ブレザーを脱ぎ捨てたら

ゆん

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初耳

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割と感情が顔に出てしまうらしい俺の地味にショックを受けてる顔を見て、瑞希は「いやっ…違うんだよ、しーちゃん……!!」とか両手を振りながら慌てて取り繕っててさ。


「何度か、言おうとしたんだけどさ……ちょっと言いにくいというか……」

「なんでだよ……」


もう隠す気もなく拗ねた声を出して瑞希を上目づかいで見たら、瑞希はあーとかうーとか言いながらちらっと俺を見て息をつき、意を決したような表情になった。


「確かに……いるよ。年上なの。9コ上。でも、カノジョじゃない……」

「え?あ……片想いってこと?」


俺がちょっと身を乗り出して瑞希に近づくと、瑞希は息を飲んで唇を巻き込むようにして、「カレシなの」と思い切ったように言った。


「……え?」

「カノジョじゃなくて、カレシ」

「…………え?」

「もうっ!だから言いたくなかったの!しーちゃんの脳みそのデータベースにないだろーなぁって思ったから!」


瑞希はちょっとヤケッパチな感じにアイスコーヒーのグラスを掴むと、ストローを咥えて中身を一気に飲んだ。


カレシ……カノジョじゃなくてカレシ……カレシってことは男ってこと?ん?えっとじゃあ、俺と同じで憧れてる人ってこと?いや、それは否定されたんだった。

え……カレシ??

瑞希の懸念は、大当たりっちゃあ大当たりなくらい、パニくる俺。

だってしょうがないだろ……ほんとにかけらも思いつかなかったんだ。男が恋人になる可能性について。それも一番仲のいい友達が……

フリーズして考えてた俺が正解に行きあたったのを察した瑞希が、ちょっと赤い顔をしてじろりと俺を恨めしそうに見た。


「ま……思ってたよりはいい反応で良かったけど……」

「え、どういうこと?」

「オトコ!?きも!!ってなるかなって……ちょっと思ってたから……」

「あ……まだそこまで到達してなかった」


衝撃的過ぎて、瑞希が男とつきあってる、という事実の認識だけで留まってて、自分の感情が出てくる隙間がなかった。もしかしたら……聞いた相手が瑞希じゃなかったら、一番にそう思っちまったかも。


「……どこで知り合ったの?そんな年上の人と」

「ほら……うちの母ちゃん芝居が好きであちこち見に行ってるって話、したでしょ」

「ああ、うん。聞いたことある」

「一番ごひいきの劇団の、役者さんなの」


瑞希は声の大きさに気を付けながら、静かに話し始めた。


「一番最初は何歳の時なのかなぁ……中2か中3……中2の冬かな。小学生の頃からその劇団のお芝居には何度も連れてってもらってたんだけど、なおくんを初めて見たお芝居がすごくって… あ、尚くんて、カレシね。かあちゃんがすっげぇ感動して、楽屋に行った時に尚くんつかまえて握手して……ってのが最初。
それからお芝居見に行く度に楽屋で話して……かっこいいし、すっごい話しやすくて、ちょっとイジワルだけど優しくて……」


瑞希は俺の皿に残ったチャービルを見つめて、思い出すような顔をして話した。


「どうやって……その…付き合うって……」


俺も同じく瑞希が見つめてる緑の葉っぱを見つめて喋って、なんかぎこちないお見合いみたいな変な雰囲気。


「あ……俺から、ね」

「えっお前からなの!?」


てっきり、年上の男に押されて押されて落ちたのか、って今、勝手に想像してたのに。


「そうだよ。最初はぜーんぜん相手にしてくんなかった。3か月くらい粘ったよ。最後は泣き落とし」


俺は親友の口から出てくる武勇伝に、心底感心した。俺……男とか女とか関係なく、可能性が五分五分の戦いは絶対しない方だから……


「すげぇ……よく行けたな……俺、絶対無理だわ」

「うん……諦めようかなって思うんだけど、顔見たらダメなんだよ。好きすぎて……で、好きだなぁって思ったら気持ちが溢れちゃって」


多分そのカレシ……なおくんの顔を思い出してるんだろう、瑞希の顔はちょっと俺が知らないもので……ちょっと遠く感じて、でもそれを今見せてくれてることで前より近く感じた。


