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第四章 予兆
第66話 偽装
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「あれが魔核か? 足の具合からするとまだ倒したってぇ訳ではなさそうだな」
ミイラ野郎の肉体自身は消滅したが、俺の足は未だに完全治癒を掛け続けないと塵と化す状態から脱していなかった。
相変わらず、形容し難い足の痛みは続いており、気を抜くと一気に崩壊しそうな違和感に苛まれたままだ。
「嘘を付かれたんじゃねぇと信じたいぜ。まぁ、魔族の言葉に期待するなんて変な話だけどな」
勇者しか倒せねぇと聞いた時には軽く絶望したが、その理由が光の精霊の使役ってんなら俺でも可能だった。
なんせ俺は全ての魔法を使える存在だからな。
魔道と治癒の二つの魔法の他に精霊を扱うなんて言う勇者専用の魔法技が有るって事までは知らなかったが、まぁそこは神のお墨付き貰っている手前、使えない訳が無ぇって事だ。
しかし、火山を穿つこの威力で倒し切れていねぇってんだから、魔族のしぶとさには恐れ入るぜ。
ヒビが入っているとは言え、恐らくこのまま放っておいたら復活してくる事は想像に難くねぇ。
本来の『雷光疾風斬』はそのまま切りつける技だったし、もしかするとミイラみたいな奴の身体自身はただの鎧みてぇな物で、光の精霊力でその鎧を破壊しながら、真の本体である魔核に切り付けると言うのが正攻法だったんだろう。
放出する力が強すぎた所為で、魔核のみになっちまっているが、逆に丁度良い。
剥き出しになっている今の内に破壊させてもらうとするか。
俺は未だ塵化の痛みが支配する左足を引き摺り、ミイラ野郎の反撃に用心しながら魔核の元まで歩く。
魔核……、それは腰位の高さの位置でぷかぷかと浮かんでいた。
見た目は、女媧の宝玉より一回り小さいか。
奴の目の様な真黒な球体だが、ひび割れた隙間からは女媧の宝玉が放っていたのと同じ様な光が漏れている。
まぁ、光って言えば聞こえは良いが、光の精霊の輝きを見た今じゃ、魔族の宝玉が放つ光は何処か禍々しく感じるぜ。
恐らくその光は女媧から受け取った魔族のバトンみたいな物なのだろう。
ナイフの間合いまで到着したが、魔核は特に再生が始まるでもなく、相変わらず同じ位置でふよふよと浮いたままだ。
途中で何か仕掛けて来るかと思ったが、特に何もないな。
もう再生する事さえ出来ないくらいに消耗したのか?
まぁ、山を穿つような威力の技をまともに喰らったんだから当たり前か。
魔核と共に次の魔族へのバトンも消えてくれてたら良かったんだがな。
魔核の前に立ってそう思った途端、ミイラ野郎が作ったこの止まった時間軸とのズレが起き始めた。
そろそろ、ブーストの効果が切れて来たか。
何とか間に合ってくれて良かったぜ。
後はこの魔核をぶっ壊すだけだ。
「さーてと、これで終わりだな。あばよ、ミイラ野郎」
振り上げた右手でナイフを逆手に持ち、魔核目掛けて振り下ろした。
『隙有りッ!』
突然声が響いたかと思った途端、魔核から鋭い槍の様なものが凄まじいスピードで飛び出してくる。
よく見ると指の様な物が見えるので、槍と思ったのは再生し掛けの奴の腕と言う事か。
力尽きたと思わせる為に偽装していたと言う事か!
ミイラ野郎の奴め、この瞬間を狙ってやがったんだな!
クソッ! この速度は今の俺には躱せそうにねぇぞ!
奴の能力で停止している時間軸から置いてきぼりにされ始めた俺には、その攻撃を避けるのは無理だろう。
俺は避けるのは諦めて、差し違える覚悟で右手に残る全ての力を込めて振り下ろす。
バシュッ!
