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終篇
暁光
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◆
彼女は、一番目は。
傍観者であり、観測者であり、記録者であり、語り部であり、世界樹の人形であり、後継者でした。
彼女は感情を持つことは許されず、この世界で生きる者と交わることも許されませんでした。ましてや愛するなど。それは、壊れることが許されない彼女にはひどく辛いものなのですから。それでも、そうであっても。彼女は出会ってしまったのです。
自分を愛してくれる存在、ロキという男に。
彼女は、シギュンは考えてしまいました。想像してしまいました、夢を見てしまいました。小さな籠から飛び出して、愛する者達に囲まれて幸せに生きる自分の姿を。
だから、彼女はロキの手を掴んでしまったのです。それが間違いであったとは誰も言いません。彼女がロキを愛しても、運命は変わらないのですから。ただ、彼女が苦しいだけなのですから。
そして今、彼女は燃える世界を見ている。
空は、彼女が愛する彼の黄昏色に染まっているというのに、彼女の瞳から涙が止まることはありませんでした。
深く重い哀しみが、彼女の中へと押し寄せて、心をくしゃりと潰していくのです。
そんな悲しみに暮れる娘に、世界樹はこう言い放ちます。
「エット。悲しむ必要はない。これが、世界の在り方だ。世界は始まり、そして必ず終わりがやってくる。その繰り返しが世界の理であり、我々はそれを記していかねばならないのだ。ユミルの時もそう。ユミルが死んだことにより、世界は変わった。今回は、それよりも大きな世界の転換であったのだ、さぁ、エット。……新たな世界へ」
――いやだ。
「……可哀想な子だ。警告したはずだぞ。辛くなるのはお前自身なのだとな」
――それでも。こんなのはあんまりよ。
「それが、運命だ」
――いいえ、認めない。
認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない!
――私は……永遠の幸せを、綴ってみせる。
そして彼女は、私は、母からその座を奪い取り、運命を書き直すべく何度も何度も繰り返したのです。永遠の幸せがある運命に辿り着くために、何度も何度も。ロキと出会って、愛し合って、ナリとナルと共に家族として過ごして。
けれど、辿る運命は必ず同じ。
私がどう介入しようとも、運命は変わらない。ナリとナルは死んで、ロキは復讐に囚われて。何度も何度も、私はそれを見せられる。記録者として。
終焉は、死は、我々を逃さないのだ。
◆
「逝かないでっ!」
荒い息遣いで叫ぶシギュン。彼女の瞳に飛び込むのは、窓から差し込む暖かな日差しと。
「……シギュン」
「っ――!」
愛しい夫の姿だ。シギュンはゆっくりと息を落ち着かせながら夫ロキの傍へとすり寄って、強く強く抱きしめる。そんな彼女の様子に、ロキはいたって落ち着きながら「どうしたんだよ、シギュン」と声をかける。
「朝から随分と甘えん坊さんだな。君からだなんて珍しい光景だ」
「……ちょっと、怖い夢を見たの」
「………………」
「貴方が、家族が、いなくなっちゃう夢。でも、大丈夫。もうそれが現実になることなんてないもの」
そう、此処は永遠の箱庭。シギュンが考えた、創った、綴った、幸せを詰めこんだ世界なのだから。
「……………………」
「ずっと……ずっと一緒にいようね、ロキ」
シギュンの誓いに、ロキは。
「………………………………………………なぁ、シギュン」
彼女の名を呼んで、微笑みを見せるだけであった。
「少し出掛けないか?」
ロキからの突然の誘いにシギュンは戸惑いながらも「うん、いいわよ?」と答える。
「そうだわ! なら、お弁当でも作りましょうか! 兄妹も誘って――」
瞳を輝かせて楽しげに計画を練ろうとするシギュンに、ロキは一言刺した。
「ナリとナルなら出掛けてるよ。……会いたい奴等に、会いに行ったんだ」
寂しげにそれでも笑顔で話したロキの言葉に、シギュンは理解が追いつけずにいた。少し間が空いて、理解が出来た瞬間。彼女の瞳に、影が差す。
「……あぁ、そう。そうなのね、ロキ」
シギュンがロキの頬に優しく手をかける。彼女の手が触れた瞬間、ロキは目を瞑り、そしてゆっくりと両目を開けた片方の瞳は、緋色に彩られている。
「貴方、醒めたのね」
彼はもう、彼女が拒んだ終焉の記憶を思い出してしまったロキなのだ。
◇
場所は変わり。
神の国では宴が催されていた。何を祝っているのかは分からないが、神族も戦乙女も戦士達も、皆踊ったり曲に合わせて身体を揺らしたり、と各々の楽しみ方で過ごしている。
ナリとナルはというと。トールや豊穣の兄妹と共に宴のご飯やお菓子を長机に並べている最中であった。
「ありがとうございました、トールさん。急に宴がしたいだなんて言ったのに、こんなに豪華に開催してくれて」
「いいのよ~全然! とっても楽しいから、逆にこっちがお礼を言いたいくらいだもの!」
和やかに話をするトール達とは違って、豊穣の兄妹はジト目で兄妹の様子を伺っている。そんな彼等の視線に気づいた兄妹は「なんだよ」「話したいことがあればどうぞ」という視線を送る。
「……なんだか気に食わない目ねそれは」
「まぁいい。では聞くが。これは一体どういった意図のものだ? 貴様等から宴の発案など珍しいではないか」
豊穣の兄妹の疑問を聞いたナリは「……最後は、賑やかに終わりたいじゃん」と聞こえないぐらいに小さな声で呟く。それを聞き返そうとするフレイの間に「それじゃあ」とナルが割って入る。
「何か理由が欲しいなら……感謝を伝える宴というのはどうですか?」
ナルの提案にナリは「うんうん」と大きく頷くも、それを聞いた豊穣の兄妹はそれでも頭に疑問符を浮かべては呆けた顔を見せる。そんな彼等に兄妹は口を揃えて伝えるのだ。
「「友達になってくれてありがとう」」
「「………………………………」」
兄妹はそう伝えて、ナリはフレイをナルはフレイヤを少しの間抱きしめて、身体を離す。まだ放心状態の彼等だが、兄妹はまだ会うべき者達がいるためか、トールに声をかけて笑顔でその場を去ろうとする。また会えるかのように、軽やかに、この青空のように爽やかに。
ようやく言葉を理解出来た豊穣の兄妹は、走り去っていく兄妹の背中に向かって叫ぶのだ。
「「ありがとう!」」
兄妹は背中を向けたままヒラヒラと彼等に手を振る。
そんな彼等の様子を見ていたトールは、持っていたお菓子を頬張りながら「しょっぱくしちまったかなぁ」と笑うのであった。
◇
兄妹が宴で賑わう中を歩いていると「ナリ君、ナルさん」と声をかける者が現れる。その声のした方へと顔を向けると。
「ホズさん!/バルドルさん!」
兄妹に手を大きく振って声をかけてきたのは、バルドルとホズの兄弟であった。兄妹は彼等の傍へと近付いては、揃ってジーッと二人を見つめる。そんな二人の不思議な様子にバルドルが首を傾げていると、ホズは「……あぁ」と声を漏らす。
