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懺悔
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「お前、大丈夫?駅まで帰れる?」
先生のアパートの下ですっかり暗くなった道を戻ろうとする瑞希に思わず声を掛ける。
「うんうん!そんな難しくなかったよ!いざとなったらナビで何とかするから。じゃあ……しーちゃん。頑張ってね」
瑞希の目が、ふっとアパートの上の方に流れる。そう……先生はいた。電気が着いてた。
「ごめんな、瑞希……ありがとう……先生にけちょんけちょんにやられたら……また話聞いて」
「うん。別に今夜遅くってもいいよ。おにーちゃんが聞いてあげる」
「1か月だけだろ」
互いにくすくす笑って、そのまま手を振って別れた。
赤錆の階段を上る革靴のカン、カンという音に緊張感が一気に増す。胸がどきどきして、階段を登りきった所で止まった俺は何回か深呼吸した。
「あぁ……こえぇ……」
呟いた俺の声に反応するように、電球の切れそうな外灯がチカチカッと瞬く。通路の真ん中に一つだけある頼りない電灯の下を通り、暗くて見えづらいプレートの203を確認する。
小さな縦型のチャイムに手をかけては下ろし、意を決してはもう一度チャイムに指を当てて……3度目に思い切ってぐっと指を押し込んだ。
中で人の動く気配がする。鼓動がどんどんと胸を打つ。先生……
物音はやがてすぐ傍までやってきて……ついに「はい」という、胸がもひとつ大きく跳ねる声がした。
「先生……あの…桜沢です……桜沢士央です……」
すぐには返事が返ってこなくて、緊張で耳が痛くなった。
「なに。どしたの、こんな時間に」
ドアは開けてもらえない……それも……覚悟してたことだ。
「あの……先生……俺、謝りに来ました……この間……失礼なことを言ってしまって、すみませんでした……」
シン、と静まる暗い通路。先生からの返事がなくて、苦しくて、悲しくて、でもきちんと伝えなきゃ、という気持ちだけが俺を奮い立たせる。
「友達に言われて気づいた……バカです。でも……先生のことがす、すごく好きで……先生のことを侮辱するつもりはありませんでした。嫌な思いをさせてしまって……それをどうしても謝りたくて……あの……ごめんなさい……」
冷たい木の扉に話し続ける苦しさはピークに達して、全部言い切った俺は「じゃあ……さようなら」と、ドアの前を離れた。
コンクリートの通路を急ぐ足が砂利を捉えて軽く滑る。だんだん速度を上げて終いには走り出して、つんのめりそうになりながら階段を降りた。
階段を下りきったところで脱力しかけた体を、膝に腕を突っ張ることで支えた。下唇がわななくのを噛むようにして抑える。悲しいけど、自分のしたことだから仕方がないんだ、と必死で自分に言い聞かせて、俺はゆっくり歩き出した。
そしたら……「おい!」という声が俺の足を止めた。振り向いたら、先生が窓に付いた柵に腕をかけるようにして身を乗り出し、こっちを見てた。
俺は先生を見つめたまま、カチン、とその場に固まった。
「上がって来い」
先生の言い方はぶっきら棒で……話しかけてもらえたのに、俺の不安は強くなった。なんか、また怒られそうな気がした。ちゃんと考えて言えなかったし、またマズいことを言ったのかもしれないと思って……
俺ははい、と先生には聞こえないだろう小さな声で返事をすると、ついさっき駆け下りた階段をもう一度上った。
足が進むのが怖い。でも意に反してあっという間に203のドアの前に着いて……俺がチャイムを押そうとしたらいきなりドアが開いた。
ふわっと動いた空気にタバコの匂い。奥の部屋にしか電気がついてなくて、光を背に受けた咥えタバコの先生の顔は暗くぼんやりしてた。
でも……笑顔じゃないのは分かる。
「入れよ」
そう言って、先生は俺に背を向けて奥に行ってしまった。俺は玄関スペースに靴を脱ぎ、ドアを閉めて鍵を掛けた。
3歩もあれば着く奥の部屋はタバコの煙で薄く煙ってた。部屋に一歩入るなり煙にむせて、でもあんまり咳き込んだら失礼だと思って、我慢したらじわっと涙が出た。
「あ、わりぃ。煙いか?」
「いえ……大丈夫です……」
大丈夫っつったって咳き込むのを我慢してる声で涙滲ませて言ったって全然説得力がないけど……