俺がナイフを振り下ろすより先にミイラ野郎の腕が俺の身体に届き、何かが潰れる様な嫌な音が辺りに鳴り響いた。
『ハハハハハーーー! 勝った! 勝ったぞ! 善神共の犬に勝ったのだ』
奴は魔核から急速に再生しながら勝ち誇ったように俺に対してそう言い放った。
そして、更に俺の身体へとその腕をズブズブと差し込んでくる。
魔核状態のまま、この瞬間を狙っていたのだろう。
なにせ触れた者を塵と化す能力なのだから、触れさえすれば奴の勝ちだ。
ただでさえ、今の俺は足の塵化を抑える事に必死な状態だ。
もう一か所触れられた時点でゲームオーバーは確実、さすがに二か所に完全治癒を掛け続けていては動く事もままならねぇしな。
奴のサンドバッグ……、いや、三撃目で塵化確定になるんだからその表現は間違っているか。
……そう、間違っている。
なんせ、そんな未来は来ねぇからなっ!
「ば~か! そんな見え見えの手に乗る訳ねぇだろ! お前のその腕を見てみな」
「なっ! 何故喋れる! わ、我の腕だと? ば、馬鹿な、我の腕が!」
ミイラ野郎の腕の先は俺の身体に差し込んだ分だけ先が無くなっていた。
そして、そこから再生以上のスピードで崩壊が始まっている。
先程の何かが潰れる様な音も、俺じゃなくこいつの腕が消える音だ。
再生中だった所為で、痛みに気付かなかったようだな。
「何故だ! 何故貴様ではなく我が塵と化しているのだ!」
「はぁ? 何故って、お前自身が言ったじゃなぇか。勇者の技でしか倒せねぇって。逆に言うと勇者の技なら倒せるんだろ? お前の偽装のお返しだぜ。リリース」
俺はそう言って自分に掛けた隠蔽魔法を解除した。
それによって、俺の身体から光が溢れだす。
そう、この光は勇者の技である『雷光疾風斬』のおまけ、いやある意味これが技の本体と言うべきなのかもな。
コウメの出力じゃ俺に『結構痛い』程度のダメージしか与えなかったが、俺の場合はごらんの通り、元々こいつには特効技と言うのもあったのだろうが、こいつでもどうする事も出来ねぇ原初の力って奴により、こいつの身体が崩壊するレベルのダメージを与えている。
とは言っても、これは狙って出来た訳じゃなく、俺の常識が『雷光疾風斬』なんて言う中二病臭い技名を叫ぶ事に、恥ずかしさの余り少し戸惑っちまったもんだから、どうやら全力を出し切る事に失敗してしまっていたようだ。
その所為で、幾ばかの力が残っていたままな事に気付いて、念の為にと隠蔽魔法で光る身体を偽装させて貰ったって寸法だ。
まっ、怪我の功名って奴だな。
「そして、これでトドメだ。『雷光疾風斬』!!」
俺は手に持っているナイフに力を込めそのまま振り下ろす。
今度は恥ずかしがらずに残った力、全てを出し切る為に大声で叫んだ。
おっさんが中二病台詞を吐くのは、恥ずかしい事だと思っていたが、いざ口に出してみると少し気持ち良かった。
ブーストが切れ掛けている所為で速度は遅くなっているが、下半身が再生していない奴は逃れる事が出来ないだろう。
勝ったと思って下半身を再生しなかったからなのか、それとも下半身まで再生する力が残っていないのかは知らねぇが、今度こそこれで終わりだぜ。
「ば、馬鹿なーーーーー!!」
ミイラ野郎は迫りくるナイフを両手で遮ろうとするが、光のフィールドに触れた箇所から崩壊していく。
俺はそのまま魔核目掛けてナイフの刃を突き立てた。
サクッ!