「気にかけなくていいよ。僕達、あの夜の世界の記憶があるからさ」
「……そっか。記憶、あるんですね」
「ついさっき思い出したんだ。ほんと驚いたよ。すごいねこの世界は……さっきまで、彼の方と仲良く話していたから少し気分が悪かったんだけれど。兄様と君達に会えたから、まぁ、良しとしようかな」
ホズの苦しげな表情に、隣にいたバルドルは苦笑を見せている。どうやら、既にホズの性格は兄バルドルにばれてしまっているようだ。曝け出すホズの姿に、兄妹は大きな口で笑い飛ばす。
「ハハッ。そういうホズさん、俺は嫌いじゃないぜ」
「私も!」
「……私は慣れるのにまだかかりそうだよ。そういえば……ナリ君、ナルさん。ロキは、一緒じゃないのか?」
バルドルが苦笑いからふと真面目な顔へと変えてそう問いかけると、ナリが彼の疑問に答える。
「父さんは母さんと一緒にいるってさ。俺は聞いたんだぜ、バルドルさんと会わないのかって。でも、父さん……『バルドルと会ったら喧嘩するからやだ!』って言ってさ。子供かよってな」
そう父親の悪口を言うナリであるが、彼は親友であるロキとバルドルが喧嘩してしまう理由を知っている。けれど、口にはしない。それは、親友同士だけのやり取りだから。ナリから聞いた言葉に「それも、そうかもね」とバルドルは零す。
「で!」
「で?」
「伝言。お父さんから頼まれました。『今度は自分と弟のためだけに生きろよ。ばーか!』って。いやだから子供じゃないんだから。ほんと……こんな親友をもって大変ですね、バルドルさん」
「揃いも揃って、ね」
「お? それは俺達のことかよホズさん」
「強いて言うなら、ホズさんの方が厄介者ですよ。よかったですね、私達と友達になれて」
悪戯な笑みを浮かべる兄妹に、ホズは呆れ顔を見せる。
「なに、もしかしてあの時の仕返しのつもり? ……え、僕達って親友じゃないの?」
「「……………………。親友に決まってるんじゃないかー!」」
「あっ、こら、こしょばいって~!」
ホズと兄妹の笑顔で熱烈なハグが繰り広げられる横で、バルドルはナルから聞いた伝言を、頭の中で繰り返しながら。「フッ」と笑みを吹き出す。
「……あっはは、なんだよそれは! それが最後の伝言かよ!」
親友からの言葉にバルドルはお腹を抱えながら大笑いを見せた。
そんな彼の姿を見届けた兄妹はホズから離れて「じゃっ! 伝えましたからね!」と彼らはまた颯爽と走り出してしまった。
バルドルは笑いすぎて痛くなっていたお腹をさすり、兄妹の後ろ姿を見届けながら、ホズの手に自身の手を添える。
「それにしても。自分と弟のために生きろよって、そんなの分かって――」
「分かっていても兄様は他者に動くから言ったんですよ。貴方の親友は」
「…………ホズ。本当に君は容赦がなくなったね」
愛する兄からの言葉に、ホズは「慣れてください」と悪戯な笑みを見せる。
「僕がこうじゃないと、貴方は今度こそ壊れてしまいますよ」
「……新世界、か」
愛する弟の、今まで見たことのない表情にまだまだ動揺が隠せずにいるバルドルだが、すぐに真剣な眼差しで青空を見つめる。これから自分達が生まれ変わる、新しい世界を。
「はい。世界樹が話すには……僕と兄様だけが生き返り、そして僕達で新たに歩んでいく世界だそうです」
ホズの言葉にバルドルは拳を力強く握る。
「そっか……じゃあ……頑張ろっか。また親友の彼等に会って、胸張って喧嘩できるように、さ!」
ホズに向けたバルドルのその笑顔は、とても、とても眩くて、けれど今までの光の神としてではなく、バルドルとしての柔らかくて暖かな笑顔。ホズはその笑顔に瞳を揺らしながら。
「――えぇ、兄様!」
と、彼もまたとびっきりの笑顔を見せるのであった。これからは共に、彼と同じ金色の瞳で世界の光を瞳に焼きつけるのだと、重なる兄の手を強く握るのであった。
◇
兄妹は彼等と別れて少し歩いてから、ナルが「ねぇ、お兄ちゃん」と前を歩く兄へと声をかける。ナリは「ん? なんだ?」と優しく返す。ナルは少し小さな声で「あの、ね、私……」と、震えた声で彼女は言葉を漏らす。
あの時の、言葉を。
「お兄ちゃん。――ご」
「ナル」
ナリは彼女の言葉を遮るかのように勢いよく振り返る。泣きそうな青ざめた顔をする妹を瞳に映しながらも、彼は怒りを抑えた表情で、ただまっすぐに彼女へと言葉を突き刺す。
「それ以上言うなら、俺はナルを嫌いになるぞ」
大好きな兄からの言葉にナルは更に怯えた表情を見せた。そんな彼女を引き寄せてナリはぎゅうっと優しく抱きしめる。
「ナル。それをお前の口から出すな。俺に向けるな」
「…………」
「そんで、さ。俺はあの時のことは……俺自身を許さない事にした」
妹の涙を拭えなかった自分自身を。
「っ! それは違っ――!」
「違わねぇよ」
彼女にとっての間違った思考を持った兄へ言い返そうとするナルだったが、兄の男としての腕の力に負けてしまい、彼女の顔は彼の胸へと埋められる。それでも暴れようとする彼女。自分が一番悪いのだと、自分が一番愚かなのだと、彼女は彼女自身を憎むのだ。
「だからさ、ナル。お前も――お前を許すな」
兄を殺してしまった自分自身を。
「……………………………………。わかった」
彼女の心の中に渦巻く負の感情を押し殺しながら、やってしまった事を思い返してはナルは吐きそうになりながらも、弱々しく声を出して彼の思いを受け入れた。仕方がないのだ。彼はどうしようもなく彼女の兄なのだから。
そうして、ナルは兄の背中へと腕を回し、同じように優しく抱きしめ返すのだった。互いに安らかな笑みを浮かべて。
少しの間、抱きしめあったまま過ごす兄妹。そんな彼等の傍に、ある者達が現れる。
「ナリ様、ナル様」
エアリエルとフェンリルであった。エアリエルはいつものように朗らかな笑みを、フェンリルもいつものように不機嫌気味な表情ながらも彼らしい不器用な笑みを見せている。その姿を見たナリは、ナルから身体を離して、彼女をフェンリルの方へと振り向かせる。
「ほらナル。フェンリルのとこ行ってこい。また父さんと母さんの所でな」
「……うん」
「フェンリル、ナルをよろしくな」
ナリの言葉にフェンリルは頷き、少し動きがおぼつかないナルを横にもたれさせながら、ゆっくりと歩いていった。
◇
フェンリルがナルを連れて行ってからすぐ。
「……ナリ様」
「ん? えっ、おい……ぐえっ」
エアリエルはナリの腕を引っ張って、木陰のある所へと移動して彼を座らせると、すぐさまその背後へと回って抱きしめる。
それから彼女はずっとナリの身体を腕の中に埋めながら、逃がさないように逃げないように無言で彼を抱きしめている。ナリは、いつもなら恥ずかしさが平常心を上回って彼女の腕から逃れようと暴れてしまうところなのだが。今の彼は、彼女からの抱擁を受け入れている。今だけは、受け入れなければいけないのだ。彼女が感じた、後悔と寂しさを埋め合わせるために。
周囲の宴だけが喧しいまま、無言の時間が続いた。
