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第四章 予兆

第54話 王家の持つ力

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「とまぁ、皆の者にはああ言って、納得して貰ったのだが、ショウタ殿。儂はな、女神様の仰っていた口伝を話すべき本当の相手とは、おぬしの事なのではないかと思っておるのだよ」

 王様からの『友達の友達は友達』と言う言葉で、近衛騎士達は今一釈然としないながらもそれなりに納得した様子で部屋から出て行った。
 まぁ、それ以上に『姫さんを更生した』と言うのが効いたみたいだ。
 確実に何人かは、俺と姫さんの事を勘違いしている風だったしな。
 姫さん自身はニコニコした顔で俺に『また後で』と声を掛けて部屋から出て行った。

 いや、俺としてはもうこれっきりにして欲しいんだが……。
 最後に『これは王家男子と認められたと言う事ですわ』と言ったのが聞こえた気がしたが、多分気のせいだろう。

 そんな感じで皆を見送り、扉が閉まった途端王様がとんでもない事を言って来やがった。
 慌てて、先輩と王子を三度みたび、目で俺の秘密を喋ったのかどうか確認するが、やはり首を振って否定した。
 姫さんを更生したとか、教導役で有名になったとか、そんな些末な事で国王の口からこんな言葉は出ない筈だ。

 ならば、他の誰かが俺の秘密を? 可能性が有るのはダイスだが、あいつがストレートに俺の秘密を言わない事は先日の件で分かった。
 それに、国王や姫さんの話振りから最近直接会っていなかったぽいし、少なくとも女媧の一件が伝わっているとも思えない。
 とは言え、俺の事を各所でべた褒めしているので、ある意味普段の俺の行動からすると過剰に評価されてしまっているのは晩餐会の時に実感している。

 だが、それだけで女神様が絡む話に俺が出て来るなんてのは、お門違いと言う奴だろう。
 実際正しいにしてもだ。
 取りあえず、俺の事を知らない人間から、意味不明の過大評価をされるのは気持ち悪い。
 否定しておかないと、後々厄介事が舞い込みそうだ。

「国王、その様に私の事を評価して頂けるのは光栄なのですが、さすがに女神様の言葉の相手が私と仰るのは少し過分な事と思うのですが」

 俺がそう言うと、国王はおかしそうに笑った。
 俺なんかおかしい事言ったっけ? 真面目に返したと思うんだが。
 あっ! もしかして、庶民はもうちょっとへりくだった言い方じゃないとダメなのか?

 笑っているようで実は無礼にキレているとかじゃねぇだろうな?

「ほっほっほっ。儂はこれでも30年以上この国を治めておるのだよ。人を視る目にはいささか自信が有るのだ。父上も兄上も生前良く言っておった。良き王とは、正しく人を視る目を持つ者だとな」

 う~ん、『人を視る目を持つ者』? いや、そうかもしれないけど、俺のこの馬子にも衣装的な付け焼刃の正装姿を見て、そう言うのなら節穴じゃないのか?
 多少神の所為で年齢より若作りだが、どこから見ても普通のおっさんにしか見えないと思うんだが。

「あっ!」

 先輩が突然何かに気付いた様な声を上げた。
 
「先輩どうしたんだよ。急に。びっくりするじゃないか」

「忘れていた……」

「何をだよ?」

「さっきの叔父上の話だよ。人を視る目と言う奴」

 先輩はアワアワと焦った顔をして国王を見ている。
 すると国王は少し意地悪そうな笑いを浮かべた。

「それがどうしたんだ?」

「ほっほっほっ。儂はな、生まれ付きこの眼で視た者の本質を見抜く能力が備わっておったのだよ」

「は? えっとそれはどう言う? 洞察力とかそんな意味では無く?」

「違うんだ。俺が小さい頃から魔法に優れていたのはさっき言ったが、俺の家系は代々魔法力に優れているんだよ。そして叔父上は通常の魔法は使えないが、その代わりその眼に神の奇跡とでも言う力が宿っているんだ」

「え? 何それ? 初めて聞く設定なんだが? え?」

「設定? と言う意味は分からんが、それ自体は別に不思議な事では有るまいよ。私の王家でも同じだ。私も娘のメアリも生まれ付き魔法感応力に優れておる。それに元々王とは周りの者より優れていたから王となり国を興したのだ。その血に力が有るのは自明の理。それに恐らく建国に神が携わった王家には、何らかの加護が宿っているのだろう」

 王子が当たり前の様に、王家の持つ力とやらを説明しだした。
 もしかして、王子やメアリが俺の隠蔽魔法を打ち破って感知出来たりするのもそれの所為なのか?
 いやいや、そんな事よりもだ。

「うわぁぁーーーー、またも後出しかよ! 嘘だろーーーー!」

 俺は、神の卑劣なる罠に嵌まった自分の迂闊さに、膝から崩れ落ちて嘆きの声を上げる。

 まただよ、また後出し情報だよ。
 なにそれ? 王家の力? なんで今頃そんな重要な設定の話が飛び出すんだよ!

 いや、薄々王子とメアリはその感知能力の高さから、そんな片鱗を匂わせていたのは確かだが、個人的な能力と思っていた。
 まさか、王家の力だったとは!
 ハッ! もしかして先輩一家の攻撃が俺に効くのはそう言う事なのか?
 と言う事は姉御も本当は?