触れる前に奴の身体は崩壊していった所為で、何の感触も無いままナイフを振り下ろしていたが、その切っ先に微かな抵抗を感じたかと思うと、まるでリンゴにナイフを刺したかのような小気味良い音が辺りに響いた。
後数cm腕を下ろせば奴とはおさらばだ。
辞世の言葉くらい聞いてやるか。
「これで本当にさよならだな。じゃあな、ミイラ野郎。何か言い残す事は無ぇか?」
「くそっ! くそっ! 我の名前はミイラ野郎ではない。我が名は『クァチル・ウタウス』だ。口惜しや、旧世界の支配者の名を冠している我が、この様な死を迎えるとは……。申し訳ありませぬ、ロキ様。しかし、善神共の犬よ! まだこの世には女媧と我を除いた四十五柱の魔族が居る。そして、その中には残りの死天王はおろか魔王も居るのだ。お前の命運はどうあっても死……」
「四十五って、多いわっ!! 死ね!」
バシュッ!
「ぎゃぁぁぁーーー。まだ途中だったのにぃぃぃぃーー!」
最後の言葉を聞いてやろうと、雷光疾風斬の放出を止めてやっていた俺なのだが、残りの魔族の数を聞いた瞬間、ツッコミと共に思わず技を放ってしまった。
それによって、奴の身体は断末魔と共に消え去り、魔核も内部からの光の精霊力の放出に耐え切れず、弾け飛びその欠片は地面に落ちる前に光の粒子となって消えていった。
「はぁ、はぁ。やっと倒したか……。マジで厄介な相手だったぜ。色々な意味でな」
残りカスで放った『雷光疾風斬』は、魔核の破壊に全ての力を使い果たしたのか、周囲に被害を出さずに消えちまった。
こんな近距離でさっきの様な威力で爆発された日にゃ、俺自身やばかったな。
やっぱりこの技は封印だぜ。
自爆で死んだら世話無ぇわ。
光が消え、辺りは夜の帳が降りだした夕暮れの薄暗い景色に戻った。
まだ時が止まった影響は残っているようだが、それも次第に戻っていくのを感じる。
俺の足の違和感も消えているので、今度こそミイラ野……、ここは奴の健闘を称えて名前で呼んでやるか。
そう、今度こそクァチル・ウタウスを倒したのだろう。
それに目の前には女媧の宝玉の様な球が浮いている。
中にはやはり少し形は違うが、同じような金属のプレートが漂う様に浮かんでいた。
そこに書かれている文字は……。
「おい! 神! ちゃんと作り直してやれよ!」
俺はそのプレートを見て、思わず天を仰ぎ神への文句を大声で叫んだ。
何故かと言うと、そこに掛かれていた文字は……。
『× Quachil Uttaus 2nd』
と言う様に、『44th』が×で潰され、名前と思われる英字の後ろに『2nd』の文字が明らかに急いで手を加えたかの様な汚さで刻まれていたからだ。
本来なら四十四番目だったのか……、なんか改めて思うとなんか本当に可哀想な奴だったぜ。
いや、それを言うなら魔族全体含めてかもな。
しかし、魔族はあと四十五匹も居るって事だが、これはアレだな。
神の奴め赤穂浪士を読んで数を決めたな。
折角なら八部衆とか十二神将を参考にしてくれていたら楽だったんだが。
まぁ、ソロモンの悪魔とか煩悩の数とか獣の数字に被れられて無くて助かったぜ。
さすがにそんな数だったら、今すぐ魔族との戦いを諦めて田舎に引き籠るわ。
他にもベラベラととんでもない事を言っていたが……。
「あっ! ヤバい!」
俺は有る事を思い出して振り返った。
目線の先にはコウメが居る。
まだ時間停止の影響は残っているようで、空中に浮かんだままだ。
と言っても、緩やかに動き出してはいるようでよく見ると手足の位置が変わっている。