話すこと話したいこと、言ってやりたいこと。きっと沢山あっただろうに。それでも彼女は話そうとしない。彼も、話そうとしない。話して互いの苦しみや悲しみを分かち合うのではなく、一度失ってしまった隣に愛する者と共に安らかな時間を味わいながら過ごす。というのが今は正解なのだろう、と。彼と彼女は互いに口に出さずとも此処に答えを出したのだ。
エアリエルは瞑っていた瞳を開けて、ナリを見つめる。愛する者を見つめる。食べたいほどに大好きで、けれどそれを抑えて隣にいたいと思えた者を見つめる。敬意を好意を愛を込めた瞳で見つめる。
そんな熱を帯びる瞳に気づいたナリは「リリィ?」と彼女の瞳に顔を映し、彼女の真名を呼ぶ。エアリエル――リリィは同じように「……ナリ様」と彼の名を呼ぶ。
「うん? なんだ?」
「……私。私は、ナリ様のこと――」
リリィは開きかけた口をすぼませる。今ここで、最後だからと勇気を振り絞って伝えることではないだろう、と自分自身に喝を入れながら。このままでいいのだ、自分のこの感情は甘酸っぱい恋にさせたままでいいのだ、と。自身の勇気を無理矢理にでも引っ込ませる。
「お慕いしています、ずっと、ずっと。……だから、もう少しだけ……このままでいさせてください」
「……あぁ」
ナリはリリィの言いかけた言葉や葛藤に気付きながらも、それに対して自身の口から語ろうとはせず、彼女の手に自分の指を絡ませて握るのであった。
◇
ナルを連れたフェンリルは、ナリとエアリエルとは離れた木陰で休んでいた。フェンリルは大木にもたれて、ナルはとても幸せそうな顔で彼のお腹あたりに頭を置いて寝そべっている。
「あぁ、幸せ……!」
「こんなことで幸せを感じられるとは、貴様の頭が阿呆で良かったよ」
「失礼ですね。しかも、こんな事だなんて言わないでください。今まで、私がどれだけ頼んでもしてくれなかったお腹枕をしてくれているんですから! これはもう、幸せに浸っちゃいますよ……」
そう賛美を湧かせながら、彼女はお腹枕にスリスリと擦り寄って幸せを噛み締める。彼女の行動にこそばゆさを感じながらも、決して笑わないようにと顔をしかめさせるフェンリルであった。
それから少しして。宴の喧騒が心地よい声のように感じながら、フェンリルが口を開く。
「……辛くないか」
今、幸せの最高潮だったナルは目を見開く。どうして、彼は今聞いてきたのだろうか。いや、違う。きっと今だからこそ、彼は聞いてきたのだろう。彼は優しい狼だから。そこに気付いたナルはゆっくりと瞼を閉じながら「えぇ、大丈夫です」と答える。そんな彼女をフェンリルは黙って見つめる。
「……なんて、ね。流石に私だって、そこまで素直じゃないです」
「だと思ったよ」
フェンリルは乾いた笑いをナルに向け、嘘を見破られたナルは苦笑いを浮かべながら青空を見上げては「お兄ちゃんに」と言葉を繋げていく。
「『謝ったら嫌いになるから』って言われちゃいましたし、勝手に自分も悪いんだって言い始めるし……。受け入れることにしました」
「……」
「私は、もうあの時のことを兄さんに謝らない。そして、私も私のことを許さない」
「それで、いいんだな」
「えぇ、それでいいんです」
ナルの出した答えに、その清々しい笑顔に、あの時見たかった笑顔を見ることが出来たフェンリルは「……そうか」と声を溢し――。
「……俺様も、それぐらい強引にすればよかったか?」
彼のか細い問いかけに、ナルは間を置かず「いいえ」と即答する。
「あの一瞬をもし生き残ったとしても、私はまた死のうとしたでしょうね」
ナルの返答に、フェンリルは悲しげに眉を寄せながら「そうか」とまた声をこぼした。そんな彼に彼女は「ねぇ、フェンリルさん」と優しげな声をかける。
「なんだ?」
「……ありがとう」
果たして。この言葉はいつの言葉に対してなのだろうか。
狼になった彼女を見つけた時か。死のうとした彼女を止めようとしたことか。共に生きようと言いかけてくれたことか。名前を言ってくれたことか。今、傍にいることか。
「……………………。あぁ」
どれだっていい。どれでなくてもいい。彼があの時欲しかった言葉を、彼女は今くれたのだから。
フェンリルはナルからもらった言葉に余韻に浸りながら、彼女の顔に自身の顔を擦り付けるのであった。
◇
そんな彼等の様子を、ロキとシギュンは高台から見守っていた。
「……なぁ」
「ねぇ、ロキ。この世界は幸せに満ち溢れている。そう思うでしょ?」
ロキが彼女に話しかけようとしたものの、それは彼女の言葉によって遮られてしまう。シギュンはなおも強く握るロキの手に力を込める。
「……あぁ、そうだね」
「ふふっ。だって、そうあるべきと私が書き換えたんだもの。貴方に、そうだと思ってもらわなきゃ意味がない」
彼女が笑顔で話すものだから、ロキも釣られて笑顔を見せてしまう。シギュンの言うように、彼自身もこれ以上ない幸せを感じているのは理解しているのだ。
ナリとナル、シギュン。最愛の家族がいる。親友がいる。
何不自由なく、辛いことも苦しいこともなく、皆がそれぞれ思う幸せの形に収まっているという、理想の形。
これほど、幸せなことはないだろう。幸せなのだ、とても、とても。
だからこそ。
「……もういいんだよ、シギュン」
その言葉を聞いた彼女は、まばたきもせずロキの瞳を見続ける。
「なにが、もういいの?」
彼女は笑顔のまま首を傾げ、何も分かっていないふりをする。
「この世界がだよ」
「……どうして? 幸せでしょう?」
「あぁ、幸せだ。願っていた幸せだ、ボクも君も、一緒に願っていた幸せ。でも……これは、全部偽物なんだろ」
「……偽物でも、本物の世界よりはいいでしょう? だから、ねぇ、ロキ。お願いだから……もう一度眠って――」
「シギュン。駄目なんだよ、それじゃあ」
ロキがシギュンの言葉を遮ると、彼女は唇を噛み締める。
「何が、駄目だというの? ……貴方は、幸せになりたくないの? どんなやり方をしてでも、幸せをずっと続けていたいと思わないの?」
「…………………………」
ロキ自身も、幸せは続けていたかった。彼が夜の世界で兄妹と出会ってから感じた想いは、自分の子供の傍にいたいという感情。頭を撫でて嬉しく思うのも、胸が踊ったのも、愛する子供だったから。
「私は!」
シギュンは瞳を涙で濡らしながら、ロキに詰め寄る。
「私は絶対に認めない! 認められるわけないじゃない! あんな終わり方……! だから私は貴方達との幸せを取り戻すために、お母様の力を奪って、何度も何度も繰り返して……それでも、貴方達の運命が変えられないから……。だから! こうやって新たな世界を書き――」
「シギュン!」
大きな声でありながらも、言葉一つ一つが震える。
「……君の考えに、ボクは賛成できない。君が壊れてしまうような、そんなやり方は……間違っている」
虚妄の幸せで塗り固めた箱の中で一生を過ごすのは、断じて幸せなどという輝かしいものではない。
だから――。
「シギュン。終わりにしよう、こんな世界」
愛する者からの拒絶で――彼女の肌にヒビが走る。