明るいところで見る先生の表情は、想像してたよりずっと普通だった。俺に畳の空いてる所に座るように指差して台所の方へ行き、流しの前の窓を網戸にすると、冷蔵庫からコーラの缶を持って来て俺の方へ突き出した。
「ん」
「あ、ありがとうございます」
マックでもコーラを飲んでたし喉も乾いてなかったけど、ここで飲まないなんてことは息苦しくってできない。
俺はパシュッと音をさせてプルタブを開け、気まずい沈黙を埋めるためにコーラをぐびぐび飲んだ。
部屋の暑さからだけじゃない汗を、脇に感じた。先生は……俺が「気まずい」って感じてることなんかお構いなしでじいっと俺を見つめてた。
前に見たことのある目……普通に人から見られてる時には感じない、裸にされるような感覚。けど俺からは何を話し出すこともできなくて、コーラの缶を両手で握りしめたまま畳の目を見つめてた。
不意に先生が身じろぎして近くにあったスケッチブックと鉛筆を取り、何かを描き始めた。何かって……もちろん、視線の運びで描いてるのは俺だって分かるんだけど……なんで俺を家へ上げたのか、なんでいきなり俺を描き始めたのか全く分からないまま時が流れた。
しばらくして正座に痺れた足を崩そうかどうか迷ってると「崩せば」と先生が言って、スケッチブックをぽい、と俺の前に投げた。
取り上げたスケッチブックに切り取られた俺の姿。俯いた顔。もの言いたげな……伏せたまつ毛と頬のラインに、不思議と反省を感じる。外から見せられる自分の姿がやけに恥ずかしくて、俺はスケッチブックを畳の上へ戻した。
「それ……やるよ」
さっき俺を呼んだ時にいた窓の方へふうっと煙を吐き出して、先生が言った。
「え……」
「飾るんだろ。飾れよ、それ」
先生がニヤニヤ笑ってて、また俺を揶揄ってるんだってことに気づいて、でも俺は今度こそ言葉で失敗しないために、考え考え喋った。
「自分の姿を飾るのは恥ずかしいです……」
「しぇんしぇい、ごめんなしゃい、って顔……可愛いだろうが」
「か、可愛くないですっ」
ちょっと拗ねた口調になった文句を聞いた先生は、前に見せてくれたような屈託のない笑顔で笑って、タバコをビールの缶の縁にぎゅっと押し付けて立ち上がった。
「送ってってやるよ」
「や、いいです……あの、帰れます……」
「うるせぇ。ほら、早く靴履け」
先生は俺の尻を蹴って追い立てると、小さな冷蔵庫の上に無造作に置かれた鍵を掴んで、靴を履いた。
慌てて追いかけるように玄関を出て、鍵を閉めた先生がさっさと歩き出した後ろからついてった。
階段を下りるカン、カン、という音の二重奏がなんだか信じられなくてふわふわしていた。無言で少し先を歩く先生は、近道なのか俺の通ったのとは全く別の道を通ってあっという間に駅に着いた。
途中、明らかに人の家の土地じゃない?っていう畑みたいなとこを通った時はヒヤヒヤした。そのことを先生に言ったら、「怒られたらゴメンナサイって言やあいい」って意味ありげに笑った。
俺を駅まで送った先生は、じゃあな、と身を翻して行ってしまいそうになった。
「待って、先生!」
思わず呼び止めたけど、先のことは何も考えてない。ただこのまま終わるのが嫌で……先生と繋がってたくて……でも、先生が家庭教師を辞めてしまった今、先生と俺を繋ぐものは何もない。
「あの……また、来ていいですか……」
呼び止められた先生はゆっくりとこっちに体を向けると、「何のために?」と愛想のない顔でまた俺の目をじっと見つめた。
何のためにって言われても困る。だって……用事がない……先生は友達でもないし、何も、何もないんだ……だから……
「お……俺のために……?」
言葉に詰まった俺から出てきたのは、もう自分でも意味わかんない言葉で……でも、先生は意表を突かれた顔をして爆笑した。
「ははははは なんだそれ!」
「いや……あの、お、俺が会いたいんで……それじゃダメですか……」
かっかと火照る頬を押さえて、通り過ぎる人に時々胡散臭そうな目で見られながら、俺は先生からの返事を待った。先生は、あーおかし、と言って笑いの余韻が残る顔を俺に向けた。
「ま……勝手にすれば」
もう一度俺を見て小さく吹き出した先生は、じゃな、と手を振ると、スエットのポッケに両手を突っ込んで、後は一度も振り返らずに帰って行った。
嘘みたいだ……あー……ほんとに嘘みたいだ!