「どのくらいなの、付き合って」

「えっと……半年過ぎたとこかな」

「そんなに……」


なんか急に自分が置いてけぼりにされた気分で、ずーんって……そしたら気遣い屋瑞希がまた慌てて、「大丈夫大丈夫!ぜーんぜんふっつーの付き合いだから!」って言って、自分の言葉に傷ついたみたいにずーんってなった。


「もう……普通の友達付き合いとそんな差、ないよ。だって手ぇ出されないもん」

「あ…そう……手……はははは」


そっそりゃそうか……付き合うってそういう……うわ~ぜんっぜん、想像つかねえ……いや想像したくねえ……


「大丈夫だって言ってんのに!いっぱい調べたのに!インコー罪でお縄になんのなんかまっぴらごめん、ってさぁ~……冷たいんだよっ」

「淫行……」


な、生々しい……しかしそうか……相手が成人だと、淫行罪になんのか……

俺は自慢じゃないけど童貞だ。自慢じゃないっつーか、絶対内緒。高校に入って彼女が出来たこともあったし、キスまでは……あと胸もちょっと……

ただ、うまくやんなきゃってプレッシャーでどうしても次に進む勇気が持てないでいたばかりに、「士央くん……私のこと好きじゃないでしょ……」とかって言われてさ。

2人付き合って2人とも同じ理由で別れた。俺からしたら、もうちょい待ってくれよっ!ってちょー縋りたい気分だったけど、そんなんかっこ悪くてできねえし。


「なんかね、ネットで調べたら18歳未満でも恋愛感情あったらオッケーって書いてあったの。なのにダメって言うんだよ?ひどくない?でもね。18歳以上だったらカンペキセーフなんだって。だから……今年の誕生日が来たらぜぇったい、やってやるもんねっ」

「待って…待って待って……やるって、やるって……いや!何も言わなくていい!ちょっと黙って!」


瑞希は何か言おうとしたのを両手で口を押さえて止めて、きょろっと俺を見上げた。


「だめだ。もう完全にキャパオーバーしてる……」

「しーちゃん、そういうとこが可愛いよね?」

「お前……」

「おち先生のこと……ほんとに憧れ?実は俺と同じってことない?そうだったら楽しーなぁ」

「ないないっ!絶対ないっ!」


瑞希とカレシとのあれこれをモヤモヤさせてた俺は、それがそのまま先生と俺にすり替わった時に恥ずかしさに耐えかねて頭を抱え込んで足をバタバタさせた。

だめ!考えるのすら無理!

ないないないない100パーないっ!

エアコン効いてる涼しい店内でなんか、すっげぇ暑いんだけど!!


「まぁ、それは置いといて。だからね?おち先生はそんな呆れるとかはないと思うよ?だってイヤだったら絶対家に上げてくれなそーな人でしょ」


涼しい顔をした瑞希は、テーブルに肘をついて、もう氷だけになったグラスのストローをくるくる回す。


「そうだよな?そうなんだよ。うん。ただなんかこう、面白い動物かなんかを見てるみたいな目ぇするからさぁ……対等になりたいって思っちゃうんだよな……」


こっちが大真面目に言ってんのに、瑞希は面白い動物ってキーワードがツボったみたいで爆笑してる。

やっぱ10歳も年下だったら対等に思いようがないのかなぁ。俺だって小1の子に対等に接してって言われても、ちょい困るもんな、それ。

あー……瑞希と話してたら先生に会いたくなってきた。

相手にしてくれなくてもいい。ただタバコを吸いながら雑誌を読んだり、考え事をしてる先生の横顔を、傍で見ていたかった。



                                   
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