彼女の銀色の髪が穢れを受け入れぬ純白へ、瞳は穢れを知り尽くした血のような赤へ。雲ひとつ無い青空には硝子のようにヒビが入り、その隙間から瑠璃色の空が見えていた。
彼女の作った虚妄の世界が、壊れ始めていく。
「どうして」
彼女が瞳に涙を浮かべながら、そう問いかけた。
「どうしてそんな事を言うの? ……私が嫌いになった? 貴方の復讐を、拒絶したから? だから、私に同じようなことをしているの?」
涙が流れる。その涙が、肌の亀裂に沿って流れていく。
「君に生きてて欲しいから。愛してるから。だからあの時も巻き込みたくなかったんだ。君が生きれる道があるのなら、生きていて欲しかったから」
ロキの言葉に、シギュンはロキを睨みつける。
「……最低ね。私だけ生きても、意味がないというのに」
「……。君のほうこそ、ボクが嫌いになった?」
ロキの赤い瞳が熱くなる。シギュンはロキの言葉を聞いて、あの日のことを思い出しながら、彼の手を絶対に離さないと言わんばかりに、強く握りしめる。
「えぇ、嫌いになったわ。復讐の焔で燃える貴方は、私が愛した太陽のような貴方じゃなくなっていたから。私が嫌いな、負の感情に囚われた貴方を、私は受け入れる事が出来なかったのよ」
シギュンの身体のあちこちにどんどんとヒビが広がっていき、彼女は弱々しくロキの胸の中でうづくまる。
「けれど、愛してる。愛しているのよ、ロキ。だから私は繰り返した。……ねぇ、私達はもう幸せを願ってはいけないの? あの先を、日常が、幸せが、全て崩れなかったその先を見ることを、願ってはいけないの? ――少しの幸せでよかったのに」
愛しい人が苦しむ姿をロキは見たくないと目をギュッと瞑ってしまう。ものの、彼は歯を食いしばり、彼女の名前を呼ぼうと口を開く。しかし。
「……こんな、こんな苦しい思いをするのなら。この世界さえも、貴方に受け入れてもらえないのなら……」
変えられなかった運命も、哀しみも、苦しみも、怒りも、憎しみを見ぬように。そして、いつまでも続いてほしいと願って願って願い続けた幸せさえも、見たくないと言いたげな光の灯らぬ瞳で、シギュンは。
「貴方を、愛さなければよかった」
シギュンとして生きた日々を否定した。愛する彼女の口から出た言葉に、ロキは唇を噛み締める。
「……そんな事、言わないでくれよ、シギュン」
ロキ自身の心に亀裂が走る。ロキは心が苦しい中、彼女への言葉をなんとか搾り出していく。
「ボクは君に出会えて、ナリとナルに出会えて、家族になれて、愛することが出来て……幸せだよ」
繋ぐ手に、彼女の涙が零れ落ちる。
「……じゃあ、どうして受け入れてくれないのよ」
「それ、は……このままじゃ、君が、壊れてしまうから。壊れたら……それこそ君がやってきた事に意味がなくなってしまうだろ」
ロキの言葉に、シギュンは「……えぇ、そうね」と呟く。また、彼女の身体と空のヒビが広がっていく。
「けれど。いくら輪廻の軸に戻ったとしても、もう貴方達とは会えない! この四人で家族になれることなんてないの! ……いいじゃないっ! 幸せを感じたまま、この嘘で出来た世界もろとも壊れてしまいましょう。それこそ、永遠の幸せよ!」
彼女は純粋な笑みでそう言った。しかしロキは、それに笑顔は返さなかった。
「……シギュン。これはボクの我儘だけれど」
乱雑に継ぎ接ぎさせられた世界に、未来は存在しないけれど。
「どんな形であれ。次もまた、ボクと愛し合ってくれないか? ナリとナルもさ」
ロキの突拍子もない提案に、シギュンは口を開けて呆けてしまう。しかし、ロキのいつにも増して真剣な表情に、彼女は見惚れてしまうのだ。
「……ねぇ、話聞いてた? そんなの無理なのよ。本当に貴方は、頭がおかしいのね」
シギュンは呆れ顔で言うも、その口元は穏やかな笑みを浮かばせている。
「そこまで言わなくてもいいだろ? でも、信じてよ。永遠はできなくても、愛する君と、愛する色んな彼等と、これからのいつかで会いたい。どんな形でも、愛してることはずっと変わらないから」
まだ語られていない物語があるのなら、その物語の白紙の頁に書いてやろう。
「「また一緒になれるの/か?」」
ロキとシギュンの両隣に兄妹が現れては二人の顔を覗いてくる。ロキが「あぁ。きっとな」と頷けば、兄妹はとびっきりの笑顔を見せる。その兄妹の笑顔に、シギュンはまた涙が溢れそうになるのを抑える。この瞬間の、家族の姿を瞳に焼きつけるために。
「……あ」
ロキ達の背後の――瑠璃色の空が広がっていた亀裂に、眩い曙色の光が差し始めている。
夜明けが近い。
「……また会えるのよね?」
シギュンはロキの手をまだ離さずに、掠れた声で聞く。
「……うん。君が信じ続けてくれるのなら。だから今だけは――」
また会える日を楽しみに。
君に、君達に、笑って言おう。
「「「さよなら」」」
◇
空も地面も、これから色んな色(ミライ)に塗られるために。
まるで、一面に白い彼岸花が咲いているかのように。
全てが白く染まっていた。
そんな空間の真ん中に、一人の女がいた。
白く長い髪を風に揺らし、赤い瞳は赤い涙で霞んでいる。
彼女はかすれきった声で。
それでも、また会える日を楽しみにして、彼が愛してくれた花のような笑顔で。
一文字ずつ口を動かす。
「さよなら」
彼女は、一番目は。
傍観者であり、観測者であり、記録者であり、語り部であり、世界樹の人形であり、後継者でした。
彼女は感情を持つことは許されず、この世界で生きる者と交わることも許されませんでした。ましてや愛するなど。それは、壊れることが許されない彼女にはひどく辛いものなのですから。それでも、そうであっても。彼女は出会ってしまったのです。
自分を愛してくれる存在、ロキという男に。
彼女は、シギュンは考えてしまいました。想像してしまいました、夢を見てしまいました。小さな籠から飛び出して、愛する者達に囲まれて幸せに生きる自分の姿を。
だから、彼女はロキの手を掴んでしまったのです。それが間違いであったとは誰も言いません。彼女がロキを愛しても、運命は変わらないのですから。ただ、彼女が苦しいだけなのですから。
そして今、彼女は燃える世界を見ている。
空は、彼女が愛する彼の黄昏色に染まっているというのに、彼女の瞳から涙が止まることはありませんでした。
深く重い哀しみが、彼女の中へと押し寄せて、心をくしゃりと潰していくのです。
そんな悲しみに暮れる娘に、世界樹はこう言い放ちます。
「エット。悲しむ必要はない。これが、世界の在り方だ。世界は始まり、そして必ず終わりがやってくる。その繰り返しが世界の理であり、我々はそれを記していかねばならないのだ。ユミルの時もそう。ユミルが死んだことにより、世界は変わった。今回は、それよりも大きな世界の転換であったのだ、さぁ、エット。……新たな世界へ」
――いやだ。
「……可哀想な子だ。警告したはずだぞ。辛くなるのはお前自身なのだとな」
――それでも。こんなのはあんまりよ。
「それが、運命だ」
――いいえ、認めない。
認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない!