俺は、駅の広場の端の植え込み前の柵に腰かけて、すぐに瑞希に電話した。
『もしもしっ?』
「瑞希……ありがと……なんか、なんか、うまくいった……」
『ええー!やったじゃん!やった!良かったね!』
自分の喜びを純粋に喜んでくれるってことがしみじみ嬉しくて涙ぐみそうになる。ふと、繋がった電話の向こうに車のクラクションが聞こえて、「え、お前まだ外?」って思わず聞いたら、「あはは、そうなの。実は迷子になっちゃってまだ駅に着いてなくて」って……
「はあ!?大丈夫?む、かえに行けるかな……俺も自信ねえよ……」
もう感動の涙もひっこんだっつーの!
『あ、大丈夫大丈夫!おばあちゃんに送ってもらってんの』
「おばあちゃん?知り合い?」
『ううん。あ、しーちゃん!駅からかけてたんだ!こっちこっち!』
きょろきょろした視野に見慣れたあいつの手を振る姿を発見して俺は電話を切った。
年配の女性に頭を下げた後、傍に駆け寄ってきて「あはは、あの人んちに迷い込んじゃったの」って無邪気に笑う瑞希は、なんかほんとに太陽みたいだなって……俺もつられて笑ってた。
先生のアパートの下ですっかり暗くなった道を戻ろうとする瑞希に思わず声を掛ける。
「うんうん!そんな難しくなかったよ!いざとなったらナビで何とかするから。じゃあ……しーちゃん。頑張ってね」
瑞希の目が、ふっとアパートの上の方に流れる。そう……先生はいた。電気が着いてた。
「ごめんな、瑞希……ありがとう……先生にけちょんけちょんにやられたら……また話聞いて」
「うん。別に今夜遅くってもいいよ。おにーちゃんが聞いてあげる」
「1か月だけだろ」
互いにくすくす笑って、そのまま手を振って別れた。
赤錆の階段を上る革靴のカン、カンという音に緊張感が一気に増す。胸がどきどきして、階段を登りきった所で止まった俺は何回か深呼吸した。
「あぁ……こえぇ……」
呟いた俺の声に反応するように、電球の切れそうな外灯がチカチカッと瞬く。通路の真ん中に一つだけある頼りない電灯の下を通り、暗くて見えづらいプレートの203を確認する。
小さな縦型のチャイムに手をかけては下ろし、意を決してはもう一度チャイムに指を当てて……3度目に思い切ってぐっと指を押し込んだ。
中で人の動く気配がする。鼓動がどんどんと胸を打つ。先生……
物音はやがてすぐ傍までやってきて……ついに「はい」という、胸がもひとつ大きく跳ねる声がした。
「先生……あの…桜沢です……桜沢士央です……」
すぐには返事が返ってこなくて、緊張で耳が痛くなった。
「なに。どしたの、こんな時間に」
ドアは開けてもらえない……それも……覚悟してたことだ。
「あの……先生……俺、謝りに来ました……この間……失礼なことを言ってしまって、すみませんでした……」
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冷たい木の扉に話し続ける苦しさはピークに達して、全部言い切った俺は「じゃあ……さようなら」と、ドアの前を離れた。
コンクリートの通路を急ぐ足が砂利を捉えて軽く滑る。だんだん速度を上げて終いには走り出して、つんのめりそうになりながら階段を降りた。
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そしたら……「おい!」という声が俺の足を止めた。振り向いたら、先生が窓に付いた柵に腕をかけるようにして身を乗り出し、こっちを見てた。
