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第八章 ラグナロク

第159話 ハイテンション

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「会いたかった! 会って謝りたかった! ごめんなさい! あの時逃げちまって本当に……ごめん」

 そう叫びながら俺はメイガスの元に駆け出した。
 恨んだ事もある……いや正直この20年間恨まない日は無かった。
 信じていたのに俺に理由も聞かずその場で死刑を宣告した張本人。
 憎くて憎くて……ずっと心で泣いていたんだ。
 でもあの時、本当は俺を助ける為にそうしたと先輩に聞いた。
 俺を護る為に一睡もせずに俺の側に立ってくれていたんだ。
 そして女媧の暴走の際、護送車からから放り出された俺を、この優し眼差しで送り出してくれたんだ。

「メイガスーーッ! !」

 俺は我を忘れてメイガス目掛けて走る。
 そして思いっきり抱き着こうとした……その時。



「はいはいストップストップ~。そこまでにゃ~」

 間の抜けた声で謎の女性が声を上げた。
 無我夢中だった俺だが、何故かその声は耳に入り言葉通り止まらないといけない気がして足を止める。
 すんなり言う事を聞く気になったのは精神系の魔法って訳じゃねぇ。
 カリスマ? っていうの? なんかそんな感じ。
 上に立つ者が放つ威厳とでも言おうか、なんだか言う事をきかなくちゃって気持ちにさせる声だった。
 いや、威厳もクソもふざけた言葉遣いなんだけどよ。

「こらダーリン! ダーリンも素直に受け入れようとしないの。第二覚醒済みの主人公っちがあんなスピードで飛び付いて来ちゃったらダーリンでも大怪我しちゃうんだから」

「す、すまん。正太が嬉しそうに駆けてくるもんだからつい」

「もうっ! でもそんな優しいダーリンが大好き」

 そう言ってまたイチャイチャしだしたメイガスと謎の女。

 本当に俺は一体何を見せつけられているんだ!?

 なんだか二人の様子を見ていると再会の感動やら謝罪の想いやらが毒気が抜けるようにスゥ~っと消えていく。
 本当に誰なんだこの謎の女? なんかテンション高ぇな。
 だが、こいつは俺の事を主人公と呼び、覚醒状態まで言い当てやがった。
 俺の肉体的身内である庭師の皆と同レベル以上の情報を持っているって事なのか?

「ごめん、メイガス。会えた嬉しさでちょっと暴走しちまってたみたいだ」

 確かに謎の女は気にはなるが、今は置いておこう。
 まずはメイガスとの話が先だ。
 先輩と王子にメイガスの真の想いを知らされてからずっとこの日を待っていた。
 『ありがとう』と『ごめんなさい』。
 この二つの言葉を言う日をよ。
 謁見では恥かしさが勝っちまって名乗り出れなかったけど、ちゃんと俺の事を覚えていてくれたんだな。

「良いんだよ。本当に久し振りだな。元気そうで何よりだ。まぁ正太が元気だと言うのはヴァレウス王子から連絡で知ってはいたが、ずっと会いたかったぞ」

「本当にごめん。あの日俺が逃げ出したせいで大変な目に合わせちまった。メイガスの想いに気付かず、ずっと恨んで生きてきてしまったんだ。本当にごめんなさい。……そしてありがとう」

 メイガスは立ち止った俺の側まで歩いて来ると、昔の様に俺の頭を優しくポンポンと撫でてくれた。
 元の世界でもこちらの世界でも一人っ子だった俺に初めて出来た兄貴のような存在。
 その事を思い出して目に涙が浮かんでくる。

「はははっ。お前が無事なら俺の苦労も報われたってものだ。それより謁見の時はもしかして私の事を忘れたのかと思ったぞ?」

「ごめん。いや、俺が逃げ出した原因もあったしさ。名乗り出たらそのまま牢屋行って事になったらヤバいし……」

 『恥ずかしかった』と正直に言うのが恥ずかしくて言い訳をしたんだが、どっちかと言うとこれはこれで問題なんだよな。
 村人惨殺事件は魔族の仕業と言う事を、当時ヴァレウス王子の命令で調査したメイガスなら知っていると思うけど、その事を城内全員が認知してるとは思えねぇ。
 何より当時国を挙げての大事件だったんだ、まだまだ覚えている奴はまだ居るだろうし、何より魔族の事をそうそう大っぴらに出来る筈もねぇからよ。

「にゃはははは~。そんな事言って恥ずかしかったんだろ~う? 主人公っちったら本当にシャイなんだから~」

 っと、またもや謎の女が割り込みやがった。
 俺の心を読みやがったってのか?
 あっ……! ちょっと待て、俺の事を主人公と呼び、俺の能力を知る。
 そして俺の心を読むだと? その茶化した言葉遣いも……。
 もしかして……?