――私は……永遠の幸せを、綴ってみせる。
そして彼女は、私は、母からその座を奪い取り、運命を書き直すべく何度も何度も繰り返したのです。永遠の幸せがある運命に辿り着くために、何度も何度も。ロキと出会って、愛し合って、ナリとナルと共に家族として過ごして。
けれど、辿る運命は必ず同じ。
私がどう介入しようとも、運命は変わらない。ナリとナルは死んで、ロキは復讐に囚われて。何度も何度も、私はそれを見せられる。記録者として。
終焉は、死は、我々を逃さないのだ。
◆
「逝かないでっ!」
荒い息遣いで叫ぶシギュン。彼女の瞳に飛び込むのは、窓から差し込む暖かな日差しと。
「……シギュン」
「っ――!」
愛しい夫の姿だ。シギュンはゆっくりと息を落ち着かせながら夫ロキの傍へとすり寄って、強く強く抱きしめる。そんな彼女の様子に、ロキはいたって落ち着きながら「どうしたんだよ、シギュン」と声をかける。
「朝から随分と甘えん坊さんだな。君からだなんて珍しい光景だ」
「……ちょっと、怖い夢を見たの」
「………………」
「貴方が、家族が、いなくなっちゃう夢。でも、大丈夫。もうそれが現実になることなんてないもの」
そう、此処は永遠の箱庭。シギュンが考えた、創った、綴った、幸せを詰めこんだ世界なのだから。
「……………………」
「ずっと……ずっと一緒にいようね、ロキ」
シギュンの誓いに、ロキは。
「………………………………………………なぁ、シギュン」
彼女の名を呼んで、微笑みを見せるだけであった。
「少し出掛けないか?」
ロキからの突然の誘いにシギュンは戸惑いながらも「うん、いいわよ?」と答える。
「そうだわ! なら、お弁当でも作りましょうか! 兄妹も誘って――」
瞳を輝かせて楽しげに計画を練ろうとするシギュンに、ロキは一言刺した。
「ナリとナルなら出掛けてるよ。……会いたい奴等に、会いに行ったんだ」
寂しげにそれでも笑顔で話したロキの言葉に、シギュンは理解が追いつけずにいた。少し間が空いて、理解が出来た瞬間。彼女の瞳に、影が差す。
「……あぁ、そう。そうなのね、ロキ」
シギュンがロキの頬に優しく手をかける。彼女の手が触れた瞬間、ロキは目を瞑り、そしてゆっくりと両目を開けた片方の瞳は、緋色に彩られている。
「貴方、醒めたのね」
彼はもう、彼女が拒んだ終焉の記憶を思い出してしまったロキなのだ。
◇
場所は変わり。
神の国では宴が催されていた。何を祝っているのかは分からないが、神族も戦乙女も戦士達も、皆踊ったり曲に合わせて身体を揺らしたり、と各々の楽しみ方で過ごしている。
ナリとナルはというと。トールや豊穣の兄妹と共に宴のご飯やお菓子を長机に並べている最中であった。
「ありがとうございました、トールさん。急に宴がしたいだなんて言ったのに、こんなに豪華に開催してくれて」
「いいのよ~全然! とっても楽しいから、逆にこっちがお礼を言いたいくらいだもの!」
和やかに話をするトール達とは違って、豊穣の兄妹はジト目で兄妹の様子を伺っている。そんな彼等の視線に気づいた兄妹は「なんだよ」「話したいことがあればどうぞ」という視線を送る。
「……なんだか気に食わない目ねそれは」
「まぁいい。では聞くが。これは一体どういった意図のものだ? 貴様等から宴の発案など珍しいではないか」
豊穣の兄妹の疑問を聞いたナリは「……最後は、賑やかに終わりたいじゃん」と聞こえないぐらいに小さな声で呟く。それを聞き返そうとするフレイの間に「それじゃあ」とナルが割って入る。
「何か理由が欲しいなら……感謝を伝える宴というのはどうですか?」
ナルの提案にナリは「うんうん」と大きく頷くも、それを聞いた豊穣の兄妹はそれでも頭に疑問符を浮かべては呆けた顔を見せる。そんな彼等に兄妹は口を揃えて伝えるのだ。
「「友達になってくれてありがとう」」
「「………………………………」」
兄妹はそう伝えて、ナリはフレイをナルはフレイヤを少しの間抱きしめて、身体を離す。まだ放心状態の彼等だが、兄妹はまだ会うべき者達がいるためか、トールに声をかけて笑顔でその場を去ろうとする。また会えるかのように、軽やかに、この青空のように爽やかに。
ようやく言葉を理解出来た豊穣の兄妹は、走り去っていく兄妹の背中に向かって叫ぶのだ。
「「ありがとう!」」
兄妹は背中を向けたままヒラヒラと彼等に手を振る。
そんな彼等の様子を見ていたトールは、持っていたお菓子を頬張りながら「しょっぱくしちまったかなぁ」と笑うのであった。
◇
兄妹が宴で賑わう中を歩いていると「ナリ君、ナルさん」と声をかける者が現れる。その声のした方へと顔を向けると。
「ホズさん!/バルドルさん!」
兄妹に手を大きく振って声をかけてきたのは、バルドルとホズの兄弟であった。兄妹は彼等の傍へと近付いては、揃ってジーッと二人を見つめる。そんな二人の不思議な様子にバルドルが首を傾げていると、ホズは「……あぁ」と声を漏らす。
「気にかけなくていいよ。僕達、あの夜の世界の記憶があるからさ」
「……そっか。記憶、あるんですね」
「ついさっき思い出したんだ。ほんと驚いたよ。すごいねこの世界は……さっきまで、彼の方と仲良く話していたから少し気分が悪かったんだけれど。兄様と君達に会えたから、まぁ、良しとしようかな」
ホズの苦しげな表情に、隣にいたバルドルは苦笑を見せている。どうやら、既にホズの性格は兄バルドルにばれてしまっているようだ。曝け出すホズの姿に、兄妹は大きな口で笑い飛ばす。
「ハハッ。そういうホズさん、俺は嫌いじゃないぜ」
「私も!」
「……私は慣れるのにまだかかりそうだよ。そういえば……ナリ君、ナルさん。ロキは、一緒じゃないのか?」
バルドルが苦笑いからふと真面目な顔へと変えてそう問いかけると、ナリが彼の疑問に答える。
「父さんは母さんと一緒にいるってさ。俺は聞いたんだぜ、バルドルさんと会わないのかって。でも、父さん……『バルドルと会ったら喧嘩するからやだ!』って言ってさ。子供かよってな」
