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第五章 変革

第84話 世界の穴

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「で、話してくれぬか? あの童話に書かれていた真実と言う物を」

 あの後、なんとかメアリを宥めて、時が来ればちゃんと話すとの説得で応接室から出て行ってもらった。
 なんか黙っていた事より、シルキーに可愛いって言った事の方ばかり謝らされた感じなんだが気のせいか?

 フォーセリアさんに関しては何も知らない筈だが、ここ最近発生している一連の出来事に関して、俺が関与している事を察したのだろう。
 優しく見守るような眼差しで俺に『頑張ってね』と言う言葉を残してメアリの後に続いた。
 その言葉だけで、俄然やる気が出て来た。

 今この部屋に居るのは俺と王子。
 それにシルキーの父親である元アメリア王国お庭番衆とか言う執事だけだ。
 長身痩躯の凛とした立ち姿。
 茶色の髪はビシッと整えられ、同じく茶色のカイゼル髭も決まっている。
 執事と言えば黒服をイメージするが、こいつは何故か茶色の執事服に身を包んでいる。
 とは言え、その着こなしに関しては、まさに執事の中の執事と言えるだろう。
 ちなみに名前は聞いていないし興味も無ぇ。

 しかし、今までこいつは王子側の人間で、どれだけこいつの前で秘密会議を行ったとしても情報漏洩はしない物と安心していたが、先程それが大間違いである事が判明したんだよな。
 まぁ、漏洩先がメアリなんで別に良いっちゃ良いんだけどよ。
 余計な心配はさせたくねぇんだよな。

「え~と、まずそこの執事さん。すまねぇが今から言う事は、あんたの娘のシルキーにも内緒にしてくれ。あいつメアリに聞かれるとなんでも喋っちまうみたいだからよ。メアリに余計な心配や危険な目に遭わせたくねぇんだ」

「分かりました、ショウタ殿。それに関しては私も思いもよらず申し訳ありません。普段はお嬢様のお願いと言えども、このような事は無い筈のですが、あなたの事になるとあの娘も普段の様にはいきますまい」 

 ん? なんで俺の事になると普段の様にいかねぇんだ?
 シルキーにしてもこいつにしても、なんだか俺とかなり親密だったみてぇな口振りなんだが、全く記憶に無ぇぞ?

「……それなんだが、なんでシルキーもあんたも俺の事知っているんだ? あれは何故かあんたらの事がアメリア王国に居た頃を思い出そうとしても全く出て来ねぇんだよ」

 俺がそう言うと執事は、遠い日を懐かしむ目をして微笑んだ。
 こんな目をして俺を見るって言う事は、やはり知り合いだったって事か?
 なんで俺は覚えてねぇんだ? 記憶でも封印されてるのか?

「……そうですね。詳しくは申せませんが、ショウタ殿がアメリア城にいらしていた時、幾度か庭園の手入れの手伝いをされた事が有ったのを覚えておられますかな?」

 庭園の手入れ?
 あぁ、確か庭師の棟梁が怪我で倒れたとか言って、短期間だけ手伝った事が有ったな。
 最初は小さい一角の手入れだけだったが、筋が良いってんで最終的に棟梁が手掛けていた範囲の半分程任される様になったんだ。
 なんせ俺は、母さんの英才教育チートスキルを持っているんだ。
 植木の選定から庭の掃除、彫刻磨きなんでもござれ。
 それに元々記憶の中の俺は成人まで色々な植物を育てて、色んな薬を作ってたんだしな。
 もし、あの記憶が神の作りもんじゃなかったら、今頃俺は薬屋か薬草ハンターになっていただろうさ。
 なんだかんだ言って、記憶の知識が実際に役に立つのが嬉しくて、どんどんのめり込んでいったんだ。
 まぁ家畜の世話は兎も角、この世界にペットを飼うってのは庶民の文化にゃ存在しなかった所為で、さすがのチートにも小動物の飼育法ってのは含まれてなかったもんだから、城で飼われてたペットの世話には苦労したけどよ。
 それでも毎日楽しかった。
 なんと言っても、結構な賃金が貰えてたしな。
 けど、仲間達からそんな事より冒険に行こうってブーブー言われてたっけ。
 あの頃は、まだ皆俺の後を付いて来ていた駆け出しだったしな。
 そう言えば、庭師の人達からもこのままこの城で庭師として働かないか? とか勧誘受けていた。
 