残り時間は僅かなようだ、急がなければ。
俺は慌ててこの動き出そうとしている時の中を、コウメ目指して走りだした。
ミイラ野郎の肉体自身は消滅したが、俺の足は未だに完全治癒を掛け続けないと塵と化す状態から脱していなかった。
相変わらず、形容し難い足の痛みは続いており、気を抜くと一気に崩壊しそうな違和感に苛まれたままだ。
「嘘を付かれたんじゃねぇと信じたいぜ。まぁ、魔族の言葉に期待するなんて変な話だけどな」
勇者しか倒せねぇと聞いた時には軽く絶望したが、その理由が光の精霊の使役ってんなら俺でも可能だった。
なんせ俺は全ての魔法を使える存在だからな。
魔道と治癒の二つの魔法の他に精霊を扱うなんて言う勇者専用の魔法技が有るって事までは知らなかったが、まぁそこは神のお墨付き貰っている手前、使えない訳が無ぇって事だ。
しかし、火山を穿つこの威力で倒し切れていねぇってんだから、魔族のしぶとさには恐れ入るぜ。
ヒビが入っているとは言え、恐らくこのまま放っておいたら復活してくる事は想像に難くねぇ。
本来の『雷光疾風斬』はそのまま切りつける技だったし、もしかするとミイラみたいな奴の身体自身はただの鎧みてぇな物で、光の精霊力でその鎧を破壊しながら、真の本体である魔核に切り付けると言うのが正攻法だったんだろう。
放出する力が強すぎた所為で、魔核のみになっちまっているが、逆に丁度良い。
剥き出しになっている今の内に破壊させてもらうとするか。
俺は未だ塵化の痛みが支配する左足を引き摺り、ミイラ野郎の反撃に用心しながら魔核の元まで歩く。
魔核……、それは腰位の高さの位置でぷかぷかと浮かんでいた。
見た目は、女媧の宝玉より一回り小さいか。
奴の目の様な真黒な球体だが、ひび割れた隙間からは女媧の宝玉が放っていたのと同じ様な光が漏れている。
まぁ、光って言えば聞こえは良いが、光の精霊の輝きを見た今じゃ、魔族の宝玉が放つ光は何処か禍々しく感じるぜ。
恐らくその光は女媧から受け取った魔族のバトンみたいな物なのだろう。
ナイフの間合いまで到着したが、魔核は特に再生が始まるでもなく、相変わらず同じ位置でふよふよと浮いたままだ。
途中で何か仕掛けて来るかと思ったが、特に何もないな。
もう再生する事さえ出来ないくらいに消耗したのか?
まぁ、山を穿つような威力の技をまともに喰らったんだから当たり前か。
魔核と共に次の魔族へのバトンも消えてくれてたら良かったんだがな。
魔核の前に立ってそう思った途端、ミイラ野郎が作ったこの止まった時間軸とのズレが起き始めた。
そろそろ、ブーストの効果が切れて来たか。
何とか間に合ってくれて良かったぜ。
後はこの魔核をぶっ壊すだけだ。
「さーてと、これで終わりだな。あばよ、ミイラ野郎」
振り上げた右手でナイフを逆手に持ち、魔核目掛けて振り下ろした。
『隙有りッ!』
突然声が響いたかと思った途端、魔核から鋭い槍の様なものが凄まじいスピードで飛び出してくる。
よく見ると指の様な物が見えるので、槍と思ったのは再生し掛けの奴の腕と言う事か。
力尽きたと思わせる為に偽装していたと言う事か!
ミイラ野郎の奴め、この瞬間を狙ってやがったんだな!
クソッ! この速度は今の俺には躱せそうにねぇぞ!
奴の能力で停止している時間軸から置いてきぼりにされ始めた俺には、その攻撃を避けるのは無理だろう。
俺は避けるのは諦めて、差し違える覚悟で右手に残る全ての力を込めて振り下ろす。
バシュッ!
