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第二部6篇
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大空に大きな翼を羽ばたかせているファフニールとその背中に仰向けで寝ているロキがいた。
ファフニールは先程まで酔っていたため上機嫌であったのに、酔いが覚めてしまったのだろうか先程までの顔の火照りが無くなっている。代わりに、その顔をほんの少し青ざめながらちらちらと背中のロキを見ている。それでも彼に何か話すわけでもなく、ただ心配な眼差しを向けていた。
「……なんだよ。聞きたいことがあるなら聞けば?」
「っ! 起きてたのか、ロキ」
「流石に君のごつごつ背中で寝れるほどの神経はしてねぇよ」
「小さい頃は寝てて落ちかけた癖に」
「――! それより! 話! あるんだろ!」
ファフニールは眉間に皺を寄せながら「ロキがそう言うんなら……」と、おずおずと話し始める。
「さっき。ナルちゃんに――」
『つまらなくても、私達は聞きたいよ? お父さんは、それ以外に何か理由があって話せないの?』
「言われた時。どう思った」
「どう、って」
「お前さん。やはり師匠――スルト様を……恨んでるのか?」
ファフニールの言葉に、ロキは目を見開き「違う!」と強く否定する。
「恨んでなんかない。逆に……感謝してるさ。生かしてくれたことも、力をくれたことも、全部」
ロキは自分の拳を強く握りながら話す。自身の中に流れる、炎の血が指先に熱く燃えているのを感じながら。
「じゃあ、その力のことぐらいは話してやったらどうだ。スルト様にも彼等を紹介するとか……会いたがっていたぞ」
ファフニールの言葉に、ロキは唸った。
「分かってるよ。昔、シギュンの事を報告した時にも言われた。会うとなるとスルトがこっちに来てもらうことになるんだけど……オーディンがな」
「オーディン様が、どうした」
「アイツ、まだ炎の国に入る事や炎の王に会う事を諦めてないんだよ。ボクの炎の力にもずっとご執心だから。だから、ボクはスルトにオーディンを会わせたくない」
「なるほどなぁ、それで炎の国外限定だとすると家族に会わせるのは難しいってことか。どこにオーディン様の眼が光ってるか分からんしのう」
ファフニールの納得した様子にロキは頷きながら、そのまま「それとナルのは」と話を続ける。
「自分の過去がつまんなくてかっこ悪くて、嫌いだからさ。ボクの過去を知りたがるそういう好奇心は当然のものだよ。強く否定出来ない。家族だから嫌な事も何もかも、そういうのは話すべきかもしれないが……どうも、な」
「お主、やんちゃだったからのう。性格悪いから、敵を作りまくりおって。まぁ、それも嫁さんや子供が出来てから驚くほどに落ち着いたがな」
「うるせぇ」
ロキは彼には似合わない悲しい顔から、いつも通りの太陽のような笑顔をファフニールに向ける。
「まっ。ナリには勝てたら話してやるって言っちまったし。向き合うべきなんだろうな、きっと」
そんな彼の言葉に「うむ、そうか」とファフニールも同じように笑みを向け、目前に迫る島へと目線を向ける。
「ほら、降りるぞ!」
先程よりも速度を上げ、ファフニールは煙に包まれた島へと降下し、赤茶色の地面に着く寸前には速度を緩め、そこへと降り立った。ファフニールはロキが降りれるように脚を折りたたみながら「さぁ、降りろ」と言う。ロキはその言葉に従い、ゆっくりと彼の身体から降りてはそのままそこで、彼の身体にもたれかかる。
「ロキ。もう少しシャキッとしろ」
「はいはい。で、場所はどこだ?」
「こっちだ」
そうして、ファフニールは竜の姿のまま、二人揃って歩き出す。歩く度に何処かの地面から炎が噴き出す、岩がゴロゴロとあるだけの殺風景な場所を。
「それにしても久しぶりだなぁ、ここに来るのも。……この暑い感じも、何もかも、変わってねぇ」
ロキは歩きながら、噴き出した炎から散らばった火花が空の星と共に輝く姿を見る。
この世界は季節に夏は存在するものの、飛躍的に温度が上がることは無い。だがしかし、例外の場所が二つ存在する。それは死を管理する死の国。屍女ヘラが最高神オーディンの命により治めている国だ。そこは一年中寒さを感じる極寒の場所であり、死の国の地上からの入口は氷山が囲っている為、又の名を氷の国と呼ぶ者もいる。そして此処、炎の魔法を使う巨人族が棲む炎の国。この世界にまだユミルが居た時から、そこに存在していたといわれる炎の王が治めている国だ。
ただこの国だけが、ユミルを殺した最高神オーディンさえも立ち入る事も攻略する事も許されず、煙と炎の壁で囲まれた場所である。炎の国は季節関係なく、国中が暑く蒸されているため、神族であっても此処にたった数分間だけでも居ることは身体に害する。なので此処に居ることが出来るのは、炎の巨人族か炎の王と契りを交わした者のみだ。
そしてその王は。
「なんだ」
彼等の目の前に現れる。優しい、しかし強く芯のある男性の声が彼等の頭上から聞こえた。その声に二人は肩をビクつかせ、その声のした方へと恐る恐る顔を向ける。
「ようやく来たか、待ちくたびれたぞ」
周囲の岩の中で一番高いであろう岩に座り込んでいる声の主は、赤色の髪は小さな三つ編みで結ばれ、上半身だけ裸で屈強な筋肉を露わにさせた姿をしている。そんな彼は髪と同じ色をした瞳で彼等を見下ろしていて、二人は緊張が解けずにいた。そこで、ファフニールが一歩前に出て頭を下げる。
「スルト様。只今戻りました」