そう父親の悪口を言うナリであるが、彼は親友であるロキとバルドルが喧嘩してしまう理由を知っている。けれど、口にはしない。それは、親友同士だけのやり取りだから。ナリから聞いた言葉に「それも、そうかもね」とバルドルは零す。
「で!」
「で?」
「伝言。お父さんから頼まれました。『今度は自分と弟のためだけに生きろよ。ばーか!』って。いやだから子供じゃないんだから。ほんと……こんな親友をもって大変ですね、バルドルさん」
「揃いも揃って、ね」
「お? それは俺達のことかよホズさん」
「強いて言うなら、ホズさんの方が厄介者ですよ。よかったですね、私達と友達になれて」
悪戯な笑みを浮かべる兄妹に、ホズは呆れ顔を見せる。
「なに、もしかしてあの時の仕返しのつもり? ……え、僕達って親友じゃないの?」
「「……………………。親友に決まってるんじゃないかー!」」
「あっ、こら、こしょばいって~!」
ホズと兄妹の笑顔で熱烈なハグが繰り広げられる横で、バルドルはナルから聞いた伝言を、頭の中で繰り返しながら。「フッ」と笑みを吹き出す。
「……あっはは、なんだよそれは! それが最後の伝言かよ!」
親友からの言葉にバルドルはお腹を抱えながら大笑いを見せた。
そんな彼の姿を見届けた兄妹はホズから離れて「じゃっ! 伝えましたからね!」と彼らはまた颯爽と走り出してしまった。
バルドルは笑いすぎて痛くなっていたお腹をさすり、兄妹の後ろ姿を見届けながら、ホズの手に自身の手を添える。
「それにしても。自分と弟のために生きろよって、そんなの分かって――」
「分かっていても兄様は他者に動くから言ったんですよ。貴方の親友は」
「…………ホズ。本当に君は容赦がなくなったね」
愛する兄からの言葉に、ホズは「慣れてください」と悪戯な笑みを見せる。
「僕がこうじゃないと、貴方は今度こそ壊れてしまいますよ」
「……新世界、か」
愛する弟の、今まで見たことのない表情にまだまだ動揺が隠せずにいるバルドルだが、すぐに真剣な眼差しで青空を見つめる。これから自分達が生まれ変わる、新しい世界を。
「はい。世界樹が話すには……僕と兄様だけが生き返り、そして僕達で新たに歩んでいく世界だそうです」
ホズの言葉にバルドルは拳を力強く握る。
「そっか……じゃあ……頑張ろっか。また親友の彼等に会って、胸張って喧嘩できるように、さ!」
ホズに向けたバルドルのその笑顔は、とても、とても眩くて、けれど今までの光の神としてではなく、バルドルとしての柔らかくて暖かな笑顔。ホズはその笑顔に瞳を揺らしながら。
「――えぇ、兄様!」
と、彼もまたとびっきりの笑顔を見せるのであった。これからは共に、彼と同じ金色の瞳で世界の光を瞳に焼きつけるのだと、重なる兄の手を強く握るのであった。
◇
兄妹は彼等と別れて少し歩いてから、ナルが「ねぇ、お兄ちゃん」と前を歩く兄へと声をかける。ナリは「ん? なんだ?」と優しく返す。ナルは少し小さな声で「あの、ね、私……」と、震えた声で彼女は言葉を漏らす。
あの時の、言葉を。
「お兄ちゃん。――ご」
「ナル」
ナリは彼女の言葉を遮るかのように勢いよく振り返る。泣きそうな青ざめた顔をする妹を瞳に映しながらも、彼は怒りを抑えた表情で、ただまっすぐに彼女へと言葉を突き刺す。
「それ以上言うなら、俺はナルを嫌いになるぞ」
大好きな兄からの言葉にナルは更に怯えた表情を見せた。そんな彼女を引き寄せてナリはぎゅうっと優しく抱きしめる。
「ナル。それをお前の口から出すな。俺に向けるな」
「…………」
「そんで、さ。俺はあの時のことは……俺自身を許さない事にした」
妹の涙を拭えなかった自分自身を。
「っ! それは違っ――!」
「違わねぇよ」
彼女にとっての間違った思考を持った兄へ言い返そうとするナルだったが、兄の男としての腕の力に負けてしまい、彼女の顔は彼の胸へと埋められる。それでも暴れようとする彼女。自分が一番悪いのだと、自分が一番愚かなのだと、彼女は彼女自身を憎むのだ。
「だからさ、ナル。お前も――お前を許すな」
兄を殺してしまった自分自身を。
「……………………………………。わかった」
彼女の心の中に渦巻く負の感情を押し殺しながら、やってしまった事を思い返してはナルは吐きそうになりながらも、弱々しく声を出して彼の思いを受け入れた。仕方がないのだ。彼はどうしようもなく彼女の兄なのだから。
そうして、ナルは兄の背中へと腕を回し、同じように優しく抱きしめ返すのだった。互いに安らかな笑みを浮かべて。
少しの間、抱きしめあったまま過ごす兄妹。そんな彼等の傍に、ある者達が現れる。
「ナリ様、ナル様」
エアリエルとフェンリルであった。エアリエルはいつものように朗らかな笑みを、フェンリルもいつものように不機嫌気味な表情ながらも彼らしい不器用な笑みを見せている。その姿を見たナリは、ナルから身体を離して、彼女をフェンリルの方へと振り向かせる。
「ほらナル。フェンリルのとこ行ってこい。また父さんと母さんの所でな」
「……うん」
「フェンリル、ナルをよろしくな」
ナリの言葉にフェンリルは頷き、少し動きがおぼつかないナルを横にもたれさせながら、ゆっくりと歩いていった。
◇
フェンリルがナルを連れて行ってからすぐ。
「……ナリ様」
「ん? えっ、おい……ぐえっ」
エアリエルはナリの腕を引っ張って、木陰のある所へと移動して彼を座らせると、すぐさまその背後へと回って抱きしめる。
それから彼女はずっとナリの身体を腕の中に埋めながら、逃がさないように逃げないように無言で彼を抱きしめている。ナリは、いつもなら恥ずかしさが平常心を上回って彼女の腕から逃れようと暴れてしまうところなのだが。今の彼は、彼女からの抱擁を受け入れている。今だけは、受け入れなければいけないのだ。彼女が感じた、後悔と寂しさを埋め合わせるために。
周囲の宴だけが喧しいまま、無言の時間が続いた。
話すこと話したいこと、言ってやりたいこと。きっと沢山あっただろうに。それでも彼女は話そうとしない。彼も、話そうとしない。話して互いの苦しみや悲しみを分かち合うのではなく、一度失ってしまった隣に愛する者と共に安らかな時間を味わいながら過ごす。というのが今は正解なのだろう、と。彼と彼女は互いに口に出さずとも此処に答えを出したのだ。