俺がナイフを振り下ろすより先にミイラ野郎の腕が俺の身体に届き、何かが潰れる様な嫌な音が辺りに鳴り響いた。
『ハハハハハーーー! 勝った! 勝ったぞ! 善神共の犬に勝ったのだ』
奴は魔核から急速に再生しながら勝ち誇ったように俺に対してそう言い放った。
そして、更に俺の身体へとその腕をズブズブと差し込んでくる。
魔核状態のまま、この瞬間を狙っていたのだろう。
なにせ触れた者を塵と化す能力なのだから、触れさえすれば奴の勝ちだ。
ただでさえ、今の俺は足の塵化を抑える事に必死な状態だ。
もう一か所触れられた時点でゲームオーバーは確実、さすがに二か所に完全治癒を掛け続けていては動く事もままならねぇしな。
奴のサンドバッグ……、いや、三撃目で塵化確定になるんだからその表現は間違っているか。
……そう、間違っている。
なんせ、そんな未来は来ねぇからなっ!
「ば~か! そんな見え見えの手に乗る訳ねぇだろ! お前のその腕を見てみな」
「なっ! 何故喋れる! わ、我の腕だと? ば、馬鹿な、我の腕が!」
ミイラ野郎の腕の先は俺の身体に差し込んだ分だけ先が無くなっていた。
そして、そこから再生以上のスピードで崩壊が始まっている。
先程の何かが潰れる様な音も、俺じゃなくこいつの腕が消える音だ。
再生中だった所為で、痛みに気付かなかったようだな。
「何故だ! 何故貴様ではなく我が塵と化しているのだ!」
「はぁ? 何故って、お前自身が言ったじゃなぇか。勇者の技でしか倒せねぇって。逆に言うと勇者の技なら倒せるんだろ? お前の偽装のお返しだぜ。リリース」
俺はそう言って自分に掛けた隠蔽魔法を解除した。
それによって、俺の身体から光が溢れだす。
そう、この光は勇者の技である『雷光疾風斬』のおまけ、いやある意味これが技の本体と言うべきなのかもな。
コウメの出力じゃ俺に『結構痛い』程度のダメージしか与えなかったが、俺の場合はごらんの通り、元々こいつには特効技と言うのもあったのだろうが、こいつでもどうする事も出来ねぇ原初の力って奴により、こいつの身体が崩壊するレベルのダメージを与えている。
とは言っても、これは狙って出来た訳じゃなく、俺の常識が『雷光疾風斬』なんて言う中二病臭い技名を叫ぶ事に、恥ずかしさの余り少し戸惑っちまったもんだから、どうやら全力を出し切る事に失敗してしまっていたようだ。
その所為で、幾ばかの力が残っていたままな事に気付いて、念の為にと隠蔽魔法で光る身体を偽装させて貰ったって寸法だ。
まっ、怪我の功名って奴だな。
「そして、これでトドメだ。『雷光疾風斬』!!」
俺は手に持っているナイフに力を込めそのまま振り下ろす。
今度は恥ずかしがらずに残った力、全てを出し切る為に大声で叫んだ。
おっさんが中二病台詞を吐くのは、恥ずかしい事だと思っていたが、いざ口に出してみると少し気持ち良かった。
ブーストが切れ掛けている所為で速度は遅くなっているが、下半身が再生していない奴は逃れる事が出来ないだろう。
勝ったと思って下半身を再生しなかったからなのか、それとも下半身まで再生する力が残っていないのかは知らねぇが、今度こそこれで終わりだぜ。
「ば、馬鹿なーーーーー!!」
ミイラ野郎は迫りくるナイフを両手で遮ろうとするが、光のフィールドに触れた箇所から崩壊していく。
俺はそのまま魔核目掛けてナイフの刃を突き立てた。
サクッ!