俺は先生を見つめたまま、カチン、とその場に固まった。
「上がって来い」
先生の言い方はぶっきら棒で……話しかけてもらえたのに、俺の不安は強くなった。なんか、また怒られそうな気がした。ちゃんと考えて言えなかったし、またマズいことを言ったのかもしれないと思って……
俺ははい、と先生には聞こえないだろう小さな声で返事をすると、ついさっき駆け下りた階段をもう一度上った。
足が進むのが怖い。でも意に反してあっという間に203のドアの前に着いて……俺がチャイムを押そうとしたらいきなりドアが開いた。
ふわっと動いた空気にタバコの匂い。奥の部屋にしか電気がついてなくて、光を背に受けた咥えタバコの先生の顔は暗くぼんやりしてた。
でも……笑顔じゃないのは分かる。
「入れよ」
そう言って、先生は俺に背を向けて奥に行ってしまった。俺は玄関スペースに靴を脱ぎ、ドアを閉めて鍵を掛けた。
3歩もあれば着く奥の部屋はタバコの煙で薄く煙ってた。部屋に一歩入るなり煙にむせて、でもあんまり咳き込んだら失礼だと思って、我慢したらじわっと涙が出た。
「あ、わりぃ。煙いか?」
「いえ……大丈夫です……」
大丈夫っつったって咳き込むのを我慢してる声で涙滲ませて言ったって全然説得力がないけど……
明るいところで見る先生の表情は、想像してたよりずっと普通だった。俺に畳の空いてる所に座るように指差して台所の方へ行き、流しの前の窓を網戸にすると、冷蔵庫からコーラの缶を持って来て俺の方へ突き出した。
「ん」
「あ、ありがとうございます」
マックでもコーラを飲んでたし喉も乾いてなかったけど、ここで飲まないなんてことは息苦しくってできない。
俺はパシュッと音をさせてプルタブを開け、気まずい沈黙を埋めるためにコーラをぐびぐび飲んだ。
部屋の暑さからだけじゃない汗を、脇に感じた。先生は……俺が「気まずい」って感じてることなんかお構いなしでじいっと俺を見つめてた。
前に見たことのある目……普通に人から見られてる時には感じない、裸にされるような感覚。けど俺からは何を話し出すこともできなくて、コーラの缶を両手で握りしめたまま畳の目を見つめてた。
不意に先生が身じろぎして近くにあったスケッチブックと鉛筆を取り、何かを描き始めた。何かって……もちろん、視線の運びで描いてるのは俺だって分かるんだけど……なんで俺を家へ上げたのか、なんでいきなり俺を描き始めたのか全く分からないまま時が流れた。
しばらくして正座に痺れた足を崩そうかどうか迷ってると「崩せば」と先生が言って、スケッチブックをぽい、と俺の前に投げた。
取り上げたスケッチブックに切り取られた俺の姿。俯いた顔。もの言いたげな……伏せたまつ毛と頬のラインに、不思議と反省を感じる。外から見せられる自分の姿がやけに恥ずかしくて、俺はスケッチブックを畳の上へ戻した。
「それ……やるよ」
さっき俺を呼んだ時にいた窓の方へふうっと煙を吐き出して、先生が言った。
「え……」
「飾るんだろ。飾れよ、それ」
先生がニヤニヤ笑ってて、また俺を揶揄ってるんだってことに気づいて、でも俺は今度こそ言葉で失敗しないために、考え考え喋った。
「自分の姿を飾るのは恥ずかしいです……」
「しぇんしぇい、ごめんなしゃい、って顔……可愛いだろうが」
「か、可愛くないですっ」
ちょっと拗ねた口調になった文句を聞いた先生は、前に見せてくれたような屈託のない笑顔で笑って、タバコをビールの缶の縁にぎゅっと押し付けて立ち上がった。
