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同棲編
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まだ朝日と呼べる白い太陽の下、もう充満してる熱気を軽自動車のドアをばふばふして追い出し、運転席と助手席へそれぞれ乗り込んだ。
走り出してもなかなかクーラーが効いて来なくて少し背中が汗ばんでるけど、もう、なんか気分は旅行!海!!ってどんどん上がってく。
目の色素が薄い透くんは夏の日差しが苦手らしく、今日は薄い色のサングラスをかけてる。これがまためちゃくちゃ似合ってて、改めて、この人が僕の恋人かぁ~……って、いつものことながらため息が出てしまう。
恋人とお泊まりの旅行って言ったら絶対そうなる夜があるわけで、この間の、初めて透くんのベッドで朝まで過ごした日までの僕はそれをすごく心配してた。ちゃんと出来るかなって。
実際の所、あの日以降透くんが忙しくって全然一緒にいられないから、お出掛け前のキスとかで僕たちの関係は止まってて……でも今はあんまり心配してない。もし今回出来なくても透くんとならいつか、僕のバラバラになったかけらを集めて過去に出来るっていう彼に対する信頼が、僕のお腹の中にあるから。
楽しみなのは透くんと過ごす時間の全部。こんなに長い時間ずっと透くんといられるのは初めてだから、今こうして運転する透くんの隣にいるだけでもうウキウキしてる。
それから、海!海は中学校以来……もう、あの塩辛さも忘れちゃった。ただ言語としてしょっぱかったって覚えてるだけで。
泳ぐのは上手じゃないんだけど、持久力があるせいか長く泳いでるのは得意で「よくそんなので」って言われるバタ足と平泳ぎが合体したような泳ぎ方で、唇が青くなるまで長々と海の中にいたもんだった。
プライベートビーチなんて初めて。どんな感じだろう?僕と透くん以外いない砂浜……どこまでも広がる青い海……照り付ける太陽の下、それぞれ浮き輪に入った僕と透くんの頭が、あちこちについた海の雫で光ってる……いいなぁ……
「おい、着いたぞ」
「ふぇ……っ?」
お約束みたいにいつの間にか寝ちゃってた僕。気づけば車はまるでワープしたみたいに、昭和感たっぷりな一軒家の前に停まってた。
別荘……っていう雰囲気じゃない。築4、50年は経ってそうな、相当年季を感じる外観だった。うっそうとした樹々に囲まれたここの近くに他の家は見えない。伸び放題に伸びた草や木が、家を覆い隠しそうな勢い。でも、波の音はすごく近い!見えないけど!
「ね!磯の匂いもするし、海、絶対近いね!」
「ん……」
透くんはまさに点点点っていう難しい顔をして屋根を見上げると、荷物を入れるために古い引き戸の鍵穴に鍵を差し込んだ。
ガラガラとコマがレールを滑るすごい音がする引き戸を開けると、むうっとした空気が僕と透くんを押してくる。でも……驚いたことに中はかなり綺麗だった。古いけどちゃんと掃除がされていることが分かる。てっきりかび臭いとか、埃っぽいとか、そんなのをイメージしてたけど、全然!
サンダルを脱いで上がり、リビングらしき部屋に入ってみると、雨戸が全部閉められているせいでまっくら。パチンと電気をつけると、この家には不似合いな真新しい最新型エアコンが8畳ほどの洋室にも、隣の6畳の和室にもキッチンにも付いてて、泊まるのには全然問題がなさそうだった。
「良かった……どうなることかと思った」
透くんの、かなり本気っぽい台詞に思わず苦笑い。確かに……ここに泊まるの?って、外側だけ見た時はちょっと心配しちゃったもんね。
走り出してもなかなかクーラーが効いて来なくて少し背中が汗ばんでるけど、もう、なんか気分は旅行!海!!ってどんどん上がってく。
目の色素が薄い透くんは夏の日差しが苦手らしく、今日は薄い色のサングラスをかけてる。これがまためちゃくちゃ似合ってて、改めて、この人が僕の恋人かぁ~……って、いつものことながらため息が出てしまう。
恋人とお泊まりの旅行って言ったら絶対そうなる夜があるわけで、この間の、初めて透くんのベッドで朝まで過ごした日までの僕はそれをすごく心配してた。ちゃんと出来るかなって。
実際の所、あの日以降透くんが忙しくって全然一緒にいられないから、お出掛け前のキスとかで僕たちの関係は止まってて……でも今はあんまり心配してない。もし今回出来なくても透くんとならいつか、僕のバラバラになったかけらを集めて過去に出来るっていう彼に対する信頼が、僕のお腹の中にあるから。
楽しみなのは透くんと過ごす時間の全部。こんなに長い時間ずっと透くんといられるのは初めてだから、今こうして運転する透くんの隣にいるだけでもうウキウキしてる。
それから、海!海は中学校以来……もう、あの塩辛さも忘れちゃった。ただ言語としてしょっぱかったって覚えてるだけで。
泳ぐのは上手じゃないんだけど、持久力があるせいか長く泳いでるのは得意で「よくそんなので」って言われるバタ足と平泳ぎが合体したような泳ぎ方で、唇が青くなるまで長々と海の中にいたもんだった。
プライベートビーチなんて初めて。どんな感じだろう?僕と透くん以外いない砂浜……どこまでも広がる青い海……照り付ける太陽の下、それぞれ浮き輪に入った僕と透くんの頭が、あちこちについた海の雫で光ってる……いいなぁ……
「おい、着いたぞ」
「ふぇ……っ?」
お約束みたいにいつの間にか寝ちゃってた僕。気づけば車はまるでワープしたみたいに、昭和感たっぷりな一軒家の前に停まってた。
別荘……っていう雰囲気じゃない。築4、50年は経ってそうな、相当年季を感じる外観だった。うっそうとした樹々に囲まれたここの近くに他の家は見えない。伸び放題に伸びた草や木が、家を覆い隠しそうな勢い。でも、波の音はすごく近い!見えないけど!
「ね!磯の匂いもするし、海、絶対近いね!」
「ん……」
透くんはまさに点点点っていう難しい顔をして屋根を見上げると、荷物を入れるために古い引き戸の鍵穴に鍵を差し込んだ。
ガラガラとコマがレールを滑るすごい音がする引き戸を開けると、むうっとした空気が僕と透くんを押してくる。でも……驚いたことに中はかなり綺麗だった。古いけどちゃんと掃除がされていることが分かる。てっきりかび臭いとか、埃っぽいとか、そんなのをイメージしてたけど、全然!
サンダルを脱いで上がり、リビングらしき部屋に入ってみると、雨戸が全部閉められているせいでまっくら。パチンと電気をつけると、この家には不似合いな真新しい最新型エアコンが8畳ほどの洋室にも、隣の6畳の和室にもキッチンにも付いてて、泊まるのには全然問題がなさそうだった。
「良かった……どうなることかと思った」
透くんの、かなり本気っぽい台詞に思わず苦笑い。確かに……ここに泊まるの?って、外側だけ見た時はちょっと心配しちゃったもんね。
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