触れる前に奴の身体は崩壊していった所為で、何の感触も無いままナイフを振り下ろしていたが、その切っ先に微かな抵抗を感じたかと思うと、まるでリンゴにナイフを刺したかのような小気味良い音が辺りに響いた。
後数cm腕を下ろせば奴とはおさらばだ。
辞世の言葉くらい聞いてやるか。
「これで本当にさよならだな。じゃあな、ミイラ野郎。何か言い残す事は無ぇか?」
「くそっ! くそっ! 我の名前はミイラ野郎ではない。我が名は『クァチル・ウタウス』だ。口惜しや、旧世界の支配者の名を冠している我が、この様な死を迎えるとは……。申し訳ありませぬ、ロキ様。しかし、善神共の犬よ! まだこの世には女媧と我を除いた四十五柱の魔族が居る。そして、その中には残りの死天王はおろか魔王も居るのだ。お前の命運はどうあっても死……」
「四十五って、多いわっ!! 死ね!」
バシュッ!
「ぎゃぁぁぁーーー。まだ途中だったのにぃぃぃぃーー!」
最後の言葉を聞いてやろうと、雷光疾風斬の放出を止めてやっていた俺なのだが、残りの魔族の数を聞いた瞬間、ツッコミと共に思わず技を放ってしまった。
それによって、奴の身体は断末魔と共に消え去り、魔核も内部からの光の精霊力の放出に耐え切れず、弾け飛びその欠片は地面に落ちる前に光の粒子となって消えていった。
「はぁ、はぁ。やっと倒したか……。マジで厄介な相手だったぜ。色々な意味でな」
残りカスで放った『雷光疾風斬』は、魔核の破壊に全ての力を使い果たしたのか、周囲に被害を出さずに消えちまった。
こんな近距離でさっきの様な威力で爆発された日にゃ、俺自身やばかったな。
やっぱりこの技は封印だぜ。
自爆で死んだら世話無ぇわ。
光が消え、辺りは夜の帳が降りだした夕暮れの薄暗い景色に戻った。
まだ時が止まった影響は残っているようだが、それも次第に戻っていくのを感じる。
俺の足の違和感も消えているので、今度こそミイラ野……、ここは奴の健闘を称えて名前で呼んでやるか。
そう、今度こそクァチル・ウタウスを倒したのだろう。
それに目の前には女媧の宝玉の様な球が浮いている。
中にはやはり少し形は違うが、同じような金属のプレートが漂う様に浮かんでいた。
そこに書かれている文字は……。
「おい! 神! ちゃんと作り直してやれよ!」
俺はそのプレートを見て、思わず天を仰ぎ神への文句を大声で叫んだ。
何故かと言うと、そこに掛かれていた文字は……。
『× Quachil Uttaus 2nd』
と言う様に、『44th』が×で潰され、名前と思われる英字の後ろに『2nd』の文字が明らかに急いで手を加えたかの様な汚さで刻まれていたからだ。
本来なら四十四番目だったのか……、なんか改めて思うとなんか本当に可哀想な奴だったぜ。
いや、それを言うなら魔族全体含めてかもな。
しかし、魔族はあと四十五匹も居るって事だが、これはアレだな。
神の奴め赤穂浪士を読んで数を決めたな。
折角なら八部衆とか十二神将を参考にしてくれていたら楽だったんだが。
まぁ、ソロモンの悪魔とか煩悩の数とか獣の数字に被れられて無くて助かったぜ。
さすがにそんな数だったら、今すぐ魔族との戦いを諦めて田舎に引き籠るわ。
他にもベラベラととんでもない事を言っていたが……。
「あっ! ヤバい!」
俺は有る事を思い出して振り返った。
目線の先にはコウメが居る。
まだ時間停止の影響は残っているようで、空中に浮かんだままだ。
と言っても、緩やかに動き出してはいるようでよく見ると手足の位置が変わっている。
残り時間は僅かなようだ、急がなければ。
俺は慌ててこの動き出そうとしている時の中を、コウメ目指して走りだした。
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