ロキもほんの少しだけその口元に笑みを見せたロキは、彼に向かってこう挨拶をした。
「久しぶり……父さん」
ファフニールは先程まで酔っていたため上機嫌であったのに、酔いが覚めてしまったのだろうか先程までの顔の火照りが無くなっている。代わりに、その顔をほんの少し青ざめながらちらちらと背中のロキを見ている。それでも彼に何か話すわけでもなく、ただ心配な眼差しを向けていた。
「……なんだよ。聞きたいことがあるなら聞けば?」
「っ! 起きてたのか、ロキ」
「流石に君のごつごつ背中で寝れるほどの神経はしてねぇよ」
「小さい頃は寝てて落ちかけた癖に」
「――! それより! 話! あるんだろ!」
ファフニールは眉間に皺を寄せながら「ロキがそう言うんなら……」と、おずおずと話し始める。
「さっき。ナルちゃんに――」
『つまらなくても、私達は聞きたいよ? お父さんは、それ以外に何か理由があって話せないの?』
「言われた時。どう思った」
「どう、って」
「お前さん。やはり師匠――スルト様を……恨んでるのか?」
ファフニールの言葉に、ロキは目を見開き「違う!」と強く否定する。
「恨んでなんかない。逆に……感謝してるさ。生かしてくれたことも、力をくれたことも、全部」
ロキは自分の拳を強く握りながら話す。自身の中に流れる、炎の血が指先に熱く燃えているのを感じながら。
「じゃあ、その力のことぐらいは話してやったらどうだ。スルト様にも彼等を紹介するとか……会いたがっていたぞ」
ファフニールの言葉に、ロキは唸った。
「分かってるよ。昔、シギュンの事を報告した時にも言われた。会うとなるとスルトがこっちに来てもらうことになるんだけど……オーディンがな」
「オーディン様が、どうした」
「アイツ、まだ炎の国に入る事や炎の王に会う事を諦めてないんだよ。ボクの炎の力にもずっとご執心だから。だから、ボクはスルトにオーディンを会わせたくない」
「なるほどなぁ、それで炎の国外限定だとすると家族に会わせるのは難しいってことか。どこにオーディン様の眼が光ってるか分からんしのう」
ファフニールの納得した様子にロキは頷きながら、そのまま「それとナルのは」と話を続ける。
「自分の過去がつまんなくてかっこ悪くて、嫌いだからさ。ボクの過去を知りたがるそういう好奇心は当然のものだよ。強く否定出来ない。家族だから嫌な事も何もかも、そういうのは話すべきかもしれないが……どうも、な」
「お主、やんちゃだったからのう。性格悪いから、敵を作りまくりおって。まぁ、それも嫁さんや子供が出来てから驚くほどに落ち着いたがな」
「うるせぇ」
ロキは彼には似合わない悲しい顔から、いつも通りの太陽のような笑顔をファフニールに向ける。
「まっ。ナリには勝てたら話してやるって言っちまったし。向き合うべきなんだろうな、きっと」
そんな彼の言葉に「うむ、そうか」とファフニールも同じように笑みを向け、目前に迫る島へと目線を向ける。
「ほら、降りるぞ!」
先程よりも速度を上げ、ファフニールは煙に包まれた島へと降下し、赤茶色の地面に着く寸前には速度を緩め、そこへと降り立った。ファフニールはロキが降りれるように脚を折りたたみながら「さぁ、降りろ」と言う。ロキはその言葉に従い、ゆっくりと彼の身体から降りてはそのままそこで、彼の身体にもたれかかる。
「ロキ。もう少しシャキッとしろ」
「はいはい。で、場所はどこだ?」
「こっちだ」
そうして、ファフニールは竜の姿のまま、二人揃って歩き出す。歩く度に何処かの地面から炎が噴き出す、岩がゴロゴロとあるだけの殺風景な場所を。
「それにしても久しぶりだなぁ、ここに来るのも。……この暑い感じも、何もかも、変わってねぇ」
ロキは歩きながら、噴き出した炎から散らばった火花が空の星と共に輝く姿を見る。
この世界は季節に夏は存在するものの、飛躍的に温度が上がることは無い。だがしかし、例外の場所が二つ存在する。それは死を管理する死の国。屍女ヘラが最高神オーディンの命により治めている国だ。そこは一年中寒さを感じる極寒の場所であり、死の国の地上からの入口は氷山が囲っている為、又の名を氷の国と呼ぶ者もいる。そして此処、炎の魔法を使う巨人族が棲む炎の国。この世界にまだユミルが居た時から、そこに存在していたといわれる炎の王が治めている国だ。
ただこの国だけが、ユミルを殺した最高神オーディンさえも立ち入る事も攻略する事も許されず、煙と炎の壁で囲まれた場所である。炎の国は季節関係なく、国中が暑く蒸されているため、神族であっても此処にたった数分間だけでも居ることは身体に害する。なので此処に居ることが出来るのは、炎の巨人族か炎の王と契りを交わした者のみだ。
そしてその王は。
「なんだ」
彼等の目の前に現れる。優しい、しかし強く芯のある男性の声が彼等の頭上から聞こえた。その声に二人は肩をビクつかせ、その声のした方へと恐る恐る顔を向ける。
「ようやく来たか、待ちくたびれたぞ」
周囲の岩の中で一番高いであろう岩に座り込んでいる声の主は、赤色の髪は小さな三つ編みで結ばれ、上半身だけ裸で屈強な筋肉を露わにさせた姿をしている。そんな彼は髪と同じ色をした瞳で彼等を見下ろしていて、二人は緊張が解けずにいた。そこで、ファフニールが一歩前に出て頭を下げる。
「スルト様。只今戻りました」
ロキもほんの少しだけその口元に笑みを見せたロキは、彼に向かってこう挨拶をした。
「久しぶり……父さん」
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