エアリエルは瞑っていた瞳を開けて、ナリを見つめる。愛する者を見つめる。食べたいほどに大好きで、けれどそれを抑えて隣にいたいと思えた者を見つめる。敬意を好意を愛を込めた瞳で見つめる。
そんな熱を帯びる瞳に気づいたナリは「リリィ?」と彼女の瞳に顔を映し、彼女の真名を呼ぶ。エアリエル――リリィは同じように「……ナリ様」と彼の名を呼ぶ。
「うん? なんだ?」
「……私。私は、ナリ様のこと――」
リリィは開きかけた口をすぼませる。今ここで、最後だからと勇気を振り絞って伝えることではないだろう、と自分自身に喝を入れながら。このままでいいのだ、自分のこの感情は甘酸っぱい恋にさせたままでいいのだ、と。自身の勇気を無理矢理にでも引っ込ませる。
「お慕いしています、ずっと、ずっと。……だから、もう少しだけ……このままでいさせてください」
「……あぁ」
ナリはリリィの言いかけた言葉や葛藤に気付きながらも、それに対して自身の口から語ろうとはせず、彼女の手に自分の指を絡ませて握るのであった。
◇
ナルを連れたフェンリルは、ナリとエアリエルとは離れた木陰で休んでいた。フェンリルは大木にもたれて、ナルはとても幸せそうな顔で彼のお腹あたりに頭を置いて寝そべっている。
「あぁ、幸せ……!」
「こんなことで幸せを感じられるとは、貴様の頭が阿呆で良かったよ」
「失礼ですね。しかも、こんな事だなんて言わないでください。今まで、私がどれだけ頼んでもしてくれなかったお腹枕をしてくれているんですから! これはもう、幸せに浸っちゃいますよ……」
そう賛美を湧かせながら、彼女はお腹枕にスリスリと擦り寄って幸せを噛み締める。彼女の行動にこそばゆさを感じながらも、決して笑わないようにと顔をしかめさせるフェンリルであった。
それから少しして。宴の喧騒が心地よい声のように感じながら、フェンリルが口を開く。
「……辛くないか」
今、幸せの最高潮だったナルは目を見開く。どうして、彼は今聞いてきたのだろうか。いや、違う。きっと今だからこそ、彼は聞いてきたのだろう。彼は優しい狼だから。そこに気付いたナルはゆっくりと瞼を閉じながら「えぇ、大丈夫です」と答える。そんな彼女をフェンリルは黙って見つめる。
「……なんて、ね。流石に私だって、そこまで素直じゃないです」
「だと思ったよ」
フェンリルは乾いた笑いをナルに向け、嘘を見破られたナルは苦笑いを浮かべながら青空を見上げては「お兄ちゃんに」と言葉を繋げていく。
「『謝ったら嫌いになるから』って言われちゃいましたし、勝手に自分も悪いんだって言い始めるし……。受け入れることにしました」
「……」
「私は、もうあの時のことを兄さんに謝らない。そして、私も私のことを許さない」
「それで、いいんだな」
「えぇ、それでいいんです」
ナルの出した答えに、その清々しい笑顔に、あの時見たかった笑顔を見ることが出来たフェンリルは「……そうか」と声を溢し――。
「……俺様も、それぐらい強引にすればよかったか?」
彼のか細い問いかけに、ナルは間を置かず「いいえ」と即答する。
「あの一瞬をもし生き残ったとしても、私はまた死のうとしたでしょうね」
ナルの返答に、フェンリルは悲しげに眉を寄せながら「そうか」とまた声をこぼした。そんな彼に彼女は「ねぇ、フェンリルさん」と優しげな声をかける。
「なんだ?」
「……ありがとう」
果たして。この言葉はいつの言葉に対してなのだろうか。
狼になった彼女を見つけた時か。死のうとした彼女を止めようとしたことか。共に生きようと言いかけてくれたことか。名前を言ってくれたことか。今、傍にいることか。
「……………………。あぁ」
どれだっていい。どれでなくてもいい。彼があの時欲しかった言葉を、彼女は今くれたのだから。
フェンリルはナルからもらった言葉に余韻に浸りながら、彼女の顔に自身の顔を擦り付けるのであった。
◇
そんな彼等の様子を、ロキとシギュンは高台から見守っていた。
「……なぁ」
「ねぇ、ロキ。この世界は幸せに満ち溢れている。そう思うでしょ?」
ロキが彼女に話しかけようとしたものの、それは彼女の言葉によって遮られてしまう。シギュンはなおも強く握るロキの手に力を込める。
「……あぁ、そうだね」
「ふふっ。だって、そうあるべきと私が書き換えたんだもの。貴方に、そうだと思ってもらわなきゃ意味がない」
彼女が笑顔で話すものだから、ロキも釣られて笑顔を見せてしまう。シギュンの言うように、彼自身もこれ以上ない幸せを感じているのは理解しているのだ。
ナリとナル、シギュン。最愛の家族がいる。親友がいる。
何不自由なく、辛いことも苦しいこともなく、皆がそれぞれ思う幸せの形に収まっているという、理想の形。
これほど、幸せなことはないだろう。幸せなのだ、とても、とても。
だからこそ。
「……もういいんだよ、シギュン」
その言葉を聞いた彼女は、まばたきもせずロキの瞳を見続ける。
「なにが、もういいの?」
彼女は笑顔のまま首を傾げ、何も分かっていないふりをする。
「この世界がだよ」
「……どうして? 幸せでしょう?」
「あぁ、幸せだ。願っていた幸せだ、ボクも君も、一緒に願っていた幸せ。でも……これは、全部偽物なんだろ」
「……偽物でも、本物の世界よりはいいでしょう? だから、ねぇ、ロキ。お願いだから……もう一度眠って――」
「シギュン。駄目なんだよ、それじゃあ」
ロキがシギュンの言葉を遮ると、彼女は唇を噛み締める。
「何が、駄目だというの? ……貴方は、幸せになりたくないの? どんなやり方をしてでも、幸せをずっと続けていたいと思わないの?」
「…………………………」
ロキ自身も、幸せは続けていたかった。彼が夜の世界で兄妹と出会ってから感じた想いは、自分の子供の傍にいたいという感情。頭を撫でて嬉しく思うのも、胸が踊ったのも、愛する子供だったから。
「私は!」
シギュンは瞳を涙で濡らしながら、ロキに詰め寄る。