「なぁ先輩? 姉御も何処かの王族だったりするのか?」

「ん? いや、あいつはアメリア王国にある地方の村出身で代々猟師をやっていた。それに俺の素性は話していねぇ。まぁ、感の良いあいつの事だ。気付いてるかも知れねぇがな」

 あっ、違うのか。
 攻撃が効く理由は分からないが、姉御まで何処かのお姫様とかじゃなくて良かった。
 これ以上周りに王族は要らねぇよ。

 あぁ、しかし、こんな事なら来るんじゃなかったぜ。

「ほっほっほっ。カマを掛けてみたがどうやら本当の様なのだな」

「え? カマを掛けたって?」

「いやはや、この眼は『天眼』と呼ばれておる物なのだが、普通の者ならこの眼を通せばその感情だけではなく、ある程度素性までも視認出来る。それがな、おぬしに関しては霞が掛かった様に見えなかったのだよ。という事は普通の者じゃない。そんな者が、女神様が降臨したと言うこのタイミングで儂の前に現れたのだ。だから確認の為に少し試させてもらったのだよ」

「や、やられたーーー!!」

 もしかして、適当に知らぬ存ぜぬを通していたら誤魔化せたんじゃねぇのか?
 魔法で防御してました~とか、そう言うマジックアイテム持ってました~とか。
 丁度魔族のプレートが有るし、これのお陰とか言えば……。
 迂闊だった。過剰反応してしまって言い訳出来ねぇじゃねぇか。
 いや、まだいけるかもしれねぇ。

「お、俺は一般人ですよ? 鑑定出来ないのは、この護符のお陰で……」

「今更遅いわ!」 ガンッ!

「いてぇ!」

 言い訳していると先輩のゲンコツが降って来た。
 やっぱり先輩の攻撃はダイレクトに骨に響きやがる。

「お前さっきから俺達の事を疑って来ていたよな? 失礼な奴だぜ」

「そうだぞ、ショウタよ。結局自分からバラした様なものではないか」

「ぐっ、そ、それは……。い、いや元はと言えば、国王にそんな力が有るって言ってくれていれば対策が取れたじゃねぇか! なんで言ってくれなかったんだよ!」

「ぬ、そ、それは。さっき言った通り忘れていたとしか……」


「ほっほっほっ。おぬし達は本当に仲が良いのう。これだけを見ても、女神様の言っていた『友』と言うのはおぬしを含めたこの三人と言う事の証明だよ」

「そ、それは……」

「話してくれぬか、ショウタ殿。先程おぬしが過去を語りかけた時のランドルフの様子では何か事情が有るのだろう。他言はせぬ故、お願いする」

 ぐぬぬ、これは観念するしかなさそうだ。
 こうなったら隠しても仕方無い、洗いざらい喋るか。
 勿論この世界のふざけた成り立ちや俺が転生した件は伏せるがな。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「……と言う訳です。俺は確かに女神が言っていた様に、その使徒で間違いないし、恐らく国王の推察通り女神が真に伝えようとしていた相手も俺で間違いないと思います」

 俺の故郷が『大陸渡りの魔竜』に滅ぼされた所から、この街に辿り着き先日の聖女返上までのあらましを説明した。

「なるほどのう。しかし、女神様が降臨される前のあの出来事は全ておぬし一人だけの魔法だったと言う事か。いやはや使徒と言う物はとんでもないな」

「しかし、その力が目覚めるのが遅かった所為で、俺は村人を手に掛けてしまいました。それに王子の国も……」

「ショウタ。それはお前の所為じゃないと言っただろう。その時には既に村人達は魔族の眷族となっていたんだ。それに本当は俺がやらなければならなかった事をお前に押し付けてしまったんだよ。あれは俺の責任だ」

「そうだぞショウタ。悪いのは魔族なのだ。それを言うなら弟の愚行を許してしまった私の責任だ。お前が国の事を悔やむ事は無い」

 俺の懺悔に先輩と王子はそう言って慰めてくれた。
 その言葉は嬉しい。……だが、そうじゃない。

 皆には言えない秘密。

 全ての出来事には裏で神が糸を引いている。
 それは、この世界の人々が信じている神じゃない。
 その神さえ、そいつらの手によって作られた存在だ。
 俺の手に掛かって死んだ罪の無い村人達も、王子の国が滅んだのも、そもそも第二王子が魔族を解放したのだって、その神達の仕業によるものだろう。
 全ては自分達の娯楽の為。

 本当にふざけてやがるぜ。

 この秘密だけは、誰にも言えないし、これが有るからこそ俺は腐らずにやって来れたんだ。
 自分達の娯楽の為に生死を弄ばれるこの世界の住人達。
 そんな可哀想な人達を少しでも助ける事が出来ればと、身を隠しながら手の届く範囲で助けて来た。

 手の届く……。

 言い換えるならそれは俺が紡ぐ物語の登場人物と言う事だ。
 まぁ、裏で『通りすがりの英雄達』なんて呼ばれているとは思わなかったがな。
 これでさえ神達の思惑通りなのかもしれないが、そんな事は関係無い。
 これ以上、神達の娯楽の犠牲者は出させねぇよ。

 絶対にな。
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