「お前もしかして神なのか? そのふざけた物言いはガイアの化けた姿とか言うんじゃねぇだろうな?」

「おほ~! 突然なんだい恐れ多い。あたしは神じゃないYo~う」

 目の前の謎の女はちょっとイラッてくるようなオーバーリアクションでおどけながら神と言うのを否定した。
 違うのか? いや、神……特にガイア以外この世界にこんなふざけた奴がいるとは思えないんだが。

「こらあまり正太をからかうな。すまん紹介が遅れたな。彼女は俺の妻だ」

「は? つ、妻? え……っとそれって確か?」

 確かメイガスってバカ王子に攫われたタイカ国の姫さんと結婚したとか言ってたよな?
 と言う事はこのふざけた奴が……?

「はぁ~い! ごっ紹介に預かりました。あたくしこと、ダーリンの最愛の妻にしてタイカ国第一王女であるイヨちゃんだにゃ~」

 なんか一言一言身振り手振り付きのハイテンションな自己紹介しやがった。
 メイガスの妻とか言われても、なんかガイアを思い浮かべてイラッとする。

「こ、こいつが、第二王子に攫われたって言う姫なのか?」

 しかしイヨちゃんっておい! 16だから~とか言わねぇだろな?
 おいおい、なんかかなり若いぞ? 確かバカ王子が攫ったのは王国が滅ぶ切っ掛けとなった事件だったよな。
 確か俺が大消失を起こしたすぐ後だったか?
 目の前のイヨと名乗る若い女の10年前となると、よくて10代前半……下手すると一桁代も有り得るぞ?
 第二王子の趣味って……ロリコンだったのか? いや当時既に妙齢だったフォーセリアさんにも目を付けていたし守備範囲が広いだけか。
 けど、それと結婚したメイガスは……。
 見た目が若いだけでそれ相応の歳であって欲しい。

「おいおい、主人公っち。なんだか失礼なこと考えてないかい? あたしくらいイイ女だと成人年齢なんて物に縛られず運命の相手を選べるのさっ」

「『のさっ』って……しかし、また心を読んだな? 本当に神じゃねぇってのか?」

「キシシシシ。別に読んじゃいねぇいぜいっ! それだけ主人公っちが分かりやすい性格してるだけにゃ~」

 相変わらず掴み処が無い性格してるぜ。
 しかし俺ってそんなに分かりやすい性格してるか? これでも本心隠す事に20年近くも捧げて生きて来たんだけども。

「……覇王より分かれし44の王家には代々神より授かりし『権能』が宿っている。それは魔族封印後に制限が掛けられていたとしても……」

 イヨは急に目を瞑り、澄ました顔で静かに語り出す。
 あまりに突然だった為、思わず面を食らってしまった。
 今の話が本当だとすると魔族封印後の制限ってのはメアリの先祖だけの話じゃなかったのか。
 しかし、魔族を封印する王家の数は47じゃなく44なのか。
 最初から三大脅威は数に入ってなかったんだな。
 とは言え、俺まだ二つだぞ? 残りが22倍も有るんだが、数を実感すると本当に三年でなんとかなるのか心配になってきたぜ。

「だけど……稀に制限が外れる者が現れる……」

「もしかしてそれがお前だって言うのか?」

 勿体振る場合は大抵そう。
 その話が本当だとするとこいつは神の権能を100%使える存在って事か。
 一体どんな権能を持ってやがんだ?

「HeyHe~y! タイカ国の始祖『ヒミコ』様は、アポロン神が持つ『預言の権能』を授かったんだぜぇい」

 突然大きく手を上げたかと思うと相変わらずハイテンションで元気一杯にドヤ顔をしやがった。
 なんだろう? 仮にもお姫様だから敬意を払わなくちゃいけないんだろうけど、すまねぇがマジで全くそんな気起きねぇ。

「急に素に戻るなよ。って、ヒミコだと? あっ、もしかしてイヨって壱与から取ってるのか? そう言やタイカ国は邪馬台国と響きが似てるな。まぁギリシャ神話の神がなぜ和風な文化に権能を授けたのか分からんけどよ」

「おいおい、二つの神話には共通点が多いのをご存じない? シルクロードの旅の果て、そう様々な国の神話の終着点。日出る国を模したタイカ国だからこそ太陽神が守護したのにゃ~」

 思わずぽろっと口から出た元の世界の話にイヨは当たり前のように乗ってきやがった。
 ちょっと待て、こいつは神や俺の秘密だけじゃなく、俺の元の世界の事も知ってやがるだと?
 アポロンとか言う神め、なんて力を与えやがったんだ。

 しかし、ガイアといいウラヌスといい今度はアポロン?
 なんか今の所ぶち当たってる担当神がギリシャ神話ばかりなんだが、確率偏ってねぇか?
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