もお願いします!!」
「あらあら」
真っ赤に照れている若い隊長を感慨深げに見ていると、他の隊員達も頭を突き出しながら口々に薬を塗って欲しいと集まってきた。
見たところ別に皆の頭は怪我してない様だけど?
次から次と隊員達が集まってくる。
一体どう言う事かしら?
と思っていたら、なんかピーンと来ちゃった。
だって皆の目線が私の胸に来てるんだもの。
これはつまりそう言う事よね?
はぁ……呆れた。
いくら若い男の事言っても、皆兵士なんだからもう成人してるでしょ?
幾ら死にそうな目に遭ったからって、私はあなた達の母親じゃないのよ?
ママのおっぱいが恋しいならちゃんと家に帰ってから甘えなさいな。
「コラッ! あなた達この薬はオモチャじゃないのよ! 怪我していない所に塗ったら大変な事になるんだから!」
死にかけたのだから少しぐらいは甘えさせても良いとは思ったけども、私は皆を叱り付ける様に大声を上げる事にした。
私の迫力に驚いた皆は私がオーガ共をバッタバッタと斬り捨てた姿を思い出したのか、顔を青ざめたままその場でピンと固まる。
ちょっと可哀相だったかしら。
折角和らいでいた空気がまたキンキンに張り詰めちゃったわ。
でも今言った事も本当なの。
ほら薬は量を間違えると毒になるって言うじゃない?
この薬もご多聞に漏れず、下手に塗り過ぎちゃうと次の日そこが倍以上に腫れちゃうのよ。
用法用量をお守りくださいって事ね。
「ご、ごめんなさい……調子乗ってしまいました」
直立不動で固まっていた兵士達の一人が恐る恐る謝ってきた。
それを合図としてか他の隊員達も次々に謝ってくる。
やっぱりちょっと可哀想だったかも。
これだけ素直でいい子達だもの。
うちの息子ったら小さい頃からあんまり甘えて来なかったから本当に新鮮。
まぁ小さい頃にあの人が旅先で死んじゃったから生きる為に甘える暇も無く苦労ばっかりかけさせちゃった所為でもあるんだけどね。
…………なんだかあの子に早く会いたくなっちゃった。
こんな所で油を売ってる暇は無いわ。
「分かってくれたら良いのよ。怒鳴っちゃってごめんなさいね」
私は笑顔浮かべて皆を安心させる。
だってさっきまでの雰囲気だったら尋問になっちゃうもの。
「ねぇ、聞かせてもらえないかしら? どうしてオーガに襲われていたの?」
このままさよならしても良かったんだけど、これは乗りかかった船よ。
私がちゃっちゃと解決してあげるわ。
だって……多分……あの人と息子ならこうしたと思うもの。
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