「送ってってやるよ」
「や、いいです……あの、帰れます……」
「うるせぇ。ほら、早く靴履け」
先生は俺の尻を蹴って追い立てると、小さな冷蔵庫の上に無造作に置かれた鍵を掴んで、靴を履いた。
慌てて追いかけるように玄関を出て、鍵を閉めた先生がさっさと歩き出した後ろからついてった。
階段を下りるカン、カン、という音の二重奏がなんだか信じられなくてふわふわしていた。無言で少し先を歩く先生は、近道なのか俺の通ったのとは全く別の道を通ってあっという間に駅に着いた。
途中、明らかに人の家の土地じゃない?っていう畑みたいなとこを通った時はヒヤヒヤした。そのことを先生に言ったら、「怒られたらゴメンナサイって言やあいい」って意味ありげに笑った。
俺を駅まで送った先生は、じゃあな、と身を翻して行ってしまいそうになった。
「待って、先生!」
思わず呼び止めたけど、先のことは何も考えてない。ただこのまま終わるのが嫌で……先生と繋がってたくて……でも、先生が家庭教師を辞めてしまった今、先生と俺を繋ぐものは何もない。
「あの……また、来ていいですか……」
呼び止められた先生はゆっくりとこっちに体を向けると、「何のために?」と愛想のない顔でまた俺の目をじっと見つめた。
何のためにって言われても困る。だって……用事がない……先生は友達でもないし、何も、何もないんだ……だから……
「お……俺のために……?」
言葉に詰まった俺から出てきたのは、もう自分でも意味わかんない言葉で……でも、先生は意表を突かれた顔をして爆笑した。
「ははははは なんだそれ!」
「いや……あの、お、俺が会いたいんで……それじゃダメですか……」
かっかと火照る頬を押さえて、通り過ぎる人に時々胡散臭そうな目で見られながら、俺は先生からの返事を待った。先生は、あーおかし、と言って笑いの余韻が残る顔を俺に向けた。
「ま……勝手にすれば」
もう一度俺を見て小さく吹き出した先生は、じゃな、と手を振ると、スエットのポッケに両手を突っ込んで、後は一度も振り返らずに帰って行った。
嘘みたいだ……あー……ほんとに嘘みたいだ!
俺は、駅の広場の端の植え込み前の柵に腰かけて、すぐに瑞希に電話した。
『もしもしっ?』
「瑞希……ありがと……なんか、なんか、うまくいった……」
『ええー!やったじゃん!やった!良かったね!』
自分の喜びを純粋に喜んでくれるってことがしみじみ嬉しくて涙ぐみそうになる。ふと、繋がった電話の向こうに車のクラクションが聞こえて、「え、お前まだ外?」って思わず聞いたら、「あはは、そうなの。実は迷子になっちゃってまだ駅に着いてなくて」って……
「はあ!?大丈夫?む、かえに行けるかな……俺も自信ねえよ……」
もう感動の涙もひっこんだっつーの!
『あ、大丈夫大丈夫!おばあちゃんに送ってもらってんの』
「おばあちゃん?知り合い?」
『ううん。あ、しーちゃん!駅からかけてたんだ!こっちこっち!』
きょろきょろした視野に見慣れたあいつの手を振る姿を発見して俺は電話を切った。
年配の女性に頭を下げた後、傍に駆け寄ってきて「あはは、あの人んちに迷い込んじゃったの」って無邪気に笑う瑞希は、なんかほんとに太陽みたいだなって……俺もつられて笑ってた。
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