「私は絶対に認めない! 認められるわけないじゃない! あんな終わり方……! だから私は貴方達との幸せを取り戻すために、お母様の力を奪って、何度も何度も繰り返して……それでも、貴方達の運命が変えられないから……。だから! こうやって新たな世界を書き――」
「シギュン!」
大きな声でありながらも、言葉一つ一つが震える。
「……君の考えに、ボクは賛成できない。君が壊れてしまうような、そんなやり方は……間違っている」
虚妄の幸せで塗り固めた箱の中で一生を過ごすのは、断じて幸せなどという輝かしいものではない。
だから――。
「シギュン。終わりにしよう、こんな世界」
愛する者からの拒絶で――彼女の肌にヒビが走る。
彼女の銀色の髪が穢れを受け入れぬ純白へ、瞳は穢れを知り尽くした血のような赤へ。雲ひとつ無い青空には硝子のようにヒビが入り、その隙間から瑠璃色の空が見えていた。
彼女の作った虚妄の世界が、壊れ始めていく。
「どうして」
彼女が瞳に涙を浮かべながら、そう問いかけた。
「どうしてそんな事を言うの? ……私が嫌いになった? 貴方の復讐を、拒絶したから? だから、私に同じようなことをしているの?」
涙が流れる。その涙が、肌の亀裂に沿って流れていく。
「君に生きてて欲しいから。愛してるから。だからあの時も巻き込みたくなかったんだ。君が生きれる道があるのなら、生きていて欲しかったから」
ロキの言葉に、シギュンはロキを睨みつける。
「……最低ね。私だけ生きても、意味がないというのに」
「……。君のほうこそ、ボクが嫌いになった?」
ロキの赤い瞳が熱くなる。シギュンはロキの言葉を聞いて、あの日のことを思い出しながら、彼の手を絶対に離さないと言わんばかりに、強く握りしめる。
「えぇ、嫌いになったわ。復讐の焔で燃える貴方は、私が愛した太陽のような貴方じゃなくなっていたから。私が嫌いな、負の感情に囚われた貴方を、私は受け入れる事が出来なかったのよ」
シギュンの身体のあちこちにどんどんとヒビが広がっていき、彼女は弱々しくロキの胸の中でうづくまる。
「けれど、愛してる。愛しているのよ、ロキ。だから私は繰り返した。……ねぇ、私達はもう幸せを願ってはいけないの? あの先を、日常が、幸せが、全て崩れなかったその先を見ることを、願ってはいけないの? ――少しの幸せでよかったのに」
愛しい人が苦しむ姿をロキは見たくないと目をギュッと瞑ってしまう。ものの、彼は歯を食いしばり、彼女の名前を呼ぼうと口を開く。しかし。
「……こんな、こんな苦しい思いをするのなら。この世界さえも、貴方に受け入れてもらえないのなら……」
変えられなかった運命も、哀しみも、苦しみも、怒りも、憎しみを見ぬように。そして、いつまでも続いてほしいと願って願って願い続けた幸せさえも、見たくないと言いたげな光の灯らぬ瞳で、シギュンは。
「貴方を、愛さなければよかった」
シギュンとして生きた日々を否定した。愛する彼女の口から出た言葉に、ロキは唇を噛み締める。
「……そんな事、言わないでくれよ、シギュン」
ロキ自身の心に亀裂が走る。ロキは心が苦しい中、彼女への言葉をなんとか搾り出していく。
「ボクは君に出会えて、ナリとナルに出会えて、家族になれて、愛することが出来て……幸せだよ」
繋ぐ手に、彼女の涙が零れ落ちる。
「……じゃあ、どうして受け入れてくれないのよ」
「それ、は……このままじゃ、君が、壊れてしまうから。壊れたら……それこそ君がやってきた事に意味がなくなってしまうだろ」
ロキの言葉に、シギュンは「……えぇ、そうね」と呟く。また、彼女の身体と空のヒビが広がっていく。
「けれど。いくら輪廻の軸に戻ったとしても、もう貴方達とは会えない! この四人で家族になれることなんてないの! ……いいじゃないっ! 幸せを感じたまま、この嘘で出来た世界もろとも壊れてしまいましょう。それこそ、永遠の幸せよ!」
彼女は純粋な笑みでそう言った。しかしロキは、それに笑顔は返さなかった。
「……シギュン。これはボクの我儘だけれど」
乱雑に継ぎ接ぎさせられた世界に、未来は存在しないけれど。
「どんな形であれ。次もまた、ボクと愛し合ってくれないか? ナリとナルもさ」
ロキの突拍子もない提案に、シギュンは口を開けて呆けてしまう。しかし、ロキのいつにも増して真剣な表情に、彼女は見惚れてしまうのだ。
「……ねぇ、話聞いてた? そんなの無理なのよ。本当に貴方は、頭がおかしいのね」
シギュンは呆れ顔で言うも、その口元は穏やかな笑みを浮かばせている。
「そこまで言わなくてもいいだろ? でも、信じてよ。永遠はできなくても、愛する君と、愛する色んな彼等と、これからのいつかで会いたい。どんな形でも、愛してることはずっと変わらないから」
まだ語られていない物語があるのなら、その物語の白紙の頁に書いてやろう。
「「また一緒になれるの/か?」」
ロキとシギュンの両隣に兄妹が現れては二人の顔を覗いてくる。ロキが「あぁ。きっとな」と頷けば、兄妹はとびっきりの笑顔を見せる。その兄妹の笑顔に、シギュンはまた涙が溢れそうになるのを抑える。この瞬間の、家族の姿を瞳に焼きつけるために。
「……あ」
ロキ達の背後の――瑠璃色の空が広がっていた亀裂に、眩い曙色の光が差し始めている。
夜明けが近い。
「……また会えるのよね?」
シギュンはロキの手をまだ離さずに、掠れた声で聞く。
「……うん。君が信じ続けてくれるのなら。だから今だけは――」
また会える日を楽しみに。
君に、君達に、笑って言おう。
「「「さよなら」」」
◇
空も地面も、これから色んな色(ミライ)に塗られるために。
まるで、一面に白い彼岸花が咲いているかのように。
全てが白く染まっていた。
そんな空間の真ん中に、一人の女がいた。
白く長い髪を風に揺らし、赤い瞳は赤い涙で霞んでいる。
彼女はかすれきった声で。
それでも、また会える日を楽しみにして、彼が愛してくれた花のような笑顔で。
一文字ずつ口を動かす。
「さよなら」
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