「もしかしてあんた庭師をやってたのか? 結構な人数居たんで済まねぇけど全員の顔は覚えてねぇや」

「フフフフ。まぁそう言う事にしておきましょう」

 執事は目を瞑ってそう言った。
 王子も似たような顔してやがる。
 違ったのか? ……まぁ良いか。
 あの頃は庭師の手伝いで城で働いている色んな人に会っていたしな。
 庭師の中で一番若かったし、短期間でそれなりの実績を残したんだ。
 そんな目立つ存在だった訳だし、城の他の奴等も俺の事を知っていたとしてもおかしくねぇだろ。
 俺が庭師を辞めた理由は、棟梁が復帰したってのも有るが、一番の理由は第二王子バカ王子の所為だな。
 俺の事に気付いたあのバカ王子は『冒険者風情が伝統ある我が王国の庭園に踏み入るとは汚らわしい』とか言ってきやがったんだ。
 元から、フォーセリアさんだけじゃなくレイチェルにまで色目使って来やがってたんでムカついてたが、あれは無いわ。
 あの時の俺、よく我慢出来たと思うぜ。
 それを聞いた棟梁が王様に陳情すると言ってくれたんだが、俺が止めたんだ。
 なんてったってあの頃の俺は、まだ英雄を目指していたし、王家相手に事を荒立てたくなかったしな。
 まぁ何にせよ、バカ王子は死んだし、どっちにしろ庭師のままで一生を終えるなんて人生を神が許容する訳もねぇんだけどよ。
 バカ王子の後の顛末からすると、あれも神のシナリオだったんだろう。
 そう思うとバカ王子と言えども可哀想な奴だぜ。

「ショウタ。今度アメリア王都に行くのだろう? そうしたら思い出す事も有ると思うぞ。まぁ、今はそんな事より……」

「あぁ、そうだな。取りあえずこの話はいいか。では改めて、持って来てくれたこの絵本なんだが、俺の推測が正しいとすれば、二巻の内容は……」

 俺はテーブルに積まれた数冊の『旅する猫』と言う題名の絵本の中から二巻を手に取りページを開く。
 パラパラと読み進めると……やはりな。

「王子、ちょっと読んでみな」

「ん? この絵本なら何度もメアリに読み聞かせたから知っておるぞ?」

「まぁ、いいからいいから」

 俺は王子に二巻を読むように薦めた。
 二巻の内容は簡単に言えばこうだ。
 『世界の穴に飛び込んだ旅する猫は、出会ったネズミの騎士の願いで、ヌワと名乗る蛇の女王に攫われたネズミのお姫さんを助けに行く』
 どっかで聞いた事無ぇか? 特にネズミのってところがな。

「ん? ……いや、まさか。そんな……馬鹿な」

「気付いたみてぇだな? あと恐らく最後の方の巻には火山に関係する国が出て来る筈だぜ?」

「た、確かに……。と言う事は、これは予言の書だとでも言うのか? 有り得ない。し、しかし、二巻の内容はアメリア王国の滅亡の原因に似ている……」

 そうだ。
 恐らくこれは神が用意した物だろう。
 予言書と言うより計画書って感じだけどな。
 何度もこの本を読み聞かせていた王子だが、気付かなかったのは仕方無ぇよな。
 まさか、絵本に自分の国の滅亡の事が書かれているとは思う訳無ぇさ。

「その蛇の女王の名前が『ヌワ』ってんだがよ。それ女媧の別の読み方なんだぜ?」

 正確には『ジョカ』と読む方が別の読み方になるんだが、この世界には言語が一つしか無ぇもんだから、別の言語の発音とか言っても通じねぇだろ。

「王子に頼みたい事が有る。すまねぇが、今まで『城喰いの魔蛇』が出没したって場所を調べてくれねぇか?」

「はっ! そ、そう言う事なのか? 『世界の穴』とは!」

 恐らくな。
 『城喰いの魔蛇』の魔族名は『アンラマンユ』。
 まぁ、奴は絶対悪って感じでも無ぇから、その眷属の『アジダカーハ』って線も有るがな。
 そして、奴が出入りした穴の跡が……。

 それが『世界の穴』なんだろうぜ。 
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